香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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バトル・オブ・エモーション Revenge①

 

 

「…………準備、出来たわね」

「ああ、そうだな」

「うん、やるだけの事はやれたかな」

「そうね。この一週間でやるべき事はやれたと思うわ」

 

 香取の声に、隊の面々が口々に賛同する。

 

 時刻は、14:00。

 

 決闘の開始まで、1時間を切っている。

 

 間もなく、彼女達にとって重要な戦いが始まる。

 

 或いは、傍から見れば取るに足りない理由であったとしても。

 

 彼女達にとっては、何よりも優先すべき決闘である事に違いは無い。

 

 故に、チームの面々はやる気に満ち満ちていた。

 

 香取は普段の気怠げな雰囲気は鳴りを潜め、若村や三浦も拳を強く握り気合い充分といった風情。

 

 あの華でさえも、その瞳には強い意思がハッキリと浮かび上がっていた。

 

「あの性格クソなイケメン野郎に頭を下げた甲斐くらい、あったと思いたいわね。それなりに成長は出来た気がするけど、これで何の成果もなしだったら承知しないわよ」

「大丈夫よ。二宮さんは言い方には問題があったけれど、言っている内容自体は正しいものだったわ。わたしから見ても、葉子達はちゃんと成長してる。自信を持って良いと思う」

「…………そっか。華がそう言うなら、そうかもね」

 

 だからこそ、言葉は間違わない。

 

 本当に、この一週間で樹里に勝てる見込みが出来たのか。

 

 それを不安がる香取だったが、華のお墨付きを貰った事でどうやら納得したらしい。

 

 香取にとって、華の言葉というものはそれだけ重要な位置を占める。

 

 他の誰の声にも聞く耳を持たない時であっても、彼女の言う事であれば素直に聞く、といった事が香取には多々ある。

 

 それはそれだけ彼女が華を信頼している事の証左でもあり、掛け替えの無い幼馴染の一人として大事に想っているが故でもあった。

 

「オレも偉そうな事は言えねぇけどよ。この一週間、犬飼先輩達のシゴキにも耐えられたんだ。だったら、あとはもう覚悟決めるしかねぇだろ」

「麓郎にしては良い事言うじゃない。なに? 変なモンでも食べた?」

「人が折角綺麗に締めようとしてるっつーのに、なんでお前はそう茶々を入れんだよコラ」

「別に。麓郎らしくないから少し気になっただけよ。前までなら、フツーに偉そうな事言ってマウント取ろうとしたと思うし」

 

 しかし同時に、華以外を相手にする時は塩対応なのも相変わらずだ。

 

 若村の事は身内枠として内心大事にしているのだが、これまでがこれまでだっただけに香取からの態度はそう簡単に変わるものではない。

 

 最初に若村の意識の変化が見られた時も、正直な話香取はずっとは続かないでしょと若干諦観していた。

 

 それが此処まで継続した事について、少なからず驚きを持っていた事は事実なのである。

 

「…………まあ、前までのオレだったらそうだろうな。けど、そういうのはもう卒業したんだよ。悪いか」

「別に悪いとは言ってないでしょ。前みたいに文句言うしか能がないのは勘弁だし、今の方がずっと良いわよ」

「…………そうかよ」

 

 故に、香取なりの文言で今の自分を肯定された事を若村は何処かムズ痒く思っているようであった。

 

 香取には話が通じないと断じていた過去の若村からしてみれば、こんな彼女の姿自体信じられない想いである。

 

 しかし、以前の醜態を思えばこれでも香取が大分譲歩してくれている事は理解出来る。

 

 相変わらず二宮(さいてい)レベルではないものの言葉選びは刺々しいが、これが彼女の素なのだからこの程度は許容して然るべきだろう。

 

「とにかく、やれる事はやったんだから後は野となれ山となれよ。と言っても、負けるつもりなんて微塵もないけどね」

「うん、やるからには勝たなきゃね」

「そゆ事よ。分かってるじゃない、雄太」

 

 えへへ、と香取に褒められて喜色を浮かべる三浦だが、恋する少年は気付かない。

 

 香取はあくまで仲間として褒めただけであって、異性的な好感度はそもそも対象内にすら入っていないという事に。

 

 香取は女子高生らしく、付き合うなら周りに自慢出来る男を、という意識がある。

 

 だからこそイケメンの烏丸ファンである事を隠していないのだが、これはあくまで彼女が見栄の為に張ったポーズのようなものだ。

 

 実際にデートでも出来れば自分の付加価値(ステータス)の為に存分に自慢して回るだろうが、本気で恋してるかと言われれば微妙に違う。

 

 いわば身近なアイドルとの接点を持ちたい俗世的嗜好(ミーハー)故であり、香取自身ガチ恋とは現時点では無縁である。

 

 その彼女からして三浦は異性としての評価は「対象外」判定であるので、何か劇的な変化でもなければまず彼の想いが報われる事は無いだろう。

 

