今回は前回お話した通り、エネドラの語ったククロセアトロ戦役の話及び、ククロセアトロというオリジナル近界国家のバックボーンについてお話します。
まず、ククロセアトロはこの作品を作り上げる際に樹里を「近界に攫われ人体実験を受けて改造された主人公兼ラスボス」とする為に用意した、オリジナルの近界国家です。
近界関連の用語が人名に至るまでギリシャ語由来なのはワートリファンならご存知かと思いますが、当然ククロセアトロとそれに関連するワードもギリシャ語で統一しています。
人形劇の繰り手である人形師、傀儡師は仮面を被り、素顔を見せないイメージがあると思います。
ですのであくまでもククロセアトロは樹里の背景を作り上げる為の舞台装置として扱い、厳密な黒幕としてのキャラクターは登場させませんでした。
これは以前も言っている通り二次創作では「原作に出ていないキャラクター」を黒幕として出しても基本的にあまり盛り上がる展開にはならず、原作由来のキャラクター、もしくは既存のキャラをラスボスとした方が見栄えの良い展開になるからです。
たとえ話をしますが、原作で強敵を打ち倒した主人公チームが二次創作者の出した「おれの考えた最強のキャラクター」に苦戦する姿って、相当巧くやらないと盛り下がり易いと思います。
それよりも「原作キャラのイフの姿」や「原作キャラの闇堕ち姿」、或いは「原作キャラの未来の姿」等をラスボスとして出した方が、読者も感情移入がやり易い筈です。
また、それに次ぐ手段として「主人公のラスボス化」があり今回はそれを採用しました。
主人公ともなれば物語を進める中で読者も感情移入してくれますし、それがとある切っ掛けで反転してラスボスになり、それを皆で救うというのは王道なのでそれに倣った形です。
また、読者に嫌われ易い「主人公の落ち度による自業自得な闇落ち」は基本やらず、あくまでも樹里は「被害者」として描写しました。
その上でヘイトを買い易い「被害者ムーブ」は極論避け、あくまでも当人に自分の過去に何があったか分からず困惑し自分の中のブラックボックスに密かに恐怖するしかない、というキャラクター像を描く上で助けになったのはボーダーの記憶処理技術です。
ボーダーには元から記憶処理の技術があると明言されており、それを用いて辛い記憶に蓋をすれば「一先ずは」樹里の暴走を止める事が出来、更には後にとある引き金を引く事でその記憶を解放しラスボス化のトリガーになると考えこのようにしました。
なのでククロセアトロはあくまでも樹里ラスボス化の舞台装置であり、ネームドの黒幕キャラは登場させなかった次第です。
さて、そのククロセアトロの来歴について裏設定を公開します。
ククロセアトロは後のヒュースの記憶語りで多少出て来た情報の通り、元は善良な国家でした。
当時のククロセアトロは義肢技術を安価で提供する事で他国と国交を結び、多くの国にとってなくてはならない存在となる事で侵略を避けて来た国家でした。
エネドラの語ったように戦争が頻発する近界では義肢の需要はかなり高く、それが安価で手に入るとあってはククロセアトロを重要視しない理由はなく、恩恵を受けていた無数の国家が互いに睨みを利かせる事で中立国としての立場を保っていました。
ですが、その崩壊の切っ掛けとなったのはククロセアトロの王族がとある病にかかった事です。
ククロセアトロは義肢技術、外科技術については発達していましたが、反面病気をどうにかする内科的な技術については外科技術程優れてはいませんでした。
王族が発症した病はとある近界国家由来の伝染病であり、その国の者を治療した際に施術者を通じて国内に持ち込んでしまい、それが王族に感染してしまったのです。
義肢の提供の為に赴いた施術者であった為感染症等の対策は最低限しかしておらず、またその病は伝染病とはいえ特定の体質の者しか症状が発症しないタイプの病気であった為、国内に持ち込んだ者には症状が出ず、王族が発症するまで誰も気付けなかったという寸法です。
ある程度内科的な知識もあったとはいえ、他国由来の非常に珍しいタイプの病気であった為、治療法が分からず王族は遂に死に絶えてしまいます。
その事を深く後悔した王族の侍従だった男はククロセアトロ王から最後に賜った「この国を頼む。私達のような者を二度と出さないような、医療大国にしてくれ」という遺言に従い、ククロセアトロの医療技術促進に粉骨砕身します。
