香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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 木虎で終わりのつもりだったけどやっぱり修もやります。

 クロスランク戦by痛みを識るものはその後。


木虎藍/秀才少女の葛藤

 

 

 木虎藍(わたし)にとって木岐坂樹里への当初の印象は、「何このいい加減な人」だった。

 

 いつの頃からか自分のチームメイトの佐鳥と一緒にいる姿を良く見かけるようになり、時折防衛任務でも共に行動するようになった少女。

 

 それだけならば、まだ良い。

 

 佐鳥は三枚目を演じているがそれでも広報部隊員としての知名度はあり、彼のファンだという人間も一定数いる。

 

 そういった人間が佐鳥に近付こうと試みる、というのも無い話ではないとは思う。

 

 問題は、その佐鳥側が過剰なまでに樹里へ配慮し強く出られていない状況にある事だ。

 

 樹里の勤務態度は、あまり褒められたものとは言い難い。

 

 大多数のC級のように学生気分が抜けきっていないのか、待ち合わせには遅刻はしないもののギリギリの時間に来て、挨拶も適当。

 

 それだけではなく、わざわざ佐鳥に迎えに来るよう要請した挙句に遅れかけているのだから、神経を疑う。

 

 防衛任務の為に待ち合わせをする事は、まあ良い。

 

 仕事なのだから待ち合わせるまでもなく来れば良いとは思うが、互いの勤労意識を確認する為に時間を指定して時間厳守をしようとするのは一つの手段としては有りだろう。

 

 だが、それをしておいて自分は碌に準備をせずに迎えに来た佐鳥の時間まで拘束しているのは頂けない。

 

 約束とは、お互いがそれを守ろうと努めて初めて成立するものだ。

 

 相手にだけ努力を強要し、あまつさえ自分はそれを守ろうとする意識すらないのは怠惰が過ぎる。

 

 もし、それが彼女が佐鳥の気を引く為のアピールとしてやっているのだとしたら言語道断だ。

 

 自分は、相手に迷惑をかけてまで媚を売ろうとする女性がどうしても好きになれない。

 

 好意を持った相手にアピールする事自体は、否定しない。

 

 しかしそれはあくまでも自分を磨き、研磨する事で魅力を引き上げて己の価値を高める事で行うべきものだ。

 

 相手の時間を無為に拘束し、努力を放棄する事で気を引くような真似はどうにも醜く映ってしまう。

 

 加えて、樹里が常人離れした容姿を持つ事もどうにも彼女を受け入れきれない理由の一つだ。

 

 木岐坂樹里の美貌は、ハッキリ言って人間のものとは思えなかった。

 

 透き通るような白い髪に、片目だけ青い虹彩異色(ヘテロクロミア)

 

 着瘦せするので分かり難いが、しっかりと膨らんだ乳房。

 

 透明感のある肌に、ほっそりとした手足。

 

 生物の持つ美としての完成度が、レベルが違った。

 

 仕事柄美人は見慣れているが、それでも樹里の容姿はメディアで出遭ったどんな女性よりも優れていると断言出来る。

 

 だからこそ、己の美貌に胡坐をかき他人に迷惑をかける方向で佐鳥の気を引こうとしているのが許せなかった。

 

 折角の優れた容姿を、行動で台無しにしている。

 

 木虎藍(わたし)には、樹里の評価はそのように映った。

 

 優れた潜在能力(ポテンシャル)を持つ者は、それを活かすよう努力するのは義務だと考えている。

 

 容姿もまた、人間が持つ能力の一つだ。

 

 折角圧倒的なまでの美貌があるのだから、それを磨き己を高める事は当たり前の事のように思う。

 

 少なくとも自分は、そうして来た。

 

 自分を美少女と呼称した事はないが、平均以上の容姿であるだろうという自覚はある。

 

 だから体系維持の為に生活習慣には気を付けて、メディアでは普段はやらない愛想笑いも積極的に行った。

 