 そんな事は露知らず、想いを向ける少女の称賛に素直に喜ぶ三浦であった。

 

「葉子。そろそろよ」

「ええ、行くわよ」

「ああ」

「うん、行こう」

 

 香取の号令に応じ、香取隊が出立する。

 

 戦場へ向かう彼女達の歩みに、迷いは一つも有りはしなかった。

 

 

 

 

「お、どっちも来たみたいだね」

「ええ、そのようです」

「…………ふん」

 

 ランク戦ブース、その一角。

 

 そこでは、これから始まる一戦を鑑賞する為二宮隊の面々が集まっていた。

 

 犬飼はいつもの笑みを、辻は取り繕った無表情を、そして二宮は普段通りの仏頂面を見せて、対戦が始まるのを待っていた。

 

 今日のこの場に、普段の賑わいはない。

 

 何をどう手を回したのか、今回この場にいるのは参加者に何らかの形で関わった者だけだった。

 

「いよいよか。見ものだな」

「…………まあ、最後まで見守ってやりますよ。ダルいっすけど」

「素直じゃないな、半崎は。良いと思うぞ、正直になっても」

 

 二宮隊の指導に助力した荒船隊は、試合の結果が気になる半崎の意を汲む形でこの場にいる。

 

 半崎自身はそれを認めようとはしないものの、バレバレなので隊の面々には揶揄される始末である。

 

 気負っているのは半崎だけであり、他の二人は明らかな保護者目線でこの場に立っているのであった。

 

「あいつ等が、二宮の指導を受けたらしいな。何処まで出来るようになったか、見せて貰うとしよう」

「…………こんな短期間で急に強くなれる筈ないじゃないですかもう。風間さんも物好きだなあ」

「そんな事言って、お前も試合が気になってるんだろう? 木岐坂には、借りがあるしな」

 

 うるさいよもう、と不貞腐れる菊地原を宥める、風間隊。

 

 彼等は風間が個人的に以前香取に稽古を付けた縁で、此処にいる。

 

 本来は風間だけが来る予定であったが、先日の黒トリガー争奪戦で樹里にしてやられた菊地原もまた、今回の試合が気になっていた様子であった為に全員で来た次第である。

 

 隊員の心情に配慮する、風間らしい措置であった。

 

 以上、三部隊。

 

 実質半数以上がA級クラスという、豪華な面々がこの場に集った観戦者達であった。

 

 話を聞きつけた王子隊も観戦を希望していたが、彼の事を忌避している香取が断じて許さなかった為、参加は見送られている。

 

 香取としても上位に戻った後ぶつかる可能性が高く実力がそう離れていない王子隊に今の段階で手の内を見せるつもりは微塵もなく、それは分かっていたのか王子もしつこく食い下がりはしなかった。

 

 許可が出れば儲けもの、くらいにしか思っていなかったのもあるだろうが、後日何とかして試合の情報を聞き出すつもりである事は見て取れた。

 

 そのあたりは、王子の手腕の見せ所であろう。

 

 犬飼はそんな事を考えながらも、スクリーンを見上げて微笑んだ。

 

「さぁて、仕込むべき事は仕込んだからね。どう転ぶか、楽しみだ」

 

 

 

 

「ルールを確認するわよ。基本的には前回と同じで、アタシと樹里だけが転送位置固定。雄太と麓郎はランダム転送で、佐鳥の転送位置はそっちで任意の場所に指定可能。代わりに、M()A()P()()()()()()()()()()()()。これで良かったわよね?」

 

 香取は、通信で樹里達とルールの最終確認を行っていた。

 

 今回のルールは、基本は前回と同じく香取と樹里だけが個人戦の時のように転送位置が固定。

 

 若村と三浦はチームランク戦と同じくランダム転送であり、佐鳥の転送位置は樹里の側で指定可能。

 

 但し、MAPの選択権は香取隊が所持する。

 

 これが、あの時から何度か打ち合わせをして決まった今回の試合のルールであった。

 

 交渉は香取ではなく華が中心となって行い、樹里は時折佐鳥のアドバイスを受けながらそれに応じていた。

 

『うん、それでおっけー。だよね?』

『そうだよ。ついでに、選んだMAPは約定通りこの場で公表して貰うからね』

 

 故に当然、佐鳥からすかさず補足が入る。

 

 ゲームバランスの調整をしていたのは実質華と佐鳥の二人であり、このあたりもこれまでの打ち合わせで決まった事だ。

 

 樹里は交渉適正は皆無である為、当然といえば当然であるのだが。

 

「分かってるわよ。MAPは────────市街地Dよ」

『へぇ』

『成る程、あからさまに狙撃手を対策して来たねぇ』

 

 香取が公表した選択MAPは、市街地D。

 

 これは巨大なショッピングモールを中心とする地形であり、大抵の場合モールの中が主戦場になる。

 

