香取隊の狙撃手   作:デスイーター

435 / 492
リベリオン

 

 

皇骸煌鋼蟲(スカラヴェオス)、損滅。修復不能、再構築も不可。個体名ヴィザの攻撃によるものと断定』

 

 皇骸煌鋼蟲(スカラヴェオス)の撃破は、当然至天機巧(アポストロス)も認識していた。

 

 この機体には、樹里の視力極大強化機能代替(オルタナティブ)トリガー真鍮瞳(コンプタドーラ)の恩恵がある。

 

 それにより数キロ先の光景であろうと目の前のものであるかのように視認出来、それを解析にかける事で詳細なデータさえ取得出来る。

 

 結果、ヴィザが黒トリガーを用いて皇骸煌鋼蟲(スカラヴェオス)を葬る一部始終を目撃する事に成功していた。

 

『個体名ヴィザへの攻撃に対し、敵個体群による妨害を確認。結論、個体名ヴィザと既存敵個体群は共闘関係を結んだと推測。現状同陣営であると認識します』

 

 無論、至天機巧もただ黙って見ていたワケではない。

 

 数多くの弾幕を、ヴィザ目掛けて撃ち込んでいた。

 

 だがそれは、二宮達防衛陣地メンバーの妨害により撃ち落とされた。

 

 これにより樹里を頭脳体(ひとばしら)とする機構の人工知能は、ヴィザと彼等が同盟関係にあると認識した。

 

 あからさまにヴィザに対するフォローを行ったので、これは看破されて当然ではある。

 

『結論、優先順位は変わりません。皇骸煌鋼蟲を殲滅する程の戦力を備える敵個体を最優先排除対象と設定。リソースの大半をこちらに割り振り、迎撃を続行します』

 

 だからこそ、敵はヴィザ一人に狙いを絞る事を選択した。

 

 ある意味で、それは正しい選択である。

 

 派遣されたボーダー戦力の総力よりも、彼の剣聖の能力の方が上であるのは間違いない。

 

 彼を排除出来なければ自己保存が出来なくなると、刻まれたプログラムにより判断したのだろう。

 

 だがそれは、同時に他の戦力を軽視する行いでもあった。

 

 それがどういった結果を齎すか。

 

 彼の星の人工知能に、その結末はシミュレート出来ていなかった。

 

『迎撃再開』

 

 

 

 

「ふむ、どうやら私に狙いを絞ったようですな」

 

 白の大地を駆けるヴィザは、遠方より迫り来る大量の弾丸を視認した。

 

 それらは全て、自身を狙う攻撃である。

 

 既に、二宮達防衛陣地から援護が届き得る距離からは離脱している。

 

 今はもう、後方からの援護射撃を受ける事は出来ない。

 

 それは作戦が始まる前に予め知らされており、物理的に支援が届かない以上致し方ない事であるとヴィザも同意していた事でもあった。

 

 現在、二宮達は散発的に現れる骸兵蟲(プロニムフィ)の対処に追われている。

 

 一体一体はさしたる戦闘力も持たない雑魚でしかないが、それでも万の数相手となると骨が折れるだろう。

 

 つまり、現状ヴィザは支援が期待出来ない孤立無援の状況にあると言える。

 

 普通なら、この物量を捌く事は難しいだろう。

 

「問題はありませんな」

 

 ────────それが、アフトクラトルの剣聖でなければの話だが。

 

 ヴィザは星の杖を一閃し、迫り来る弾幕の悉くを両断。

 

 一発の撃ち漏らしもなく、全ての弾丸を斬撃で斬り伏せた。

 

 如何に星の杖が規格外の射程と攻撃速度を持つとはいえ、それを完璧に制御するのは至難の業。

 

 仮に凡百の人間がこの黒トリガーを手にしたとて、多少手数の多い弧月以上の活用をする事は出来ないだろう。

 