元より医療技術の優れていた国でしたが王族の病死を契機に内科的な技術の発達にも力を入れるようになり、技術力は国家単位で上昇して行きました。
ですが、最後の侍従だった男には一つの未練がありました。
それは、「王族がかかった病の完治法の確立」です。
医療技術が発達しても、未だにその病についての治療法は完成していませんでした。
理由としては発症がとても珍しいタイプの病であり、特定の体質の者にしか罹患しないという特性があり、既に死した王族以外に「サンプルケース」がなかったのです。
他の国と交渉してどの国由来の病気か探る、という手段も使えませんでした。
何故ならそれは「何故自国に関係のない病について調べようとしているのか」を疑念に持たれ、現在の「王族がいないククロセアトロ」についての現状を暴かれる懸念があったからです。
幾ら中立国家としての立場があったとはいえ、それはククロセアトロが「正常に」運用されている場合の話です。
もしも王族が既に誰もいないという事実を知られれば、軍事国家にとっては「格好の侵略対象」となってしまいます。
中立の立場もあくまでも母トリガーを運用出来る王族が存命の上で成り立っているものなので、その王族が滅んでいると知られればどうなるかは想像に難くありません。
それは政に詳しかった侍従の男も理解していた為、例の病に関する研究は遅々として進みませんでした。
「滅多にかかる者のいない病気なのだから無視すれば良い」という理屈は、王族への深い忠誠を抱いていた男には通じません。
かといって、根が善良であった為に人体実験など思いつきもしませんでした。
だからこそ男は、自分を実験体としたのです。
自分を王族の体質に似せるよう投薬を行った上で、王族の血から採取したものを参考に作り出したウイルスを自分自身に投与して経過観察を行ったのです。
生の被検体を得た事で病気の研究は進みましたが、この病は発症が珍しいだけで一度症状が出てしまえば死を免れない致死の疾患でもありました。
しかし男は執念で病気の治療法を確立させ、その研究内容を資料に遺すとそのまま息を引き取りました。
勿論、最低限の運営方法については後身に指導はしていました。
ですが、彼以外に政に関するノウハウが持った者がおらず、更に侍従の男は「既にいない王族への忠誠を尽くす事を強要は出来ない」として、後に残る者に王族、ひいては国への忠誠を教え込む事をしなかったのです。
自身の病死が迫る中、「王族が滅んだ病の根絶」を第一優先目標としていた為に、他の事が疎かになっていた部分があるのは否定し切れません。
或いは、「たとえ国として滅びようが医療技術さえ残るのならばそれで良い」と割り切っていた可能性もあります。
ともあれこうしてククロセアトロには、「技術の更新」を至上命題として与えられた多くの研究者が残りました。
男が遺したマニュアルによって他国へは王族の喪失を隠す事が出来ており、暫くは平穏が続きました。
ですがある時、以前から国交のあった国が「ククロセアトロの動きがおかしい」と疑念を抱きます。
以前はククロセアトロの王族とお互いを招いての交流会を開いていたのですが、彼の国はとある時期からその誘いを全て断るようになり、義肢の提供の為来訪した際にも王宮には決して通されませんでした。
何かあると感じた国は義肢の提供の為に訪れた際に間諜を放ち、ククロセアトロの王族の不在を知りました。
王族がいないと分かれば、国の制圧や支配も容易い。
そう考えたその国は、他国へは一切知らせず自国のみでククロセアトロを侵略し、手中にしようと企みます。
元々損得勘定で繋がっており近界の国家らしく倫理規範は近界基準であるが故に、かつては同盟関係に近い国だったとしても現状侵略によって安易に利益を挙げられるとなればそれをしない理由はありません。
国家間に於いては、弱みを見せた方が悪いのですから。
ククロセアトロはその経緯から戦争経験が一切なく、反撃の手段も碌にないだろうというのもその判断を後押ししたでしょう。
その国には広域殲滅が可能な砲撃トリガーがあり、侵略を行うには充分な武力を備えていました。
突如として挙兵したかつての同盟国に牙を剥かれたククロセアトロはその戦争で多くの民間人が死亡し、敵兵の
ですがそこで
ちなみに
防衛機構はこの糸を国内に一斉に展開し、敵対者の悉くからトリオンを奪い去り無力化しました。
