香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ラービットⅤ

 

 

(こいつは嫌な予感がビンビンしやがる…………っ! 迂闊な真似は出来ねぇ。まずは、相手の出方を見ねぇと)

 

 荒船は新たに現れた三機の「色付き」ラービットを前に、安易な行動は出来ないと判断した。

 

 それ自体は別に、間違いと言う程ではない。

 

 A級クラスの能力を持つトリオン兵、というだけで初見殺しの要素が満載な相手の、亜種と思われるものが出て来たのだ。

 

 慎重に動くべき、という選択肢自体は真っ当と言えるだろう。

 

「な…………っ!?」

 

 だが。

 

 このラービット、否。

 

 モッド体相手に、その一手の遅れは致命的だった。

 

 出現した、三機の灰色のラービット。

 

 それらが一斉に口腔を開いたかと思うと、そこに目に見える形でエネルギーが収束し始めたのだ。

 

 そこで荒船は、自身が致命的な勘違いをしていた事に気付く。

 

 これまで倒したラービットには、中距離火力といったものがなかった。

 

 新型はパワーもスピードも驚異的だがその攻撃手段は肉弾戦一辺倒であり、距離を取って接近に気を付けていれば何とかなった相手だったのだ。

 

 それもその筈で、ラービットはあくまでも「捕獲型」のトリオン兵だ。

 

 中距離火力を用いて下手に相手を倒してしまうワケにはいかない為、攻撃手段を肉弾戦オンリーに絞っていた、というのは分かる話である。

 

 されど、このモッド体は違う。

 

 モッド体はアフトクラトルのトリガーの力を、部分的に再現した改造型ラービットである。

 

 その製造目的は通常のプレーン体とは異なり、「作戦目標に於ける障害の排除」に重点が置かれている。

 

 つまり、このモッド体の役割はプレーン体が作戦を遂行する為の()()()

 

 障害となる敵戦力を、効率的に撃滅する為のトリオン兵なのだ。

 

 故に、その火力に関しても自重はされていない。

 

 三機のラービットの砲撃が、火を噴く。

 

 狙いは荒船────────────────ではない。

 

「え…………?」

「な…………?」

「うぇ…………?」

 

 彼がその背に守っていた、B級下位の面々だった。

 

 いきなり飛んで来た砲撃に対応しきれなかった海老名隊、吉里隊の隊員はその全員が被弾。

 

 碌な抵抗すら出来ず、二部隊の隊員は緊急脱出し全滅した。

 

 そして。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っ!」

「た、助けて…………っ!」

「やだ、こないで…………っ!」

 

 B級下位部隊という盾を失ったC級隊員達に、通常個体のラービットが襲い掛かった。

 

 恐らく、この時の為に周囲に潜ませていたのだろう。

 

 5体ものプレーン体のラービットが、抵抗する手段を失った訓練生へと牙を剥いた。

 

 巨腕により押し潰され、開閉した腹部へ押し込まれていくC級隊員達。

 

 その光景を見て、荒船はギリ、と唇を嚙みしめた。

 

「テメェ等…………っ!」

 

 怒りに燃え上がりそうになるが、既でそれを抑止する。

 

 此処で感情に身を任せれば、相手の思う壺だ。

 

 しかし、その一瞬の動揺ですら今の状況では致命的だった。

 

「…………!」

 

 三機のラービットの口腔が、開く。

 

 自分に照準を付けられた事を、荒船は理解した。

 

 ラービットによる鹵獲の為の「障害物」が排除出来た今、「邪魔者」である自分へと排除の優先目標が映ったのだろう。

 

 たった今見た威力から察するに、防御をしても意味は無い。

 

 一発だけなら集中シールドで耐えられる可能性もあるが、三発同時ともなるとまず不可能だ。

 

 今からでは、旋空での反撃も退避も間に合わない。

 

 万事休すか。

 

 荒船は、そう覚悟した。

 

『大丈夫だ。任せろ』

 

 されど。

 

 その砲撃は、唐突に中断された。

 

