香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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貧者の見識①

 

 

(そんな…………! 折角東隊が救援に来てくれたのに、新たに7体もだなんて…………!)

 

 帯島は眼前に現れた7機のラービットを見て、思わず悲鳴のような声を漏らしそうになった。

 

 無理もない。

 

 此処に来て、最悪の状況が更に更新されたのだから。

 

 残り6機であれば、東隊の協力があれば何とかなったかもしれない。

 

 あの時既にこの場の砲撃型は全滅しており、伏兵として隠れていた一機も撃破した。

 

 残るは泥刃型3機に磁力型が3機であり、どちらも注意すべき相手ではあるが砲撃型のような()()()()()()がない分如何様にも戦えた。

 

 しかし、たった今現れた7機の「色付き」のうち4機が砲撃型、3機が磁力型である。

 

 突破力に乏しい今の自分達の布陣では、相手にするには厳し過ぎる編成だった。

 

 恐らく、泥刃型を追加しなかったのは攻撃時に両腕が使えなくなるというデメリットを突かれ易い、と判断したのだろう。

 

 あのタイプは初見殺しの要素は大きいが、一度タネが分かれば対策はそう難しくはない。

 

 そういう意味では砲撃型も同じなのだが、あちらは砲撃の威力そのものが厄介だ。

 

 4機ものラービットに一斉砲撃されたとなると、回避以外の対応は難しい。

 

 敵も、それを分かっているのだろう。

 

 新たに4機の砲撃型を追加した事からも、その意図が透けて見える。

 

(けど、分かってるけどどうしようもないよ…………! こんな、こんなの…………!)

 

 恐らく、敵は磁力型の攻撃でこちらの動きを封じ込め、そこを砲撃型で叩くつもりだ。

 

 磁力型は磁力片を発射する事で、着弾した対象を他の磁力片へ引き寄せる事が出来る。

 

 直接的なダメージはないが、まともに食らえば身動きが出来なくなるのは言うまでもない。

 

 いわば、連射可能で弾速も落ちない鉛弾(レッドバレット)のようなものだ。

 

 もしもこれが単純なプログラムによる運用ではなく、明確な意思の下でコントロールされていたら、と思うとゾッとする。

 

 だが、現状そのプログラムに従う機械兵相手であっても、この攻撃は脅威だ。

 

 敵の磁力型の数は、6機。

 

 あれらに磁力片を一斉に発射されれば、回避は困難を極める。

 

 その上で3機の泥刃型の動きにも注意しながら、砲撃型を警戒しなければならない。

 

 正直な話、この場にいる人員だけでは対応不可能に思えた。

 

 小荒井も奥寺も弱いワケではないし、むしろ連携力ではB級上位でもトップクラスに位置するが、如何せん相手が悪い。

 

 それだけ、新型の特殊個体というのは厄介な存在なのだから。

 

(これは、もう…………)

 

 心が、折れそうになる。

 

 この場に未だ弓場が生き残っていれば、また違ったのかもしれない。

 

 あのいつでも檄を飛ばしてくれる頼もしい仲間思いの隊長がいれば、こんな自分を励まして共に戦ってくれただろう。

 

 しかし、既に弓場は敵によって落とされこの場にはいない。

 

 それでも何とか自分を励まし続けていた帯島だが、立て続けのキツイ状況の連続を前にその精神は折れる寸前だった。

 

『帯島ァ、聞こえっかコラ』

「…………! 弓場さん…………!」

 

 そんな時、通信越しに声が聞こえた。

 

 この厳ついながらも暖かな父性を感じる鋭い声は、間違いない。

 

 弓場だ。

 

 敬愛する自らの部隊の隊長が、通信越しに声をかけてくれていたのだ。

 

『すまねェなァ。みっともなく落ち(バラされ)ちまって、不甲斐ねェにも程があるわな』

「い、いえ、そんな…………!」

『だがよう、そんな自分を棚に上げて言わせて貰うぜ。帯島ァ! おめェーはよ、一人で戦ってるつもりでいんのか? 違うだろうが。外岡もいるし、何よりそこにゃあ東サンがいんだろうが。あのお人がいて、何を不安に思う事があらァ』

