香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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心魂のルフラン④

 

 

「それで、どうするのレイジさん。適当に時間を稼ぐ?」

「いや、攻勢に全力を注ぐ。下手に遅滞戦闘を狙えば、敵が地下の迎撃にリソースを割いて風間達が苦しくなる。なら、こっちにかかりきりにさせるしかないだろう」

 

 レイジは小南の問いに対し、即断でそう答えた。

 

 既に風間達は穴に跳び込んでおり、内部からは戦闘音が聴こえて来る。

 

 ただでさえ少数で厳しい戦いを強いられている彼等に対しこれ以上の消耗を強いる事は出来ない、というのがレイジの判断であった。

 

『流石に、地下まで行っちゃうと通信が不安定になるみたい。頑張って数秒繋げる事は出来るかもしれないけど、それが限度かな』

「了解した。聞いての通りだ。現在、風間達とは碌に通信が行えない状況下にある。よって、協調しての作戦は難しい。ならばこちらはこちらで、全力を注ぐしかないだろう」

「同意する。流石にあの熱線や追尾弾(ハウンド)擬きを地下に撃ち込む事はないだろうが、先程のような雑兵を送り込む可能性は充分有り得る。敵の心臓部破壊の成功率を上げるには、こちらを対処せざるを得ない状況に持ち込むしかないだろう」

 

 宇佐美から地下の風間達との通信が難しいと聞き、レイジとヒュースの両者は同様の意見を示した。

 

 逐一連絡を取り合う事が出来るのならばあちらの母トリガー破壊のタイミングに合わせて全力を注ぐといった事も出来るが、碌に通信を行えないのであればそういった真似はリスクばかりを高めるだけだ。

 

 それよりも下手に遅滞戦闘を行う事で敵が痺れを切らし、地下に増援を送る方が余程厄介だ。

 

 母トリガー破損の可能性がある以上地下に向かって大威力の攻撃は行えないだろうが、先程の怪物達のような手駒を造産し送り込む可能性は十二分に有り得る。

 

 地下での戦闘状況は分からないが、ただでさえ少数精鋭な分余計な雑兵程鬱陶しいものはない。

 

 強敵相手に戦っている最中に横から妨害を入れられれば、たとえ格下相手でも隙を晒す事態になる事もある。

 

 その例をランク戦で腐る程見て来た者達としては、たとえ雑兵であっても数を揃えられる危険性を軽く見る事はない。

 

 弱者であっても、工夫次第で格上殺しも可能となる。

 

 それを体現して来た修という存在がある以上、その可能性を軽視する事は出来ないだろう。

 

「宇佐美、熱線の次弾発射予想時間は分かるか?」

『さっきの再発射の時間を考えると、三分くらいかな。どうやらあの空に浮かんでるリングが砲身の役割をしてて、撃つのはすぐ出来るっぽいですけど冷却までそれなりに時間がかかるみたい。クールタイムが三分、って感じ』

「了解した。聞いての通りだ。次に熱線が来るのは、恐らく三分後だ。それを留意した上で、敵への接近を試みる。無論、無理には踏み込むな。場合によっては後退も許可するが、それでも大きく離れ過ぎるな。一度距離を取ってしまえば、その分だけキツくなるからな」

 

 レイジは降り注ぐ追尾弾(ハウンド)をガトリングの斉射で迎撃しながら、隊員達に必要事項を伝える。

 

 敵の攻撃の中で最も警戒しなければならないのが、あの熱線だ。

 

 以前は真っ直ぐにしか撃ち込まれない上に軌道が分かり易かったが、今回のそれは天空のリングを潜るまで何処に落ちるか分からない上に、無数に拡散してから降り注ぐ。

 

 弾速もかなりのものであり、幾ら発射地点が地上まで距離があると言っても隙を見せれば直撃を受けてしまうだろう。

 

 消費度外視の威力だけを追求したあの熱線は、防御をするという概念そのものが無意味だ。

 

 通常の弾トリガーの数十倍から数百倍という馬鹿げたトリオン消費によって実現するその火力は、あらゆる防御を消し飛ばす。

 

 恐らくだが、たとえ千佳のシールドであってもあれは纏めて融解させるだろう。

 

 しかも照射時間が長いので、緊急脱出(ベイルアウト)のない状態で受ければトリオン体が破壊されて生身が曝け出された瞬間焼却され死亡する可能性すらある。

 

 何があっても、まともに受けてはならない攻撃なのは間違いなかった。

 

 だが、次に撃って来るタイミングが分かっているのは僥倖ではある。

 

 いつ飛んで来るか分からない攻撃よりも、どのタイミングで撃って来るか分かっている方が格段に凌ぎ易いのは言うまでもない。

 

 どれだけ威力が高かろうと、着弾までタイムラグがある以上不意を突かれなければどうにかなる可能性は高い。

 

 熱線は威力が規格外で且つ照射範囲も広いが、来ると分かっていればやりようはある。

 

 少なくともこの場に集ったメンバーであれば可能だと、レイジは判断していた。

 

