「────────以上が、作戦となる。ヒュースの原案を、俺なりに手直しした結果だ。意見のある者は早急に発言してくれ」
風間はそう言って、説明を締め括った。
たった今、彼はヒュースから上申された作戦を自分なりに修正し、全員への通達を終えた。
頷く者、頭を捻る者。
神妙な顔をする者、良いわねと笑う者。
皆それぞれだが、個人個人が自分なりの理解を示しているのは伺えた。
「結構手順を踏むのね。単純に、先制攻撃で本命をぶつけるのじゃ駄目なワケか」
「敵の戦術レベルが低いとはいえ、流石に正面からは対策されるだろう。あれは杓子定規な部分が目立つだけで、戦術の参考元となる
そう言って、風間は香取の疑問に答える。
確かに敵の戦術レベルはお粗末の一言だが、それは数々の実戦を経験して来た風間だから言える事であって、もしも軍事的な訓練所に入ったばかりの新人が学ぶお手本としてはむしろ相応しいまである。
要するに教科書通り過ぎてそこに載っていない部分を応用し活用する事は出来ないが、基本に忠実な部分はしっかりと出来るという事でもある。
よって、ただ強力な攻撃を叩きつける、正面から突破する、等の正攻法は容易く対策され得るのだ。
間違えてはいけない。
敵のやり方がお粗末というよりも、ボーダーの精鋭達の練度が高過ぎるのだという事を。
「だからこそ、陽動が必要だ。幸い、敵の動きは予測し易い。説明した方法で、恐らく通用するはずだ」
「今までの事から考えても、その可能性は高いですね。支持します」
風間の考えに、木虎が賛同の意を示す。
敵の傾向として、正攻法には強いが応用性や
戦場を知らない学者が机上のデータだけで理論を構築してそれを自慢気に話すかのような稚拙さだが、実際にその通りではあるのだろう。
ククロセアトロは、
実験体を集める方法も寄生型トリオン兵による裏工作であるし、中立国を謳っていたが為に他の国と事を構える事がそもそもなかった。
真実、アフトクラトルによる侵攻────────ククロセアトロ戦役が、彼等の初の戦争だったのだ。
その結果といえば早々にククロセアトロの連中が自分達の命運を投げ打つ暴挙に出た為にアフトクラトル側を巻き込んで多大な被害を齎したが、結果だけ見てみれば国そのものは滅亡している為敗戦と称して差し支えない。
だからこそ、戦争経験を積む余地はなかったのだ。
教本をどれだけ洗練させても、一度の経験も無いのであれば応用が出来る筈もない。
これはそういった、当たり前の話なのだ。
「だが、敵の学習能力自体は相応に高い。生半可な手では対応される可能性は残っている。
しかし、同時に敵の学習能力は侮れない。
生身の人間が持つ柔軟性こそ存在しないが、それでも蓄積されたデータを基にした状況対応力には眼を見張るものがある。
戦争に疎いが故に悪手もそれなりに目立つものの、超巨大質量による明確な対処方法のない進軍や熱線によるエスクード陣地の破壊等、力押しではあるがこちらとしても即応が出来ない戦術なのは間違いない。
故に、油断は出来ない。
まだどんな隠し札を用意しているか分からない以上、警戒を怠れないのもまた事実であった。
その上で、作戦を通し敵に痛打を与える。
それが自分達の役目であると、風間は語った。
風間は眼を細め、宣告を下す。
「始めるぞ。各員、行動開始」
『イィアァ』
ハウンドとアステロイド、二種の弾丸の群れが一斉に風間達に襲い掛かった。
「木崎、歌川」
「「了解」」
それを、レイジのガトリングと歌川の
ガトリングの面斉射により、大多数の弾丸は撃墜される。
レイジの豊富なトリオンを元にした弾幕は、大抵の弾を迎撃可能だ。
それでも撃ち漏らす弾は、歌川が精密射撃で撃墜する。
ほぼレイジのガトリングで事足りてはいるが、射撃がこちらにまで到達すれば面倒な
それを排除する為、両者は全力を尽くしていた。
「次、蟷螂型だ」
「了解」
敵の攻撃は、当然まだ終わらない。
蟷螂型がその両腕を掲げ、振り下ろす。
伸縮自在の両腕の鎌が、鎖鎌の如く標的を狙う。
狙われたのは当然、レイジ。
多くの弾丸を撃墜する彼をこそ、敵は優先撃破目標と定めている。
「────────!」
しかし、その攻撃は通らない。
素早くレイジの前に跳び出た風間がスコーピオンで受け太刀を行い、その攻撃を逸らしたからだ。
通常、スコーピオンは防御には向かないトリガーだ。
身体の何処からでも生やせる応用性と軽さの代償として、耐久力は弧月よりもずっと低い。
元々がスピードタイプの
だが、風間の技巧が困難を可能とする。
風間の扱うスコーピオンは中央に穴が開いたタイプであり、見るからに耐久力は低そうに思える。
されど、風間は敵の攻撃を受け止めるのではなく刃の角度を調整して
普段は弧月等のブレードトリガー相手に使っているその防御技巧を、単純にトリオン兵向けに転向しただけで特別な事はしていない。
無暗に近距離でブレードを破壊すれば、中から何が飛び出して来るか分かったものではないのはこれまでの経験で理解している。
だからこそ風間は破壊ではなく、受け流す選択をした。
「ヒュース」
「問題ない」
そして、攻撃を逸らされた鎌を敵が引き戻す直前、ヒュースが磁力弾を二つの鎌に撃ち込んだ。
