『第七幕~B級ランク戦ROUND2/Second Rank Battle of White Girl』
名前の通り、ROUND2の章です。
今回の対戦相手は二宮隊と王子隊という、香取隊、特に香取にとって因縁深い相手となります。
前の解説でお話した通り、王子隊は前期ランク戦の最終戦で香取隊・二宮隊・影浦隊と三つ巴になった際に香取隊に他二部隊をぶつけるよう誘導し、香取隊の中位落ちの理由を作っています。
その為もあって香取からは蛇蝎の如く嫌われており、香取本人の戦意は高いのです。
ですが、香取隊はまだ安定した足場の上に立っているとは言えない状況にありました。
原因は言わずもがな、樹里と若村ですね。
樹里は香取隊との対戦や大規模侵攻を経て尚、若村への隔意を払拭し切れていませんでした。
佐鳥が話していた通り彼女は嫌いな人間にはマウントを取らなければ気が済まないタチであり、「香取の脚を引っ張るしか能のない奴」と思っていた若村の事は徹底して嫌っており、試合で彼にしてやられた後もなんだかんだ理由を付けて認めようとはしませんでした。
若村の側も樹里に嫌われているのは何となく察しており、更に彼は自分の成長を実感出来ず、「自分だけが隊の役に立てていないのではないか」と未だに自問自答していました。
前にもお話した通り、若村は「分かり易い成果」がないと成長を実感出来ないタイプです。
口でどれだけ褒められようが、それが確たる変化であると彼自身が認識出来なければ「成長出来ていない」と感じてしまうんですね。
若村は樹里との初戦で徹底的に折れて、自分の駄目さ加減を理解しました。
しかしそれまで文句ばかりで隊の脚を引っ張ってしまったという負い目が若村をマイナス思考のスパイラルに陥らせ、結果としてイマイチ自信が持てない状態が継続していました。
ROUND1でも樹里の射線確保や敵の攪乱等できちんと貢献出来ていたのですが、結局漆間に落とされた事で「結局自分はダメな奴なんだ」という自己嫌悪が加速している状態にありました。
そんな風にウジウジしていたものですから文字通りの意味で目敏い樹里は下を向いている若村を見て「やっぱこいつ役立ちそうにないな」と見下し、精神的なマウントを取ろうとする悪癖が発動していました。
樹里は心を許した相手には寛大ですが、反面嫌った相手には徹底して塩対応になる子です。
加えて「自分より先に香取と一緒に戦っている」という事実が彼女の嫉妬心を刺激していた為、大いに色眼鏡をかけた状態で若村を見ていたワケです。
そんな不発弾の埋め込まれた状況に香取や華、三浦は気付いていましたが、口で言ってすぐどうこうなるような事でもないので見過ごすしかなかった状態でした。
序盤で二宮隊と当たった時点で大抵の方は予想していたでしょうが、この試合は負け試合として構築しました。
香取隊は元が結構酷い状態だったので、応急処置で今までやって来れましたがこれ以上先に進む為には一つ殻を破る事が必須でした。
その為の敗戦が、この試合の役割だったワケですね。
さて、試合では香取隊が摩天楼MAPを選択しました。
これは前作「痛みを識るもの」で実装したオリジナルMAPですが、特徴としては「広大なビル群が連なる大都市」となります。
工業地帯と真逆でかなり広いMAPであり、ビルが乱立しているので上下にも広い、機動力が高い隊員が活きるMAPとなっています。
香取のようなグラスホッパー持ちにとってはかなり動き易いMAPである他、どれだけ広くともそのトリオンで全域を射程に収められる樹里にとっても相性の良いMAPと言えるでしょう。
ですが、二宮が言っている通り「分かり易く香取隊に有利なMAP」過ぎて敵チームに選択が筒抜けの状態でした。
加えてこのMAPで香取隊に好き放題されると二宮隊でも崩れる危険があるので、二宮さんの私情抜きでも香取隊を集中的に狙う理由が出来てしまい丁度原作のROUND2での荒船隊のような立ち位置になってしまったワケです。
ちなみに会話の中で二宮さんや王子が言及していた「駅舎」というのは後に実装するオリジナルMAP、市街地Fの雛型です。
当初から「駅舎を舞台としたMAPを実装する」事は決めていた為此処で言及していたのですが、実際にやるとなると色々不都合が出てきてしまった為様々な要素を複合させた「市街地F」MAPの実装となったワケです。
