香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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心魂のルフラン⑤

 

 

(あのデカブツが二体、か。厄介な事になったな)

 

 母トリガー安置、中央隔壁(ケントロン・コーロス)内。

 

 レイジ達が敵の脅威と対面していた頃、地下へ踏み入った風間達は二機の巨大な怪物と対峙していた。

 

 ただでさえ空間の広さが限定されている隔壁内部で、多大な質量を持ち相応の機動力を持つ敵が二体。

 

 如何に風間とはいえ、少数精鋭のみでこの場に来ている以上使える手札には限度がありある意味ではかなり悪い状況とも言える。

 

(一機なら、どうにかなったろう。だが、この狭い空間内であの巨体二機同時相手は分が悪い。デカイ上に、速い相手はな)

 

 問題は、3つ。

 

 敵のサイズと、速度。

 

 そして、この空間の広さだ。

 

 巨大化した百足のような怪物のサイズは、左右の幅が10メートル前後で全長は凡そ80メートル前後。

 

 対して、この隔壁の内部は直径が100メートル強といったところで更に中央には母トリガーの柱がある為怪物が身体を伸ばせば端から端まですぐさま到達出来てしまう。

 

 加えてあの怪物は巨体の割にはかなり素早い動きをしており、狭い空間内では攻撃の回避の難易度はそれなり以上に困難だ。

 

 如何に風間達が機動に特化したタイプの精鋭とはいえ、物理的に回避場所が少ない以上やれる事は限られて来る。

 

 しかも相手のサイズがかなり大きい為、それが相応以上のスピードで襲って来るとなれば猶更だ。

 

 たとえ動きが遅くとも、相手の一歩が大きければその分だけ実質的な速度は嵩増しされる。

 

 その極大があの皇骸煌鋼蟲(スカラヴェオス)であり、あちらは動きは鈍重だがサイズが大き過ぎるが故に一歩で移動出来る距離が長く、実質的な相対距離はそこまで離れているとは言い難い。

 

 この大百足はサイズはあそこまで極端ではないが、そこそこ以上に機動力がある。

 

 恐らくはこの隔壁内部で侵入者を迎撃する為に用意されていた尖兵の筈なので、この場で最適な性能を持っているだろう事は疑いようがない。

 

(防衛対象、つまり母トリガーは敵にとってもアキレス腱。それを迂闊に傷つけるワケにはいかない以上、射撃系統の兵装は迂闊に使えない。そう考えて近接特化でメンバーを組んだが、矢張りこういう系統の敵は出て来るか。一体ならば、問題はなかったんだがな)

 

 見たところ、あの怪物は突進による攻撃のみで射撃等の中距離兵装は備わっていないように思える。

 

 それもその筈で、この場には敵が何が何でも護り抜かなければならない心臓部たる装置、母トリガーがある。

 

 怪物が出て来たタイミング等を鑑みれば、あれは至天機巧(アポストロス)が造産したものというよりも、この隔壁内部に予め用意されていた防衛機構の類だろう。

 

 だからこそ下手に母トリガーを傷付けかねない射撃兵装の類は装備しておらず、その巨体とスピードを活かした突進攻撃オンリーだろうというのは推察出来る。

 

 隠し札の一枚や二枚はあってもおかしくはないが、現状の情報では推測のしようがない。

 

 そうなった時の為、心構えと次善の策を考えておくだけに留めるべきだろう。

 

(この場で用意したのではなく、予め仕込まれていた尖兵だとするならば、これまでの敵の傾向に当て嵌める事が出来るかどうかは不明だ。だが、未知は近界ではいつもの事。状況を受け入れた上で、前に進む他はない)

 

 しかし、そもそも近界では未知の敵と戦うのが常識だったのだ。

 

 少なくとも繰り返し遠征を経験した風間には、初見殺し甚だしい性能のトリガーを持った敵との戦闘経験など腐る程ある。

 

