香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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クロスランク戦After/夢の終わりの始発点

 

 

「…………ん」

 

 ゆっくりと、目を開ける。

 

 ぱちくり、と樹里は瞬きをする。

 

 そしてきょろきょろと、周囲を見渡した。

 

「…………ここ、どこ…………?」

 

 黒。

 

 周囲一面の黒い闇が、視界一杯に広がっていた。

 

 足元だけが妙に明るく、光はまるで道のように真っ直ぐ広がっている。

 

 見覚えのない場所であるのは、間違いない。

 

 少なくとも、こんな所は樹里の記憶には存在しなかった。

 

「…………ったく、なによここ? 樹里、なんだか分かる?」

「ううん」

「そっか。まあ、そうよね」

 

 そして、この場にいるのは樹里だけではなかった。

 

 自身の大切な幼馴染である香取もまた、いつの間にか隣に立っていた。

 

 状況が理解出来ず困惑しているのは、見れば分かる。

 

 しかし、見覚えのない場所で一人きりではないという事実が、密かに樹里を安堵させた。

 

 勿論、それを口に出す事はないのだが。

 

「────────そう警戒しなくて良い。経験上、この場に害はないし無事に帰る事も出来る筈だ。「道」から外れる事はおすすめしないけどね」

「アンタは…………」

「改めて、良い試合をありがとう。()()()()()と、挨拶し直した方が良いかな?」

 

 突然話に割って入った闖入者を見れば、そこには先程まで戦っていた相手────────七海が、笑みを浮かべて立っていた。

 

 戦闘中とは異なる柔和な笑みを浮かべる七海に対し、香取は胡乱な眼を向ける。

 

 無理もない。

 

 この理解不能な状況を、まるで既知の事であるかのように語るのだ。

 

 疑念を抱くのも、当然と言えよう。

 

「一応、私にも説明が欲しいわ。もしかして、薄っすらと思い出して来たあの「夢」が関係してるのかしら?」

 

 また、闖入者は一人ではなかった。

 

 那須もまた、この良く分からない空間へ現れていた。

 

 自分達同様、困惑の感情と共に不安気な視線を七海に向けている。

 

 そんな彼女に対し、七海は肩をポンと叩いて告げる。

 

「そうだね。それを含めて、話をしよう。聞いてくれるかな」

「ええ」

「…………まあ、聞いてみようじゃない」

「ん」

 

 そして、七海は語り出す。

 

 自分がかつて経験した、夢の中での異なる世界線との邂逅の話を。

 

 

 

 

「…………成る程。つまり此処、ってーかさっきのランク戦含めてお祭り作品的なクロスオーバーものの舞台みたいなものなのね。別の世界の人間同士が特に疑問を持たずに戦って、話すトコって意味で」

「そのクロスオーバーって単語がどういう意味かは知らないけれど、多分その認識で会っていると思う。理解してくれて嬉しいよ」

「たまにそういうゲームがあんのよ。違う設定の作品同士のキャラなのに違和感なく溶け込んでたり、戦った後和気藹々と話す場が設けられる時点でそれっぽいわ。まあ、当事者になってんのは変な感じだけどね」

 

 七海の説明を聞き終え、香取は自分なりにこの現象に理解を示した。

 

 彼女がゲーム好きでその手の知識にそこそこ詳しい事もあり、七海の説明をすんなり受け入れる事が出来たのだろう。

 

 彼女に付き合ってゲーム自体はするもののそこまで熱心ではない樹里は、「とにかくこの場に害はない」事だけは察して沈黙している。

 

 元々、親しくない相手とは最低限の会話のみで済ませようとする少女だ。

 

 もしも彼女一人でこの場に呼ばれていた場合、碌なコミュニケーションも取らずに場を沈黙で支配していたであろう事は言うまでもない。

 

 基本彼女は対人関係は香取や華、佐鳥といった身近な人間に任せきりな事が多いので、反応を返しているだけ上等な部類だろう。

 

