女神像より生まれ落ちたヒトの残骸を用いた怪物達から、一斉に弾幕が放たれる。
そのキューブのサイズは
しかし、数は力だ。
飛翔する怪物達から放たれる弾幕が、四方八方から風間達へ襲い掛かる。
「木崎ッ!」
「ああ」
風間の指示により、レイジがガトリングを斉射。
迫り来る弾丸を、悉く撃ち落としていく。
元がボーダーのトリガーである以上、構造はほぼ同一。
弾丸同士をぶつければ、問題なく相殺出来る。
加えて、レイジのガトリングは広範囲の斉射に向いた性能をしている。
如何に複数体からの攻撃であるとはいえ、発射地点がほぼ同一である上に弾丸の軌道も単調なのだからどうにか出来ない通理はない。
「ふっ!」
更に、弾幕に交じって放たれたレイジ狙いの狙撃は、小南が双月で両断。
弾丸を斬る、という離れ業を当たり前のようにやってのけた少女により、敵の攻撃は完璧に凌ぎ切った。
「歌川」
「了解」
更に、歌川から
狙いは、飛翔する蠅型と蝉型の怪物。
精密なコントロールによる制御された弾幕が、空の敵を狙う。
『アァ、ィィ』
二機の飛翔する怪物は、呻きとも取れない音を発しながら回避行動を開始。
翅を振動させ、
『…………ァ』
だが。
次の瞬間、二機の怪物は同時にその胴ごと翅を弾丸で射抜かれた。
空を駆ける翼を失った怪物達は、そのまま落下を始める。
「────────」
それを為したのは、誰あろう佐鳥である。
ツイン
彼の十八番であるその絶技を以て、正確に二機を狙い撃ったのだ。
別々の場所の、しかも移動中であった二つの目標を同時に撃ち抜く。
それが出来る者が、果たしてどれだけいるというのか。
常人では成し得ない、彼のみに扱える超絶技巧。
ツイン
その結果が、二機の飛翔体の撃墜。
今まで菊地原に運ばれ目立った戦果のない佐鳥であったが、それでも実力あるA級隊員である事に変わりはない。
文字通りのただのお荷物ではないと、その身を以て証明してみせたのだ。
致命傷を負い、二機の怪物は墜落していく。
「え?」
しかし。
その二機の落下が、中途で停止した。
物理的に、である。
何故ならば。
女神像から伸びた触腕が、その二機の身体を絡め取ったが故に。
腹部から生えた触肢は二機を捕獲すると自身に引き寄せ、膨らんだ胎に押し付けた。
するとずぶずぶと、二機の怪物は女神像の腹部に沈み込む。
やがてその姿が完全に消え、
(一体、何を…………? あの捕食型がやっていたように、
その光景を見ていた風間は、敵の行動の意味を推察する。
今までの経緯から考えれば、捕食型が破壊された同胞を喰らっていたように、資源の再利用という目的が思い浮かぶ。
少なくとも、これまで得られた情報から推察出来るのはその程度だった。
「…………!」
されど、その考えが間違っていた事にはすぐに気付かされた。
女神像の腹部が再び膨らみ、そして。
その内部から這い出るように、たった今破壊したばかりの蠅型と蝉型の怪物が無傷の姿で出現したからだ。
「再生…………っ!? いや、
風間は、再生された二機の怪物を見据える。
たった今佐鳥に撃ち抜かれた筈の傷は、完全に埋まっている。
傷口には瓦礫と糸の混合物のようなものを詰め込んだ痕跡があり、翅はギザギザの鋭利な形状へと変化している。
修復した、というよりは新しく作り直したといった方がしっくりと来る。
(厄介だな。破壊しても、すぐにこうなるのでは意味がない。千日手だ)
新たに現れた怪物の撃墜は、そこまで難しいワケではない。
確かにボーダーのトリガーを模した武装をしているのは厄介ではあるが、その練度はハッキリ言ってB級下位にすら劣る。
攻撃は単調で、ただ武器の性能を維持して数を揃えれば良いという何の工夫もない戦術行動。
(敵は、ボーダーのトリガーを模している。恐らく使って来るのは、木岐坂がセットしていたトリガーに限定される。だが、だとしても実質不死身な上に数が揃っていると面倒な事になるな)
だが、破壊しても幾らでも再生可能な上に頭数まで揃っているとなると話は変わって来る。
これまで敵が使って来た模倣トリガーはハウンド、アステロイド、シールド、アイビス、スコーピオン、バッグワームの6つ。
いずれも、最終戦で樹里がセットしていたトリガーである。
この事から、樹里が使用していたトリガー以外を模倣して来る可能性は低いと判断される。
されど、それでもこれらの組み合わせだけでも厄介な事に変わりはない。
(香取から聞いた残る木岐坂のトリガーセットは、メテオラか。この状況で使用される可能性は低いが、何らかの形で使って来る可能性もある。注意した方が良いだろうな)
此処に来る前に、風間は香取から最終戦の樹里のトリガーセットの情報を聞いていた。
話によればその内容は、メインがアイビス・シールド・メテオラ・アステロイド。
そして、サブがハウンド・シールド・スコーピオン・バッグワームである。
この中でこれまで使用された敵の模倣トリガーのうち、出て来てないのはメテオラのみ。
まだ使われてはいないものの、これまで散々レイジと小南による迎撃を見せて来たので、使用される可能性は低いと思われる。
しかしメテオラには様々な使い道がある為、警戒は必要だろう。
特に、女神像本体の出力でメテオラを使用すればどれだけの規模の攻撃になるかは見当もつかない。
熱線と異なり防御は可能だろうが、それでも不意を突かれればどうなるか分からない。
そんな中で、破壊しても幾らでも再生する複数のトリガーを操る敵兵がいるというのは、非常に厄介だ。