敵はそれに気付かず、両の鎌を自身の下へ帰還させる。
『…………ッ!?』
瞬間、蟷螂型の大鎌が不自然な挙動を描き、自らの体躯を両断した。
何が起きたかは、瞭然。
ヒュースが鎌に撃ち込んだ磁力弾を操作し、蟷螂型に自らの刃で自身を斬り裂かせたのだ。
四機のうち、蟷螂型だけはこちらに武器を伸ばす形で攻撃を行っていた。
だからこそ、その武器に細工をする事で罠に嵌める事が出来たのである。
磁力弾の効力自体は先程の戦闘で見ているだろうが、それでも遠くに伸ばした鎌に撃ち込まれたそれを見逃してしまったのだ。
敵の感知能力は恐らく、本体の視覚とトリオン探知に頼っている。
あのヒトの成れの果てである怪物達にもカメラは搭載されているかもしれないが、それでも女神像から離れずにいる以上こちらまでは相応の距離がある。
故に、伸ばした腕の損傷は把握出来ても
敵の性能を把握した上での、的確な采配と言えるだろう。
『■■』
だが、これだけでは痛打を与えた事にはならない。
蟷螂型が破壊されたと見るや否や、女神像は触腕を用いて怪物を自身の胎内へ引きずり込む。
先程のように、多少の時間さえあれば蟷螂型は完全な状態で蘇るだろう。
「かかったな」
されど、そんな分かり切った事を素直にさせるワケがない。
ヒュースの磁力弾がレイジのガトリングの弾に紛れて発射され、百足型に撃ち込まれる。
次の瞬間、蟷螂型の鎌が百足型へ飛来し、その胴を断ち切った。
ついでとばかりに、女神像の触腕も切断。
支えとなる触肢が斬られた事で、蟷螂型の上半身が崩れ落ち落下していく。
更に、落ちていく蟷螂型の残骸にヒュースは磁力弾を撃ち込む。
それにより、両断された百足型の半身も磁力操作によって引き寄せられ墜落。
蟷螂型と百足型、二機の半身は女神像に取り込まれる事なく地面へ落下した。
「空閑」
「了解」
そして、予め準備していた遊真の
黒トリガーの出力により、怪物二体の上半身は共に彼方の空へ飛んで行った。
『■■■…………!』
女神像が、憤激を表すかのように不気味な咆哮をあげる。
母体の怒りに呼応したのか、蠅型と蝉型の怪物は再び攻撃を行おうと腹部の狙撃銃の狙いを定める。
「遅い」
だが、その二機の銃口は同時に撃ち抜かれ弾丸は本体まで貫通。
何が起きたかは、瞭然。
佐鳥のツイン
胴に穴を空けた二機は、そのまま落下を始める。
当然、女神像は残る触腕を用いて怪物達を捕獲しようとする。
壊れた仔を一度胎内に回帰させ、再び産み直す為に。
「無駄だ」
しかし、それも対策済みである。
トリオン兵を掴もうとする触肢に、磁力弾が着弾。
我が仔を抱かんとする触肢を磁力を用いて操り、それを以て二機の怪物を
長大な触肢によって弾かれた二機の怪物は、そのまま彼方へ跳んでいく。
敵は、破壊された怪物を一度自らに取り込む事によって再生させていた。
無限に復活する雑兵ほど厄介なものはないが、一度鹵獲して吸収するという
要は取り込まれる前にそれを妨害し、敵の手が届かない場所まで怪物の身体を運んでしまえば良い。
それを為す上でヒュースが提言したのが、自身の近界トリガー
蝶の盾の磁力弾は磁力片を撃ち込んだ対象同士を引き寄せ、操作する事が出来る。
まずはこちらにわざわざ腕を伸ばして攻撃して来る蟷螂型の鎌にこれを仕込み、手元に戻させる。
更にそのまま磁力片を用いて鎌を操作し、蟷螂型を両断。
破壊された蟷螂型を取り込む為に触肢を用いた────────即ち、
恐らくは近付かれた時の為の近接戦闘特化型であろう百足型をこれで破壊し、二機を磁力弾を用いて墜落させる。
後は木虎のスパイダーを用いて残骸を引き寄せ、遊真の
残る二機の飛翔型についても、作戦の根本は変わらない。
まずは佐鳥のツイン
そしてその触腕自体を利用して、怪物の残骸を弾き飛ばす。
これまで敵が行った「怪物が破壊されたら最優先で触腕を使って回収しようとする」行動パターンを最大限利用した、一大攻勢。
基本となる行動が固定されている、という敵の明確な弱点を利用した戦術。
これにより、厄介な雑兵は無力化された。
後は、本体を狙うのみ。
『■■■■■』
「…………!」
だが。
風間達は、少々時間をかけ過ぎたと言える。
女神像の、
それは、敵の主砲発射の合図に他ならない。
「熱戦が来るぞっ! 備えろっ!」
広げた翼から紫電が迸り、天空のリングへ伸びていく。
視覚化されたそれは瞬く間に眩い光を放ち、膨大なエネルギーを収束させていく。
敵があの怪物達を出した狙いは、あくまでも主砲発射の為の時間稼ぎが主。
あわよくばこちらの戦力を削り、そうでなくとも主砲冷却の時間が稼げればそれで良い。
要は使い捨ての斥候に過ぎず、あくまでも敵の本命は防御不能の極大射程を持つ熱線による蹂躙。
しかも以前の戦闘とは異なり、主砲であるリングの位置が高過ぎる。
地上からあそこまで届く武器となると佐鳥のイーグレット程度であるが、それはたった今使用したばかり。
如何に佐鳥とはいえ、一度撃てば
よって、砲身破壊による発射の阻止は不可能。
あの熱線が放たれる事は、止められない。
「…………!」
そして、光が放たれる。
上空に向かって放たれた眩い光の帯は、三つのリングを潜り抜けた先で分割。
四方へ向かい、防御不能の熱線が降り注いだ。