 近界のトリガーは基本的に性能特化の専用武装(ユニークウェポン)である割合が大きく、どういった効果を持つのか把握していなければ容易に不意を突かれるタイプの能力である事も珍しくはない。

 

 その極地と言えるのは大規模侵攻で相対したエネドラの泥の王(ボルボロス)であり、あれはギミックを知らなければまず勝てない類のトリガーの典型例と言えた。

 

 黒トリガー故に通常攻撃無効、という無法が通っていたが、そもそも気体や液体になれる事を知らなければ容易に初見殺しでやられるタイプの相手である事には違いはない。

 

 ああいった初見殺しの性能の武器をどう隠し持っているかまでは、流石の風間でも判断出来ない。

 

 何せ、悪い意味でククロセアトロには信頼がある。

 

 普通ならばやらないだろう、と一蹴するような案でも躊躇なく実行してしまいそうな危うさが彼等にはある。

 

 この星に遺っているのはククロセアトロの研究者達が作り出した人工知能の意思であるが、どちらにせよ彼等の被造物であれば傾向的には似通った判断を下すだろう事はこれまでの経験で理解している。

 

 結局の所警戒した上で相手をする他はないが、心に留め置く事は必要だろう。

 

「…………! 来るぞっ!」

 

 そして、相手が動いた。

 

 巨大な百足の怪物、骸糸衛兵(ネウロン)が壁を這いずりながら風間達を標的をして襲い掛かる。

 

 数百にものぼる脚部を一斉に蠢かせ、壁を駆け上がりながら巨躯が迫る。

 

 先に動いたのは、下方から出て来た二体目の怪物。

 

 それが、一直線に風間目掛けて攻勢をかける。

 

 攻撃方法は、単純極まりない突進。

 

 だが、閉所で尚且つ相手がかなりの巨体を誇っているならば無視出来ない致死の攻撃と成り得る。

 

 限られた空間で大質量相手に回避を行うのは、相応に困難であるからだ。

 

「────────」

 

 されど、困難程度であれば風間が切り抜けられない筈はない。

 

 風間は素早く壁を蹴り、木虎が咄嗟にかけた足場であるワイヤーの上に着地。

 

 最小限の動きで、敵の突進を回避した。

 

『────────!』

 

 しかし、敵は二体いるのだ。

 

 一度目の攻撃を避けた風間に対し、もう1体の怪物が追撃をかける。

 

 風間はその攻撃も、跳躍で回避。

 

 ワイヤーを足場とした移動により、危なげなく避け切った。

 

「…………!」

 

 直後。

 

 一度目の攻撃をかけた方の怪物が、猛スピードで風間に向かって突っ込んで来た。

 

 息もつかせぬ、連続攻勢。

 

 それを可能としているのは、この空間の閉塞性だ。

 

 隔壁内部は相応に広いように思えるが、それはあくまでも風間達人間から見たサイズ感である。

 

 少なくとも、あの怪物達にとっては少々手狭なくらいですらある。

 

 だからこそ、壁から壁へ這いずり回り、或いは壁を足場とした跳躍による突進という攻撃方法は、攻撃と機動を両立する効率的な方法なのだ。

 

 射撃と違いその場に留まるワケではないので敵に狙い撃ちにされる心配はなく、尚且つ巨大な怪物が二体いる事で絶え間ない連続攻撃を実行する事が可能となる。

 

 攻撃自体は単調極まりないが、それでもこうも波状攻撃を仕掛けられれば厄介だ。

 

「────────」

 

 無論、だからといって簡単にやられる風間ではない。

 

 すぐさまワイヤーを足場に跳躍し、回避行動を実行。

 

 跳んだ先をもう1体の怪物に狙われるが、それもまた連続した跳躍で回避。

 

 更に敵の腹の下に潜り込み、スコーピオンを一閃。

 

 巨大な怪物の腹部に、切り込みを入れた。

 

「浅かったか」

 

 しかし、刃は通ったものの相手のサイズがサイズだ。

 

