香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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 オッサム書こうと思ったけどその前に旬の話題を。


樹里&佐鳥/一ヵ月遅れのバレンタイン

 

 

「チョコの作り方を教えて欲しい?」

「うん。お願い出来る? 華」

 

 とある日、香取隊隊室。

 

 そこでは一人作業をしていた華の所へ樹里が訪ねて来ており、今まさに用件を話していた所だ。

 

 内容は、「チョコ造りの依頼」。

 

 急な発言に、華らしくもなく眼を白黒させていた。

 

「えっと、確認させてね。今月というか明日あるのはホワイトデーで、バレンタインデーは大体一ヵ月前。なのになんで?」

「バレンタインは、丁度ランク戦の前日で忙しかった上に賢とも会えてなかったの。だから、渡すの忘れてた」

「…………そう。そういえば、そうだったわね」

 

 華は樹里の説明を聞き、得心する。

 

 今日は3月13日で明日にあるのは男性側が贈り物をするホワイトデーの筈なのに何故、と思ったがそういう事なら仕方ないだろう。

 

 2月14日は確かに、翌日2月15日にランク戦を控えており忙しくしていた記憶がある。

 

 加えて現在明らかになっている情報を鑑みれば当時佐鳥は樹里の暴走に居合わせる為に先んじて仕事を処理してその時に備えるべく忙しなく駆け回っていたのだろう。

 

 喫緊の危機が見えている中で日常のそういったイベントに気を配る余裕はなかった、と言われれば納得出来る。

 

(とはいえ、何のフォローもしてないのは頂けないわね。後で詰めましょう)

 

 しかし、それはそれとして現在佐鳥は樹里の彼氏なのだ。

 

 当時はまだ正式に付き合っていなかったとはいえ、あくまでもそれは形而上のもの。

 

 あの頃から実質正式に関係を結んでいないだけで付き合っているも同然だったのだし、何より樹里の心を此処まで掴んでおきながらフォローを怠ったのだから華的には当然有罪(ギルティ)である。

 

 後々詰める文面を考えながらも、華は目の前の樹里との会話に意識を向けた。

 

「それで、樹里としてはその埋め合わせをしたい、って認識でいいのかしら?」

「うん。ぶっちゃけると、バレンタインとかいちいち用意するの面倒だし別にいいかなとか思ってたけど、折角付き合ったんだしそういうイベントはしっかりこなしておいた方が良いと思って。賢が喜んでくれるなら、わたしも嬉しいし」

「ええ、樹里からプレゼントを貰って喜ばないなんて有り得ないからね。良い心掛けよ」

 

 正確には「喜ばないなら分かってんだろうな」という意味だが、樹里はそれを知る由もない。

 

 まあ、佐鳥が樹里から贈り物をされて喜ばない理由がないので、杞憂ではあるが。

 

「話は分かったわ。わたしも料理は得意ってワケじゃないけど、これでも自炊はしてたから人並程度には出来るつもりだから。ただ、お菓子作りはあまりやった事はないけれど」

 

 問題なのは、華としても別段料理が得意というワケではないという事だ。

 

 一人暮らしで自炊している以上、ある程度は出来る。

 

 しかし、少なくとも料理を趣味にしているというワケではないし、専門的な事までは流石に網羅していない。

 

 ハッキリ言って人に教えられるレベルなのかについては、少々不安ではあった。

 

「もう一人助っ人が欲しいところね。とはいえ、葉子は勿論後々面────────作ろうとした事はないでしょうし、引き受けもしないでしょうから無理。かといって、わたしも友人が多いワケではないから料理が得意な人に心当たりは────────」

「ん、一応ないワケでもない。頼んでみよっか?」

 

 え、と華は思わず困惑の声をあげる。

 

 ある意味自分以上に交友関係が狭いだろう樹里から、そんな言葉が出て来るとは考えていなかったからだ。

 

 華自身あまり積極的に身内以外と喋ろうという性格ではないが、樹里は基本的に外に関係性を広げようという意識が皆無に近い。

 

 既存の関係性で満足している為に、新しい人間を自分の輪の中に入れるのを厭う傾向にあるのだ。

 

 そんな樹里から「心当たりのある知り合いがいる」と言われれば、面食らうのも仕方ないだろう。

 

「一応聞くけど、誰?」

「嵐山隊の、綾辻先輩。検査とかでお世話になった関係」

 

 あと、と樹里は告げる。

 

「最近色々と応援してくれてるから、多分力になってくれると思う」

 

 

 

 

「勿論おっけーだよっ! さぁさ、入って入って」

 

 嵐山隊、隊室。

 

 華は最初はそのまま突撃しようとした樹里を制してアポを取り、いざ綾辻に事情を説明すると二つ返事が飛んで来た。

 

 思考時間、およそ0.1秒。

 

 頼み事の内容を理解した綾辻は、即座に了承の返事を返したのだった。

 

「えっと、良いんですか? 一応言っておきますと、樹里は料理どころか家事も碌にした事がないんです。少なくとも、一人では生きていけないレベルで」

「あー、そんな感じなんだね。まあ、これまでを考えれば仕方な────────」

「いえ、生まれつきです。小さい頃からものぐさでしたから、この子」

 

