香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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木岐坂樹里①

 

 

「ホント、良く樹里ちゃんを倒せましたね。感服しましたよ」

「いや、佐鳥くんこそ凄いよ。まさか、あんな手で完封されるなんて思わなかったし」

「ああ、流石A級ってトコだよな」

 

 扉の近くの壁に背を預けながらにこやかに笑う佐鳥に、三浦と若村は何処か苦笑交じりの言葉を返す。

 

 彼等がいるのは、香取隊の隊室の前。

 

 香取が樹里と華を伴って入った後、「話があるから」と三人揃って叩き出されて今に至る。

 

 それならばこの場を離れた方が良いのでは、と若村は思ったが、香取が「そこで待ってなさい」と厳命した為、それに従った形だ。

 

 若村は知らない。

 

 彼等が引き留められたのはあくまでも樹里が「そこにいて欲しい」と懇願した佐鳥のついでであり、男一人で他の部隊の隊室の前に突っ立っているという状況を回避する為に樹里経由でこの場に留まるよう根回しした結果だという事に。

 

 要は佐鳥が一人きりで他部隊の隊室の前に立っているという不審者感マックスな挙動を嫌がり、話し相手として若村と三浦が残された、というワケだ。

 

 男性である若村と三浦が隊室の外で佐鳥と共に出待ちをしている状況であれば、女性だけの話があるからと男子禁制にされた結果という言い訳が立つ。

 

 実際にこれまでも香取が「着替えをするから」等という理由で若村達を部屋から叩き出す事はそれなりにあり、今回彼等が特に抵抗なく現状を受け入れたのもそれが理由だ。

 

 とはいえ、若村達と佐鳥では碌に接点が無い。

 

 精々が今回と前回の試合で戦ったという程度で、プライベートな接触は微塵もない。

 

 一応同じ学校に通ってはいるが学年も所属する部隊も違う以上接点など持ちようがなく、もしも相手が佐鳥でなければ言葉に詰まって会話が成立しなかったであろう。

 

 しかしメディア露出に慣れている佐鳥は、普段の業務で培った弁舌を駆使しつつ会話を繋げていった。

 

「けど、本当に驚きましたよ。二宮さん達に指導を受けてるって聞いたので何かしらの戦術は伝授されてるとは思っていましたが、まさか鉛弾(レッドバレット)を使って来るとは思いもしませんでした。あれ、犬飼先輩あたりの仕込みですか?」

「あ、ああ、そうだけど良く分かったな」

「まあ、若村先輩が犬飼先輩の弟子というのは知っていますし、二宮さんが若村先輩に直接指導を行うってのも想像し難いですから単なる消去法ですよ。別に大した事じゃありません」

 

 いけしゃあしゃあと語る佐鳥ではあるが、若村は彼が二宮隊が自分達に指導をするよう根回しをした張本人である事を知らない。

 

 故に指導内容はともかくとして二宮隊に教わっていた事情に関しては佐鳥は紛れもない関係者にあたるのだが、無論それをわざわざ口に出す事はしない。

 

 語れば面倒が起こる真実など、無暗矢鱈に話すべきではない事を佐鳥は良く知っているのだから。

 

「でも、旋空が完封されたのもそうだし、結局佐鳥くんもオレが辿り着く前に自主的に緊急脱出(ベイルアウト)して逃げられちゃったからね。やっぱり、本気じゃあなかったって事なのかな?」

「いえ、()としては本気で戦いましたよ。ただ、今回の主役は樹里ちゃんなので出しゃばらなかったってだけです。あの子が主体なのにオレが指揮して盤面を調整するのは、違うと思いますし」

 

 それに、と佐鳥は続ける。

 

「もしもオレが本気でなかった事が悔しいなら、上に上がってリベンジをしに来て下さい。A級部隊(オレたち)は、それを待っていますから」

「────────うん。そうするよ」

「…………ああ、今回だってなんとかなったんだ。これから、上を目指して頑張っていくさ」

 

