香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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各章解説・及び裏話/12章後半

 

 

 さて、12章の裏話と解説、後半となります。

 

 前半では主にランク戦の内容について解説致しましたが、今回はその後、天羽を介した迅の介入とそれに続く樹里関連のあれこれについてお話します。

 

 ランク戦を終えた後、若村の下に天羽が訪れます。

 

 基本は試合に勝った彼を激励しに来たのですが、彼が此処で樹里に関する助言を行ったのは、迅さんの干渉によるものです。

 

 迅さんは天羽から香取隊に情報を渡す事で、彼女達が玉狛支部に訪れる未来を作ろうとしたのです。

 

 それについては後述しますが、重要なのは香取隊が「自発的に」玉狛支部に向かう事です。

 

 明らかな作為ではなく、あくまでも自主的にというのがポイントであり、尚且つある程度胸襟を開く心構えをして貰うのも大事です。

 

 なので親交のある天羽を通じて、こうして暗躍したワケですね。

 

 天羽は勿論そんな迅さんの思惑は察していますが、彼がやる事ならばと黙認の構えでした。

 

 口では色々言いつつも、迅さんは自分達の世界を護る為に最善を尽くしているのは分かっているので、敢えて文句を言わずに従った形ですね。

 

 また、天羽自身も副作用(サイドエフェクト)で樹里の変化には薄々気付いていたので、それを言及しないのもどうかと思ったという内情もあります。

 

 こうして「樹里に密かな異変が起きている」事を知った香取隊は、早速行動を開始します。

 

 初手で開発室突撃は華の手で止められ、佐鳥が尋問の為に呼び出されます。

 

 佐鳥としても遅かれ早かれこうなるとは思っていたので、敢えて抵抗はしませんでした。

 

 意外だったのは天羽から、という情報伝達経路のみで、彼女達が事実を知る事自体はいつか必ずそうなるとは思っていましたので。

 

 彼も樹里を救う為には香取隊の協力は必須であると認識していた事もあり、あっさりと真実を暴露します。

 

 こうして言質を得た香取隊は満を持して開発室に向かう事になり、鬼怒田から知り得る情報を聞かされ今後の指針を決定します。

 

 この時点で、華さんは樹里の裏事情に関してかなり正確な所まで推測を重ねてほぼ真実に辿り着いています。

 

 少なくとも樹里が行方不明だった期間近界にいた事や、そちらで「何か」をされた事。

 

 そして、何らかの時限爆弾のようなものが彼女の中にある事や、過去に一度はそれが起爆したであろう事も察していました。

 

 華さんが欲しかったのはあくまでも「確証」であり、裏付けです。

 

 これまで段階的に情報を得て来たものの確たる証拠、証言だけは得られなかったので、準備万端で鬼怒田との会談に臨み望むものを手に入れたワケですね。

 

 そして鬼怒田から過去樹里の異変に関わった面子を聞き出し、その中で明らかな「鎮圧要員」として参加したと思われる小南とレイジに話を聞きに行く事となります。

 

 鬼怒田の語ったメンバーの中では唯一の支部所属で、尚且つこの二人はボーダー最強と名高い玉狛支部の所属。

 

 この時点で戦闘の為に呼ばれた面子である事を思い至り、「協力者」を得るべく動き出したのです。

 

 樹里が暴走する、という事は推測出来ましたがそうなった彼女がどれ程の脅威かは分からなかったので、戦力的に充分以上の信頼を置けるレイジ達を頼りに行った、という構図です。

 

 人格的にもこの二人は信用出来るので、素直に助けを求めればきっと力になってくれるだろうという目算もありました。

 

 案の定事情を聴いたレイジ達は二つ返事で有事の協力を受諾し、香取隊としてはこれで玉狛支部での用事は終わった筈でした。

 

 しかし小南が「そういう事ならうちの子達も頼りになるから話していったらどう?」と気を利かせ、香取隊にとっては想定外の玉狛第二との面談となりました。

 

 小南としては直感的に「どうせ巻き込まれる事になりそうだし遊真とヒュースはきちんと戦力になるし、あの子達なら二つ返事で引き受けるでしょ」と判断した事でこのような行動を取っています。

 

 厄介な事になりそうだから戦力として上澄みな近界人二名は確保しておくべき、という戦闘勘が働いた結果とも言えます。

 