 一撃で致命傷とはならず、薄皮を裂いた程度のダメージに留まった。

 

『グォイォ…………!』

 

 攻撃を受けた怪物は憤ったような唸り声をあげ、そのまま風間に突っ込んで来る。

 

 前腕の鎌を振り上げ、風間を害さんと迫る。

 

 距離が、近い。

 

 相手に攻撃を仕掛けたばかりである為、風間と怪物の距離が近過ぎる。

 

 このままでは、回避を行う暇すらなく攻撃が当たってしまうだろう。

 

「風間さんっ!」

 

 そこに、香取が声をあげる。

 

 同時に、風間の足元にグラスホッパーが出現。

 

 風間は迷う事なくそれを踏み込み、跳躍。

 

 間一髪で、骸糸衛兵(ネウロン)の攻撃を回避する。

 

 風間はその勢いのまま、木虎が張ったワイヤーに着地。

 

 更に跳躍を重ね、怪物達から距離を取る。

 

 無論骸糸衛兵のサイズを考えれば焼石に水であるが、それでも至近距離にいるよりはずっとマシだろう。

 

 風間は油断なく敵を見据え、思案する。

 

(このままでは、埒があかんな。地下という性質上考えられる妨害は雑兵の大量投入による物量戦だったが、そういう意味では当てが外れたと言うべきか。想定していなかったワケではないがな)

 

 当初、風間の予想では相手が繰り出して来る妨害は雑兵の大量投入が中心になると思っていた。

 

 地下、しかも閉所という性質上、それが単純に厄介な戦術である為だ。

 

 これまでも骸兵蟲(プロニムフィ)骸翅蟲(エフィメロプテラ)は散々屠っては来たが、それが容易に行えたのは碌な障害物の無い地上であったから、という理由も大きい。

 

 もしも閉所であれらを大量に相手取る事になれば、相応に手間取る事になっただろう。

 

 だが、それでもこの三名であれば問題なく片付けられるとは踏んでいた。

 

 木虎も香取も、どちらも一人で戦局を左右出来るだけの実力を持つエース級隊員だ。

 

 嵐山隊を今の地位まで引き上げた立役者である木虎の手腕は言うまでもないし、香取も今期のランク戦でしっかりと結果を残している。

 

 特に後者は風間が直々に眼をかけていた事もあり、多少の贔屓目で見てもいる。

 

 閉所で現れる雑兵程度なら、問題なく対処出来ると考えていた。

 

 しかし、実際に現れたのは二体の巨大トリオン兵。

 

 流石にこれは予想とはズレてはいたが、それでも全く想定していなかったというワケでもない。

 

 これまでの経緯から敵が大艦巨砲主義、要するに威力が高ければ高い程、大きければ大きい程良いという傾向がある事には気付いていた。

 

 その考えからすれば、どうせやるなら巨大なものを、という方針で尖兵を用意して来る可能性はあった。

 

 それが二機、というのは少々面倒な事態ではある。

 

 今は風間が集中的に狙われている為どうにかなっている面もあるが、今後はどうなるか分からない。

 

 それだけ、この閉所での巨大質量二機というのは厄介だった。

 

(だが、却って好都合でもある。敵のやり方次第ではあるが、連中を逆に利用出来る可能性もある。こちらの手札を考えても、そちらの方が効率が良さそうだ)

 

 しかし、風間に焦りはない。

 

 こういった事態も想定していなかったワケではない以上、当然策はある。

 

 風間は眼を細め、こちらを睥睨する二機の怪物を見据えた。

 

(大きければ大きい程良い、か。ある意味でそれは正解だが、大き過ぎる力が持つデメリットというものを教えてやろう)

 

 

 

 

(今の所、そこまで悪い未来は視えていない。少なくとも、誰かが死ぬとかそういう心配はなさそうだ)

 

 ガロプラ遠征艇、内部。

 

 そこでは桐山と共に待機している迅が、思案を続けていた。

 

