香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ラービットⅢ

 

 

「香取隊、二宮隊より新型撃破の報あり。その能力についてのデータも送られています!」

「よし…………! 戦闘データを他部隊と共有。新型交戦中のB級部隊と増援に向かわせているA級部隊には至急、データを送れ」

「了解」

 

 二部隊から早くも新型撃破の報告が成された事で、若干暗い雰囲気のあった司令室が活気づく。

 

 城戸は無表情で眼を細めるのみだが、鬼怒田は「当然じゃい」と言いながらうんうんと頷いている。

 

 根付も市街地に被害が出る前に新型を撃破出来たという報告を受けて、心なしか安堵した様子である。

 

「司令。A級が現場に着き次第、交戦している部隊と合同で新型撃破に当たらせますがよろしいですか?」

「構わん。此処で戦力を失えば、後が苦しくなる。敵がA級クラスだというのならば、直に交戦した部隊との共闘は有利に働くだろう」

 

 それから、と城戸は続ける。

 

「君の眼から判断して、新型を単独撃破した二部隊はどうかね?」

「私としては、このまま別の新型撃破に向かわせたいと考えています。二宮隊はB級に降格したとはいえ実力に衰えは見られませんし、香取隊は木岐坂隊員の加入もあり新型相手に充分戦力になると判断します」

「結構。では、その通りにしたまえ」

 

 はい、と忍田は頷く。

 

 彼としても、この状況で敵の肝と思われる新型を単独部隊で相手に出来る二部隊を遊ばせておく余裕はない。

 

 許可が得られた事で堂々と彼等を適正運用出来ると判断した忍田は、すぐさま通信を繋いだ。

 

「君達には、このまま他の新型撃破へ向かって貰いたい。場所は────────」

 

 

 

 

「二宮隊、了解した。このまま新型撃破へ向かう」

 

 二宮は片手で耳を抑える仕草をしながら通信を受け、命令を受諾した。

 

 そんな事はせずとも通信は繋げるのだが、そうなると傍目から見ると独り言を言っているように見えてしまう。

 

 それを嫌う隊員はこうした動作を挟む事が多く、三輪隊のように通信器具にも見えるアクセサリーを隊服に付ける場合も存在する。

 

 天然だが(自分から見た)見栄えを気にする二宮としては、独り言を呟くような人間とは思われたくない為当然と言えるだろう。

 

 まあ、彼の変人ぶりは他の部分でしっかり喧伝されているので手遅れではあるのだが。

 

「隊長、忍田本部長はなんて?」

「このまま他の新型撃破へ向かえ、という事だそうだ。さっさと行くぞ」

「了解。行くよ辻ちゃん」

「はい」

 

 二宮隊は一糸乱れぬ動きで歩き出し、その場を後にする。

 

 彼等が去った場所には、容赦なく穴だらけにされたラービットの残骸が墓標のように横たわっていた。

 

 

 

 

「了解。現場へ向かいます」

 

 香取は忍田からの命を受け、頷く。

 

 顔を上げ、彼女は仲間を見回した。

 

「他の新型を倒しに行け、ですって。どーやら、アタシ達は新型を倒せる戦力としてカウントされたみたいよ」

「マジかよ。実質、A級と同じ扱いじゃねーか」

「ま、アタシと樹里がいるし当然ね。一応アンタ等の援護もあるし、なんとかなるでしょ」

 

 さ、行くわよ、と香取はチームの面々に軽く伝え、がしり、と若村と三浦を両脇に抱え込む。

 

 更によいしょ、と言いながら樹里が香取の背に負ぶさり、外付け移動砲台として装備される。

 

 今の香取は両腕が塞がっている為攻撃を行えないが、万一移動中にトリオン兵に攻撃されても樹里のイーグレットが迎撃可能、という寸法である。

 

 四人別個に走るよりもこちらの方が圧倒的に速いと実体験で知った香取は味を占め、距離のある移動に今後も用いる気満々であった。

 

 実際、狙撃手が潜んでいるランク戦ならばともかく、トリオン兵相手ではそこまで大したリスクのない移動である事は間違い無い。

 

 普段から樹里に色々と突っ込みを入れている香取だが、基準が幼馴染の少女なので若干感覚が麻痺している部分がある。

 

 冷静になって自分を客観視すれば男二人を抱えて少女一人を背負った自分が他者からどう見られるかは分かる筈であるが、「樹里よりおかしな行動はしてない=変な事はしてない」という独自基準を無意識に策定している香取は気付かない。

 

 これで万全、と少女二人は確信し、抱えられる男二人の心境など知った事ではないとばかりに香取はグラスホッパーを展開。

 

 それを踏み込んで、少女は仲間三人を纏めて運びながら跳躍する。

 

 傍目からするとシュールなその光景は、実務的な有用性という一点から全ての異論を却下され、次なる戦場へと跳び出した。

 

 

 

 

(やべえぞこいつは。全然攻撃が効かねえ…………っ!)