 そっかー、と苦笑いを浮かべる綾辻だが、かといってその顔には倦怠感は微塵も浮かんでいない。

 

 むしろ喜色を隠し切れず、ウキウキした様子が滲み出ている。

 

(…………綾辻さん、こんなにウチの樹里の事気に行ってたんだ。へぇ、そっか。そうなんだ)

 

 その様子に、華は知らず眼を細める。

 

 コミュ障が極まっている樹里が外で関係性を作るのは、良い事だ。

 

 理性では、分かっている。

 

 しかし、自分の知らない幼馴染の顔をこの少女が知っているというのは、中々に心穏やかではいられないようだった。

 

 この場に香取がいなくて良かった、とも思う。

 

 きっと彼女ならこの燻った気持ちを遠慮なく表に出して、面倒を起こしていただろうから。

 

 それくらいは、分かる。

 

 だって、自分とて他人事ではないのだから。

 

「ん、あー、えっと、実はね。わたし、樹里ちゃんがまだ佐鳥くんとだけしか交流してなかったタイミングで検査の為に呼び出されて、その縁で知り合ったんだよね。その経緯もあって色々と親交を重ねて来ただけだから、大切な幼馴染を横取りする気はないよ」

「え、いえ、そういう事でしたか。検査ってそういう────────すみません、顔に出ていましたか?」

「なんとなく、そうじゃないかなーって。広報部隊なんてやってると人の顔色伺うのが生態のように染み付いちゃうんだよね。もう、癖になってる感じかな」

 

 成る程、と華は得心する。

 

 いきなり綾辻に核心を突かれて内心動揺していたが、思えば彼女は広報部隊の一員。

 

 メディアに多く露出し、多種多様の人種と交流を重ねて来た経緯がある。

 

 故に、人間観察の分野では文字通り()()が違うのだ。

 

 実践こそ、百の知識に勝る。

 

 ただ彼女は、それを体現しているだけなのだから。

 

「とにかく、樹里ちゃんは料理の基本とかも全然分かってない感じでおっけー?」

「うん、なんにも分からない。だから、ある程度形になって食べられればそれで良い。高望みはしないよ」

「おっけーおっけー、それならチョコの形を整えてトッピングするくらいで済ませよっか。やり方はねー」

 

 そして、彼女は仕事も早く正確だった。

 

 初心者どころか料理を含む家事関連全てが初体験同然の樹里に対して丁寧に、そして的確に指導していく様は見事だった。

 

 樹里も初めは戸惑っていたが次第に内容を理解し始め、手捌きが徐々に様になっていく。

 

 己では無い誰かによって幼馴染が変わっていくのを垣間見ながら、華は自分だからこそ分かる樹里の行動傾向を共有して注意点を助言し、綾辻と共にチョコ作りを手伝うのだった。

 

 

 

 

「というワケで、一ヵ月遅れたけどハッピーバレンタイン。受け取って」

「ありがとう。凄く嬉しいよ、樹里ちゃん」

 

 翌日、夕刻。

 

 佐鳥を連れて自分のマンションへと帰宅した樹里は、可愛らしいラッピングをされたチョコレートを手渡していた。

 

 明らかにそれは市販のものではなく、やや不格好な包装が何処か微笑ましい。

 

 用件も告げずに問答無用でマンションまで連行された佐鳥だったが、樹里が何をしたかったのかを理解するに至りこの上ない嬉しさがこみあげて来る。

 

 あの樹里が。

 

 家事など一切せず料理など論外だった樹里が、自分の為にチョコレートを作ってくれた。

 

 これを喜ばずして、何を喜ぶと言うのだろうか。

 

 気分は、成長した娘を見守る父親の如し。

 

 完全に保護者目線で、佐鳥はほっこりしていた。

 

「むぅ」

 

 それが面白くないのは、樹里である。

 

 佐鳥が自分のプレゼントに喜んでくれているのは、分かった。

 

 しかしどう見ても彼の視線は、彼女へ向けるものというよりも庇護者へ向けるそれだ。

 

 樹里としては佐鳥に保護対象としてではなく、ちゃんと対等な交際相手として見て欲しい。

 

 そういう欲求が、しっかりとある。

 

 されど、佐鳥のお節介焼きの性分というか、面倒見の良さは身を以て知っている。

 

 恐らく、これを指摘したところで頷きはするだろうが実感まではしないだろう。

 

 佐鳥は大切なものは大事に大事に愛情を注ぎ、壊れ物を扱うかの如き慎重さで対応する。

 

 それも悪くはないのだが、彼氏彼女として今の状態で満足かと言われれば否だ。

 

「賢」

 

 だから。

 

 樹里は、もう言い訳のしようのない方法で佐鳥の意識を変える事に決めた。

 

 ジト目で自分を睨みつける樹里に対し、佐鳥はなんだろう、と首を傾げる。

 

「味、感想欲しい。今食べて」

「あ、うん、分かった。じゃあ、いただくね」

 