 そんな樹里の性格を知っているからこそ、香取は積極的に発言しているのだ。

 

 放置すれば一切会話が進まないであろう事など、経験上理解しているのだから。

 

「けど、改めて理解すると不思議な感じね。私たちとは別の世界の香取ちゃんと────────初めまして、になるかしらね。樹里ちゃん、で良かったかしら」

「…………木岐坂樹里。合ってる」

「よろしくね、樹里ちゃん。そっちの世界で交流があるかは分からないけれど、那須玲よ。こっちが、玲一。私のチームメイトで、恋人よ」

 

 そう言って、那須は樹里に手を差し伸べる。

 

 かつて七海と自分以外の世界を認める事が出来なかった少女が見せる姿としては成長したと言う他ないが、そんな事情は樹里は知らない。

 

 樹里はその手を取るかどうか迷ったが、那須が自分から七海を「恋人」と紹介して来た事やその顔に隠し切れない惚気が出ている事を鑑みて、握手をする事に決めた。

 

「…………よろしく。賢がいないのが、残念。恋人自慢は、好き」

「賢、っていうと…………もしかして、嵐山隊の佐鳥くん?」

「ん、正解。わたしの、恋人」

「意外な名前を聞いたわね。彼とはあまり接点がなかったのだけど、恋人を作るタイプには見えなかったわ」

「当然。そっちの世界に、わたしはいない筈だから。だから、そっちの賢が恋人いないのはおかしくない」

 

 なんだかんだで、恋人の惚気話を出来る相手に飢えていた、という事情もある。

 

 元々交友関係が酷く狭い樹里にとって、恋人に関する話を気軽に出来る知り合いというのは中々いなかったのだ。

 

 香取隊でそれをすれば空気が凍り付く事は経験上分かっているし、嵐山隊とはそこそこ交流はあるがとうの佐鳥が彼等の前で惚気話をするのを恥ずかしがっているので、無理をしてまでそういう事をしようとは思っていなかった。

 

 しかし、話を聞く限りなら一切の後腐れの無い場で自分と同じように惚気話をする相手に飢えていそうな相手が現れた。

 

 那須の場合も樹里と同じレベルでコミュ障気味なので、部隊の人間以外で気軽にそういう話が出来る人間はいなかった。

 

 こうして、両者の利害の一致によりこの場に限り少女二人が奇妙な友情で結ばれる事になる。

 

 樹里も那須も、年頃の少女。

 

 恋愛譚(コイバナ)を好むのは、自然の成り行きと言えよう。

 

「そういえば、那須先輩はもうヤった?」

「…………っ!? あ、い、いえ、そういうのはまだ、その…………」

「勿体ない。私も本番はまだだけど、その手前なら幾つか。具体的には────────」

 

 なお、遠慮がなくデリカシーもない樹里は相手がほぼ初対面同然の状態であるにも関わらずディープな話題に躊躇いなく踏み入り、那須を困惑させていた。

 

 七海と那須はかなりの期間拗れた関係が続いており、正常で健全な関係となり恋人同士になったのはつい最近である。

 

 那須側がそういった知識についこの前まで無頓着だった事も原因の一つだが、そちらの性教育(まなび)は彼女の色々な暴挙に憤慨した小夜子によって強制的に叩き込まれている。

 

 なので「そういう事」の具体的な内容まで理解する事になった那須は、初心な少女同然の痴態を晒しているというワケだ。

 

「ったく、いい加減にしなさいこの色ボケ娘がっ!」

「あぅっ」

 

 無論それを黙って見ている香取ではなく、樹里に拳骨を落として那須から引き離した。

 

 頭を押さえて涙目になっている樹里に対し、香取は半眼で睨みつける。

 