 

 諏訪は、対峙するラービットにショットガンを向けながら冷や汗をかいていた。

 

 話には聞いていたが、新型の能力は想定を軽く上回っていた。

 

 まず、こちらの攻撃が通用しない。

 

 諏訪隊は諏訪と堤のダブルショットガンによる火力がウリの部隊であるが、二人の掃射を受けてもラービットの装甲はびくともしなかった。

 

 これは単純に相性が悪いのだと、諏訪はすぐに理解した。

 

 彼等の扱うショットガンの最大の武器は、()の火力だ。

 

 広げたシールド程度であれば貫けるだけの火力を持つ弾が広範囲にバラ撒かれる為、ノーマルトリガーでの防御では凌ぎ切れない場合が多い。

 

 故に相手に逃げ場をなくし、至近距離でぶっ放したダブルショットガンは無比の突破力を誇っている。

 

 だが、彼等の武器が有効なのはあくまでノーマルトリガーを扱う()()相手の場合だ。

 

 今回のケースでは、ラービットの装甲はイーグレットを弾けるくらいはあると荒船隊からの情報で判明している。

 

 ()の突破力ではイーグレットに劣るショットガンでは、二つ揃っても貫けないのは自明の理だ。

 

 これがもし弓場のような火力特化の銃であれば一点に弾丸を連続で叩き込む事で突破出来るかもしれないが、生憎諏訪隊の扱うショットガンにそのような精密動作は不可能だ。

 

 弾をバラ撒く事に特化したこの銃は、命中精度と言う点では難がある。

 

 それを押しても強力であるからこそ主武器にしていたのだが、こうも相性の悪い相手と当たるとは運が悪いとしか言いようがない。

 

(こりゃ、香取に感謝だな。あいつの言葉がなきゃ、笹森を庇って俺がやられてただろうしよ)

 

 諏訪は内心、香取に感謝を送る。

 

 香取隊からの「背中に張り付くのは止めておけ」という進言がなければそれを実行させようとしていた笹森が返り討ちに遭っていた筈であり、制止した自分の判断は正しかったと諏訪は判断していた。

 

 どうやらこの場に向かっているらしい香取のその言葉を秒で信じたのは、彼が彼女の直感の鋭さを知っていたからだ。

 

 香取は完全な感覚派の天才であり、自身の思考を言語化する事が苦手である。

 

 しかし頭は悪くなく、直感も優れている為彼女が「こう」と感じた事があれば、それは大体正しいのである。

 

 もしも彼女が自分の指揮下にいたのなら、可能な限り好きにやらせつつ後からフォローする形を彼は取っただろう。

 

 それが香取の才覚を最大限に引き出せる最善手であると、彼は判断しているが故に。

 

 だからこそ、諏訪は香取の感覚を疑わない。

 

 これが私情を交えたものであれば話が別だが、今回はそんなものが混在する余地のない本物の戦場だ。

 

 故に、香取の直感は危機回避のお告げとしてこの上なく有用なワケである。

 

 これが他の隊長であれば根拠のない香取の言葉を信じなかったケースも考えられるが、諏訪はそれを信用したが故に難を逃れた。

 

 それが結果であり、全てである。

 

(とはいえ、それだけだ。俺達の攻撃が脅威と見なされてねー以上、出来る事には限界があるな)

 

 これまでは二人がかりでショットガンを撃ち続ける事で新型に防御行動をさせ、時間を稼げていた。

 

 しかし、それにも限界が来る。

 

 何せ、自分達には新型を撃破出来るだけの()()()がないのだから。

 

 恐らく、こちらにこれ以上の火力はないと見切りを付けたのだろう。

 

 ラービットはその単眼を怪しく発光させ、両腕をクロスさせる形で突貫。

 

 諏訪と堤のショットガンの斉射を力づくで突破しながら、一気にこちらへ迫って来た。

 

(…………! やられる…………!)

 

 その速度は、諏訪に反応し切れるものではなかった。

 

 事前の通達により「たかがトリオン兵」と侮る事こそなかったが、それでも尚ラービットの機動力は彼等の想定を超えていた。

 

 白い怪物が、その巨体を武器として突進して来る。

 

 最早、避ける余裕すらない。

 

 諏訪は覚悟し、せめて抵抗はさせて貰う、とばかりにショットガンの銃口を向けた。

 

「────────」

「…………っ!?」

 

 だが。

 

 その予測を突き崩すように、透明な少女の声が響き渡る。

 

 ドンッ、と諏訪の肩に何かが乗る。

 

 視線を向ければ、そこにあったのは少女の白い足だった。

 

 那須隊のものと小南の隊服を折衷したようなその赤紫の隊服には、見覚えがあった。

 

 そして。

 

 己の肩を足場にするその少女もまた、諏訪の既知の相手だった。

 

 木岐坂樹里。

 

 射手から狙撃手へと転向した異色の経歴の持ち主にして、何故か佐鳥と共にいる事が多い浮世離れした少女。

 

「吹き飛べ」

 

 その少女はハイライトのない眼でラービットを見据え、無造作にその口内へ銃口を向けて引き金を引いた。

 

 途端、頭上で発射音が響くと共にアイビスが火を噴く。

 

 ほぼゼロ距離で放たれたその弾丸は正確にラービットのカメラアイを貫き、急所を射抜かれた新型は活動を停止。

 