「…………!」

 

 弓場の言葉に、ハッとなる。

 

 目に見える範囲にいる味方ばかりを気にしていたが、チームメイトの外岡は今この瞬間も自分を援護出来る位置で機会を待ってくれているのだ。

 

 それに加えて、かつてA級一位チームを率いた歴戦の戦術家である東もこの場にはいる。

 

 そう思えば、確かに絶望するのはまだ早い。

 

 まだ、自分は出来る事をやり切ってはいないし、何より。

 

 個人の力で勝てずとも、チームの力で勝利を掴めばそれで良い。

 

 それが、戦いに於ける鉄則ではなかったか。

 

『あー、ちょい頼りないかもだけど俺も頑張るからさ。前に出てる帯島ちゃんに言うのは酷かもだけど、もう少し頑張ってくれるとありがたいかな』

『帯島隊員、この場は俺が預かろう。弓場隊共々、俺の指揮下に入って欲しい。既に隊長の弓場の承認は得ている。構わないかな?』

「はいっ! お二人とも、改めてよろしくお願いしますっ!」

 

 こちらを気遣い外岡の言葉と、敢えて事務的に伝える事でその器の大きさを垣間見せた東の後押しにより、帯島は俯き気味になっていた顔を上げた。

 

 そうだ、何を迷う事がある。

 

 エースである弓場は落ちてしまったが、この場にはまだ味方がいる。

 

 頼りになる狙撃手の外岡もいるし、何よりあの東が指揮を執ってくれるというのだ。

 

 弓場以外の指揮で動くのは初めてだが、東の戦術家としての能力の高さは嫌と言う程思い知っている。

 

 ランク戦でも、その堅実で容赦のない戦術には幾度となく苦渋を味わわされたものだ。

 

 その東が指揮をしてくれるというのだから、これ以上頼もしい事はない。

 

『それから、実は俺達だけで来たワケでもないんだ。()()()()、連れて来ている』

「え…………?」

 

 そこで、気付く。

 

 東の言葉に振り向き、視線を向ける。

 

「────────というワケだ。よろしく頼む、帯島」

「村上先輩…………!」

 

 そこにいたのは、平坦な表情をしたがっしりとした体格の少年。

 

 NO4攻撃手(アタッカー)、村上鋼。

 

 B級の中でも個人戦闘力ならトップクラスに位置する、帯島も良く知る頼もしい剣士の姿がそこにあった。

 

 東の事は信頼しているが、弧月使いである帯島にとって村上は直にその実力の高さを実感している相手である。

 

 彼が所属する鈴鳴第一はB級中位にいるのでチームランク戦でぶつかった事はないものの、個人戦でなら何度か戦った事がある。

 

 そして、複数回行われた個人戦で帯島が一度たりとも勝てていない相手がこの村上なのだ。

 

 それだけに、その実力は身を以て知っている。

 

 分かりやすい「実力者」が姿を見せた事で、帯島の中に勇気が湧いて来る。

 

 我ながら現金だとは思うが、戦術的な強さを持つ東よりも、村上が目の前に来てくれた今の方が頼もしさという意味で上なのは否定しきれなかった。

 

「幸い、指揮は東さんが取ってくれるそうだからな。他のトリオン兵の駆除に当たっている来馬先輩や太一も心配ではあるが、今はこちらに全力を注ぐと約束する。こんな俺だけど、頼りにしてくれるとありがたい」

「いえっ、とても頼もしいですっ! ありがとうございます、村上先輩!」

「そう言ってくれると嬉しいよ。さあ、一緒に戦おうか」

「はいっ!」

 

 元気一杯に、村上へ返答を返す帯島。

 

 その様子を見ていた奥寺達は苦笑しつつも、気持ちが分かるだけに乾いた笑いを漏らす他なかった。

 

 村上のような「分かり易い強者」というものは、傍にいてくれるだけで安心するものなのだ。

 

 東も戦術家としては一流だが、そのポジションは狙撃手であるが故に傍にいて見守ってくれている、と思うには同じ部隊として戦っている奥寺達以外では実感するのは中々難しいだろう。