「総員、熱線に警戒しつつ敵本体へ接近。敵の弾幕は、俺と歌川で迎撃する。菊地原は奇襲警戒を最優先で行い、直接的な戦闘行動は引き続き避けろ。攻撃は、佐鳥に任せる」

「了解」

「了解しましたよ、っと」

 

 レイジの指示に佐鳥は素直に、菊地原はやや拗ねた様子を魅せながら頷いた。

 

 彼としても尊敬する隊長である風間以外の命令を受けるのは心情的には納得が行っていないだろうが、レイジの手腕に関しては疑う余地がない。

 

 あの迅と同じ玉狛の一人にして、個人で一部隊換算される特級戦力。

 

 一個人としての実力はこれまでも散々見せられているし、何よりもこんな鉄火場で私情を優先する程菊地原のモラルは低くない。

 

 態度や口調に不満が表出しているのはご愛敬だが、それでもやるべき事を否と言うような人物でもない。

 

 その程度のTPOを弁える事が出来ずに、遠征部隊に選ばれる筈も無いのだから。

 

 何よりも、レイジは風間が自分を信じて託した人物だ。

 

 そんな風間の顔に泥を塗るような真似を、この少年がする筈もないのであった。

 

 レイジは二人の反応を確認し、ふぅ、と息を吐く。

 

 そして顔を上げ、号令を下した。

 

「始めるぞ」

 

 

 

 

『敵個体群、進軍を再開。隔壁内部への追加戦力はなし。このまま地上の残存戦力で至天機巧(アポストロス)本体を狙うものと思われます』

 

 そんなレイジ達を、女神像の単眼が睨みつける。

 

 三頭有翼の異形の女神は、ギョロリと眼球を蠢かせ標的たる人間達を視界に収めていた。

 

『先程の戦闘結果により、骸蟲騎兵(テラペウテース)を放出し単独稼働させる攻撃は推奨出来ません。各個撃破の可能性が高く、別案が必要です』

 

 ボコリ、と女神像の腹部が隆起する。

 

 それは内部に何か蟲にようなものが蠢いているような、そんな不気味な動きだった。

 

『よって、骸蟲騎兵(テラペウテース)は合成後胎内に待機状態を維持。必要に応じて同状態での攻撃を実行します』

 

 異形の女神の胎内で、新たな怪物が産み出される。

 

 だがそれは体外へ出る事なく、母体の内部へ留まる。

 

 外に出て侍らせれば各個撃破される可能性が高いと、先程の戦闘で学習したが故に。

 

 怪物達は破壊された時に一度至天機巧(アポストロス)自身の手で鹵獲して取り込むという工程(プロセス)が必要であり、そのタイムラグこそが隙となった。

 

 ならば、初めから胎内に貯蔵しておき必要に応じて内部から攻撃をさせれば良い。

 

 そういった、機械的な判断であった。

 

『攻撃開始』

 

 

 

 

「散開…………っ!」

 

 女神像の下腹部に生えた触腕が、レイジ達を狙って振り下ろされる。

 

 伸縮自在の触肢はその大質量を以て、自らを狙う不届き物を誅さんと迫る。

 

 だが、当然それを素直に受ける者は誰もいない。

 

 あの触腕に何らかのギミックが仕込まれているのは、瞭然。

 

 恐らく下手に攻撃すれば「糸」が飛んで来るであろうし、防御など以ての外だ。

 

 レイジの号令により、全員がバラバラに散る。

 

 大質量相手に、一ヵ所に固まるのは愚策。

 

 回避しか択が無い以上、こうして狙いを分散する他道はない。

 

 大柄で機動力に難がありそうなレイジも、見た目とは裏腹に鈍重とは言い難い。

 

 これでも機動力評価は7と平均より上であるし、他者と比べて遅く見えるのは今回連れて来た面々が揃いも揃って機動力が高レベルで纏まっているからだ。

 

 遊真や小南は言わずもがな、風間と共に隠密部隊をやっている菊地原達が低い筈もなく、ヒュースに至っては機動力評価は13とかなりの高値となっている。

 

 これは角トリガーを持ち尚且つ蝶の盾(ランビリス)を装備した場合の数値ではあるが、彼は今まさにその状態で来ている為、このままの値として差し支えない。

 

 そんな彼等と比しては確かにレイジは遅いと言わざるを得ないが、そもそも彼は数々の近界国家を渡り歩き緊急脱出(ベイルアウト)が無い時代から戦い続けて来た歴戦の猛者。

 

 この程度の危地など、日常ですらあった。

 

 フェイントもなく、ただ真っ直ぐに振り下ろされる攻撃など当たる筈もない。

 

 もしもこれが完全にランダムに降って来る上に複雑な軌道を描いているものならば危うかったかもしれないが、ご丁寧に敵の攻撃は各隊員に向けて真っ直ぐに飛んで来ている。

 

 たとえばフェイントを入れるだとか、敢えて無軌道(ランダム)に動かすだとか、そういう工夫は一切ない。

 