 ぱいせんは戦場での価値観を積み上げているので、戦力分析は的確に行えます。

 

 遊真は手ずから指導していますし、ヒュースの戦いぶりは既に試合で見ているので戦力としては充分と評価し、こうした推薦に繋がりました。

 

 これこそが迅さんの狙っていた展開であり、香取隊を玉狛支部に行かせた理由でもあります。

 

 知っての通りヒュースは己の矜持に対して非常に頑なであり、基本的に本国に関わる情報は一切喋ろうとしません。

 

 ククロセアトロの件もアフトクラトルががっつりと関わった案件なので、普通であればヒュースの口からその事が語られる事はなかったでしょう。

 

 しかし、同時にヒュースは過去の経緯によりククロセアトロに対し深い嫌悪と警戒心を抱いています。

 

 香取隊の話を聞けば樹里がククロセアトロの実験体、即ち「遺物」であるというのは彼に伝わるので、近い将来その脅威が訪れる事を知れば、特例としてヒュースは過去のククロセアトロ戦役に関する情報を口にする事となります。

 

 これは彼としては稀な特例事項であり、口を閉ざし放置した方が後々本国の害となると感じたからこそ喋った形です。

 

 その過程で玉狛第二の協力を取り付ける事も出来たので、これで迅さん側から見たミッションコンプリートとなります。

 

 修達は基本が善性の人間なので、困っている相手がいるならば手を差し伸べる事に疑問はありません。

 

 ヒュースはククロセアトロに関する事柄に対しては全力を以て当たらなければならないと考えており、その残滓は徹底して対処するつもりなので参戦に異論はありませんでした。

 

 下手に何かの間違いでククロセアトロの技術がアフトクラトルに持ち帰られてしまえば、それは必ず本国の害になると確信していたからでもあります。

 

 こうして、ヒュースの口からかつてのククロセアトロ戦役の彼の眼から見た経緯が語られる事となりました。

 

 遠征艇破壊の為に別動隊を指揮していたヒュースは遠征艇の発見と破壊には成功しますが、そこでククロセアトロの研究者であるアパテオナスと邂逅します。

 

 彼はかつてガロプラに交渉に赴いた技術者であり、研究者の中でも副主任の地位にありました。

 

 「アパテオナス」はギリシャ語で「詐欺師」の意味を持ち、彼等自身にその意図がないとはいえ周囲を騙し、己の目的を果たさんとする群体のリーダー格としては相応しい名かと思います。

 

 彼が連れていた子供は樹里と同じくククロセアトロによって機能代替(オルタナティブ)トリガーを埋め込まれた実験体であり、自我はとうに破壊され操り主の意の侭に動く人形となっています。

 

 樹里よりもかなり前に施術された実験体なので機能代替トリガーによる操作もかなり強引なものであり、実験内容も脳に過剰なまでの過負荷をかける代物だった為、早期に自我が喪失した形です。

 

 ヒュースが言及した通りこの少年はアフトクラトルより攫われた子供であり、トリガー(ホーン)によるブーストがどのような影響を齎すかと実験を繰り返した為、精神の消耗は凄まじいものとなり廃人化もかなり早かったのです。

 

 実験を繰り返す内に脳への負荷を最低限にした方が性能(スペック)が上がると判断したククロセアトロの研究者達は脳ではなく身体を機能代替トリガーより発せられる電気信号で操る事で操作する方式に切り替え、樹里のように「意識は残っているのに身体は勝手に動かされる」検体が誕生したのです。

 

 検体の意識が混濁していた方が身体操作のタイムラグが少なくなる為、敢えて痛覚設定を生身と同一にした上で戦闘実験を繰り返し、物理的に精神を削ぎ落とす方針に替わったのはこの頃です。

 

 ちなみにこの少年に埋め込まれていたトリガーである飛蝗脚(アクリダ)はその名の通り飛蝗(バッタ)のギリシャ語読みです。

 

 ちなみにグラスホッパーは英語でバッタの事なので、どちらもジャンプ力の強化を意図して付けられた名前です。

 

 このトリガーは見た目通り脚の代わりに接続されているものであり、能力はまんまジャンプ力、機動力の強化です。

 