 されど、それを手にするのは神の国の剣聖たるヴィザ。

 

 国宝たる黒トリガーを手足のように操る事など、出来て当たり前の事でしかない。

 

 出力は黒トリガー由来のものだが、それを精密に操り標的に正確に当てる技巧はヴィザ翁本人のもの。

 

 なるべくして使い手となった、これ以上ない適格者。

 

 それが、ヴィザ。

 

 神の国の剣聖にして、剣士という存在の頂点。

 

 到底、数百の弾丸程度で斃れるような生易しい存在ではないのだ。

 

「さて、どうやら相手はリソースを私に集中する事にした様子。ならば、無理をして先に進むよりもゆるりと対処して他への負担を減らす方がよろしいでしょうな。この老体がでしゃばり過ぎるのは、野暮というものでしょう」

 

 それに、とヴィザは続ける。

 

「────────あの脅威を、果たして彼等が何処まで対処出来るのか。それを見極める為にも、そちらの方が都合が良いですからな」

 

 老剣士はそう呟き、女神像から放たれた無数の狙撃を斬り払う。

 

 無造作に弾丸を斬り落としながら、視線を彼方へ向ける。

 

「この身がそちらに着くまでどの程度の成果を挙げる事が出来るか。見せて頂きますぞ」

 

 

 

 

『以上が現在の状況となります。では、通信────────態が安────────しない────────で────────礼────────ます────────』

 

 ブツリ、と三上との通信が切れ風間は眼を細めた。

 

 地下では通信が安定しないという話であったが、その中でも何とか最低限の情報は得る事が出来た。

 

 即ち、あのヴィザが現れ味方になった、という信じ難い現実を。

 

「驚くな、と言う方が無理だろうがそのまま聞け。どうやら大規模侵攻で現れたあの老剣士がこの星に出現し、共闘関係となったようだ」

「はぁっ!? マジでどうなっちゃってんのあっちはっ!?」

「…………あの剣士が…………」

 

 風間の通告に香取は眼を見開き、木虎は眼を細めた。

 

 二人共、あの大規模侵攻の最中でヴィザに斬られたという共通点がある。

 

 香取は、最後の攻勢の中で。

 

 木虎は、C級を防衛している中途に。

 

 同様にヴィザの剣によって両断され、緊急脱出(ベイルアウト)の憂き目に遭っている。

 

 その時に翁の実力の途方も無さは散々実感している身なので、そんな相手がいきなり味方になったというのは青天の霹靂も程があり過ぎる情報だ。

 

 確かにこれは、驚くなと言う方が無理な話だろう。

 

「どうやら三雲が前に立って交渉した結果、らしい。詳しい話までは聞けなかったがな」

「あのメガネ何してくれちゃってんの…………? いや、あれとまた戦うより万倍マシではあるけどさ」

「…………そうですか。三雲くんが…………」

 

 修の名を聞き、二人は対照的な反応をする。

 

 片や、呆れと嫉妬が混ざったような声で。

 

 片や、感心と納得を織り交ぜた表情で。

 

 各々が抱える感情は異なるが、一つ共通している事がある。

 

 それは、修がその偉業を成し得た事に対して一切の疑いを持っていない事だ。

 

 香取はこれまでの彼本人とのやり取りやランク戦での度重なる対峙により、「あいつならそれくらいやってもおかしくない」と思っている。

 

 同様に木虎もこれまでの修との交流により、「今の彼ならそれくらいはやるでしょう」というある種の信頼とその成長への称賛があった。

 

 修が個人では弱小の駒でしかないのは二人共理解しているが、一つの「駒」として、或いは集団を動かすキーパーソンとしてであれば実力以上の結果を叩き出し得る人物であるとも評価しているのだ。

 

 むしろその真骨頂は戦闘以外の面で発揮されるとも考えており、あのヴィザを味方にする、という驚天動地の戦果を叩き出した事に対する疑いは微塵もない。

 