 人に見られる仕事をしているのだから、人ウケをする演技をするのは義務だ。

 

 ちなみに水着を着ての仕事もあったが、プロ根性で笑顔とポーズまでこなしてやり切った。

 

 後でその写真が載った雑誌を見て、我ながら良い絵が撮れていると自画自賛したものだ。

 

 水着の写真となると一般的な女性はいやらしい意図を感じて敬遠するかもしれないが、そもそも性的な魅力を強調しそれを誇示するのは女性であれば誰でもやっている事だ。

 

 女子高生がスカートを短くしたがるのも、「己を良く見せたい」という意識が根幹にあるのだろう。

 

 勿論それは「長いスカートなんてダサい」という共通認識からやっているのかもしれないが、その意識もまた「女であれば少しでも異性の気を引くような可愛い恰好をしたい」という欲求から生じたものだ。

 

 それを体現したのがグラビア撮影と言えるのだから、決して馬鹿に出来る仕事ではない筈だ。

 

 断じて、写真映りが良くて自分の映った水着写真の号が普段のその雑誌よりも高い売り上げを記録した事が己の自尊心を大いに満たしたから擁護しているのではない。

 

 ともあれ、いっそ暴力的とも言える美貌を持って生まれたにも関わらず怠惰に過ごす樹里を自分は本能的に受け付けなかった。

 

 何故か佐鳥だけではなく綾辻も樹里に対しては甘いので、いつも強く言えないのが悩みの種ではある。

 

 実は何度もガツンと言おうとしたのだが、その度に佐鳥に諫められてしまって実現は出来ていない。

 

 …………不思議なのは、佐鳥が樹里の事を語る時はどうにも遠い眼をしているというか、何か負い目のあるような様子を伺わせている事だ。

 

 実のところ、佐鳥が樹里に対して甘い態度を取っているのも不可解ではある。

 

 佐鳥は三名目を標榜し「モテたい」と日頃から言っているが、その実硬派で生真面目、女性に対しても常に真摯であれと心掛ける精悍な心の持ち主である。

 

 その証拠に佐鳥は自分と会話する時胸に眼を向ける事がほぼないし、しっかりとこちらの顔を見て不快にさせないよう心掛けている事が伝わって来る。

 

 自分の胸は同年代と比べても結構大きい方なので、異性と会話するとその視線が胸部に向く事は茶飯事だ。

 

 しかし佐鳥は常に視線を胸ではなく顔に向けてくれているし、何かの拍子で下に視線を向けてもすぐに修正しようとするので、好感を抱く要素しかない。

 

 勿論恋愛的なそれではなく、同じチームで仕事をする同僚として敬愛の念を抱いていた。

 

 そんな佐鳥が、人間的にあまり褒められたものではない樹里をあそこまで庇う理由は何なのか。

 

 それだけが、どうにも不可解で気になっていたのだった。

 

 

 

 

 ────────彼女の境遇を知り、木虎藍(わたし)は己の浅はかさを恥じた。

 

 あの佐鳥が、相手が見目麗しい少女だからといって普通の子をあんなに厚遇する筈がないだなんて事は考えてみれば分かる筈だったのだ。

 

 それを知ったのは、彼女を巡る戦いに終止符が打たれ、数日が経過した後だった。

 

 佐鳥は自分を含めた嵐山隊の前で、樹里との交際を始めた事を打ち明けた。

 

 嵐山や時枝は素直に祝福していたが、自分はこれまでの評価もあるので形式上の祝辞で済ませ、彼氏彼女になった影響で仕事に影響が出ないように適度に釘を刺すつもりだった。

 

 ────────佐鳥が、樹里の背景を語るまでは。

 

 いきなりそれを語った事については色々理由を言っていたが、その後が衝撃的過ぎて正直覚えていない。

 

 何せ、佐鳥が語ったのは。

 

