香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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出現

 

 

「C級を護衛している弓場隊の所に、新型の別色を含む色付きが10体出現…………! 交戦状態に入りました…………!」

「…………! 戦力を集中投入して、ごり押しでC級を攫っていくつもりか…………!」

 

 忍田はその報告を受け、唇を噛んだ。

 

 「色付き」の出現の時も少々焦りはしたが、無事突破出来たようで安堵はしたものだ。

 

 しかし、忍田の戦士としての勘が「これで終わる筈がない」とは訴えていた為用心はしていたのだ。

 

 そして、その直感は的中する。

 

 敵は三つのC級の集団のうち、最も守りが薄いと思われる場所に戦力を集中投入して来た。

 

 しかも、その中には今まで出て来た灰色の砲撃型とは異なる種類の「色付き」が二種類も存在するのだという。

 

 弓場隊は弱くはないが、その性質はどちらかというと1対1の対人戦に向いている。

 

 軍勢相手の戦闘も出来なくはないが、撃破スピードの能率として考えればどうしても他の2グループの護衛よりも劣っているのは否定出来ないのだ。

 

 同道している柿崎隊は守りという面では優れているが、残念ながら突破力という意味ではあまり期待出来ない。

 

 隊長の柿崎は集団を護送する引率としては優秀ではあるし、防衛戦闘という点で見ればB級でも屈指の能力を持つ。

 

 しかし、今回はあまりにも数と質が違い過ぎた。

 

 先の砲撃型との戦闘では、事前に当真から情報共有が成されていた為に的確にその欠陥を突く事が出来た。

 

 だが、今回は能力の分からない「色付き」が二種類も存在している。

 

 それが、最大のネックだった。

 

 加えて、敵が彼等の所を選んだのはそこが()()()()()()C()()()()()()()事も理由として挙げられるだろう。

 

 遊真達が守るグループは初めから少数であるし、三輪達が守っている所は一度、ラービットの襲撃を受けた結果C級の多くがキューブにされた上で救出されている。

 

 故に、現時点で最もC級隊員の数が多いのは弓場達が守っているグループ、となるのだ。

 

 戦力が薄い事も理由だろうが、それが一番大きな理由である事は間違いあるまい。

 

 敵は戦果としてC級を狙っているのだから、その数が多いに越した事はない筈なのだから。

 

(優先すべきは、被害を出さない事だ。そして、今の部隊配置を考えると────────よし)

 

 忍田は一瞬の逡巡を経て、顔を上げる。

 

「弓場隊、及び柿崎隊には無理をせずC級を守る事を最優先に戦うよう伝えろ。今から、そちらに────────」

 

 

 

 

「了解! 聞いたなおめェー等、なんとしてもこの場を死守すっぞコラァ!」

「了解!」

『了解です』

 

 弓場は忍田からの指示を受け、二丁拳銃を構え直す。

 

 状況は、最悪に近い。

 

 新型の一体や二体程度どうとでもなる、と言いたいが今回は流石に数が違う。

 

 弓場は忍田の考える通り、本来であれば対多数の戦闘よりも1対1の戦いの方が適している隊員だ。

 

 高い機動力を生かした不意打ち等も行うが、その戦術は基本的に堅実な各個撃破である。

 

 近接の火力は目を見張るものがあるものの、太刀川のように旋空で纏めて敵を薙ぎ払う事も出来なければ、生駒のように遠く離れた相手を一刀両断する事も出来ない。

 

 一騎打ちに特化したその戦闘スタイルは、現在の状況とはすこぶる相性が悪いと言わざるを得ない。

 

(やっこ)さんもそう考えて此処に戦力をブッ込んで来やがったんだろうなァ。ムカつくが、効果的なやり方なのは確かだな)

 

 ちなみに、遊真については情報がない為そちらを狙わなかった理由は分からないが、三輪隊の守る集団を選ばなかったのは彼等のチームとしての練度が高かった為だろうと弓場は分析している。

 

 流石A級と言うべき連携も然る事ながら、向こうには狙撃部隊である荒船隊がサポートとして付いている。

 