「「こっちの」那須先輩とはほぼ初対面でしょうが、アンタは。アンタみたいな色ボケと那須先輩みたいな落ち着いた大人っぽい美人さんを一緒にすんじゃないわよ」

「ん。私も、美少女度ならちゃんと張り合えるよ?」

美少女(わたし)を前に良い啖呵ねアンタ」

「だって、私の方が美少女だから。ミステリアスさとスタイルなら圧勝」

「言ったわねこの野郎アンタのはミステリアスとかじゃなくてただの天然馬鹿とかそういう類だってのがまだ分からないのかしらそしてその生意気な口はこれかしらそれともこうかしら…………っ!?」

いふぁい、ふぉうこ(痛い、葉子)

 

 あけすけに反論するどころか意気揚々と自分の容姿を自慢して来た樹里に対し、香取は頬を思い切り引っ張る事で制裁。

 

 そのまま二人でもみ合うも、格闘能力で樹里が香取に敵う筈もない。

 

 結局見苦しい少女達の喧嘩(キャットファイト)は香取の勝利で幕を閉じ、樹里を物理的に黙らせた香取はぺこりと那須に頭を下げた。

 

「…………すみません。失礼しました。こいつには良く言って聞かせますんで」

「い、いえ、大丈夫よ。少し驚いただけで、木岐坂さんに悪気が無いのも分かるもの。だから、気にしなくても良いわ」

 

 それより、と那須は続ける。

 

「こう言っては失礼になるかもしれないのだけれど、香取さんからそうやって頭を下げられるのってなんだか新鮮なのよね。えっと、その…………」

「…………まあ、言いたい事は分かります。アタシも、ちょっと前まで年上に敬意を払うとか、そういうの無頓着でしたし」

 

 香取は那須が言わんとする事を理解し、頭をポリポリと書く。

 

 自分が周りにどう見られていたかは自覚があるし、性根が変わったというワケでもないのであながち間違ってはいない。

 

 しかし、特別な因縁もなく実力的にも敬愛すべき相手であり戦闘中でもないのなら、相応の態度を以て望んでも構わない。

 

 そういう心境になっている事は、事実だった。

 

「貴方達の道行も、少し気になって来たわね。どうかしら? 教えてくれるなら代わりに私たちの世界がどうだったのかを話そうとも思うんだけど、良いかしら? 玲一」

「ああ、そちらが良いなら構わない。どうだろうか?」

 

 香取の変化を見て矢張り興味が沸いたのか、那須が提案をして来る。

 

 即ち、「自分達の歩んで来た道筋を話す代わりにこちらの歩みも教えて欲しい」と。

 

 二人共言葉尻のニュアンスから強要するつもりはなく、断ればそこで話はお仕舞いになるだろう。

 

 チラリと、香取は樹里を見据えた。

 

「…………樹里」

「ん、いいよ。もう元の世界じゃ知られてる事だし、此処で話しても問題ない」

「アンタがそう言うなら、いいわ。お待たせしました。お話します」

 

 そして、香取は語る。

 

 自分達が歩んで来た、物語を。

 

 樹里を中心とした、様々な苦難の歴史について。

 

 

 

 

「…………そう。大変だった、と簡単に言うのは失礼かしら」

「いえ、終わった事ですから。とうの本人がこの調子なので、問題ないです」

「ん。今は賢とラブラブ。だから幸せ。おーるおっけー」

 

 話を聞き終え、神妙な面持ちになった那須に対し香取は苦笑いを浮かべ、樹里はブイサインを決める。

 

 もう気にしていないというアピールなのだが、辿って来た内容が内容なだけに那須も七海も絶句していた。

 

 何かあるだろうとは思っていたが、想像の数倍どころか数十倍重い背景を背負っており、開いた口が塞がらないとはこの事だろう。

 

「…………近界で受けた被害の影響で、子供が作れなくなってる、ね。本当に、許し難い事をするものだわ」

「それについては同感です。でも、やらかした当人たちはとうにくたばってるみたいなので、後はこの子の身体を治す手がかりを求めて近界遠征を狙って行こうと思ってるんです。ヒュースの話なら、アフトクラトルに行けば情報が手に入る可能性があるそうですから」