まあでも市街地Fでは駅構内で戦うパターンが多いので、その略称として「駅舎」の言葉を用いたとも解釈出来るので問題なしとします。
それから実況解説を綾辻さんと風間さん加古さんにしたのは、原作の負け試合だったROUND4のオマージュですね。
この配置で察した人も多いでしょうし、何より厳しい事をきちんと言わせるならこの組み合わせだと思った次第でもあります。
綾辻さんは色んな意味でフラットな人ですし、風間さんと加古さんは基本監督する立場であれば容赦はしません。
耳に痛いながらもためになる事を言ってくれるのは、この二人が適任だとも言えるでしょう。
最初に風間が指摘した「香取隊が不利な理由」については、当然「樹里の集団戦の経験不足」と「連携の懸念」が挙げられます。
原作で遊真やヒュースが難なく連携をこなしていたので感覚が麻痺しがちですが、普通は組んで間もないチームで連携などまともにこなせる筈がありません。
新メンバー加入後も何とか形になっていたのはそれだけ樹里の
当然香取以外のメンバーとの連携には不安が残ったままであり、それは二人の確執を知らない風間から見ても瞭然でした。
ちなみに本編での言及通り綾辻さんは佐鳥と親交のある樹里について気にしてはいましたが、実況という立場で言及したり贔屓する程頭小南ではないので、心の内に留めておく事としました。
気にしてはいるけど自分がどうこう言うのは筋違いである、というフラットな彼女らしい判断ですね。
さて、ワートリ二次創作をやる上で、「序盤の負け試合」というのは個人的に必須だと思っています。
何故なら負け試合というのは隊の課題が分かり易く浮かび上がる機会となり、今後の成長の糧として適格だからです。
しかしランク戦後半に負け試合を挟むとポイントの関係上リカバリーが難しくなるので、ROUND2~3のあたりで経験させておくのがベストです。
原作は負け試合をROUND4に挟んでいますが、これはROUND1でB級下位相手にポイントを荒稼ぎ出来た分の「貯金」があったから出来た事です。
あそこでポイント大量獲得が出来ていなければ、玉狛第二は目的を達する為のポイントが足りずに詰んでいたでしょう。
そういう意味で、今作での負け試合はROUND2が的確でした。
ROUND1では新生香取隊の暴威を見せる為に大勝ちさせましたが、ただ順風満帆なだけの主人公チームを見ても面白くない上にその後のジャイアントキリングに説得力を持たせ難いので、此処で負け試合を差し込む事を決めた次第です。
ちなみにこの摩天楼Aですが、ワートリ二次創作をやる方で使いたい方がいれば使って頂いて結構です。
特徴は作中で充分説明した通り、上下左右に広い巨大ビル群が乱立する大都市なので、三次元機動が得意な隊員がいると映えるステージでしょう。
他にも狙撃手や射手に関しても立ち回りで面白くさせられますし、前作でやったようにビルから落下しながらの戦闘も出来ます。
使ってみて面白いMAPなので、使いたい方がいれば使って頂いて結構です。
もし使うのであれば言って頂ければ色々アドバイス出来ますし、他の方がどう使うのかも興味があるのでご一報下さい。
試合の方は香取隊は当初、ROUND1と似た戦術を使う予定でした。
若村と三浦は移動しながら壁等に穴を空け、樹里の射線を通り易くする。
後は敵を発見次第樹里と香取を適切に配置し、連携で仕留める。
そういう手筈でした。
ですが、二宮が狙撃手である樹里がいるにも関わらず爆撃を開始した事で計算が狂い始めます。
合成弾という隙の多い攻撃を始めた二宮ですが、だからといって香取隊が一気呵成に攻め込んで来るような判断を下すには時間がかかると考えて実行に移しました。
香取や華が自分の隊の問題点に気付いていない筈がなく、樹里はそれに無自覚だろうという実のところ的を射た考察により、二宮さんは香取隊の動きを見通したのです。
なんだかんだ言いつつも自身で教導した香取の能力に関しては信頼しており、樹里のいい加減さや悪癖等もある程度把握していたので、これを見抜く事が出来たんですね。
加えて犬飼は師である為に若村の思考は手に取るように分かるので、的確に追い詰める事が可能だったワケです。