 その性質上狙撃手は外でモールの中から敵が出て来るのを待ち構えるか、距離を取れないというリスクを背負いながらモール内で戦うしかない。

 

 事実上、狙撃手対策の要因の大きいMAP選択であると言っても差し支えない。

 

 狙撃手二名チームである仮称樹里隊に対して、あからさま過ぎる程対策(メタ)を張ったMAP選択と言えた。

 

「何よ、こっちでMAPを選んで良いって言ったのはそっちでしょ? 文句でもあるワケ?」

『いや、勿論ないよ。定石通りだな、って思っただけでね』

「…………いいわ。すぐにそのニヤケ面を歪ませてやるから、覚悟しなさいよ」

 

 香取はあくまで堂々と、佐鳥の挑発を受け流す。

 

 以前の彼女であれば食って掛かっていたかもしれないが、一週間もの間二宮のマンツーマン指導という高負荷状態(ストレスフル)にあった香取は、段違いの我慢強さを身に着けていた。

 

 二宮の罵倒や暴言に比べれば、この程度は全然マシ。

 

 そんな達観すら抱いている香取に、流石に佐鳥も面食らったようであった。

 

 何故か明後日の方向を向いて口笛を吹いているあたり何か後ろ暗い事がありそうだが、それを追及する気はない。

 

 元より、舌戦で勝てるとは欠片も思っていないのだ。

 

 勝てない土俵には、決して上がらない。

 

 それが、これまでの指導で学んだ鉄則の一つだったのだから。

 

 香取は知らない。

 

 二宮隊に香取隊が指導を受けられたのは佐鳥の手回しのお陰であり、間接的に香取に二宮のマンツーマン特訓という苦行(じごく)を強いたのが彼本人である事に。

 

 その事を自覚しているからこそ、佐鳥は気まずい想いをしているワケだ。

 

 どうやら、二宮は想像以上に()()()()()の態度で彼女達の指導に臨んだらしいと。

 

 今のやり取りで、察してしまったが故に。

 

 察しが良いというのも善し悪しだな、と佐鳥は通信の向こうでため息を吐くのであった。

 

「樹里」

『うん』

「話があるから、戦った後面貸しなさい」

『分かった。わたしも、葉子に話したい事があるから』

 

 そう、と香取は静かに頷く。

 

 画面越しに、二人の少女の視線が交錯する。

 

 香取は、決意と義憤を。

 

 樹里は、覚悟と勇気を。

 

 それぞれ秘めた瞳が、無機質な画面越しに交わる。

 

 言いたい事は、色々ある。

 

 けれど、今は言葉を弄する時ではない。

 

 全力でぶつかり、お互いの本音を拳で語る。

 

 その為の舞台が整ったのだから、後は幕を上げるだけだ。

 

「今回は勝たせて貰うわよ、樹里。アンタにも事情があるのは分かったけど、それとこれとは話が別だから」

『わたしも、負けるつもりはないよ。わたしが勝ってもちゃんと話は聞くから、心配しないで』

「言ったわね。良い度胸じゃない。そういうトコは、変わらないわね」

『葉子も、自信家なのは変わらないね。でも、容赦する気はないから。覚悟してね』

 

 バチバチと、目に見えて闘志が膨れ上がる。

 

 殺意と見紛う闘気の応酬に、それを目の当たりにした若村達は息を呑む。

 

 彼等もまた各々の決意を以てこの場に臨んでいたが、改めて思い知る。

 

 この二人のそれは、別格であると。

 

 想いの強さで言うならば、自分達では足元にも及ばないと。

 

「…………っ!」

 

 そう思い知って、それでも。

 

 彼等は、臆する事なく踏み留まった。

 

 たとえ、想いの強さで及ばずとも。

 

 これまでの一週間は、犬飼達に指導して貰った経験は。

 

 決して、嘘をつかないのだと。

 

 そう、信じているからだ。

 

 覚悟を決めるのも、自分の現状を振り返るのが遅かった事など承知の上。

 

 だが、彼等は歩みを進め始めた。

 

 たとえ先に行く者から見れば牛歩の如き歩みであっても、前に進もうとする意思に違いは無い。

 

 気持ちだけでは勝てない、されど。

 

 その想いすら持てていないようでは、話にすらならない。

 

 それを自覚したからこそ、彼等は師達のシゴキを越えて此処にいる。

 

 今度こそ、香取隊の一員としての役目を果たす為に。

 

 彼等は、この場に立っているのだ。

 

「葉子、樹里。時間よ」

「そうね」

『うん。それじゃあ────────戦ろうか』

 

 そして、試合の開始時刻が訪れる。

 

 香取隊の三人はそれぞれブースに入り、転送準備に入る。

 

『転送を開始します』

 

 光に包まれ、少女達が現実から仮想空間へ没入していく。

 

 こうして、二人の少女の想いの戦いの第二幕は開演したのであった。





 パルデア地方を満喫中ですが、それはそれとして更新を滞らせるつもりはございませんのでよろしく。
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