 三輪のラービット撃破の鮮やかな手並みを見ている事もあって、向こうではこの戦力を投入しても返り討ちに遭う可能性があると踏んだのであろう。

 

 そういう意味では、戦術としては的確な采配なのだ。

 

 それが分かるだけに、弓場は内心で舌打ちしつつ現状で可能な対応策として防戦に入るしかないのである。

 

『────────』

「…………!」

 

 そして、対峙していたラービットの一機────────────────紫色の個体が、地面に腕を突き刺した。

 

 それが攻撃のモーションである事など、嫌でも分かる。

 

「下だ…………! 避けろォ!」

 

 敵の攻勢が始まったのだ、と理解した弓場は指示を出した。

 

 次の瞬間、彼等がいた場所目掛けて地面の下から黒い刃が躍り出る。

 

 紫色のラービットによる攻撃、即ち黒トリガー泥の王(ボルボロス)のそれを模した液化ブレードが放たれたのだ。

 

 弓場は「地面に腕を突き刺す」というモーションからスコーピオンの発展技であるもぐら爪(モールクロー)を想起した事で、「地面を経由した攻撃」が来ると見抜き指示を出したワケだ。

 

 結果、それは見事に的中し弓場と帯島は間一髪で液化ブレードによる攻撃を回避した。

 

 これがエネドラ本人によるものであればこの程度では回避し切れなかった可能性が高いが、再現体とはいえあくまでも模造品。

 

 当然ながら黒トリガーの出力までは模倣出来ず、もぐら爪(モールクロー)の亜種程度の攻撃レベルに留まったのだ。

 

 1対1であれば、弓場隊に対処出来ない相手ではない。

 

「く、次が来んぞオラァ…………!」

 

 だが、今回は()が違う。

 

 敵のモッド体は、1体だけではない。

 

 計10体。

 

 それが敵の総数であり、内約は灰色の砲撃型が3,紫色の泥刃型が4、能力不明の黄色個体が3である。

 

 残る3体の紫色の液化刃型が、一斉に地面に両腕を突き刺す。

 

 途端、巻き起こるは泥の刃の群れ。

 

 次から次へと地面から飛び出る泥の刃が、四方八方から弓場隊へと迫り来る。

 

 弓場と帯島は時に回避し、時でシールドで防御しながらそれらの攻撃を凌ぐ。

 

 幸いにもブレード一つ一つの破壊力はそこまで高いワケではなく、あくまでもその奇襲性と数で押す武器のようだ。

 

 集中シールドであれば、何とか防御は出来る。

 

「く…………!」

 

 されど、限界はある。

 

 計四機もの泥の刃による一斉攻撃は、とにかく手数が多過ぎる。

 

 今はまだ直撃はしていないものの、身体を掠る攻撃が早くも出始めている。

 

 このままでは、物量に押し潰されるのも時間の問題だろう。

 

「そこだ」

 

 だが、それで終わる弓場ではない。

 

 弓場は地面に腕を突き刺している紫色の個体の頭部目掛けて、二丁拳銃の弾丸を連射。

 

 ラービットは頭部のシャッターを閉めて対応するが、同一個所に連続して直撃した事でその防御は破砕。

 

 リボルバーの弾丸はカメラアイを射抜き、紫色の「色付き」1体はその機能を停止させた。

 

 この液状刃型の弱点もまた、攻撃時における隙の大きさである事を早くも弓場は見抜いていた。

 

 あの液状刃を使う為には、地面に腕を突き刺す必要がある。

 

 つまり、その状態では腕を防御に使用出来ないのだ。

 

 この弱点に気付けたのは、構造的な欠陥が攻撃方法の酷似したもぐら爪(モールクロー)と同じであったからだ。

 

 あちらもまた、使用時にはその場から動けなくとなるという無視出来ないデメリットがあった。

 

 同種の攻撃であれば弱点もまた同じだろうと見ていたのだが、どうやら正解だった模様である。

 

 そもそも泥の王(ボルボロス)の一番厄介な点は攻撃能力ではないので、それだけを模倣した再現体ではこの程度が限界なのだ。

 

「ち…………!」

 