 ヨミが飛ばしてくれたパ・ドは途中で熱線に巻き込まれて破壊されてしまった為、映像で戦況を確認する事は出来ない。

 

 されど迅には、未来視の副作用(サイドエフェクト)がある。

 

 それを以て未来の映像を垣間見て、少しでも役立てる情報がないか探っていた。

 

(防衛陣地の方は、何人かやられてしまう未来(可能性)はあるけど、幸いこっちは緊急脱出(ベイルアウト)が出来る。最悪の事態には至らない)

 

 迅の視た未来では、防衛陣地にいるメンバーは何人か脱落する可能性があった。

 

 だが、こちらは救出組と違い緊急脱出(ベイルアウト)が出来る。

 

 よって最悪の事態に至る事はなく、ある意味では安心出来る。

 

 勿論、陣地が突破されこちらの世界に骸兵蟲(プロニムフィ)が溢れ返るパターンはある。

 

 しかしその場合でも、ボーダーが用意した戦力によって問題なく迎撃は行えるようであった。

 

(街へ被害が出るパターンも無い、っと。肝心の救出組の方は、一応誰かがやられてしまう未来(ぶんき)はあるけど、リカバリーが可能な範囲だ。一番危ないのは遊真やヒュースの援護が受けられないらしい風間さん達だけど、リスクを抱えなきゃ前には進めないからね。仕方ない、の一言で済ませたくはないけれど呑み込むしかない)

 

 風間を筆頭とした救出組の方も、勿論誰かが戦闘体を破壊される可能性は存在する。

 

 こちらは防衛組と異なり、緊急脱出(ベイルアウト)が出来ない。

 

 よって最悪の事態に至る可能性もゼロではないが、やり方によってはリカバリーが可能。

 

 鍵となるのは遊真とヒュースの二人であり、最悪でも戦闘体が破壊される前に彼等に緊急脱出(ベイルアウト)可能な圏内まで飛ばして貰えばどうにかなる。

 

 それが出来ない状態らしい風間・香取・木虎の三名が一番危険な状態ではあるが、状況を鑑みても現状を突破するには必須な工程である以上受け入れる他ないだろう。

 

(樹里ちゃんの未来は未だ良く視えない。敵が人間じゃなく機械、人工知能の類ってのが原因かもな。生きた人間の意思が介在していないから、良く視えないのかもしれない)

 

 迅の未来視は、一度でも肉眼で視認した()()の未来を視る事が出来る。

 

 しかし、今回敵となっているのはククロセアトロという地獄(ほし)に生きていた人間が遺した機械────────人工知能だ。

 

 相手が人間ではなく機械である以上、迅の未来視の対象外。

 

 それが原因で現在機械と同化している状態にある樹里の未来も見え難くなっているのではないかと、彼は予想していた。

 

(視えた未来の中には、佐鳥や香取ちゃんが泣き叫んだり取り乱しているものもあった。だから、そういう意味では最悪のケースに至る可能性は有り得る。見ているしか出来ないってのも、中々に堪えるね)

 

 本心を言えば、今すぐにでも彼等の下に駆け付けたい。

 

 だが、城戸との契約がある以上自分に勝手は許されない。

 

 自身の重要性は、ある意味誰よりも理解している。

 

 二宮隊や影浦隊を送るにあたり無理を言った自覚もあるので、これ以上我が儘を通すワケにはいかない。

 

 それは城戸の信頼を裏切る行為であり、自分に万一の事があればどういう事態になるかを分からない筈もない。

 

 自分の命を懸けてどうにかなるなら躊躇いなくそうしたいが、現実を考えればそれは出来ない相談だった。

 

(だから、皆頑張って欲し────────え?)

 

 しかし。

 

 不意に、迅の表情が変わる。

 

 それは信じ難いものを視たような顔で、有り体に言えば固まっていた。

 

(────────マジか)

 

 彼の視たもの、それは。

 

 とある、全く想定していなかった光景(みらい)であった。

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