 物言わぬ骸となったラービットの残骸はその場に崩れ落ち、同時に肩の重みが消える。

 

 よいしょ、という可愛らしい声と共に樹里が地面へと着地し、くるり、とこちらに振り向いた。

 

「…………無事?」

「ああ、お陰様でな。あの新型を一発で仕留めちまうなんて、相変わらず大したモンだぜ」

 

 樹里に対し、諏訪は気さくに声をかける。

 

 彼が樹里と知り合ったのは、丁度二宮に絡まれている彼女を見掛けた時だ。

 

 傍目からして絵面が最悪だったので二宮を助けるつもりで声をかけた際に、彼女はぺこりとお辞儀をして去って行った事を覚えている。

 

 諏訪としては二宮にこれ以上(手遅れだが)変な噂がつかないように、との善意でやったのだが、感謝されて悪い気はしないのは事実。

 

 その日諏訪の中では、樹里は可愛い後輩として記憶された。

 

「…………えっと、誰だっけ…………?」

 

 だが、樹里にとってはそうでもなかったらしい。

 

 本気で覚えがないのか、キョトン、と首を傾げている。

 

 彼女には、自分が親し気に声をかけられる覚えがなかったのかもしれない。

 

 もしかすると自分の事など、記憶すらしていなかったのではないか。

 

 そう思うと安易に反論するのは躊躇われたが、不審者と思われないよういに一応説明はしておくか、と開き直った。

 

「……………………前に二宮に絡まれてた時声かけたの、覚えてねーのか?」

「………………………………………………………………あ、うん、思い出した。えっと、諏訪、さん…………?」

「おう、それで合ってるぜ」

 

 最後に「べ」と言いかけたのは聞かなかった事にして、諏訪は頷く。

 

 どうやら諏訪の名前が「すわ」か「すわべ」かで自信がなかったようだが、結果的に間違っていなかったのでスルーする。

 

 細かい事をいちいち指摘するのは、大人としての器の小ささを露呈するようなものなのだから。

 

「援軍に来てくれたんだよな? 香取はどーした?」

「あそこ」

 

 気を取り直して諏訪はこの場に来ると連絡して来た少女の所在を問うが、樹里はそう言って上を指さした。

 

 視線を向ければ、その先にあるアパートの屋上に男二人を抱えた香取の姿がある。

 

 諏訪の視線に気付いて目を覆った若村の事は見なかった事にして、ふぅ、とため息を吐いた。

 

「…………結構距離あっけど、お前だけ先行したのか?」

「ん、葉子にグラスホッパー出して貰ってあそこから飛び降りた。そうしないと間に合わないと思ったから」

「ま、その通りだし文句はねーよ。悪ぃな」

「言われた事をやっただけだから。別にいい」

 

 そーかい、と諏訪は軽くかぶりを振った。

 

 先程肩へ着地された際に妙に衝撃が強いとは思ったが、どうやらあの高所から直接飛び降りて来たからだったらしい。

 

 しかも話によるとグラスホッパーで加速したとの事なので、その分の慣性も働いていたのだろう。

 

 もしもトリオン体でなければ、肩が脱臼か骨折でもしていてもおかしくはない。

 

 結果的に助かったのは事実なので文句を言うつもりはサラサラないが、見掛けによらず随分思い切った事をやるなあ、と思った諏訪であった。

 

 年上に対し敬語がないのは頂けないが、それは自分が言う事でもないだろう、と諏訪は自身を納得させる。

 

 自分が彼女の指導教官であったのなら話は別だが、偶然会った年上に礼儀や言葉遣いに対していちいち注意される事程鬱陶しい事はないと諏訪は知っていた。

 

 そういう事は本人に覚える気がない限り言っても意味のないものであり、こちらから押し付けても効果は薄い。

 

 そもそも、今は戦争の真っただ中だ。

 

 その程度の事で新型を撃破出来る程の彼女の足を止めさせる事こそ、全体にとっての損失である。

 

 礼儀は大事だが、大局より優先すべきものでもない。

 

 そう考えて、諏訪は樹里に向き直った。

 

「ほら、俺等はもう大丈夫だからよ。次のトコ行ってやれ」

「ん、分かった。じゃあね」

 

 言うが早いか、ぴょん、と一息に跳躍するとアパートの壁を足場に駆け上がり、瞬く間に屋上に到達した樹里は何故か香取の背に負ぶさった。

 

 こちらに一応の礼儀を示す為か香取が男二人を抱え少女一人を背負ったままぺこり、とお辞儀をして反転。

 

 チームメイト全員を抱えた香取は、そのまま三門の空へと跳び上がって消えていった。

 

「…………幾ら効率重視とはいえ、形振り気にしなさ過ぎだろあいつら。後で、若村の奴を慰めてやっか」

 

 その光景に呆気に取られながら少女に軽々と抱えられて移動する姿を知り合いに見られた羞恥で顔を覆っていた後輩銃手の事を思い出し、諏訪はため息を吐く。

 

 無頓着なのも考え物だよな、と諏訪は口に模造品の煙草を咥えながら煙を恋しく思うのであった。

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