「────────!」
MAP中央付近。
そこで、二人のエースが激突していた。
香取は拳銃を抜き放ち、銃撃。
数発の弾丸が、曲線を描いて七海を襲う。
放たれた銃種は、
敵を追尾し狙い撃つ、スタンダードな弾丸の一つである。
この弾の利点は、何と言ってもその追尾性だ。
相手のトリオン、もしくは視線誘導で対象を決定し、そこへ向かうように調整をかけた弾を撃つ。
細かな調整をすれば
銃手トリガーの武器は、即応性だ。
引き金を引く、という
それは即ち射手トリガーのようにキューブの展開・分割・射出という手間を省く事が出来る事に他ならず、近距離での応酬にはこちらの方が適している。
少なくとも、相手からの距離がそう離れていないこのような区間での戦闘では、射撃トリガーは基本的に使い物にならない。
相手が攻撃手であれば猶更、射出までの猶予期間の間に隙を突かれて終わるケースが殆どだからだ。
今こうして近距離の撃ち合いが出来ているのは、香取が持ち込んでいるのが射手トリガーではなく銃手トリガーである事も大きい。
そうでなければ、機動力の高い相手への牽制もままならなかったであろう。
「…………!」
だが、それでもただの牽制程度の弾でやられてくれるような生易しい相手ではなかった。
七海はグラスホッパーを踏み込み、跳躍。
無数の
その回避軌道はまるで、弾が何処を通るのか全て分かっているかのような有り様であった。
(分かってはいたけど、ここまでってワケッ!? 影浦先輩でも、こんな真似出来ないわよっ!?)
聞いてはいたが、矢張り影浦のものとは似ているようで違うようだ。
影浦の場合、相手の攻撃意思────────即ち、殺意や敵意といったものを感じ取り、その中身から攻撃内容を
故に相手の攻撃の軌道はおろか、それが本命なのかそうでないのかも相手によっては分かってしまう回避能力特化の症例だった。
だが、七海のそれはダイレクトに攻撃判定の
刺さる感情から推察するのではなく、直接攻撃判定が起きる範囲が感知されるのだ。
つまりそれは、察知から回避までのタイムラグがほぼゼロである事を意味する。
どのタイミングで攻撃を感知しているのかはまだ分からないが、攻撃を当てるには相当骨を折りそうなのは事実だった。
「チッ!」
そして当然、七海もただ撃たれるだけではない。
お返しとばかりに、メテオラのキューブを生成し放って来た。
その生成から発射まで、殆どタイムラグがない。
恐らく、最初から分割数や射出軌道等は計算して展開しているのだろう。
経験の積み重ねによる慣れを、自身の戦闘行動の一環として完全に落とし込んでいるのだ。
キューブの分割は最小限で、数は4つ。
しかし、その一つ一つのサイズがかなり大きく、爆破規模も無視出来るものではないだろう。
それをあろう事か、七海は自身の近くで起爆させた。
彼が立っていた屋上の上に一つのキューブを落とし、爆破。
タイミングが悪ければ、自身諸共消し飛ばしてしまう暴挙。
「…………!」
だが無論、そんな浅はかな失敗をするような相手ではない。
七海は当然の如く、無傷。
どころか爆発によって生じて煙を煙幕代わりに姿を隠し、一瞬香取の視界から消え上せる。
そしてグラスホッパーを連続起動し、跳躍。
香取の背後に回り、スコーピオンを振り下ろす。
「舐めるな」
しかし、香取は振り向き様にスコーピオンを一閃。
背後に迫る毒の尾を、華麗に捌いてみせた。
そこへすかさず、膝撃ちを敢行。
その先端にはブレードが飛び出しており、このまま行けば七海を串刺しに出来る寸法だ。
「勿論、舐めてはいないさ」
ガキン、という音と共にブレードが止められる。
七海は自身の腹から二又のスコーピオンを生やし、香取の攻撃を受け止めていた。
それは、こちらの攻撃の軌道が完全に分かっていなければ出来ない防御。
回避特化の
それこそが、七海の強さの根幹の一つだった。
(攻撃が当てれる気がしない…………っ! 厄介とは思ってたけど、ここまでだなんて…………っ!)