「成る程、件の国を滅ぼしたアフトクラトルならばその可能性もあるか。遠征を目指す理由が無い俺達が言うのは適当か悩むが、後悔のないようにやってくれ。失った後では、遅いんだからな」

 

 何処か遠くを見るように、七海は告げる。

 

 実際に「失った」彼が言うその言葉には、重みがあった。

 

 その雰囲気に、気付いたのだろう。

 

 香取の空気が、より真剣なものに変わる。

 

「えっと、それじゃあ」

「ああ、君達がきちんと話してくれたんだ。俺達も、話すよ。俺と玲が、皆が歩んだ道筋をね」

 

 そして、語り出す。

 

 七海が歩んだ、喪失と到達の物語を。

 

 

 

 

 

「…………その右手、隊服のデザインとかじゃなくて義手で、しかも黒トリガーだったんですか…………」

「ああ、姉さんが遺してくれたものだ。名を、群体王(レギオン)という」

 

 話を聞き終え、香取は七海の右腕をまじまじと凝視した。

 

 漆黒の武骨な腕は、最初見た時は隊服のデザインか何かだと思っていた。

 

 それがまさか、義手であり黒トリガーでもあったというのは、驚天動地にも程がある。

 

「じゃあ、七海先輩はS級隊員に?」

「いや、この黒トリガーは結構特殊でね。一人で使っても、ほぼ意味がないんだ。数人、数十人単位の仲間と共に使用してようやく黒トリガーとしての真髄を発揮出来る。だから、一人で一部隊換算となるS級隊員にはなっていないよ。那須隊(みんな)と一緒にいたいっていう俺の希望を叶えて貰った形にもなるかな」

 

 そう告げる七海は、何処か誇らしげだった。

 

 話を聞く限り、あの黒い義手は彼の姉の遺品同然だ。

 

 亡くした姉の棺そのもののようなトリガーを自身の身体の一部として扱うというのはどういう心境かは、流石に察する事は出来ない。

 

 理解出来ると言う方が失礼だし、こういうのは当人にしか気持ちは分からないものだ。

 

 なんだかんだで身近な人死にの経験が少ない香取にとっては、猶更である。

 

「勿論、さっきの試合では使っていないから安心して欲しい。まあ、使ったとしても多少トリガーの出力が高くなるくらいだからそこまで影響は出なかっただろうけど」

「ちなみに、どういう能力なんです?」

「俺が「友軍」として認識した上でトリガーを起動している者全員の間にリンクを結んで、トリオンとトリガーを「共有」する能力だ。要するに、仲間全員のトリオンやトリガーをいつでも使える能力、と考えて貰って良い」

「…………!」

 

 トリオン及びトリガーの、「共有」能力。

 

 それは単騎で無双する黒トリガーとしては異例の能力だが、同時に他の黒トリガーには無い強みもある。

 

 黒トリガーは緊急脱出(ベイルアウト)が備わっておらず、更にノーマルトリガーとは基本的に併用出来ない為バッグワームもシールドも使えず、ワンオフの能力に頼って戦うしかない融通の利かなさがある。

 

 しかしこの群体王(レギオン)は黒トリガーとしての出力を備えた上で、仲間が増えれば増える程手札が無限に増えて行く。

 

 ゲームでたとえるなら、パーティ全員のMPと技を共有出来るようなものだ。

 

 彼女達が識る黒トリガーのような一見して分かる反則的な性能こそないものの、決して侮れない能力ではあるだろう。

 

「繋がった仲間の数に応じて共有(プール)したトリオンは二乗三乗に増えていくけど、数人程度だとそこまで強化(バフ)はかからないからね。部隊単位の戦いじゃなくて、大規模な戦場でこそ活きる能力と思って貰った方が良いかな」

「それ、あの星に行った時に欲しかったわ。いやまあ、ないものねだりをしても仕方ないんだけど」

 

 ポリポリと、香取は頭をかいた。

 

 思わず敬語が抜けているが、当人は気付いていない。

 