 

 理屈がどうこうというよりも、それだけ視覚効果、というものは大きいのだから。

 

 そういう意味で、頼りになる前衛として村上を連れて来た東の判断はベストだったと言える。

 

『よし、準備は出来たな』

 

 帯島が奮起したのを見て取って、東は作戦の指示を出す事を決める。

 

 稀代の戦術家は、即席部隊を纏め上げそれを統率すべく動き出した。

 

『指示を出す。基本的には、遅滞戦闘だ。無理をせず、やられない事、後ろに新型を通さない事を最優先にして戦闘を行う。始めるぞ』

 

 

 

 

「どうやら予想通り、一点に戦力を集中させて来たみたいだね。追撃がなかったのは、向こうに戦力を注ぎ込む準備をしていたからか」

 

 遊真は修越しに報告を聞き、得心したように頷いた。

 

 先程、遊真は現状から敵の狙いが「戦力を一点集中してのごり押しでのC級の鹵獲」であると予想し、その悪い予感は見事に的中してしまう事になる。

 

 その事態に、修も表情がやや暗い。

 

「小南先輩や他のB級の人達が救援に向かったらしいけど、大丈夫かな。あの新型の大群だなんて」

「気にはなるが、だからといって此処を放棄するワケにもいかないだろ。多分、おれがいなくなったら次は此処に戦力を集中させて来るだろうしな。向こうからすれば、C級を攫えれば誰でもいいんだろうし」

「そう、だな。じゃあ、ぼく達に出来るのは此処を守る事だけか」

「そうなるな。千佳もいるし、それしかないだろ」

 

 けど、と遊真は一人思案する。

 

(いやらしい手だな。向こうは、おれを()()()()気か)

 

 恐らくではあるが、敵は遊真が黒トリガーの使い手である事を見抜いている。

 

 まあ、トリガーの出力からして規格外なのだから、その事自体に驚きはない。

 

 黒トリガーの特徴の一つに、発動時の使用者のトリオンの極大化がある。

 

 これは黒トリガーの作成者のトリオンがブーストされた上で上乗せされる為とも言われているが、真偽は定かではない。

 

 重要なのは、黒トリガーを起動した状態のトリオンは通常のそれから一気に膨れ上がる、という事だ。

 

 それは敵が計器を使っていれば一目瞭然の筈であり、遊真自身も自らが黒トリガー使いである事を隠すよりも早急な戦果を挙げる事を優先した為、自分がそうである事がバレた事に関しては驚きはない。

 

 厄介だと思ったのは、敵が自分相手に最大戦力を向けるのではなく、遊真という駒を()()()()戦略を取って来た点だ。

 

 遊真の告げた通り、もしも彼がこの場を離れればラービットの軍勢が押し寄せて来るのが目に見えている。

 

 目立った戦力が遊真一人しかいないこの集団が新型の襲撃から逃れ得ているのは、言うまでもなく黒トリガーの使い手である彼がこの場を守っているからだ。

 

 もしも遊真が他の場所へ赴けば、そこをチャンスを見てラービットを投入して来るのは瞭然である。

 

 そういう意味で遊真はこの場に留まらざるを得ず、敵は黒トリガーという大戦力の一つを事実上封じ込める事に成功している。

 

 いやらしく、効果的な手だと遊真は感心さえしていた。

 

 強い駒を浮かせる、という戦術は戦果のみを掻っ攫う上では効果的だ。

 

 これが防衛側であれば浮かせた駒に予想外の所に突っ込んで来られるリスクと隣り合わせになるが、侵攻側から見ればそういった危険性は考えなくとも良くなる。

 

 そう考えると、敵はこの状況で目的を達する為の最善手を打って来たと見て良い。

 

 向こうは別に、この世界を滅ぼすつもりも支配するつもりもない。

 

 ただ、自分達にとって有益な()()を確保し、安全に撤退したいだけなのだ。

 

 その資源が人間である事に目を瞑れば、極めて効率的な考え方である。

 