 荒船を狙っていた、ラービット三機。

 

 それら全てのカメラアイが、弾丸によって撃ち抜かれた事によって。

 

 正確に急所を射抜かれたモッド体三機は、即座に機能を停止。

 

 轟音と共に、地に倒れ伏した。

 

「こいつは…………」

『砲撃する瞬間は、隙だらけだったからな。囮にさせて貰ったが、悪く思うなよ』

『すみません。もう少し早く俺達が着けていれば』

「それは言いっこなしだ。先行するって判断したのは、俺なんだからな」

 

 荒船は謝罪する半崎に対し、そう言って労った。

 

 この場にやって来る時、荒船は到着速度を最優先して他の仲間から先行する形で全速力で駆けて来た。

 

 当真はお世辞にも運動能力が高いとは言えず、半崎も機動力はそこまで高くはない。

 

 同じ体育会系の穂刈だけは荒船のスピードに付いて来れてはいたが、結果としてたった今までは彼一人しか援護に付けていない状況だった。

 

 だが、それも彼等三人が。

 

 当真、半崎、穂刈の三名がこの場に揃った事で、砲撃態勢に入ったラービットを撃破する算段が整い実行したのだろう。

 

 それが全てであり、仮に彼等が間に合っていれば、という仮定に意味などない。

 

 今ははそれよりも、重要な事があった。

 

「今は、あのウサギ共を一刻も早く片付けて訓練生共を助けねぇと…………っ!」

 

 現在進行形で襲われている、C級隊員の救助である。

 

 この光景を見れば、敵の本命はC級の捕獲であると嫌でも分かる。

 

 次々と捕まっていく訓練生達を、このまま放置するワケにはいかない。

 

 だが、旋空だけで5体ものラービットを薙ぎ払うのは荒船には難しい。

 

 狙撃手三名と連携しても、多少の時間がかかる事は明白だった。

 

 彼等は撃破の確実性こそ高いが、その効率と言う意味ではそこまで特化されてはいない。

 

 攻撃手役一名という編成では、そこが限界なのだ。

 

『それなら大丈夫だ。此処に来たのは、俺等だけじゃねーからな』

「なに?」

 

 されど、あくまでそれは。

 

 この場にいるのが、彼等だけだった場合の話。

 

「────────三輪隊、現着。近界民(ネイバー)の処理、及びC級隊員の救出作業を開始する」

 

 家屋の上より飛び降り、姿を現したのは黒紫の隊服に身を包んだ二人の隊員。

 

 A級七位部隊、三輪隊の隊長三輪秀次とその隊員米屋陽介。

 

 正しく精鋭(A級)である二人の隊員が、険しい表情でC級を襲うラービットを睨みつけた。

 

『荒船先輩、先輩は他の雑魚をお願いします。あの新型五体は、こちらで受け持ちますので』

「古寺か。分かった。そっちは任せろ」

 

 荒船は不敵な笑みを浮かべ、こちらに向かって来るモールモッドの群れを見据えた。

 

 三輪隊の実力は、折り紙付きだ。

 

 下手に自分が彼等と連携を試みるよりも、この雑魚の群れを撃退して露払いをした方が余程効果的だというのは理解出来る。

 

 彼等がラービット相手に遅れを取るとは、微塵も考えてはいない。

 

 三輪は近界民への憎悪によって勇み足になる事こそあるが、その実力の高さは誰もが認めるところなのだから。

 

「間宮隊、援護しろ。俺達はこっちを片付けるぞ」

「りょ、了解…………っ!」

 

 荒船は唯一生き残っていたものの自分達だけではどうする事も出来ずに固まっていたB級下位部隊である間宮隊の面々に声をかけ、雑兵の処理を開始した。

 

 その裏で、三輪隊が淡々とラービットの群れを処理していく。

 

 5機のラービットが全滅するまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

「新型の亜種出現により、海老名隊、吉里隊全員が緊急脱出(ベイルアウト)。C級複数名が新型に捕まりましたが、亜種三体は狙撃により撃破。C級を捕まえた新型は、三輪隊によって処理されたようです。便宜上、この亜種を「色付き」と呼称します」

