『第7.5幕~B級ランク戦ROUND2/case玉狛第二』
この章は言うなれば番外編じみた章ですが、同時に欠かしてはいけない章でもあります。
主役が香取隊ではなく玉狛第二なので英題も付いていませんが、「今作の玉狛第二は現時点でこういう成長をしている」というのを香取隊と当たる前に出しておく為の章でもあります。
正直な話、玉狛第二というチームは初見殺しの塊です。
千佳の砲撃は言わずもがなですし、遊真の戦場での臨機応変な状況対応力や奇抜な策も初見では対処不能な事が多いです。
原作ではその性質を活かしてランク戦を駆け上がっていったワケですが、まともに情報がないままぶつかれば強化された香取隊とはいえやられてしまう可能性がありました。
新生香取隊は樹里の加入で大幅な強化を受けていますが、千佳と遊真の個人能力、修の奇策のアイディアはそれを覆しかねない怖さがあります。
ですがこれまでの経緯から香取は修に対し最大限警戒心を抱いていますし、出水の性格なら弟子入りした樹里に対しフェアである為にこういう誘いをするだろうとの判断もあったのでこの章が挿入されました。
玉狛第二の対戦相手は柿崎隊と鈴鳴第一であり、柿崎隊は大規模侵攻に於いて玉狛は救われた恩のある相手です。
しかし同時にあの時の光景、要するに「柿崎が目の前でキューブ化された」という悪夢のような記憶を想起する相手でもある為、ミーティング時の照屋ちゃんはその事を思い出して歯切れの悪い感じになっています。
眼前で柿崎を失いかけた経験をしてしまった為、照屋ちゃんの脳裏には「自分が何もせずにいたら今度こそ本当に柿崎隊長を失ってしまうのではないか」という不安が時折渦巻くようになってしまったワケですね。
ですが照屋ちゃんの性格上柿崎の意思を第一とする為、柿崎から自分を責める自己嫌悪のような言葉が出ない限りは進言はしないでしょう。
必要とされた場合には即応するでしょうが、それまでは慕う相手の意思を優先するでしょうからね。
女傑とか色々言われがちですが、彼女も年頃の恋する乙女です。
遠征試験編で年頃の女の子らしい部分も明らかになったので、敬愛する男性の為に尽くしたい、良く見られたいという感情はあって当然でしょう。
試合に関しては、柿崎隊の悪癖である「初手は合流以外の選択肢を取らない」という性質を利用され、予定通りに柿崎隊が追い詰められます。
遊真は大規模侵攻で照屋ちゃんの動きを見ていたので、どの程度であれば彼女が間に合うかも計算に入れた上で柿崎さんを奇襲しています。
柿崎隊は確かに合流して畳みかけて来ると強いんですが、それは固まった相手に対する強さであり、遊真のように縦横無尽にフィールドを駆けるタイプのスピード特化の相手とは相性が悪いです。
合流しての戦いを優先し過ぎている為、各個撃破は難しい分三次元機動で高速移動を繰り返す相手に対して後手に回りがちなのです。
そして合流を優先する都合上、相手に準備時間を与えてしまいその間に有利な盤面を構築されます。
玉狛第二はスパイダーを採用した事もあり、このフィールド構築能力が特に強い相手だった為、好き放題されてしまったワケです。
原作のように初期型香取隊のような相手がいればそちらを巻き込んで挽回を狙う事も出来たでしょうが、鈴鳴第一は村上という個人戦力として強い駒がいるチームです。
あちらも「どんな状況でも来馬先輩を庇ってしまう」という性質はあるものの、村上はB級上位でも通用するレベルの駒である上にその特性が厄介でした。
村上は防御重視の攻撃手であり、レイガストを自在に使いこなす西洋騎士のようなスタイルを得意とします。
なので多少の弾幕なら強引に突破してしまう上、鈴鳴には狙撃手の太一がいます。
ただでさえ千佳ちゃんの砲撃の脅威がある中、別途狙撃手がいるとなると慎重にならざるを得ません。
特に、合流を優先する為に基本的に隊員を一人狙撃手狩りに派遣する、といった手も恐らく打てなかったであろう柿崎隊にとっては技術の低い狙撃手であっても面倒な相手となります。
更に悪い事に、修は試合に於いて相手の弱みを利用する事を一切躊躇しません。
柿崎隊の性質を理解していた修は敢えて足を狙って機動力を殺す事で、一網打尽を狙ったワケです。
相手との関係性等も修にとって試合中考慮する事ではないので、そりゃもう容赦なくやるでしょう。
修は単体としては最弱と言って良い駒ですが、状況を利用する能力に長ける上に「トリオン体の強度はどれ程のトリオンがあろうが共通である」という仕様上、彼の威力の低い弾でさえも直撃すれば致命傷に成り得ます。
なので足を削られてしまうとその修の弾であっても脅威となり、防戦を強いられます。
修は自分の弱さを充分理解しているので、敢えて自分を囮にしたり相手の油断に付け込む等の真似も平気でやります。