 あのククロセアトロでの決戦では、火力が必要な場面が多かった。

 

 それでも出撃したのが精鋭揃いだった為創意工夫でどうにか乗り越えたのだが、あの場にこの黒トリガーがあればどれだけ楽だっただろうかとも考えてしまう。

 

 まあ、所詮はもしも(if)の話なので意味はないのだが。

 

「けど、黒トリガーを使っていないとはいえ君は俺達に勝ったんだ。そこは誇って良いと思うよ」

「悔しいけれど、負けたのは事実だからね。何が敗因だったかしら」

「うちの麓郎を警戒してなかったから、じゃないかしら。侮るって事はないでしょうけど、「大きな事は出来ない」と思っていたんじゃない?」

「…………ふむ。確かに、そういう側面はあるかもしれないな」

 

 試合の話になった途端、香取は胸を張って告げた内容を七海は首肯して肯定する。

 

 確かにあの場面、若村へ対する警戒はおざなり、とまではいかないがそこまで高くはなかった筈だ。

 

 だからこそあの炸裂弾(メテオラ)での脱線が引き起こされた時、対処が遅れてしまった。

 

 そこは、間違いのない那須隊の敗因の一つだろう。

 

「私が列車から変化弾(バイパー)を撃つ体制が整った時点で、スパイダーの設置役である若村くんへの警戒が薄れていた事は否定出来ないわね。優先順位は間違いなく下だったし、香取さん相手に全霊を注いでいたからそちらを気に掛ける余裕もなかったわ」

「君の爆発力は知っているからね。少しでも穴があれば、一息でそこを突かれかねない。だから君への対処に全力を注いだんだが、それが裏目に出るとはね」

「どいつもこいつも、麓郎を舐め過ぎなのよ。あいつは確かにパッとしないけど、それでも任せた仕事はきっちりやるようになったんだから。前までのあいつと一緒と思った奴ほど、あいつの仕事が()()んだから」

 

 そう語る香取は、何処か誇らしげだ。

 

 単純に、チームメイトが評価されたのがとても嬉しいのだろう。

 

 自己中心的に見えて身内の事は誰よりも大切にする、香取らしい反応だった。

 

「そうだね。確かに今回の敗因は、若村くんを軽視した事も一因だ。そこは、認めなきゃならないね。実質的な決め手も、彼の鉛弾(レッドバレット)だったワケだし」

「あの戦法はこの子相手にも効いた鬼札だからね。イケると思ってたわ」

「…………むぅ」

 

 過去の敗北を話題にされた事で、樹里は頬を膨らませた。

 

 あの敗戦は彼女の苦い記憶の一つであり、未だに若村に対し苦手意識がある原因でもある。

 

 まあ、ROUND2での失敗を期に意識を変えて行こうと思ってはいるのだが、意地っ張りで負けず嫌いな樹里は根本的な部分で若村にマウントを取らずにはいられない。

 

 幼馴染の香取がその若村を大切にしている事やこれまで勝って来れた要因の一つに彼の頑張りがあるのは事実なので、ある程度認めてはいるのだが。

 

 それでも口には出さないあたり、色んな意味で根に持っているのだろう。

 

 香取はいつもの事だと気にせず、そういえば、と続ける。

 

「本当に、七海先輩を倒すのは苦労したわ。回避性能だけなら、影浦先輩より上じゃない?」

「カゲさんは、俺の師匠の一人だからね。戦い方が似るのはある意味仕方ないけれど、戦闘スタイルが少し違うからどっちが上とは言えないと思うよ。一度、一騎打ちで勝てた事はあるけどね」

「影浦先輩が師匠かー。()()って事は、他にも?」

「一応、太刀川さんと出水さんにも師事してるよ。あの二人に斬られたり撃たれたりしながら、回避能力を磨いたんだ」

 

 通理で、と香取は得心する。

 

 A級一位部隊の二人に常日頃から揉まれ続け、戦闘スタイルが似通っている影浦の指導を受けたのならば、あの常識外の回避性能も頷ける。

 