 佐鳥の挑発じみた台詞に、三浦は穏やかな笑みで、若村は何処か引きつった笑みで言葉を返す。

 

 態度の違いはあれ、佐鳥は若村達のやる気を引き出し、「佐鳥が本気で戦っていなかった」という点から目を逸らさせた。

 

 先程の試合は事実として佐鳥が指揮を執っていた場合、香取隊側の勝率は間違いなくゼロに近かった。

 

 犬飼からの説明でそれは分かっていた二人であったが、矢張り「手を抜かれた上での勝ち」というのには思うところがあったのだろう。

 

 だからこそ佐鳥は敢えて挑発じみた真似をして、二人の感情を奮起させた。

 

 年下の隊員にこうまで言われては、意地を見せる他ない。

 

 そんな二人を見て一安心した佐鳥は、隊室の方を見て眼を細めた。

 

「まあ、今はあの子達の話が終わるまで暇を潰していましょう。何処まで長引くかまでは、分かりませんがね」

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 香取隊、隊室。

 

 そこで向かい合う、二人の少女。

 

 樹里と香取は、対照的な表情で見つめ合っていた。

 

 片や、樹里は何処か後ろめたそうな表情で下を向き。

 

 片や、香取は真剣な表情で黙して幼馴染が語り始めるのを待っている。

 

 普段の香取であれば、考え難い対応。

 

 されど、これは自然な事だ。

 

 何故なら、樹里は香取にとって華と同じくらい大切な掛け替えの無い幼馴染。

 

 話してくれると確約して貰えているのであれば、彼女が口を開くまで待つ程度の事は出来る。

 

 とはいえ、いつまでも樹里が黙ったままであれば流石に口出しくらいはし始めるだろう。

 

「樹里、話があって来たんだよね? 話し易い事からで良いから、言って貰える?」

「…………………………………………うん」

 

 そこで、華が助言をした。

 

 経験上、こうして向かい合って尚且つすぐに話が始まらない場合、こうしなければ面倒な事になる事を華は良く分かっていた。

 

 だからこそ的確なタイミングで助言を行い、樹里もまたそれを受けて重い口を開き始めた。

 

「え、っとね。その、なんで葉子の誘いを断り続けたなのか、だけど…………」

「うん」

「その、ね……………………えっと、ね」

「樹里」

「…………!」

 

 びくり、と樹里は香取の呼びかけに肩を震わせる。

 

 何を、言われるのだろう。

 

 そんな怯えが、彼女の表情には垣間見えていた。

 

 無理もない。

 

 今、樹里はこれまで秘密にしていた自分の()()を他ならぬ幼馴染相手に話そうとしている。

 

 その恐怖と焦燥は、彼女にしか分からない。

 

 だから、もしも鋭利な感覚を持つ香取に何か、自分の事情を既に知られていたのではないか。

 

 そんな不安が、樹里の顔にありありと見える。

 

「もう一度、言っとくわ。アタシは、アンタに何か事情があった事も分かってる。連絡が取れなかった、()()()の事も含めてね」

「…………!」

 

 やっぱり、と樹里は息を呑む。

 

 この勘の鋭い少女は、自分の事情に気付いていた。

 

 何を、言われるのだろう。

 

 樹里は、香取の言葉を喉を鳴らして待った。

 

「けど、アンタにどんな事情があろうがアンタはアタシの大切な幼馴染よ。だから、安心して話しなさい。今更ダンマリは許さないけど、それだけは覚えておいて」

「わたしも、同じかな。わたしもなんとなく、樹里には事情があるのは察してるけど────────────────でも、答えは葉子と変わらないよ。樹里は、大切な幼馴染なんだしね」

「葉子、華…………」

 

 されど、聞かされたのは思いも寄らない────────────────否。

 

 期待はしていたが、同時に諦めていた言葉でもあった。

 

 自分は、優しい言葉をかけて貰うには不義理を犯し過ぎている。

 