弱さこそがある意味で修の最大の強みとも言えるので、巧い立ち回りと言えるでしょう。
ちなみにこの試合ではまだ千佳が人を直接撃てない事は明かされていない為、修はそれも見せ札として利用しています。
彼女が人を撃てない事は現段階ではチーム内しか知られていないので、相手にとっては「いつ特大の威力の狙撃が飛んで来るか分からない」という脅しとして機能するワケです。
直近でそのトリオンを活かした狙撃能力で散々暴れた樹里の例もあったので、一際そう映ったでしょう。
また、修に関しても柿崎隊、特に照屋からは大規模侵攻の活躍やこれまでの立ち回りを直接見ていたが為に、無意識の内に評価を上げられていました。
なので照屋から修を「油断してはならない相手」として認識させ、自分達二人を一人で相手取れる曲者であると思わせる事に成功しました。
ですが、村上達が来た事で修が同時に相手取れる人数のキャパシティを超えた為、即座に遊真が照屋ちゃんを潰したワケですね。
照屋ちゃんもまだ暫くは生かされると思っていただけに、想定の外だったでしょうね。
自身の過大評価さえも利用する、修らしい策と言えるでしょう。
その後は遊真が村上を相手取っている際に、柿崎に仕掛けます。
正面からでは修では柿崎を倒せはしませんが、それは百も承知。
千佳の砲撃を炸裂させ、粉塵で視界を奪い村上と来馬を撃破。
更にワイヤーに足を踏み入れ動きの止まった柿崎隊も処理して、完全勝利となりました。
今回の試合ではどちらの隊も「隊長を庇ってしまう」という分かり易い弱点があり、修はそれを徹底して利用し尽くしました。
この段階では来馬先輩の
これでこの二部隊は自身の改善点を見詰め直し、それぞれのアプローチで成長の糧にしていく事となったのです。
ですがこの試合で、千佳が人を撃てない事は公然の事実となりました。
修にとってはそれが露見する前に大量得点を狙っていたので、全て計画通りと言えるでしょう。
また、この試合は今後の香取隊の成長にも繋がります。
スパイダーという共通の武器を使う玉狛第二の立ち回りを見た事で、香取隊にとっても大いに参考になったからです。
弱い駒の使い方についてはある種エキスパートとも言えるので、華さんの言う通り参考にできる部分が多く成長の糧となります。
その後樹里は出水の教導を受け、唯我をコキ使って出水・太刀川と模擬戦になります。
ですがここでも樹里の悪癖である「興味のない相手にはドライであり、弱いと判断した相手には期待しない」が炸裂し、唯我にただワイヤーを張れとだけ命じて戦力外通告しました。
しかし出水の言う通りどれだけ弱い駒だろうと弾をバラ撒くだけで相手の邪魔は出来るので、樹里はまたしても弱い駒の運用方法を間違えたワケです。
出水は樹里の性格を読み取り、まずはこうして失敗させて経験則として覚えさせる方が手っ取り早いと判断してこのようなやり方としました。
樹里としても実際に失敗してしまった手前反省しないワケにはいかない上に、実際に修の試合を見て思う所もあったので素直に言う事を聞いています。
個人戦力としては弱い為樹里にとって興味を抱いていなかった修ですが、その勝ちに対する貪欲さを知り自分も見習うべき所がある、と判断したのです。
戦いに於いて個の力の強さを至上として来た樹里にとって、目から鱗の思いだったでしょう。
次の試合で香取隊と玉狛第二がぶつかる事となり、早速波乱の予感をさせたところである意味でこの章の本題である「ヒュースについての口止め交渉」となります。
ある意味、これが修にとっての本番の戦いとなります。
上層部との交渉は、基本スムーズに進みます。
修のやり口が巧いのは勿論ですが、原作と大きく異なる部分が一つあります。
それは、
原作と異なり修と遊真の力でハイレインを打ち破る事に成功した為、レプリカは捨て身の戦法を取る必要がなく、この世界に残ったままです。
ですが彼がアドバイザーになると玉狛第二が有利過ぎる為、交渉のカードにするという建前で開発室に常駐して貰う事になりました。
上層部からしても近界の多くの情報を持つレプリカは貴重な存在であり、その全面協力が得られるのであればどんな条件だろうと呑んでもお釣りが来ます。
特に今作では鬼怒田さんはククロセアトロについての情報を欲しているので、特にその傾向は強いです。
それは城戸司令も分かっているので、ヒュースの加入時期を原作より少し早めて貰う事にもなりました。
原作ではROUND7からの加入でしたが、今作ではROUND6からの参戦となります。
これは玉狛第二と香取隊がぶつかる機会をより多く欲しかった為の処置であり、入隊式の日付を多少ズラす程度であれば城戸司令の采配で問題なく行えるだろうという判断でもあります。
ですが今作ではヒュースの正体を知る者達の口止めをしなければ、彼の参加は当然認められません。