 折り畳み式の脚部を用いる事で飛蝗を模した高速軌道が可能ですが、グラスホッパーがそうであるように三次元機動は使用者のセンスによってその練度が決まります。

 

 このトリガーは速度のみを追求した代物ですが、生憎攻撃方法が加速に任せた突進のみなので、正直に言って戦法としてはワンパターンであり熟練の兵士相手には通じません。

 

 アパテオナスがこの実験体を持ち出したのは丁度使用に堪える状態にあった検体が手元にあったからという理由でしかなく、戦力的な考慮をして連れて来たワケではありません。

 

 勿論ヒュース相手には一蹴され、アパテオナス自身も殺害されます。

 

 その後少年の身体を乗っ取るようにして現れたのは彼のバックアッププログラムであり、これは素養のある検体の身体に元から仕込んでいた機能であり、試作段階の機能でもあったので多く実装されたワケではありませんでした。

 

 トリガー(ホーン)はこの機能を埋め込むには最適なものであったので、アフトクラトル出身の実験体のうち幾つかにはこの機能が仕込まれていました。

 

 しかしこの機能はククロセアトロ本星でコピーした人格の持ち主が死亡した際に対象の検体が効果範囲内にいなければ稼働しないので、現時点では意味のない代物になっています。

 

 正直最終章ではこの機能を使って主任クセロのバックアップである人工知能を復活させるプランもありましたが、どう考えても蛇足なので取り止めた次第です。

 

 あくまでもククロセアトロは物語を成立させる為のバックボーンであり、主役になってはいけないという初志を貫いた形です。

 

 いい加減マッドが黒幕面でウダウダ語るのは食傷気味な読者も多いと思いますし、二次創作でやる事ではないというのが主な理由ですね。

 

 もう一度言いますがそういうのがやりたければ一次でやるべきであり、原作のある二次創作でやるべきではありません。

 

 主人公でもない完全オリジナルのキャラをそこまで目立たせるのは二次創作では白ける事の方が多いので、そこは徹底しました。

 

 ちなみに此処でも登場した巨大な蜘蛛脚は、星の臨界駆動承認時に稼働する防衛機構です。

 

 構造は傀儡糸(クローステール)を用いて物体を編み上げ、それを巨大な蜘蛛の脚部の如き姿にしたのがこの兵器の正体です。

 

 傀儡糸はこのように物体同士を結合させ、全く別の姿にして操作する機能を備えており、トリオンの相互譲渡という名の奪掠と並んで、主機能に分類されます。

 

 ちなみに、ククロセアトロの紋章は巨大な蜘蛛の背に単眼が描かれているマークとなります。

 

 これは言うまでもなく(クラウン)トリガーである傀儡糸(クローステール)の本体を指しており、かつてこの冠トリガーを用いて国家を発展させた名残でもあります。

 

 かつてのククロセアトロはトリオンの少ない者ばかりが生まれる上に軍事力にも乏しく、母トリガーへ捧げる生け贄たる「神」も満足なトリオン量の者を選ぶ事が出来ませんでした。

 

 例外的に王家の者はトリオンが多い者が多かったのですが、まさか王家の人間を生け贄にするワケにはいかず、八方塞がりな状況でした。

 

 そこで冠トリガーの性質を利用して複数人を「神」に仕立て上げ、どうにか国家運営に必要な動力を維持して来たのです。

 

 この事実は王家の者のみが伝来で知らされていたのですが、ある代の国王は多くの犠牲を生むこの仕組みを良しとせず、常態的に自分達を傀儡糸に繋いで母トリガーへ動力を供給し、犠牲を最小限としていたのです。

 

 これを生来的にトリオンが多い王家の者が交代して行う事を義務とした事で、複数の生け贄を必要とせずに最低限の動力を賄う事が出来るようになりました。

 

 実はそれで多くの体力を消耗していた事で例の病が発症する土壌が整ってしまったのですが、それは知る由もありませんでした。

 

 亡き王家の遺志を唯一継いでいた侍従の男にもこの事は伝えられていましたが、最期の王は死ぬ寸前であった自分と妃を「神」にするよう伝え、男は泣く泣く歴代でも最も高いトリオンを誇っていた妃を「神」に、王を傀儡糸に繋いでその補助とする事で母トリガーを安定化させました。

 