 香取の再三の入隊要求を拒否し続けた上、碌な説明もなく放置。

 

 挙句に自分の事情だけで入隊を申し出て、香取の怒りを買っている。

 

 もしも先程の試合で負けていなければ、この話し合いのテーブルにさえ着けたかどうか分からない。

 

 最初から手を抜く気は一切なかったのだが、そう考えると自分を下す決定打を成功させた若村には感謝するべきかもしれない。

 

(でも、色々ムカつくのは変わらないから無視だけはしないという事で手を打とうかな。今まで散々葉子に迷惑かけてたんだし、そのくらいは良いでしょ)

 

 しかし、悲しいかな元の評価がマイナスを突き抜け過ぎていた。

 

 自らの不甲斐なさを顧みずに香取と口喧嘩をするだけだったという評価に加え、自分を差し置いて葉子の傍にいたという事実。

 

 後者の方が割と大きい理由により、樹里の若村に対する評価はマイナス方面に天元突破していた。

 

 今回の試合でそのマイナスが大幅に打ち消されはしたが、樹里の個人的感情の影響によりゼロより上には至っていない。

 

 単に負けず嫌いな性格が発動しただけとも言うが、それはそれ。

 

 若村に対する感情を整理した事で逆に落ち着いた香取は、改めて二人に向き直った。

 

「葉子、華」

「「うん」」

「────────あのね。わたし、実は行方不明になってから三年間の記憶が全然無いの。一年前、気が付いたらボーダーの医務室にいたんだ」

「「…………!」」

 

 そして、己の事情を初めて、幼馴染達に告白した。

 

 三年間の、記憶の喪失。

 

 予想もしていなかった、或いは想定から敢えて除外していた内容に。

 

 香取と華は、眼を見開いた。

 

「え、じゃあアンタ────────────────その間、何処で何してたか全然分かんないって事?」

「うん。なんにも、思い出せなくて。ただ、変な夢を見る事があるんだ。内容は、全然覚えてられないんだけど────────────────とにかく、変な夢を」

 

 ぶるり、と樹里の肩が無意識の内に震える。

 

 彼女自身は意識してはいないだろうが、その()というのは樹里自身にとって相当不快なものらしい事が今の仕草だけで二人には伝わった。

 

「えっと、覚えてられないんだけど、でも、なんとなく浮かぶイメージはあって────────────────白い部屋に、白イ────────」

 

 ────────ソ□ダナ□ヲ忘□テイ□ワ□シハア□ヘヤデ□ヲエグ□レテ□アレヲ□タイヤメテヤメテヤメテワタシタスケテドコニイルノダレカタスケコ□ド□ナノワタシダッテアレカラワタシワタシワタシワタシ────────

 

「ちょ、樹里…………っ!?」

「…………!」

 

 自身の感覚を頼りに、自らを苛む記憶(ユメ)を想起しようとした、途端。

 

 樹里の脳裏に強烈な揺り戻し(フラッシュバック)が発生し、その思考が耐え難い程の恐怖と焦燥に塗り潰され少女は声なき絶叫をあげる。

 

 いきなり激しく痙攣を始めた樹里を見て、香取達はただ事ではないと感じ取る。

 

 何が起きたのか、全く理解出来ない。

 

 だけど、やるべき事は分かり切っていた。

 

 香取達はすぐさま二人がかりで樹里を押さえつけ、強く手を握る。

 

 刺激をしないように、されど自分達は此処にいるのだと。

 

 樹里に、肌で感じて貰えるように。

 

「大丈夫、大丈夫だから…………! 嫌なら思い出さなくて良いから、落ち着きなさいっての…………!」

「樹里、大丈夫だから落ち着いて。此処にいるのはわたし達だけだから、樹里を虐める人は誰もいないよ」

「…………っ! …………っ! ワタ、ワた、し…………っ!!」

 