 そっか、感想が聞きたかったのかと佐鳥は意気揚々とラッピングを外し、不格好なハート形のチョコをその手に取った。

 

 シンプルな形のチョコではあるが、ホワイトソースで「Dear Satori」と刻まれており、頑張ったんだなぁ、としみじみと感じ取る。

 

 パキリ、と一口頬張ってみた。

 

 チョコレートの甘い香りが口の中に広がり、くどさのない丁度良い甘さが身に染みる。

 

 初めて作ってこれなら、上出来の部類だろう。

 

「美味しいよ、樹里ちゃん。ありがとう」

 

 これなら用意したホワイトデーのお菓子も無駄にならずに済みそうだ、と樹里に礼を言いつつどのタイミングで渡そうか、と佐鳥は思案する。

 

 そんな中、樹里が不意に佐鳥に近付き、告げる。

 

「ん、ちょっとわたしも食べてみたい。一口ちょうだい」

「うん、いいよ。味見とかしてなかったの?」

「それはそれ、これはこれ」

「まあ、いいけどね。どうぞ」

 

 自分のあげたチョコを自分でも味わってみたいというのは分からなくはないので、佐鳥は疑う事なくチョコをパキリ、と割ってその破片を樹里に差し出した。

 

 ぱくり、と樹里は差し出されたチョコを咀嚼し、噛み砕く。

 

「うぇ…………っ!!??」

「ん、むぅ…………」

 

 ────────そして、一気に佐鳥と距離を詰め、抱き着きながらそのまま唇を重ねた。

 

 ただの、じゃれあいのようなバードキスではない。

 

 思いっきり舌を入れた、ディープなやつだ。

 

(うわわ、口の中が甘くて、樹里ちゃんの舌がなんか気持ちい────────って、何何何…………っ!!??)

 

 突然の恋人の行動に眼を白黒させる佐鳥だが、樹里は容赦をしない。

 

 遠慮なく唇を舌で割り開き、口内を舐め回す。

 

 唾液と混じったチョコが佐鳥の口内で絡み合い、甘みと共に口腔内を弄られる快感で佐鳥の意識が混濁する。

 

「んむ、むぅ、ん…………」

(樹里ちゃん、なんか色っぽ────────って、いやいやそうじゃなくてぇ…………っ!!)

 

 恋人の強襲に対し、佐鳥は困惑するしかない。

 

 樹里はたっぷり数分間佐鳥の口内を味わい尽くすと、ようやく顔を離した。

 

 二人の唇の間には唾液の橋がかかっており、何処か淫猥な印象を受ける。

 

 混乱から回復しつつある佐鳥は、ゆっくりと樹里の方を向いた。

 

「樹里ちゃ…………」

「賢、わたし、賢の子供じゃない、恋人。保護者のつもりで見られるの、イヤ」

「…………!」

 

 そして、気付く。

 

 樹里の顔には、明確な抗議の色が浮かんでいた事に。

 

 確かに、彼女の言う通りだ。

 

 自分は何処かで、樹里の事を庇護者として見ていた。

 

 果たして、自分が彼女に求めた関係性は何だったのか。

 

 それを忘れていたのだから、苦情は甘んじて受けるべきだろう。

 

「だから、こうすれば分かると思った。賢、興奮した?」

「あ、えっと」

「勃った?」

「ノーコメントでお願いしますっ!!」

 

 しかし直後、樹里の瞳に肉食獣のような輝きを見て佐鳥は全力で後ずさった。

 

 危うく今の質問に返答していれば、どうなっていたか分からない。

 

 それくらい、今の樹里が放つ色香は凄まじかった。

 

 割と鈍い方である佐鳥にも分かるくらい、女の顔をしている。

 

 そうと一目で分かるくらい、彼女の色香は匂い立っていた。

 

 身体が反応してしまったのは確かなので、勿論触れられるワケにもいかないという理由があったりするのだが。

 

「反応したなら、嬉しい。して欲しい時は、言って。いつでもやるから」

「え、えっと、そのう…………」

「むぅ、まだ理性で会話してる。もうちょっとやっとこう」

「って、待って、待って待って樹里ちゃぁん…………っ!!??」

 

 素直でない恋人に痺れを切らした樹里が、再びがしりと佐鳥の顔を掴んでもう一度唇を重ねた。

 

 樹里の攻勢は暫く続き、その日は佐鳥の理性がガリガリ削られる夜になったのだった。

 

 

                      <番外/一ヵ月遅れのバレンタイン~FIN~>





 『バレンタインのじゅり』
 「情念特急恋愛少女」

 ランク戦諸々の影響でやりそびれていたバレンタインを一ヵ月遅れで実行した女主人公。

 作成途中で色々突飛な真似をしそうになるも、それを華のカバーで抑え込み何とか完成まで漕ぎ付けた。

 途中でお湯に直接チョコを入れそうになったり砂糖と塩を間違えかけたりしたのもご愛敬。

 いざ渡してみると保護者目線で見られたのが不満だったので、盛大に逆襲した。

 なお、樹里の攻勢が激しくなったのはこの時が切っ掛けだったりするのかもしれない。
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