 香取は想定以上の躍進と戦果に歯噛みしつつ奮起し、木虎は自分の想像を超えて成長した修の功績を誇りに思いながらも「ならば自分も」と同じように自身を奮い立たせた。

 

 ある意味で似た者同士の二人の内心が、一致した瞬間だった。

 

「右」

「分かってる、ってのっ!」

 

 なお、そんなやり取りをしつつも隔壁内を蠢く二体の怪物の攻撃を避け続けているのは流石と言える。

 

 先程から二体の百足型の怪物、骸糸衛兵(ネウロン)は壁を這い回りながら突進攻撃を繰り返している。

 

 この広いとは言えない場所で二体もの巨体の突撃を避け続けるのは至難の業だが、困難であっても可能であるならばスピード特化の三人の精鋭が切り抜けられない筈もない。

 

 木虎が張り巡らせたワイヤーを駆使し、三次元機動で怪物の攻撃を回避し続けていた。

 

「だが、俺達のやる事に変わりはない。木虎、準備の方はどうだ?」

「八割がた完了しています。あと数分あれば作戦は実行可能です」

「了解した。それまでは攪乱を続けろ。デカブツが消えて上の余裕が出来たのなら、無理をして急ぐ必要はない。確実に、この星の心臓部を叩き潰すぞ」

「「了解」」

 

 二人の返事を聞き、風間はワイヤーを足場にして跳躍。

 

 骸糸衛兵(ネウロン)の突撃を回避し、不敵に笑った。

 

三雲(あいつ)が成果を出したんだ。俺達も、先達として負けてはいられないさ。そうだろう? 木崎」

 

 

 

 

「言われるまでもない。当然だ」

 

 レイジは一人、地下で戦っている友人の心境を推測しため息を吐いた。

 

 なんだかんだで、長い付き合いの腐れ縁で結ばれた者同士だ。

 

 わざわざ通信を繋がずとも、地上の状況を聞いた風間の反応など手に取るように分かる。

 

 阿吽の呼吸を超えた、心境の理解。

 

 そうとでも言うべき、悪友故の心理共鳴(シンパシー)だった。

 

「来るぞ!」

 

 無論、そんな思考をしながらも警戒は怠ってなどいない。

 

 上空から無数の弾丸が降り注ぎ、レイジが警告を発する。

 

 それは、女神像より放たれたハウンドを模した弾丸の群れだった。

 

 これまではガトリングの斉射により全力を振り絞って、何とか迎撃を可能としていた攻撃だった。

 

 出力の強さ、手数の強さというのは単純故に力づくで迎撃する以外有効な対抗策がなく、厄介な代物であった。

 

 何とか迎撃は出来ていても、反撃に移る隙が無い。

 

 ()()()()は、そのような状況だった。

 

(予想通り、弾が少なくなってるな)

 

 だが、今は状況が違う。

 

 現在至天機巧(アポストロス)は腹部に収納した無数の骸蟲騎兵(テラペウテース)による狙撃攻撃を含めて、火力の殆どをヴィザに向けて使用している。

 

 故に、レイジ達に向けられる弾数は先程と比べ激減しているのだ。

 

 あの超巨大トリオン兵、皇骸煌鋼蟲(スカラヴェオス)を単騎で葬った相手への対応と考えれば当たり前ではあるが、だからこそそれが大きな隙となっている事は間違いない。

 

 敵は、ヴィザを危険視するあまり他への警戒が疎かになっている。

 

 相手としては純然たるリスク計算の結果であるのだろうが、どちらにせよ突破口に成り得る状況であるのに変わりはない。

 

「ある程度は俺が撃ち払う。その隙に接近しろ」

 

 了解、という各員の返事を聞き、レイジはガトリングからアサルトライフルへ換装。

 

 弾丸を斉射し、迫り来る光の雨を撃ち落としにかかる。

 