 ひゅー、ひゅー、と過呼吸を繰り返し、樹里の眼が虚ろになっていく。

 

 脂汗が流れて服が肌に張り付き、心なしか掌超しに感じる体温が低くなりつつある。

 

 どう見ても、尋常な事態ではない。

 

 人を呼ぶべきか、と華が思案を巡らせた。

 

 その時。

 

『二人共、樹里ちゃんの胸ポケットの中に薬があるからそれ呑ませて…………! 早く…………っ!』

「…………! 分かった」

「~~っ! 後で、説明して貰うからね…………っ!」

 

 佐鳥から通信が入り、その有無を言わさぬ雰囲気に二人は即座に指示に従う事を選択。

 

 彼の説明通り樹里の胸ポケットをまさぐると、中からケースに入った錠剤が出て来た。

 

 『B』の文字が刻まれた、黒い錠剤。

 

 香取はそれを、素早くケースから取り出した。

 

『口の中に入れればそのまま溶けるから、捻じ込んで…………!』

「…………!」

 

 指示通りに錠剤を掴み、樹里の唇を割って中へ押し込む。

 

 すると舌の上に乗った薬はすぐさま溶けて消え、同時に樹里の呼吸が徐々に正常なものへと変化していく。

 

 汗はひき、甲高く鳴っていた心音も段々と普段のペースに戻り始める。

 

 やがて瞳にハイライトが戻り、ぼんやりと樹里の眼が二人の姿を映し出した。

 

「…………葉子、華…………」

「良かった…………! ったく、心配かけさせんじゃないわよ…………!」

「うん、佐鳥くんには色々聞かなきゃいけない事が増えたけど、一先ずは安心した。後で、尋問(おはなし)しないとね」

『……………………』

 

 通信の向こうで冷や汗を流す少年がいた気がしたが、後日問い詰める事は確定事項なのでそこは問題ない。

 

 少なくとも、問い質す側の二人にとっては。

 

 今のタイミングでの通信といい、詳細不明の薬が入っている場所を知っていた事といい、佐鳥に聞かなければならない事は一気に増えた。

 

 樹里本人に問い質すのがリスキーであると分かった以上、矛先が彼に向かうのは通りである。

 

 自分達を差し置いて樹里の傍にいた事についての感情は、二人共整理し切れてはいないのだから当然である。

 

 香取は、樹里の様子を見る。

 

 呼吸は落ち着き、目の焦点も合っていたがその表情には焦燥の色が濃い。

 

 危険な状態は脱したようだが、いつまた同じ事が起こるかまでは分からない。

 

 そう考えると、このまま話を続けるのは少々躊躇われた。

 

「樹里、辛いなら今はいいわ。時間を置いても────────」

「…………ううん、そうやって後回しにし続けた結果が今だから。きちんと、話すべき事は話したいんだ」

「…………いいの?」

「うん。わたしが、そうしたいから。お願い」

 

 場合によっては今日はお開きにする事も考慮した香取であったが、樹里はそれに否と言う。

 

 先程の様子もあり心配する香取達であったが、樹里の決意が固い事を悟る。

 

 香取と華は視線を交わし合い、先程のような兆候があればすぐさま止めさせると意見を一致させた上で樹里の好きにさせてみる事とした。

 

 無論、その場合は力づくでも止めるつもりである。

 

 確かに彼女の事情は気になるが、樹里の身の安全と引き換えになど出来ないのだから。

 

「分かった。さっきみたいな事になったら無理やりにでも止めるけどね」

「ありがと。それで、なんだけど────────────────実はね。記憶がおかしいのは、さっき言った三年間の事だけじゃないんだ」

 

 実はね、と樹里は続ける。

 

「葉子達と遊んでいた頃の記憶も、なんだかフィルターがかかったみたいにぼやけてて実感がないの。だからわたしが本当に葉子達の幼馴染の木岐坂樹里っていう人間なのかが、不安だったんだ」

「…………!」

 