 樹里が近界に攫われて非人道的な人体実験を受け、子供を産めないレベルで身体を滅茶苦茶にされていたという内容だったからだ。

 

 流石に、唖然とした。

 

 そして、内容を理解すると自らを恥じた。

 

 そのような境遇であったのなら、最大の理解者であり己の慕う人間である佐鳥の存在はかけがえのないものであった筈だ。

 

 少なくとも、単に年頃の少女の抱く一般的な恋慕の域は超えている。

 

 存在自体が不可欠であり、失う事など決して耐えられないような大体不能の存在であったろう。

 

 なのに、自分は何思っていた?

 

 ただの、年頃の少女が抱くはしかのような好意だと断じて冷たく突き放してはいなかったか。

 

 佐鳥に対しても、樹里の見た目があまりにも他と隔絶していたからつい厚遇していたのだと、勘違いをしていなかったか。

 

 考えれば、分かる筈だったのだ。

 

 佐鳥の人柄は、知っていた。

 

 三枚目で軽薄な言動はあくまでも演技で、本質は硬派で生真面目な紳士であると分かっていた筈だ。

 

 なのに、樹里の見た目が他より格段に優れている()()で靡いていたのだと、心の何処かで思ってしまっていた。

 

 如何に樹里の容姿が他と隔絶していたとしても、少なくともそれだけが理由であそこまで厚遇するなど佐鳥に関しては有り得ない筈だったのに。

 

 そんな勘違いをしていた自分は、二人に何かを言う資格は無い。

 

 これまでの態度を糾弾されても、反論する言葉は持ち合わせていなかった。

 

 勿論、佐鳥はそんな事はしないだろうと分かってはいる。

 

 自分の刺々しい態度も、いつもの事だと笑って済ませるだろう。

 

 あの人は、そういう人だ。

 

 でも、それでは自分で自分を許せない。

 

 だから、言った。

 

 樹里は佐鳥が可能な限り傍にいてやるべきで、その為に協力は惜しまないと。

 

 これに関しては、隊の全員がその場で同意した。

 

 まあ、そうだろう。

 

 嵐山は責任感と善性の塊だから言うまでもなく、綾辻と時枝は表面上は取り繕っていたが樹里の境遇に関して大分怒りを感じていた様子だった。

 

 特に、自分と綾辻は同じ女性だから分かる。

 

 子供を産めない身体になっている、というのは断じて看過出来る事ではなかったからだ。

 

 未だ成人もしていない身ではあるが、「好きな人の子供を産めない」というのが女性にとってどれ程苦痛かは本能で分かる。

 

 実際、佐鳥が生殖機能の障害について説明した時は明らかに樹里の表情は曇っていた。

 

 恐らく彼女自身が、最も辛い筈だ。

 

 それの解決に関しては、どうやら遠征に一縷の望みを懸けているらしい。

 

 話によれば、ボーダーが遠征先として設定しているアフトクラトルという国に彼女の身体を治す手がかりとなる情報があるらしい。

 

 その為に遠征を目指すのだと、樹里自身の口から語られた。

 

 自分は、その時の彼女の眼を見て思わずほぅ、と息を漏らしてしまった。

 

 己の意思を標榜する彼女の瞳は、熱い闘志で満ちていたからだ。

 

 何が何でも、目標を達成する。

 

 そんな、何物にも揺るがぬ強い意志がその顔からは感じられた。

 

 ならば、自分達はそれを応援するしかないだろう。

 

 幸い、彼女が所属する香取隊は今期のランク戦をB級一位で通過している。

 

 その時点で、最低限の資格は有している筈だ。

 

 同時に、ただそれだけで遠征行きが確約される程甘いワケがない事も知っている。

 

 今回の遠征は色々特別らしいが、それでも実技の順位だけでどうこうなる程優しくはない筈だ。

 