言うまでもなく、香取隊の事です。
大規模侵攻に於いてヒュースを撃破したのは香取隊であり、尚且つ他の隊員には一切ヒュースの姿は見られていないので、香取隊さえ黙してくれれば後はどうとでもなります。
それは鬼怒田も分かっているので、修にアドバイスをしたワケです。
内容は当然、「ヒュースから得た近界の情報の提供」です。
これまでの経緯もあり、樹里には何かブラックボックスがある事は香取隊は気付いています。
それを解決するには近界の情報が必須であると華は気付いており、これは強力なカードと成り得ます。
正直ただのいち部隊の者に明かせる情報ではないのですが、樹里が所属する部隊という事でお目こぼしを貰えたワケですね。
樹里が所属している以上彼女に纏わる面倒事には否が応でも巻き込まれてしまうので、ある種当然の采配とも言えますが。
レプリカもそういった事情は察しているので、同様に助言したのです。
交渉の席ではまず烏丸を出す事で心象を良くしつつ、次にヒュースを連れて行く事で物証とします。
流石に「大規模侵攻で襲って来た近界民を入隊させます」などという内容をいきなり信じろと言う方が無理があるので、動かぬ物証である本人を連れていかなければからかわれているだけだと思われる可能性があった為です。
いきなり騒ぎ立てられないように香取が評価を気にする烏丸を同席させるあたり、ちゃっかりしていますが。
交渉カードとしてまず切ったのは、MAP選択権です。
これについては後で分かる事ですが、この場で差し出せる最大の譲歩でありながら天候調整でどうとでもなる、というのが一つ。
加えて、予め香取隊が「戦いたい」MAPを選択させる事で次の試合の作戦に組み込もうと言う思惑もありました。
勿論どのMAPで戦うかの情報を公開するどころか選択権を委ねる以上、アドバンテージを失っている形にはなります。
ですが香取隊側からMAPを指定するという事は相手はそのMAPで戦う前提で作戦を組んで来るという事で、動向が予測し易くなると判断したのです。
実際は悪天候を仕掛ける気満々でしたが、どちらにせよヒュースを加入させるには必要なコストだと割り切った面もありました。
現状ではヒュースを加入させないと、B級上位では厳しいだろうという考えもあったでしょうから。
千佳が人を撃てれば話は変わって来ますが、現段階での玉狛第二はまともな戦力が実質遊真だけという状況なので、彼が落ちればほぼ終わりです。
原作でもそこは菊地原等に指摘されていたので、その弱点をカバーするにはヒュースの加入は必須だったので。
ですが華さんもある程度事情を察して、敢えて自分達の過去を暴露して譲歩を狙います。
この時点で修達のバックに上層部がいるのは瞭然だったので、下手にごねて眼を付けられるよりはより多くのアドバンテージを受け取った方が良策だと判断したワケです。
そこで要求したのは、ヒュースから得た近界の情報の開示。
これは修としても事前に許可を取ったに等しい内容だった為、一も二もなく頷きました。
ちなみにその後香取隊に今期のランク戦の仕様、A級には上がれないがB級二位以下のチームの隊員にも個人で選ばれる余地がある事を説明したのは、完全な善意です。
言うなればリップサービスのようなものだったのですが、これで下手にごねて追加の譲歩を引き出す事が難しくなったので華さんからしてみれば「余計な事を」という気持ちでした。
まあ、その後で修の性根の善性を知り変にごねずとも協力してくれそうだと判断して矛を収めていますが。
それから、この時点で若村と三浦にも華から樹里に「何かがある」事、それが近界に関わっている事を明かします。
後々部隊全員で樹里の裏事情に首を突っ込む事は確定事項なので、良い機会だと思って開示したのです。
流石にその内容を樹里に聞かれるワケにはいかないので佐鳥に連れ出して貰ったのですが、当然そんなあからさまな真似をされて彼女が勘付かない筈もありません。
ですが樹里は自分の過去に何かあるだろうというのは薄々ながら察しているので、あの対応に留まりました。
一番は佐鳥や香取を信頼しているという面もありますが、そうした方が良いのだろうと察している為でもあります。
樹里は自分の過去について記憶が朧げであり、三年もの間記憶がないのはどう考えてもおかしいというのは分かっています。
なので自分の身体に何があってもおかしくはなく、恐らく佐鳥達はその為に動いているのだろうと考えていたのです。
まあ、その後の佐鳥の気持ち表明を聞いてテンションが上がった状態で香取に会う事になって不審がられますが、流石に口を滑らせはしませんでした。
ROUND3では市街地Aが選ばれる事になりましたが、理由については次回の解説にて。
次回はROUND3、第8章の解説となります。
お楽しみに。