後に残ったのは少数の国民と、そもそも技術簒奪の為に敢えて生かされていた研究者だけでした。
ククロセアトロを支配する旨味の殆どはその医療技術であるが為に、それを持っていた研究者達は決して殺す事のないよう命令が出ていたのです。
ですが研究者達から見てもこのまま彼等敵国の者を国に帰せば再び侵攻されるだろう事は明らかであった為、一策を講じました。
捕らえた敵国の者達十数名に記憶封鎖を施した上で、研究所にあった伝染病ウイルスを撃ち込み敢えて国に帰したのです。
そのウイルスは様々な病気の治療法を確立させる為に保存していたサンプルでしたが、感染力は常軌を逸しており、発症まで10日という猶予期間がありますが、7日を過ぎた段階で感染力が最大になり、感染したが最後、数日で死亡するという致死性の高いものでした。
それを保菌したまま国に帰した事で瞬く間に国中にウイルスが広がり、その国は滅びの道を迎えました。
侍従の男は技術の更新のみを後身に指導し、自身が善人であった為に非道な行いについては想像すら出来ず、技術の使い方や研究者としての倫理観等は伝えていませんでした。
加えて男自身が自分を実験体にするという所業を平気で行った為、研究者達にとっては自他問わず人体は「実験のサンプル」として扱う価値観が芽生えており、このような所業を行ってもなんら呵責を感じない土壌が形成されていたのです。
こうして自分達の泣き所を暴いた国を物理的に葬り去ったククロセアトロの研究者達は、このままではいずれ今回の二の舞になると考え、軍事力の強化に舵を切りました。
また、その戦争で用いられた大火力の砲撃トリガーを多くの者が眼にしていた為、「出力が高い兵器を揃えれば強い」という思想も根付く事になり、後の
加えて国に帰さなかった敵国の者を人体実験にかけた事で飛躍的な技術向上に繋がったので、「人体実験を繰り返せば効率的に技術の更新が可能である」「誰にも知られないように被検体を確保出来ればその分だけ能率が上がる」という経験則も得てしまった為、倫理的なストッパーな無い研究者達は「技術の更新」のみを「生態」とする群体へと変貌します。
この一件で諜報の重要性を知った為、「義肢に盗聴可能な機能を追加する」「極小の諜報用トリオン兵を運用する」という考えを思いついて実行し、これが発展して寄生型トリオン兵が誕生し能率的に実験体を確保するノウハウを確立していく事になります。
また、元からあった義肢技術を応用し、「身体の一部をトリガーそのものへ変換する」
これは生身の一部をトリガーそのものに置き換える事になる為、生身のままでトリガーを扱う事が可能となります。
更に、ククロセアトロは「使用不能になった実験体の身体」を有効活用する為、
これは作中でヒュースが見抜いた通り、「脳以外の殆どを無機物に置換して戦闘可能とした」ものであり、その武装はトリオンと現実の物質を混合させたものである為、トリオン体にも通用します。
更に痛覚など当然備わっていないので、人体の限界を無視した動きや人体構造を無視した機構も平然と行使出来ます。
言うなれば「全身を
この所業を数少ない生き残りの国民に知られてしまった為、口封じを兼ねて研究者達は残った国民を人体実験にかけ、残らず「消費」します。
こうしてククロセアトロは「技術の更新のみを生態とする研究者」だけが残る国となり、作中で登場した末期を晒す事になります。
彼等には使命感も情熱も、知的好奇心さえありません。
ただ、「そうあれ」と定められた生態に従い、倫理や人道、果ては自身の生死を含む保身の一切を無視して技術の促進のみを追求する群体と化したのです。
そしてその中であろう事か軍事大国であるアフトクラトルの機密を盗み出した事が露見し、アフトクラトルに攻められる事になったのが今回の「ククロセアトロ戦役」です。
後に分かる通り、ククロセアトロは寄生型トリオン兵を通じてアフトクラトルの機密であったラービットの技術を盗み出します。
しかし黒トリガー由来のキューブ化の機能だけはどうしても再現出来ず、代わりに「トリオン製の物質を咀嚼しトリオンに変換する」能力で妥協する事となります。
それが、最終章で見せた「捕食能力」の由来です。
ククロセアトロについて様々な知見から情報を収集していたハイレインは、今回の事が契機となり彼等が行って来た埒外の蛮行を知る事になります。