ブレードを振るい、攻撃を続行しながら香取は内心で舌打ちする。
影浦と似た回避特化の副作用に加え、A級昇格を果たした確かな実力。
一筋縄ではいかないとは思っていたが、当初の想定なんて軽く超え過ぎていた。
どんな攻撃を放っても、精密な回避動作、或いは体捌きで防がれてしまう。
先程から数分以上に渡って戦闘を継続しているが、掠り傷すら与えられていない。
香取の想定以上に、七海の生存能力は群を抜いていた。
(影浦先輩と似た
そう、七海の回避能力は香取の予想を遥かに超えていた。
特に目につくのは、体捌きの巧みさだ。
似たような能力を持った影浦のそれが野生動物の如き本能に根差した回避動作なのに対し、こちらはより機械的な印象を受ける。
言うなれば、攻撃の軌道を察知して自動的にそれを避けているような印象だ。
とはいえ、件の白の星関連で戦った
それは、七海がその回避能力に頼り切りではないという事だ。
(影浦先輩と違ってフェイントと本命の見分けは能力では付けられないと考えていたし、多分それは合ってる。けど、こいつはそれを自分の戦闘経験で補ってる…………っ! なんというか、躱し慣れてるのよ…………っ! まるで、
聞いた限りでは、七海の副作用は攻撃の当たり判定の範囲を自動的に識別するもの。
即ち、その攻撃が相手の囮か本命までは察知出来ないと見ていた。
恐らくそれは、間違ってはいない。
しかし七海はそれを、自身の戦闘勘と経験でカバーしていた。
決して、能力に頼り切りの雑魚ではない。
自分の
それが、七海の動きからは見て取れた。
(反射的に躱してる攻撃と、意識して躱してる攻撃がある…………っ! そして、意識して躱してる攻撃は本命のものばかり…………っ! 相手の攻撃の本気度を、能力じゃなく経験で見抜いてる…………っ! 純粋に、戦闘が
これまでの戦闘で、香取は囮と本命を織り交ぜながら攻撃を行っていた。
されど七海は陽動の攻撃は能力による反射的な回避行動でカバーし、本命の攻撃は自身で身体の動きを制御して捌いている。
腰の入っていない
七海は、そういった動きをしていた。
その巧みさは、仮にもB級一位にまで到達した香取の攻撃を全く寄せ付けていない。
(タイマンでの突破力なら、誰にも負けない自信はある…………っ! けど、こと遅延戦闘に限って言えばこいつ以上の奴をアタシは知らない…………っ! グラスホッパーで跳び回る影浦先輩みたいな奴なんて、マジで理不尽過ぎるわ…………っ!)
厄介なのは、七海が香取と同等以上の機動力を持っている事だ。
ただでさえ攻撃を当てるのが困難な上に、的が高速で跳び回る為に捕捉する事すらそもそも難しい。
しかも、時折
自分が被弾しないよう撃てるからと、七海は至近距離でもどんどん爆撃をかまして来るからだ。
(普通、メテオラは近距離では使えないでしょうが…………っ! 幾ら回避出来るからって、近距離であそこまでバカスカ撃つ奴がいる…………っ!?)
通常、メテオラは相手と至近距離まで接近した状態では使わない。
使うとすればそれは諸共巻き込んだ自爆か、何か考えがあるかだ。
しかし、七海の場合この常識は通用しない。
至近距離で起爆させたとしても、七海はその爆発による攻撃判定を正確に察知出来る為、基本的に自身の爆撃に巻き込まれる事がない。
それをいい事に、七海は爆撃を連打し周囲を破壊しながら接近する、という俗にいうメテオラ殺法という戦術を躊躇なく用いて来る。
「…………!」
七海がトリオンキューブを展開したかと思うと、それを4つに分け射出。
至近の家屋に直撃させ、一斉に起爆。
大爆発が、周囲を席捲した。
そして。
爆煙の中から現れた七海が、スコーピオンをその手に香取に斬りかかる。
これが、七海のメテオラ殺法。
至近距離で爆撃を連打し、その中を最小限の動作で潜り抜けながら肉薄して来る悪夢のような戦法。
並の相手であれば、1対1でこれをやられるだけでほぼ詰みだろう。
「舐めるな、って言った…………っ!)