ちなみにこの時犬飼は若村に「ろっくん」呼びしており原作では「麓郎」と言っていますが、原作で犬飼が「直接」若村に対してそう呼んだ描写は無いので、個人的に1対1なら「ろっくん」呼びもするんじゃないかと思っています。
当時は呼び方が分からないのでこうしましたが、こちらの世界線ではこのようにしますのであしからず。
そして、若村は追い詰められながらも一矢報いる為、自分ごと樹里に撃って貰うべく行動を起こします。
ですが、樹里は若村がそんな行動を取れるとは欠片も思っておらず、「若村が落とされた直後を狙おう」と悠々と構えていました。
なので若村の咄嗟の行動に反応出来ず、連携は失敗。
結果として若村は、無為に落ちてしまう事になります。
この結果で若村には「自分が樹里の信頼を得られなかったからだ」と自己嫌悪に陥り、樹里は「自分の所為で折角のチャンスを台無しにした」と自省する切っ掛けとなります。
今後香取隊が上に上がる為には、この失敗は必須だったと言えるでしょう。
なまじ自分本位な考えをしがちで思い込みの激しい樹里にとって、これくらい明確な失態がなければ自分の行動を顧みる事はなかったでしょうから。
こういった咄嗟の連携は、結局のところ経験がものを言います。
長らくソロで戦って来た樹里にとって連携の経験値は非常に浅く、このような結果になる事はある意味当然でした。
個人の能力が高いだけでは決して勝てず、ちゃんと「集団戦」をしなければ上を目指す事が出来ない。
そんなワートリのロジカルな部分を気に行っていますので、ここはしっかりと描写しました。
まあ、そんな陥穽に陥る樹里を二宮がどう思っていたのかは言わずもがなですね。
以前お話した通り、樹里は意図的に
なので大抵の事は自分が頑張れば何とかなるという全能感に陥りがちであり、情深い性質も相俟って足元を見ずに突っ走って失敗する事があります。
それでも能力の高さでごり押し出来たのがこれまでですが、今回ばかりは明確に自分の失態なので、言い訳のしようがなかったのです。
これくらいやらなければ樹里は反省しないので、繰り返しますがこの失敗は必須だったと言えるでしょう。
その直後に香取のフォローが入ったのは、「遅かれ早かれこうなると思っていた」ので準備をきちんとしていた為です。
樹里ならこういう失敗をいつかやらかすだろうと、香取や華は見抜いていたワケですね。
しかし実際に失態を犯すまで樹里は聞く耳を持たないので、そうなるまで待った、という経緯もあります。
このあたり、幼馴染故の扱い方の熟知が見えます。
若村の方もすかさず華からフォローが入る事で、試合後に持ち直す切っ掛けを作っています。
言うまでもなく若村は一度落ち込むとトコトン引きずるタイプなので、この華のサポートは必須でした。
これがなければ、立ち直るまでに暫く時間がかかっただろう事は言うまでもありませんから。
ともあれ、試合では香取隊の弱点を二宮隊が利用すると王子隊が見抜き、実質二部隊がかりで香取隊を追い込む形となりました。
王子はその流れを完全に利用する形でゲームメイクするつもりで、最初から動いていました。
ですが、若村が何の仕事もこなせずに落ちると踏んでいた王子隊や犬飼にとって予想外だったのが、彼がスパイダーを仕掛けた上で香取がその場所まで誘導してみせた事です。
犬飼はこれまでの事もあって若村の事を「この状況ならば他の事をやれる余裕はないだろうな」と考えていましたが、その実最低限の仕事はしっかりとやっていました。
爆撃が始まって以降は逃走に全力を尽くしていたものの、その前に少しずつスパイダーを仕掛けてはいたのです。
これを聞いて樹里は更に曇る事になり、今後の自省の更なる契機となった事は言うまでもありません。
また、この「ちゃんと仕事はしていた」という材料があったので、後の説得もスムーズに進んだ形となります。
樫尾を仕留めた後は香取は単騎で二宮と犬飼相手に時間稼ぎを仕掛ける事になりますが、此処で大幅に時間を稼ぐ事に成功した事で今後二名の実力者を釘付けにするという大金星を挙げる事に成功したワケです。
結果的に落とされてはしまいますが、格上の駒を有能なサポーター共々足を止めさせられたので、仕事は果たせたと言えるでしょう。
若村、香取と成長を見せたのを見て、華も密かに奮起します。
これまでは現状が壊れる事を恐れて最低限の干渉しかして来なかった彼女ですが、これである種踏ん切りがついたとも言えます。