 先程までは夥しい数の弾が降って来ていた為、取り回しの悪いガトリングの出力でどうにかする他なかった。

 

 だが今は弾数が減った事で、走りながらでも撃てるアサルトライフルでの迎撃が可能となったのだ。

 

 無論、面制圧能力に優れるガトリングと比べれば一度に標的に出来る数は少なく、総合的な火力も下回る。

 

 しかし、今この場にいるのは誰しもがボーダートップランクの精鋭。

 

 最低限敵の弾を撃ち払えば、後は自力で回避可能だ。

 

 何よりも、アサルトライフルへ持ち替えた事でレイジ自身も走りながら撃てるようになった事が大きい。

 

 ガトリングは確かに面制圧能力に優れ連射性も他の型とは比べ物にならないが、その分重量があり嵩張る為、使う際にはその場に足を止めて斉射する事になる。

 

 レイジの体幹であれば多少動く事も出来なくはないが、物理的に嵩張るのはどうしようもなく使用中は機動力が大きく削がれる事は避けられない。

 

 だが、アサルトライフルは違う。

 

 その気になれば走りながらでも撃てる上、面制圧能力はガトリングに劣るが連射能力自体は優秀だ。

 

 多くの銃手がメインの武器として選ぶ利便性の高さは伊達ではなく、取り回しという点では拳銃型には及ばないがその連射能力は中距離の火力として申し分ない。

 

 これまでガトリングを使用している所為で碌に機動戦が出来なかったレイジが、その枷を取り払う事が出来た。

 

 この利点は、小さくはない。

 

 これまでガトリングの斉射役に徹していた完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)が、真にその能力を発揮する事が出来るようになるのだから。

 

「…………!」

 

 一斉に自身に近付くのを察知したのか、女神像の腹部より突き出た砲塔の幾つかがこちらに向けられる。

 

 間髪入れずに放たれた弾の数は、6。

 

 それら全てが、レイジを標的として放たれた。

 

 向こうもまた、高い斉射能力を持つ彼を邪魔だと判断したのだろう。

 

 これまでは重いガトリングを使用していた為、他者の力を借りて回避する他なかった攻撃だ。

 

「────────」

 

 しかし、今のレイジはガトリングから突撃銃型(アサルトライフル)に換装し身軽になっている。

 

 サイドステップでその場から飛び退き、難なく攻撃を回避する。

 

 レイジの機動力評価は、7。

 

 流石に香取や木虎のようなスピードタイプには及ばないが、中衛としては充分過ぎる機動力を持っている。

 

 今まではガトリングの重量が下降補正(デバフ)となって彼の動きを制限していたが、その縛りが解き放たれた今この程度の単調な攻撃など自力で回避可能だ。

 

「遊真、ヒュース」

「了解」

「了解した」

 

 そして、レイジに攻撃が集中したという事は他が手薄になったという事。

 

 彼の指示を受け、玉狛の二人のエースが動き出す。

 

『弾』印(バウンド)

蝶の盾(ランビリス)

 

 遊真は、加速の印を。

 

 ヒュースは、自身を撃ち出すカタパルトを。

 

 それぞれ己のトリガーで生成し、同時に跳躍した。

 

 片や、黒トリガーの出力を以て。

 

 片や、磁力の反発を以て。

 

 超スピードで女神像に向かって跳躍し、一瞬にして肉薄する。

 

『強』印(ブースト)三重(トリプル)

「斬り裂け…………っ!」

 

 遊真は、強化の印を以て。

 

 ヒュースは、磁力で生成したブレードを以て。

 

 遊真は女神像の左翼に大穴を空け、ヒュースは右翼を大きく斬り裂いた。

 

『■■■…………!?』

 

 熱線の発射装置たる翼を破壊され、女神像は憤怒の如き咆哮をあげる。

 

 これが、始まり。

 

 今まで劣勢を強いられて来た戦いの、反撃の狼煙だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。