 近界出身の遊真に人道的な忌避感などはないものの、この世界の人間からしてみれば冗談ではない、と思うだろう。

 

(まあ、多分敵の指揮官は文官タイプだろうからな。このリスクを徹底的に減らすやり口は、そういう奴だ)

 

 遊真から見て、敵は自分の被るであろうリスクを徹底して減らす事に念頭を置いているように見える。

 

 このやり口は遊真の経験上文官タイプが多く、戦術のいやらしさを鑑みるに相応の立場を持った上流階級である可能性が高い。

 

 そういった立場の者は作戦の勝敗に加えて自分の立場を守らなければならない為、慎重策を取りがちだ。

 

 保身優先と聞けば聞こえは悪いが、上に立つ者の身は文字通りその者だけのものではない。

 

 上の立場が危うくなれば当然配下の者達の立場も悪くなり、最悪は領地そのものが危機に陥る。

 

 自分の身可愛さで保身に走る者もいるが、上に立つ者が一切の保身をしない、というのはそれはそれで問題なのだ。

 

 後を継ぐ者が早急に用意出来るならばともかくとして、管理職というものはその立場で培ったノウハウがあるからこそ支配領域を治めていられるのだ。

 

 場合によっては腐敗して挿げ替えるしかない首もあるが、概ねの場合に於いて後続に引き継がずにいきなり支配者がいなくなればその支配領域は碌な事にならない。

 

 後継者を名乗る者が乱立して内乱状態になり、そこを外敵に突かれる、などといったパターンが典型だ。

 

 そういう意味でも、今回の指揮官はそういった事態を避ける為に可能な限りリスクを減らす策を取っていると見るべきだ。

 

 その割にはトリガー使いを四名も派遣しているのは少々違和感が残るが、何かしらの事情で早急に資源の確保が必要になった可能性はある。

 

 今は少しの違和感よりも、目に見える脅威を取り除く事が先決だった。

 

(誰かを此処に呼んで貰って代わりにおれが行く、ってのもありだとは思うけど、万が一にも戦う力がないチカを危険に晒すワケにはいかないからな。けど、このまま守ってばかりだとオサムの評価は上がらないかもしれないな。まあ、身の安全より大事な事じゃないからいいけど)

 

 現実問題として、遊真が此処を離れれば襲撃が起こるのは確実だ。

 

 これは可能性などではなく、ほぼ確定した未来予想と言っても良い。

 

 何故なら、自分が敵の立場であればやらない理由はないからだ。

 

 修はお世辞にも単体では戦力になるとは言えず、ラービットの大群相手では成す術がないだろう。

 

 今此処を守っている遊真という防人がいなくなれば、確実にラービットはやって来る。

 

 だがそれは、遊真という大戦力を遊ばせておく事と同義だ。

 

 遊真自身は、それでも良いとは思っている。

 

 彼の最優先事項は修と千佳を守る事であり、それ以外は極論()()()だ。

 

 それなりに関わった面々に対する情がないワケではないが、修への献身と比較すれば薄い。

 

 気になるとすれば、このまま専守防衛に徹した場合の修の評価だ。

 

 確かに遊真がこの場を守り続けていれば、彼等が守る集団には被害が出ないだろう。

 

 しかし、現状最も危機的である弓場隊や東隊が守る集団や、別所で戦っている者達を見捨てる事と同義だ。

 

 現在、遊真は修の願いで同行を選んでこの場にいる状態にある。

 

 裏を返せば修の要請で遊真をこの場に縛り付けていると言い換えられなくもない為、後から難癖を付けて来る口実としては充分なものとなってしまう。

 

 流石にそれは避けたいが、有効な手立てがあるワケでもない。

 

 そう考えて、修にその意を伝えるべく振り向いた。

 

「────────なあ、空閑。ちょっと思いついた事があるんだけど、いいか?」

「いいけど、なんだ?」

「それは────────」

 

 すると、修は真剣な表情で遊真に説明を始める。

 

 暫くそれを聞いていた遊真だったが、暫く考え込む素振りを見せる。

 

 そして。

 

 笑みを浮かべ、コクリと頷くのだった。

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