 ただ、最短距離で巨大質量を叩き付ければそれで良いと考えているのが明瞭な攻撃軌道。

 

 それは、敵が機械であるが故の限界を現してもいた。

 

 本来、完全な乱数は機械仕掛けでは有り得ない。

 

 ランダムに見えていても、機械である以上どうしても法則性が生まれてしまう。

 

 下手に人工知能が判断を下している所為で、その不規則性に「最短で敵を狙う」という単純明快なロジックが組み込まれてさえいるのだ。

 

 如何に強力な攻撃といえど、単調なものである以上回避は容易い。

 

 先程の蜘蛛脚のような超巨大質量を伴う攻撃であればまた別だが、触肢のサイズは横幅が凡そ10メートル程度。

 

 レイジを含め、この場でこれを回避出来ない者は誰もいない。

 

 佐鳥を抱えた菊地原でさえも、難なくこれを回避する。

 

「…………!」

 

 だが当然、攻撃がこれで終わる筈もない。

 

 女神像の両腕から、二つのキューブが出現する。

 

 それらは瞬時に分割され、こちらに向かって降り注いだ。

 

「任せろ」

 

 レイジは再びガトリングを構え、斉射。

 

 降って来る弾幕を、撃ち落としにかかった。

 

 相も変わらず、こちらを真っ直ぐ狙った弾道の追尾弾(ハウンド)とアステロイドの模倣武装。

 

 弾道が極めて読み易いそれを捌く事など、彼には容易い。

 

 広範囲のガトリング斉射により、殆どの弾丸は相殺される。

 

 敵の出力が膨大な為弾数自体は多いのだが、フェイントもなく真っ直ぐこちらを狙っている為弾が密集しており迎撃も容易となっている。

 

 此処までは、順調に推移している。

 

 誰もが、そう思っただろう。

 

「────────!」

 

 だが。

 

 次の瞬間、レイジは眼を見開いた。

 

 女神像の腹部、その複数個所。

 

 そこから、無数のキューブが展開された。

 

 一つや二つではない。

 

 計、12個。

 

 それが、何もない筈の女神像の腹部付近に展開されたトリオンキューブの個数だった。

 

 無数のキューブが分割され、夥しい数の弾幕となってレイジ達に襲い掛かった。

 

「遊真!」

「了解」

 

 自分だけでは手が足りないと判断したレイジは、遊真にも迎撃を指示。

 

 遊真は即断で応答し、『射』印(ボルト)によって迎撃を図る。

 

 今回のトリオンキューブは、女神像本体が生成したものと比べればサイズは小さい。

 

 有り体に言えば、並の射手の作り出すキューブと同等程度である。

 

 その事実が、ある予測を裏付けていた。

 

「例の怪物を外に出すのではなく、体内に維持したまま攻撃に使っているのか…………!」

 

 敵の攻撃、その絡繰りである。

 

 先程現れた、無数のヒトガタの成れの果てである怪物達。

 

 それを今度は個体の戦力として運用するのではなく、要塞に詰める兵士の如く自身の胎内に貯蔵したままトリガー攻撃を行わせているのだ。

 

 恐らくは先程怪物達が各個撃破された事で下手に外に出すのは危険であると判断し、このような方法を取ったのであろう。

 

 確かにこれならば怪物が個々で狙われる事はなく、正確な位置も掴み難い為こちらからの攻撃で撃破する事は難しい。

 

 加えて既に胎内にいる状態である為、多少壊れたところで問題なく修復出来る。

 

 しかも女神像とは別個に動く為、今のように別角度からの攻撃が可能である。

 

(…………加えて、人間の成れの果てがベースである為か攻撃軌道にある程度乱数が含まれている。しかもどのトリガーを使って来るかは攻撃の直前まで不明、というのが厄介だな)

 

 また、どういう理屈かは不明だがこの内部に貯蔵された怪物達の攻撃にはある程度の乱数がある。

 

 あくまでも若干、というレベルではあるがその数値が不定である為真っ直ぐこちらを狙うだけの女神像よりもある意味では面倒ではある。

 

 更に敵がこちらからは見えない女神像の内部にいる為、何のトリガーで攻撃して来るかは攻撃が始まるその瞬間まで不明。

 

 此処にきて、厄介な展開になったのは言うまでもない。

 

(だが、やるしかない。少しでも風間達の負担をやわらげる為にも、全力で攻撃を仕掛ける。それ以外にない)

 

 しかし、方針に変更はない。

 

 如何に厄介であれど、此処で攻撃の手を緩めれば敵は地下へ向かった風間達の方へリソースを注ぎ込んでしまいかねない。

 

 更に防衛陣地を再び狙って来る可能性もあり、あの熱線であればそれが可能である以上油断するワケにもいかない。

 

(先程から、一分が経過か。熱線が放たれるまでは、凡そ二分といったところか)

 

 宇佐美の予測した熱線の発射可能時間までは、残り二分。

 

 時間との戦いが、始まった。

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