(こいつらに手古摺っている間に、本体に何かされるのが一番危険だ。現に、今そうなりつつある。早急に、連中を片付ける必要がある)
風間は、集団の力を軽視しない。
戦場では、数は力だ。
たとえ力で、技術で劣ろうと。
工夫次第で敵の力を削ぎ、格下が格上を食い殺すというのは当然有り得る。
そのある意味での最大の象徴が、修だ。
彼は個人で見ればB級下位にも劣りかねない実力しかなく、トリオンが低い為継続戦闘にも向いていない。
指揮能力もあくまでも付け焼刃であり、実戦ではどうしても経験不足が露呈する場面もあった。
しかしそれでも彼は、たったワンシーズンでB級二位にまで上り詰めてみせた。
無論、規格外のトリオンを持つ千佳と優秀な近界の傭兵だった遊真と生粋の軍人であったヒュースという強力な力を持つ仲間に恵まれた事も大きいだろう。
だが、それでも彼等を今の結果に導いたのは他ならぬ修である。
彼は自身の弱さを理解し、それを逆に利用する策すら用いてチームを勝利に導いて来た。
実力で劣るからといって、何も出来ない事とイコールにはならない。
囮になり、敵の注目を集め少しでも本命の作戦から眼を逸らさせる。
それだけでも、仲間の動き易さは大きく変わる。
修はその事をしっかりと理解し、自身を一つの駒と見立てて冷静に戦術を組み上げ部隊を引っ張って来た。
その結果が、B級二位という現在の順位だ。
これだけの成果を目の当たりにして、個体として脅威ではないからといって相手を侮るような愚行をする風間ではない。
敵は確かに戦術的には素人同然だが、同時に無視出来ない要素を併せ持つ事に気付いていた。
(敵は、
ククロセアトロの軍勢は、総じてある特徴を備えている。
それは、損得勘定の軽視及び自己保存の皆無性である。
連中はどれだけの被害が出ようが、ただひたすらに結果だけを求める動きを終始していた。
アフトクラトルに攻め込まれた際も、「勿体ない」というとんでもない理由で星を自滅に導く機構を躊躇いなく稼働させた。
折角捕らえていた検体達を、「別の場所で稼働させられるなら構わない」とばかりに放流し、結果多大な被害をばら撒いた。
挙句有限と思われる資源を用いて樹里を核とした化け物を作り上げ、脅威と被害を振り撒く以外に目的が見えない侵攻を行っている。
そこには損得勘定であるとか、生物が当然持っているべき自己保存の本能が欠片も見られない。
その性質と、幾らでも再生可能な兵士という要素が組み合わさればどうなるか。
考えるまでもない。
死を恐れない、手札を複数持つ特攻部隊が出来上がる。
そして、幾ら簡単に迎撃出来たとしても、敵の目的が本体が動くまでの時間稼ぎであれば。
どれだけ敵の兵士を破壊しようが、徒にこちらが消耗した隙を突かれて壊滅する可能性すら有り得る。
その展開だけは、なんとしてでも避けねばならなかった。
(容易に想像出来る展開は、あの熱線の再照射までの時間稼ぎだ。こちらがあの怪物共に手間取っている間に発射の準備を完了させ、隙を突いて一掃する。このあたりが、敵の狙いだろう)
幸いにも、というべきか敵の目的自体は容易に想像がついた。
即ち、怪物達による時間稼ぎを行いつつ熱線の再発射の準備を行い隙を突いてこちらを殲滅する。
このあたりが、妥当だろう。
敵の戦術レベルを鑑みても、これより捻ったやり方をして来るとは思えない。
推測は、恐らく当たっているだろうと風間は見ていた。
(問題は、それが一番対処が難しく厄介な事だ。あの怪物達がどれだけの損傷で完全に破壊出来るのかが一切不明なのが、痛いな。一度体内に取り込んで再構築する、と考えれば下手をするとバラバラに砕け散ったとしても再生可能な可能性すらある)
それを防ぐ為にはあの怪物達を完全に破壊する他ないが、どれだけのダメージを与えればそれが成し得るのかが全く分かっていない。
少なくとも、完全に消し飛ばすような攻撃をすれば復活はないだろうが、それが出来る火力を持つ者はこの場にはいない。
黒トリガーを持つ遊真の攻撃手段は主に徒手空拳か
後者に関しても攻撃を集中させれば消し飛ばす事は可能ではあるだろうが、それを大人しく受けてくれるような相手でもない。
遊真の弾丸制御能力は並程度であり、レプリカの補助がなければ精度は本職の射手に劣る。
これまで敵の弾幕を迎撃出来ていたのは、数に任せた部分が大きい。
勿論射手トリガーを扱った事のない攻撃手よりは制御能力は上だろうが、それでも普段扱っている武器がブレードトリガーオンリーである為、どうしても本職には劣ってしまうのだ。
「ヒュース、あれらを完全に消し飛ばす攻撃は可能か?」
「難しいな。
よって遊真よりも弾丸制御能力に優れたヒュースに尋ねたのだが、結果は否。
怪物達はそれぞれ5、6メートル以上のサイズがあり、その巨体を跡形もなく消し飛ばすだけの火力はヒュースにはない。
もしも此処にランバネインがいれば怪物達を消滅させるような攻撃も可能であったろうが、そんな
今ある手札で何とかしなければ、この先の未来を切り開く事は出来ないのだから。
「────────だが、手が無いワケではない。一つ、作戦を思いついた。仮定に仮定を重ねた上で推測も含まれるが、問題ないか精査してくれ」
「…………! ああ、了解した」
だからこそ、ヒュースは思考を止めてはいなかった。
風間はヒュースからその「作戦」の内容を聞き、そして。
笑みと共に、了承の意を示した。