 思いも寄らぬ言葉に、香取達の眼が見開かれる。

 

 自分が本当に、木岐坂樹里という人間なのか。

 

 その事で悩んでいたと、樹里は告白したのだから。

 

「だから、ね。もし自分が葉子達の幼馴染なんかじゃなくて赤の他人だったら、って思うと、葉子の誘いを受けるのが怖かったんだ。ただ自分は木岐坂樹里の記憶を持たされた別人で、そんな自分が葉子達に近付いて良いのかな、って。ずっと、悩んでたんだ」

 

 自分自身を確立する、存在証明(アイデンティティ)の不明。

 

 それこそが、樹里を苛んでいた葛藤。

 

 本当に自分は、香取達の幼馴染の少女当人なのか。

 

 それが不安で、樹里は香取の誘いに乗る事を拒み続けていた。

 

 もし自分が木岐坂樹里の記憶を持つだけの、赤の他人だったら。

 

 そう思うと、香取の好意に応じる事が本当に正解かどうか分からなかったのだ。

 

 三年間の記憶喪失という土壌は、そういった不安を生むに余りある。

 

 それを聞いて、香取は。

 

「…………! バカじゃないの、アンタ…………! アンタはどっからどう見ても、アタシの幼馴染の樹里でしょうが…………!」

「え…………?」

 

 ガシリと、樹里の肩を引っ掴み。

 

 怒髪天を突く勢いで怒りながら、樹里へと詰め寄った。

 

「アンタの口調も、アンタの性格も、全部全部アタシや華の知るアンタのままだっての…………! 三年間の記憶が無い? 昔の記憶に実感が持てない? それがどうしたってのよ…………っ!? アンタが生きてるのは昔じゃなくて、今でしょうが…………っ!」

「でも、わたし、髪の色だって変わってるし…………」

「そんなの、どっかで気が変わって染めたとかでしょうがうんそうに決まってるわ…………! 髪の色が変わったくらい、アタシは気にしないわよ…………!」

 

 理屈で反論しようとする樹里を、香取は感情論で封じ込める。

 

 凄まじい剣幕の香取を前に、理屈でしか抵抗する術を持たない樹里は何も言えなくなる。

 

 ある意味、香取の選択は正しい。

 

 この問題はあくまでも樹里の心情のそれである以上、理詰めで説得をしようとしても意味は無い。

 

 重要なのは、お互いの想いが伝わるかどうか。

 

 それだけなのだから。

 

「何度だって言ったげるわ…………! アンタは、アタシ達の幼馴染の木岐坂樹里よ…………! 他の誰が文句を言ったって、アタシ達だけはそれを否定させないわ…………!」

 

 故に、香取は嘘偽りの無い想いを込めて告げる。

 

 この場に於ける、本題となる内容を。

 

「良い? アンタの余計な意見は聞いてないの。アタシが聞きたいのは、一つよ────────アンタはまた、アタシ達と一緒にいてくれる? 答えて、樹里」

「…………!!」

 

 理屈など知らないとばかりに言い放たれた言葉に、樹里は息を呑む。

 

 そして、思う。

 

 嗚呼、これが香取だ。

 

 ぶっきらぼうで愛想もなく、ついでに言葉も棘だらけだけれど。

 

 それでも、誰よりも友達の事を大事に想うこの優しさこそが。

 

 自分の大事な、幼馴染の少女であるのだと。

 

 理屈ではなく、心で感じ取れた。

 

「葉子」

「うん」

 

 故に、答えは決まっていた。

 

 樹里は俯いていた顔を上げ、香取と真っ直ぐ眼を合わせる。

 

「これから、よろしく」

「うん…………!!」

 

 答えを聞いた香取は涙ぐみながら、樹里の手を取る。

 

 少女達は互いの手を握り締め、そのままの勢いで抱き合った。

 

 今度は、離れないように。

 

 硬く抱き締め合う二人の姿を、華は穏やかな瞳で見つめ続けていた。

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