「分かった。捕まったC級隊員はどうなっている?」

「新型の腹部を割いた結果、中からキューブ状の物体が複数出て来ており、捕まった隊員が何らかの手段でこれに変化されたものと思われます」

 

 そうか、と忍田は頷く。

 

 敵に捕まるという体験をさせてしまったC級隊員には申し訳ないが、形を変えられたとはいえこうして取り戻せた事で一先ずは安堵する。

 

 新型の内部に捕まったC級の数は、それなりに多かった。

 

 幾らラービットの巨体とはいえ、そのサイズではバムスターのように内部格納したまま撤収出来る数にも限りがある。

 

 そう考えていたのだが、どうやら敵はトリオン体の形を変換してしまう技術を編み出していたらしい。

 

 確かにそれならばあのラービットのサイズでも大量の標的を捕獲して格納出来るし、これ以上なく鹵獲に向いた機能である。

 

 トリガー使い捕獲用のトリオン兵、という看板は伊達でもなんでもなかった、というワケだ。

 

「キューブ化された隊員は開発室に回し、解除を試みさせろ。今後、正隊員が同じ攻撃を受けた場合の参考にもなる。急がせろ」

「了解」

 

 一先ず、キューブにされた隊員の状態解除は開発室に任せるべきだろう。

 

 残念ながら現時点では優先度の高い作業とは言えないが、相手に奪われ易いキューブのまま戦場に転がしておくなど論外だ。

 

「回収班を向かわせる。それまでの間、三輪隊にはC級の護衛を頼む。荒船隊もそれに同道してくれ。冬島隊には、別の個所に向かって貰う。場所は────────」

 

 

 

 

「てなワケで来たよー。三輪先輩、それが捕まったC級のキューブですか?」

「ああ、頼むぞ」

「了解っと」

「了解しました」

 

 そうしてやって来た回収班、緑川と黒江は三輪から袋詰めされたC級隊員達が変じたキューブを受け取り、その場を立ち去った。

 

 彼等が回収班として抜擢されたのは丁度近くに居合わせていた事と、その機動力を買われての事だ。

 

 機動力だけならばボーダーでもトップクラスのこの二名であれば、途中で近界民に捕まる事はまずない。

 

 人型との交戦区域は避けて移動するように厳命してあるし、逃げに徹すれば彼等に追いつける者など早々存在しない。

 

 あらゆる意味で適役であると、忍田は判断したワケだ。

 

「俺達は忍田本部長の命に従い、C級を護衛しつつやって来るであろう近界民を駆除します。荒船隊にも同道して頂きますので、よろしくお願いします」

「ああ、分かった。指揮は任せるぜ」

「了解しました」

 

 C級護衛部隊に任命された三輪隊、荒船隊の二部隊は残るC級を護衛しつつ、基地へ向かっていく。

 

 やや過剰戦力にも見えるが、先程のようにラービットの「色付き」がまた現れないとも限らない。

 

 懸念点があるとすれば、もう一方のC級隊員達だ。

 

 そちらは常盤隊・早川隊・松代隊の面々が付いているが、こちらがそうであったように彼等ではラービットの相手をするのは限界があるし、「色付き」相手には為す術がない。

 

 だが。

 

 そちらもまた、無策である筈がなかった。

 

 

 

 

「撃ちまくって相手に攻撃する隙を与えるな…………! 向こうはA級クラス以上ってのを忘れるんじゃねぇぞっ!」

「は、はいっ!」

 

 一方、もう一塊のC級を護衛していたB級下位部隊の面々は偶然近くにいた柿崎に率いられた事で、何とか防戦の体を成す事に成功していた。

 

 最初は現れたラービット相手に為す術なくやられかけた彼等であったが、間一髪で柿崎隊が到着。

 

 そのまま彼等を指揮する事で、何とか防衛戦を成立させたのである。

 