 遠征は命の危機は勿論、あらゆる危機の可能性が内包された予想外(イレギュラー)が起きるのが通常である過酷なものなのだから、その選抜に手を抜けないのは当然だろう。

 

 先日の事件の時がそうであったように、遠征先では何処でも緊急脱出(ベイルアウト)が使えるというワケではない。

 

 遠征艇から一定距離離れれば、その適応対象外になるのだから。

 

 実際、自分はその緊急脱出(ベイルアウト)圏外での戦いを経験した。

 

 表面上は取り繕っていたが、「失敗すれば無事では済まない」という恐怖は、心の底に抱いていた。

 

 いつもなら、やられたとしても緊急脱出があるので「仕切り直し」になるだけだ。

 

 自分はトリオンが少ない方だから復帰も早いので、その点だけは利点だとも思っていた。

 

 しかし、実際に緊急脱出(ベイルアウト)が適応されない場所で戦うプレッシャーは相当なものだった。

 

 あれは、実際に体感した者にしか分からないだろう。

 

 遠征経験者である風間隊等は堂々としたものだったが、自分と同じくそんな経験などない香取などは強い克己心で取り繕っていたが確かな恐怖を感じていた様子だった。

 

 今回の事件は早々体験するような内容ではないだろうが、それでも近界では緊急脱出(ベイルアウト)圏外で活動する事など普通に有り得るのだ。

 

 ならば、変に甘い顔をして遠征行きだけを支援するのは間違っている。

 

 むしろ、徹底的にしごきあげて未帰還の可能性を悉く潰しておくべきだろう。

 

 しかし、ただ厳しいだけでは相手がそれを厚意として受け入れてくれる可能性は低い事も分かっている。

 

 だからこそと言うべきか、樹里と佐鳥が共に過ごせるよう全力で配慮する事を決めた。

 

 鞭だけでは、人は付いて来ない。

 

 適度な飴がなければ、人間は頑張れるようには出来ていないからだ。

 

 それに、樹里の事を思えば佐鳥が共にいるというメンタルケアは必須だ。

 

 精神的にも成長している今の樹里は前ほど情緒不安定ではないようだが、それでも安定しているとは言い難い。

 

 ならば、彼女のカンフル剤そのものとも言える佐鳥が可能な限り傍にいてやれるよう支援するのが何より重要だろう。

 

 その為に協力は惜しまないし、何であろうとやってみせる。

 

 自分の覚悟は嵐山達も同様のものを持っているようで、快く賛同してくれた。

 

 しかしどうやらやり過ぎたようで佐鳥からは遠回しに「こっちでどうにかするから程々に」と言われてしまい、渋々妥協案を受け入れた。

 

 だが、樹里への協力に関して手を抜くつもりは更々ない。

 

 あちらはあちらで努力するだろうが、それを後援する為にはあらゆる手を使うつもりだ。

 

 佐鳥もそれは同じだろうし、こちらの想いも分かってくれるだろう。

 

 女性に対して紳士で決して無体な事はしないだろう佐鳥なら、安心して任せておける。

 

 彼は、そこらの男子学生とは違うのだから。

 

 なお、とある自隊オペレーターの姦計によりそんな佐鳥の鋼の理性は音を立てて崩れ去る事になるのだが、それは別のお話である。

 

                          <木虎藍/秀才少女の葛藤~FIN~>





 『がんばるきとら』
 「お節介焼きワーカーホリック秀才少女」

 最初は持ち前の性格から樹里を毛嫌いしていたが、佐鳥から事情を聴かされ態度が180度変わった秀才少女。

 樹里への視線の温度は上がったが、元より自分にも他人にも厳しい彼女なのでその応援方法はスパルタ式で無事に遠征から生きて帰って来られるように全力で試練を与える所存だったりする。

 なお、何かと話す機会に恵まれた為修とは休日時間が出来ればお茶をする仲になっている。

 その場面を某香取に見られて色んな意味でもぎゃられる事になるのだが、それは別の話である。
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