 なので現代のククロセアトロの「神」は、王家の最後の一人である妃その人です。

 

 トリオン評価値換算すれば20程もあった妃を「神」に据えた事でククロセアトロの母トリガーは安定し、大量の生け贄を用意する必要はなくなりました。

 

 王も相応にトリオンが高かった為、傀儡糸(クローステール)の補助もあり通常の「神」よりも耐用寿命は長かった為、現代でも代替わりする事なくこの妃が「神」として残っていたのです。

 

 侍従の男も最低限の運用が出来れば充分と考え、それ以上の干渉は行いませんでした。

 

 ですが、現在のククロセアトロの研究者にそのような殊勝な考えは欠片もありません。

 

 「使えるものは使う」という精神で、実験のやり過ぎで使えなくなった検体は容赦なく傀儡糸を通じて母トリガーに繋ぐ「養分」として、倉庫に貯蔵して行きました。

 

 その数がどれ程かは、検体の番号の桁を見れば分かるかと思います。

 

 こうしてククロセアトロの闇を存分に見せつけられたヒュースは、この国に対する深い嫌悪と警戒を抱く事になります。

 

 当然それは報告を受けたハイレインも同様であり、領主として、上に立つ者として真っ当な価値観を持つ彼からしてみれば理解不能な行動原理に頭を抱えたくなるのも分からなくはありません。

 

 ハイレインは好きなものに「平穏な暮らし」とある通り、本来は何事もなく穏やかな日々が続けばそれで満足するタイプです。

 

 しかし領主としての立場が安穏を許さず、自分がやらなければそのツケは領民が払う事になるのも充分に理解しているので、私情を捨てた采配を容赦なく行う事が出来るワケです。

 

 ククロセアトロに、そのような支配者の論理はありません。

 

 ただ自分達の生態(やくわり)だからと、その道を進んだ先に何があるのか考えようともせず、ひたすらに研究と開発を繰り返す。

 

 ただそれだけの集団であり、理想的な君主として統治を行っているハイレインと相容れる筈もないのです。

 

 検体をポッドに乗せて放出したのも、「自分達の研究結果を披露する場所を作る」為であり、それ以外の理由は存在しません。

 

 その結果どうなるかは彼等の管轄外として考えており、そもそも興味の外なのです。

 

 ちなみに「ククロセアトロの遺物」と呼ばれる事になるこの実験体が感情の発露を切っ掛けに暴走する仕組みがあったというのはあくまでもヒュースから見たものであり、実際は厳密に言うとそういった機能があったワケではありません。

 

 しかしこの時放流された検体は樹里と同じく身体を勝手に操られ続け精神が摩耗していた者達ばかりだったので、人間的な扱いを受ける事で当時の記憶が蘇り、フラッシュバックを契機に戦闘本能が暴走。

 

 結果として臨界状態に至っただけであり、ククロセアトロが意図した機能というワケではありません。

 

 されど「人間らしい感情を取り戻す」→「それを契機にかつての記憶が想起される」→「辛い記憶が蘇り暴走」という工程(プロセス)は変わらないので、意図せずとも事実上そのような仕様となってしまっています。

 

 検体に記憶封鎖が行われていたのは何も喋れない状態だと「使用者」が検体を稼働させる際に不都合ではないかという彼等独自の判断基準により行われたものであり、決して善意などではありません。

 

 これでヒュースからの情報提供が終わり、玉狛支部総出での協力が確約されました。

 

 加えてその後ガロプラとの会談により、彼等の協力を取り付ける事にも成功します。

 

 原作では陽太郎が出向いていますが、これはあちらでは陽太郎がガロプラに目撃されてしまっていた為、自分達がアリステラの王家の意思を継ぐ者であるという動かぬ物証として連れて行ったものと思われる為、原作と異なりヒュースの単独行動が発生せず陽太郎が見られていないこの世界線では無意味にリスクを冒す必要はないとして、同道はありませんでした。

 

 加えて敢えて大人の林道を連れて行かなかった事でレギンデッツの失言を引き出し、交渉を有利に進める事にも成功しています。

 

 迅さんとしても、一連の暗躍は悪くない結果に終わったと言えるでしょう。

 

 これで12章後半の解説を終了します。

 

 次回は、ROUND7の章の解説となりますのでお楽しみに。

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