 しかしそれでも、まだ敵は一体削れただけだ。

 

 合計9体ものラービットが、未だに健在なのである。

 

 紫のラービットは懲りずに地面に腕を突き刺し、再び液状刃を展開する。

 

 当然、そこへ弾丸を打ち込む弓場だが。

 

「流石に、対策して来るか…………!」

 

 そこへ、泥刃型を守るように黄色の個体が腕をクロスさせてその攻撃をガードする。

 

 威力の高い弓場の弾丸とはいえ、ラービットの装甲の中でも最高硬度を誇る腕部装甲は容易には突破出来ない。

 

 罅を入れる事が出来ただけでも流石ではあるが、突破には至らなかった。

 

『────────』

「…………っ!」

 

 そして、今度はその黄色のラービットが攻撃を仕掛けて来た。

 

 黄色個体はクロスさせた腕を解くと、その胸部から無数の黒い塊を発射。

 

 弓場と帯島の二人目掛けて、無数の金属片が襲い掛かる。

 

「受けるな、帯島ァ…………!」

「はいっ!」

 

 嫌な予感を感じた弓場は、全力で回避するよう帯島へ指示。

 

 それに従った帯島と共に、金属片による攻撃を回避する。

 

「わ…………っ!?」

 

 だが、その金属片の一つが帯島のコートの裾に突き刺さった。

 

 途端、帯島は不意に引き倒されるような感触を覚え、コートに引っ張られる形で倒れ込んでしまう。

 

「帯島ァ!」

 

 見れば、帯島は地面に刺さった金属片へと引き寄せられていた。

 

 それを見てあの金属片が磁力を帯びていると看破した弓場は、帯島のコートを銃撃で撃ち抜く。

 

「…………!」

 

 刺さった金属片をコートごと撃ち抜かれた帯島が解放され、立ち上がろうとする。

 

 だが、そんな明確な隙を逃がす程敵は甘くはなかった。

 

「…………っ!」

 

 その瞬間を狙っていたかのように、三機の砲撃型が口を開く。

 

 咄嗟にリボルバーで迎撃しようにも、どうやら敵も弓場の銃撃を警戒したらしく、その位置は初期位置からやや離れた場所まで移動していた。

 

 ギリギリ射程内ではあるものの、今から撃っても砲撃には間に合わない。

 

 更に最悪な事に、敵が狙っているのは弓場ではなく倒れた帯島の方だった。

 

 弓場本人だけならば回避は可能だが、一度地面へ引き倒されたばかりの帯島ではこの攻撃には対応出来ない。

 

(チィ、シールドで耐えるしかねェ…………!)

 

 自分だけ逃げる、という判断は弓場には下せなかった。

 

 甘いとは思うが、此処で帯島を見捨てて自分だけ助かるような選択を、彼はどうしても取れなかったのだ。

 

 事前に帯島から打診があったのであればともかく、常の弓場の思考傾向からいって何の断りもなくそんな判断を実行に移せる筈もない。

 

 戦力的には弓場が生き残った方が有益であるとか、そちらの方が効率的であるとか。

 

 そういった理屈よりも何よりも、弓場の仁義がそれを許せなかったのだ。

 

 これがランク戦であり、そういった作戦をすると相談されたのならばまた話は違っただろう。

 

 失敗しても本当の意味での危険はないと考え、弓場も承諾したかもしれない。

 

 だが、此処は本物の戦場。

 

 しかも、相手はこちらを攫うつもりでやって来た侵略者だ。

 

 万が一にも帯島が攫われるような可能性が出る選択を、弓場が取る事は出来なかったワケである。

 

「気張れェ、帯島ァ!」

 

 

 

 

「弓場さん…………!」

 

 弓場が身を張って自分を守ろうとしている姿を見て、帯島は申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

 敵の攻撃を避け損なったのは、自分のミスだ。

 

 そして、そのミスによって今、尊敬する隊長がその身を敵の攻撃に晒そうとしている。

 

 自分が、弓場の指示を完璧に守れていれば。

 

 そんな後悔が、帯島の胸に襲い来る。

 