だが、香取は決して並の相手などではない。
冷静にグラスホッパーを踏み込み、真横に跳躍。
七海の攻撃を躱し、そのままホルスターから抜き放った拳銃の引き金を引く。
銃声と共に、無数の弾丸が七海へ向かう。
弾種は、アステロイド。
この距離で
「────────」
されど、この程度の迎撃で七海が傷付く事はない。
ふわり、という舞うような動きで無数の弾丸を全て回避。
そのままメテオラのキューブを再び展開し、即座に起爆した。
「く…………っ!」
香取は咄嗟に距離を取り、爆発を回避。
いつ七海が来ても良いように身構え、跳躍を繰り返す。
一ヵ所に留まる愚は、冒さない。
敵は、自分と同等以上の機動力を誇るスピードタイプ。
動かずに一ヵ所に留まるのは、詰みの盤面まで持って行かれかねないリスクがある。
あんな爆撃連打という手札があるのだから、猶更だ。
(とにかく、今は遅延戦闘に付き合うしかない。本命は、アタシじゃないんだから…………っ!)
(…………! やっぱり、強い。ていうか、巧い…………っ!)
三浦は熊谷のブレードを自身の弧月で受け止めながら、内心で驚愕していた。
先程から戦闘を継続しているが、どちらも決定打を撃てていない。
正しくは、撃たせて貰えないのだ。
「…………!」
熊谷の背後から、無数の弾丸が飛来する。
彼女が予め生成していた、
熊谷は、女性にしては上背が高く体格に恵まれている。
その身長は171cmで、三浦とは2cmしか違わない。
己の体格を生かし、熊谷は自身の背面でキューブを生成し、それを撃つという動作を繰り返している。
下手をすれば自分自身を撃ってしまうかもしれない方式であるが、今まで誤射したケースはない。
後から追加したにしたは堂に入った、卓越した使い方である。
(熊谷さんは、弧月を両手で持って戦うタイプだ。その戦い方に適応させる為に、
熊谷は元々、弧月を両手で持ち堅実な守備を定評とする攻撃手だった。
今でもそのスタイルの根幹は変わっておらず、弧月は両手で持って戦っている。
これは彼女が受け太刀を主とする防御的な攻撃手だからであり、その性質上両腕が空く事はまずない。
だからこそ、
(
三浦は知る由もないが、熊谷がこのような技術を身に着けられたのはかなり後になってからである。
転機は二つ。
最終ラウンドでの犬飼との戦いと、大規模侵攻でのヴィザ翁の攻撃を防いだ経験だ。
前者は己の全てを以て戦いに臨まなければどうにもならない強敵である犬飼を打倒する為に全霊を駆使した結果、持てる
あの戦闘で熊谷は戦闘者としてのレベルが一段階上がり、更に大規模侵攻でたった一度とはいえヴィザの剣戟を受けた事で圧倒的格上に対する攻撃の捌き方を覚えるに至った。
それらの経験が彼女を成長させ、今ではノールックでハウンドを使いこなすまでとなったのだ。
その証こそ、彼女の隊服に刻印された
経験は、嘘をつかない。
それは、三浦も身を以て知っている事だった。
(オレの知ってる熊谷さんと、同じに見ちゃ駄目だ…………っ! 相手は、紛う事なき
三浦は弧月を構え、熊谷との戦闘を続行する。
ひっそりとした路地裏で、光と剣戟の音が幾度も響き続けていた。