 堅実な戦法を主とする柿崎では、ラービットを倒すまでの事は出来ない。

 

 味方に危険な役割を任せる、という事が彼には出来ないからだ。

 

 彼自身に突破力があれば突貫もしたかもしれないが、自分の実力では単騎で突っ込んだところで結果は目に見えていると理解はしていた。

 

 その為、彼が取った戦法は徹底した遅滞戦闘。

 

 王子隊と同じく、ラービットを撃破可能な援軍が来るまで持ち堪える選択肢だった。

 

 これが他の隊長であれば、スムーズに彼等を指揮下に収めて防衛戦を成立させる事は難しかっただろう。

 

 しかし、柿崎の人望がそれを可能にした。

 

 B級下位の面々にとって、柿崎はその実力を痛い程知る相手であると共に、常に気配りを忘れない頼れる兄貴分のようなものだった。

 

 その柿崎の指揮下に入る事に抵抗などあろう筈もなく、彼がこの場に来たからこそ一人の脱落者もなく防衛戦を継続出来ていたのだ。

 

「こいつは…………っ!」

 

 だが、その均衡もたった今終わる。

 

 門が開き、出現した三体の灰色のラービット。

 

 それらは一斉に口腔を開き、即座に砲撃態勢に移った。

 

「やべぇ…………っ!」

「…………っ!」

「隊長…………っ!」

 

 三体のラービットの狙いが後ろのB級下位の面々であると柿崎は悟り、咄嗟に彼等を庇うように前に出る。

 

 悲鳴のような声をあげた照屋には申し訳なく思うが、完全に条件反射だった為今更退避など出来よう筈もない。

 

 せめて少しでも盾になろう、とシールドを張る柿崎。

 

 無論、三体もの一斉砲撃を受ければ無事では済まないだろうし、全てを受けきるなど不可能である事も分かっている。

 

 しかし、これで少しでも被害を軽減出来ればと。

 

 柿崎が、願った。

 

「え…………?」

 

 その、刹那。

 

 三機のラービットのカメラアイに、立て続けに弾丸が撃ち込まれる。

 

 一機目は、遠距離からの狙撃にて。

 

 二機目と三機目は、至近距離からの銃撃にて。

 

 それぞれ急所を撃ち抜かれ、砲撃を行う寸前で沈黙した。

 

「間に合ったみてーだな、柿崎ィ」

「弓場…………!」

 

 それを成したのは、二丁拳銃を携えた厳つい面構えの男。

 

 B級4位、弓場隊隊長である弓場拓磨。

 

 加えて、狙撃という事は一体目を倒したのは同隊の狙撃手外岡だろう。

 

「帯島ァ、連携して残りの白ェのも(カタ)すぞ」

「了解ですっ!」

 

 もう一人の隊員である少女、帯島は弓場の命に笑顔で従い弧月を構えた。

 

 それを見た弓場はニカリと笑い、柿崎に向き直る。

 

「こいつの倒し方は、もう分かってるからなァ。安心して後は任せて、あいつ等を守る事に専念してくれや」

「ああ、頼む。文香、虎太郎、俺達はC級の護衛に専念する。良いな」

「了解」

「了解しました」

 

 柿崎は弓場の気遣いに感謝しつつ、照屋達と共にB級下位の面々に発破をかけ、C級の護衛に向かっていった。

 

 それを見送った弓場は、ギラリ、とサングラスを輝かせてラービットに相対した。

 

「俺の友達(ダチ)相手に、随分やってくれたじゃねェの。その(ツリ)は、きっちり返してやっからよォ────────────────テメェ等、腹ァ括れや」

 

 弓場は二丁拳銃を携え、帯島と共にラービットの撃滅に取り掛かる。

 

 情報がなかったのならばいざ知らず、これまで交戦した部隊からラービットの戦闘データは充分過ぎる程集まっていた。

 

 B級でも屈指の実力を持つ弓場の手で新型は一機、また一機と。

 

 着実に、撃破されていくのだった。

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