アフトクラトルにも行方不明者は出ており、それがククロセアトロの者が来訪した後に決まって起こっていた事から、以前から疑念は抱いていたのです。
なので雄吾同様疑惑自体は抱いていたので、最後の一押しで決め手を得て、殲滅を決定したワケです。
そもそも軍事機密を盗まれた時点で看過出来る事ではなく、ククロセアトロの殲滅は決定事項でした。
加えてその碌でもない技術は持ち帰る事自体が危険であるとし、徹底的な破壊を目論みます。
もしも彼等の技術が他の領主の知るところになれば、それに手を伸ばして来るだろう事は明らかだったからです。
このような真似をする国家の技術など、百害あって一利なしと断じていたハイレインはその前に研究者ごと技術を葬る為、「一人も生かすな」とお触れを出します。
万が一にも撃ち漏らしがないよう、ヴィザを始めとする精鋭や属国を引き連れて殲滅に向かう徹底ぶりです。
軍事機密を盗み出した以上、何らかの軍事的な備えはあるだろうと、ハイレインは一切の油断をしませんでした。
それが戦役冒頭の発言に繋がるワケですが、ククロセアトロの行いは彼の思考の斜め上をかっ跳びます。
肉体の殆どを無機物に置換した死体の兵士に、主任研究者の死亡を引き金とした暴走。
そのような真似は、さしものハイレインも思考の外でした。
ちなみに此処で出て来た「クセロ主任」という人物は、研究者達のチーフであり、事実上のこの国の最高責任者を兼任していました。
「クセロ」というのはギリシャ語で「知る」という意味であり、知識の研鑽のみを生態とした者達のトップとして相応しいだろうとこの名前にしました。
ちなみに「臨界駆動」というのは、非常時にのみ発動可能なククロセアトロの最終手段であり、「母トリガーからの直接出力による戦闘行為の認可」を指します。
ククロセアトロのトリガーは全て
なので真の臨界駆動とは「母トリガーから直接トリオンを組み上げての限界駆動」であり、母トリガーに接続出来なかった時点で不完全なものとなります。
それでも躯体の限界を無視した出力を行う為、母トリガーという供給源がない状態で行えば自壊するのが当然なのです。
この時空に浮かんだ無数の子供達は、亜種の
通常骸肢兵は脳以外の殆どの部位を無機物に置換していますが、この子供達は生身の部分を多く残していますが、逆に脳の殆どを無機物に置換されており、当然ながら自我など欠片も残っていません。
体内には
あれは改造を受けた10万番台からの被検体には全て実装されている機能であり、樹里が使用していたのはその完成形です。
威力が尋常ではない反面、消費もとんでもない為に母トリガーからエネルギーを加速度的に吸い尽くしてしまい、「神」の死を迎え星の滅びへ繋がります。
この時にククロセアトロの「神」は一度死亡していますが、この国の技術はそう簡単に安寧を迎える事を許しません。
技術者達は万一「神」が死んだ時の為に、確保していた検体達の生体リソースを用いてそれを修復する機能を遺しており、これによって死した「神」は疑似的に生き永らえ、ククロセアトロは歪な形で延命をする事となりました。
こうして多くの犠牲を出しながら撤退したハイレインはククロセアトロの脅威を直に認識し、彼の国に関するあらゆるものを葬り去る決心をして属国に「ククロセアトロに関するものは全て報告し、生存者がいれば捕らえて差し出せ」とお触れを出します。
ですが時既に遅く、ククロセアトロの脅威を悪い意味で共感した今回の戦争で三戦していた属国トリュボスは密かに漂流した実験体を持ち帰ります。
そこで実験体の臨界駆動が起きてしまい、事が露見するワケです。
ちなみに「トリュボス」はギリシャ語で「騒乱」を意味しており、騒ぎの元となる国として名付けました。
亡国の時ククロセアトロは無数の検体をポッドに入れて放流しており、それらは悉く漂着先の国で臨界駆動という名の暴走を起こし、彼の国の危険性を広く知らしめる事となります。
以後、ククロセアトロは忌み嫌われる名として近界に轟く事となり、その所業と共に口に出す事さえ厭われるようになります。
これが、ククロセアトロ戦役の裏側と背景の全貌になります。
後のヒュースの語りの際にも再度説明しますが、ククロセアトロのバックボーンについてはある程度理解されたかと思います。
次はROUND5の章の解説となりますので、お楽しみに。