 自分の所為で、この局面で大事な戦力となる弓場がみすみす落とされてしまう。

 

 そんな真似は、断じて許すワケにはいかなかった。

 

 せめて、自分が代わりに。

 

 そう思って、帯島は無理やりにでも前に出ようとした。

 

 間に合わなくとも、少しでも盾になれれば。

 

 それは合理的な判断などではなく、帯島の感情の叫びに従った結果だった。

 

「え…………!?」

 

 だが。

 

 その行動は、寸前で停止した。

 

 否。

 

 その必要が、なくなったのだ。

 

 突如として砲撃を敢行しようとしていた三体のラービットに、空から爆撃の雨が降り注いだが故に。

 

 不意の攻撃に混乱し、体勢を崩したラービットの砲撃は不発に終わる。

 

 そして、次の瞬間。

 

「せー、のっ!」

 

 活力に溢れた少女の声が響き、砲撃型のうち一体が一撃で両断される。

 

 装甲の硬さなど知った事ではないとばかりに、斧の一撃がその機体を斬り裂いた。

 

「次」

 

 そして、何でもないかのように振り抜いた大斧の斬撃により、二体目がバターのように切り裂かれる。

 

「次」

 

 続け様の三撃目により、三体目の砲撃型が袈裟切りに両断。

 

 あっという間に、三機の砲撃型は一人の少女の攻撃によって全滅した。

 

「遅くなってゴメンね、弓場ちゃん。大丈夫だった?」

「小南ィ、助かったぜ…………!」

 

 現れた少女の名は、小南桐絵。

 

 ボーダー最強部隊、玉狛第一のエース攻撃手(アタッカー)にして。

 

 玉狛支部の誇るユニークトリガー、双月を手にする屈指の実力者である。

 

 考え得る限り最強の助っ人が、この場に現れた。

 

 その事実に、弓場は安堵と共に笑みを浮かべる。

 

 先程忍田から、援軍を寄越すという連絡はあった。

 

 誰が来るかまでは聞いていなかったが、まさか小南が来るとは予想外にも程がある。

 

 てっきり彼女は、自分の支部のメンバーがいる方へと向かうと弓場は考えていたからだ。

 

「来てくれたのはありがてェが、おめェーんトコの支部の奴等ントコに行かなくて良かったのかよ? 向こうではぐれたC級の面倒見てる、って聞いたぜ」

「あっちは遊真がいるから大抵の事はなんとかなるわ。あ、遊真ってのはアタシの弟子でね。見た目はガキっぽいけど、かなりまあまあ強いのよ」

「ほぅ」

 

 弓場は小南の言葉に、そのサングラスをギラリ、と輝かせた。

 

 極度の負けず嫌いである小南は、相手の戦力を評価する時に必ず「まあまあ強い」と付ける癖がある。

 

 だが、その小南がその言葉の前に「かなり」と付けた以上は、その遊真という隊員の実力をそれなり以上に評価していると見て良い。

 

 ちなみに弓場が受けた評価は「結構まあまあ」だったので、少なくとも小南の見た限りではその人物は自分よりも強いという事になる。

 

 戦闘狂(バトルジャンキー)のケがある弓場としては、そんな隊員がいるのであれば是非とも1対1で(バチッて)やりたくなるというもの。

 

 状況も一瞬忘れ、闘争心が燃え上がる弓場であった。

 

「それで次、は────────!?」

 

 だが。

 

 次の瞬間、いきなり表情を歪めた小南を見て弓場は彼女の視線の先に目を向ける。

 

 そこには、何もない。

 

 否。

 

 ()()()()()()、何もなかった。

 

 変化は、次の瞬間訪れる。

 

 小南の超人的な危機感知の直感が捉えた「ナニカ」は、その場に現れた黒い穴から悠々と地面に降り立った。

 

「ほっほ、元気なお嬢さんですな。見れば、中々の強者の様子。これは、楽しめそうですな」

 

 たなびく、黒い外套。

 

 それに身を包むは、痩身の翁。

 

 名を、ヴィザ。

 

 アフトクラトル最強の剣聖が、遂に戦場にその姿を現したのだ。

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