この心境の変化も、今後の展開に大きく寄与していきます。
その後、ビルを利用した作戦により三浦は落とされましたが、王子を討ち取る事には成功します。
王子隊としては点は取れましたが想定よりは点を稼ぐ事が出来ず、痛み分けに近い結果と言えます。
香取隊もこれで二点を挙げる事が出来たので、点数の上では同等ですしね。
手の空いている駒が辻しかいなかったので、女子である樹里を追撃する事が出来ず、これで試合終了となります。
後に二宮が言っている通り、この件に関して二宮は辻を糾弾しませんでした。
彼の欠点を分かった上で隊に入れたのは自分なのだから、この程度気にする事はないというのが二宮の立場なので当然と言えば当然ですが。
二宮さんは能力至上主義であり、能力さえあれば何らかの欠点があっても気にしませんし気にさせないようにします。
男女の違いや立場の違いもあり鳩原相手には失敗した分、そのスタンスはより強固になったとも言えるでしょうね。
そういうワケで試合は終わり、次は隊内のカウンセリング回となります。
まず最初は、若村のカウンセリングです。
香取は樹里と若村両方の対処が必要だと分かった段階で、まず若村からやると決めていました。
何故なら彼女の言った通りその方が簡単な事に加えて、次に行う樹里の対処をやり易くする為です。
樹里の見ている前で若村の本音を引き出し、彼女と対比させる事で自省を促した、というワケですね。
また、若村に関して言えば「分かり易い成果」がなければ納得出来ない彼に対し、オペレートの有無でどれだけ違うかを語る例として初戦の樹里戦とリベンジ戦がどれだけ違ったかをたとえとして出す事で説得力を持たせる事が出来た事も大きいでしょう。
オペレートなしの戦闘がどれだけ苦行か身を以て経験していた為に、香取のたとえは非常に分かり易かったワケですね。
若村は集団戦では弱い駒ではありますが、能力的には決して無能というワケではありません。
言われた仕事はきちんとこなせますし、勤勉で真面目です。
独断専行に走りがちな香取よりも、兵士としての資質は高いとも言えるでしょう。
能力がない事を自覚している分慎重で、自分の分を弁える事が出来るようになった為に自分に出来ない無茶はしない。
これだけでも、大分駒としての扱い方は違いますからね。
樹里に関しては、どれだけ素直な本音を引き出せるか、これに尽きます。
彼女はかなり我が強く、負けず嫌いな思い込みも激しいです。
なので彼女から本音を引き出す為には眼に見える失態による負い目と、幼馴染二人による説得が必須でした。
それでも大分渋りましたが、目の前で若村が立ち直る様を見せつけられた直後だった為、なんとか成功した形です。
しかし若村への対抗心が消えたワケではないので、しっかり釘を刺したワケですが。
樹里はこの時既に若村が香取に好意的に接しつつあるのを察していたので、すかさず牽制に出た次第です。
親愛恋愛問わず独占欲が凄まじく強いのが樹里なので、この行動も予定調和と言えるでしょう。
ともあれ一連のカウンセリングは、次の話で分かる通り実は事前に風間によってレクチャーをされた結果であったりもします。
風間は香取隊の問題点について既に見抜いており、「隊長としての心構え」を教える際についでにその解決法も伝授していたワケですね。
口では色々言いつつも面倒見の良いキャラなので、このくらいのアフターフォローはやるでしょうから。
その後自分の集団戦での経験値のなさを痛感した樹里は二宮経由で出水を紹介して貰い、戦術の師匠となって貰います。
二宮の追及は彼が納得しそうな理由で誤魔化しましたが、ちなみに二宮さんは樹里の言い分を本気で信じています。
なまじ面倒見の良い性格なだけに、弟子に殊勝な事を言われればついつい信じてしまうんですね。
出水はこれで修と樹里両方の師匠を引き受ける事になりましたが、当然どちらかを贔屓はしませんし距離感も絶妙なので樹里としてもビジネスライクに付き合える相手と言えるでしょう。
しかし自分の教導の成果を見せる為にもまずは修の試合を見せた方が手っ取り早いという事で、次の章に繋がっていくワケです。
という事で、次回は7.5章。
ある種番外編とも言える、玉狛第二の試合の章の解説になります。