 文字通り、踏んだ場数が違うのだ。

 

「例の爺さんに勝てたのも、そのお陰ってワケ?」

「間違いなくあれはあの場にいた全員の功績だけれど、あの翁の攻撃を凌ぎ続けられたのはそういった下地があったが故だとは思っているよ。本当に、あの人達には感謝してもしきれないね」

 

 既に敬語を失念している香取に対し、七海は感慨深げにそう告げた。

 

 あの戦いは様々な頑張り、奇跡の上に成り立っていると彼は語る。

 

 それは何も間違ってはいないし、彼の黒トリガーは契機に過ぎなかったというのも事実なのだろう。

 

 それでも、こちらの世界では結局取り逃がしてしまったあの翁に完全勝利してのけたのは、偉業と言って良い。

 

 つくづく、試合中感じていた「経験値の豊富さ」が事実であったのだと思い知る。

 

 勝てたのは本当に奇跡であり、次やったらどうなるかは分からない。

 

 負ける気はないが、更に難易度は上がるだろうというのは想像に難くない。

 

 それだけの難敵であり、実力者だったのだから。

 

「でも、君達も近界の星という慣れない環境で未知の敵を相手にきっちり目的を果たして打倒しているじゃないか。もう聞き飽きた言葉かもしれないけど、よく頑張ったね」

「ありがとうございます。あの時は真面目に死ぬかと思ったけど、この子も取り戻せたし後悔はないわ」

 

 何処か清々しい顔で、香取は笑った。

 

 確かに苦しい戦いではあったが、無事樹里を救い出す事が出来たので香取としてあれ以上の戦果はないと考えている。

 

 樹里の身体の問題は残っているが、それを解決するのはこれからだ。

 

 まだまだやるべき事はあるなと、改めて香取は意気込んだ。

 

「おっと、そろそろお別れのようだね。君達はきっと、あちらに歩いて行けば帰れる筈だ」

 

 そうこうしている内に、刻限が来たらしい。

 

 先程まで眩いくらいに輝いていた足元の光が、明滅を始めている。

 

 これが何の前兆かは分からないが、同じような経験をしているという七海が言うのだからその通りなのだろう。

 

「分かりました。では、これで────────次も、負けません」

「ああ、もしも次があればその時はこちらも負ける気はないよ。じゃあ、達者でな」

 

 七海と香取はお互いに不敵な笑みを浮かべ、握手を交わす。

 

 それを見ていた那須と樹里もまた、同様に握手を交わしていた。

 

「短い間だったけど、楽しかったわ。もし機会があれば、本気で撃ち合いもしてみたいものね」

「その時は、負けない。今回は七海先輩はいたから中々暴れられなかったけど、タイマンでやる時があれば遠慮しない。トリオンの暴力、見せてあげる」

 

 こちらはお互いに好戦的な台詞を交わしながら、物騒な相談をしていた。

 

 那須は女性版出水と言って良い程の弾馬鹿であるし、樹里もトリガーハッピーの気があるのでそういう意味でも相性は良い。

 

 もしも二人が何の邪魔もなく撃ち合う事になれば、さぞ見応えのあるものとなるだろう。

 

 その機会がもうないとしても、語るだけならば自由だ。

 

 お互いの意気込みを交わし合うこの瞬間もまた、戦いの後の醍醐味なのだから。

 

「じゃあ」

「さよなら」

 

 両者は手を振り、背を向けて歩き出す。

 

 光の向こうへ、帰るべき世界へ。

 

 こうして、奇跡の邂逅は終わりを告げる。

 

 それぞれが、それぞれの物語へと戻っていく。

 

 終わりのない、人生という物語を歩み続ける為に。

 

 彼女達は、幕のない道へと進むのだった。

 

 

                             <FIN>





 あとは前作でもやった2Ch風味解説とあとがきを書いて終わりとなります。

 最後まで御覧下さい。
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