香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ランバネイン②

 

 

(良く避ける。若いのに大したものだ)

 

 ランバネインは眼下で自分の攻撃を避け続ける風間を見て、感心したように頷いていた。

 

 これまで、幾度となくランバネインは彼に向かって攻撃を仕掛けている。

 

 彼のトリガー、雷の羽(ケリードーン)は高い火力と連射性を両立した火力戦特化のトリガーである。

 

 敵が使っている曲がる弾のような自在な軌道こそ描けないがある程度は軌道の調整が利き、尚且つ弾丸の威力が洒落にならないくらい高い。

 

 それが間髪入れずに撃ち放たれるのだから、まともに火力戦に付き合えば瞬く間に消し炭になっている事だろう。

 

 だが、風間はそうではなかった。

 

 近接特化なのは、立ち回りを見ていれば分かる。

 

 流れるような動きでこちらの弾丸を回避する機動は格闘戦に慣れた者のそれであり、尚且つ熟練の技を感じさせる。

 

 見た感じ最初にランバネインが現れた場にいた誰よりも若いが、相応の修羅場を潜って来たであろう事は間違いない。

 

 少なくとも、あの場のいた中で最も警戒すべき相手は彼であるとランバネインの戦士の直感は告げていた。

 

 風間の年齢以外はその感覚は正しく、だからこそランバネインは彼の陽動に付き合っていた。

 

 確かに、風間の動きが他の面々へ攻撃をさせない為の陽動である事は明らかだ。

 

 あの透明化トリガーを使わずに彼だけが姿を晒しているのは、こちらに無差別爆撃をして欲しくないからに違いあるまい。

 

 ならば逆に、向こうがして欲しくないであろう無差別爆撃を敢行すれば良いのではないか。

 

 一度は、そう考えもした。

 

(だが、()()()()()()()()。あれだけの動きが出来る者が、果たして無策でそんな真似をするものか?)

 

 されど、ランバネインは一つの懸念からその行動に待ったをかけていた。

 

 風間の動きは歴戦の将兵たるランバネインの眼から見ても、熟練の兵士のそれだ。

 

 しかも垣間見た部下とのやり取りを見た限りでは、指揮官としても優れた才を持っている様子だ。

 

 果たして、そんな者があからさまにこちらに自分の意図が筒抜けになるような真似をするだろうか。

 

 そんな懸念が、ランバネインに無差別爆撃を思い留まらせていた。

 

 ランバネインは武骨な武官に見えて、その実論理で戦闘を行う理論派の巧者である。

 

 その戦闘は彼なりの論理に基づいて構築されており、その基本戦法は自分の有利を押し通しつつ考えられるリスクを虱潰しに排除していく堅実な方法を取る。

 

 そんな彼の眼から見て、安易な無差別爆撃はリスクの高い行動に見えたのだ。

 

 これがエネドラであれば、相手を侮るが故に構わず無差別攻撃を実行したであろう。

 

 だが、ランバネインはそんな軽挙はしない。

 

 リスクがあるのならば、まずはそれを排除してから攻撃行動に移るのがランバネインだ。

 

 不確定要素の多い段階で、博打のような真似などする筈がない。

 

 雷の羽(ケリードーン)は飛行機能という利便性の高過ぎる機能が含まれた優秀なトリガーではあるが、消費するトリオンは馬鹿にはならない。

 

 確かに、トリガー(ホーン)で強化されたランバネインのトリオンが尽きる事など早々ない。

 

 しかし雷の羽自体が大喰らいなトリガーであり、ランバネインのトリオンはかなりのものだが無限ではないのだ。

 

 有限である以上、無駄遣いをすればいつか限界は来る。

 

 そういう意味で飛行機能はずっと使い続けるワケにはいかず、こうして着地したり徒歩で歩いたり、といったインターバルを挟んでいるのだ。

 

 風間が移動するのが狭い建物の合間である事もあり、追い込み切るのに手間がかかっている、という事情もある。

 

 周囲の建物ごと吹き飛ばす、といった方法もあったが、それをすれば風間の姿を一瞬といえど見失ってしまいその間に透明化トリガーを使われる可能性が高かった。

 

 あの練度の兵士を完全に見失ってしまうような事態は避けなければならない以上、そんな愚は犯せない。

 

 奇しくも、隠密トリガーカメレオンの効果をその眼で見た事がランバネインに一つの縛りを与えていた。

 

 隠れ場所を吹き飛ばすメリットよりも、一度見失ってしまった風間に四六時中背後を狙われ、精神的な圧迫感を与え続けられかねないデメリットの方がより重いと判断したのだ。

 

 時として、兵士はあらゆる忍耐を重ね敵の首を落とすその時の為に影に潜み続ける場合がある。

 

 ランバネインから見た風間は、如何にもそれをやりそうな人物に思えた。

 

 そういったゲリラ戦と相性が良いカメレオンを持っていた事も、その考察を肯定する材料となっていた。

 

 敵は、こちらに大雑把な攻撃をさせて姿を隠し、いつでも自分の背後を狙える状態に持っていくのが目的なのではないか。

 

 それが、ランバネインの考えている最大の懸念点であった。

 

 考え過ぎ、であるとは思わない。

 

 彼ならば、あの若い戦士であれば必要なら間違いなくやるだろう。

 

 それだけの貫禄を、ランバネインは風間から感じ取っていたのだから。

 

 或いは、以前の彼であれば「それでもゴリ押すべきだろう」と無差別爆撃に踏み切ったかもしれないが、ククロセアトロの一件以来ハイレインと同じくランバネインは「想定外」の事柄に対して過敏に反応するようになっていた。

 

 あのような愚行を行う者が他にいるとは思わないが、この一件によってランバネインの中の認識が変わったのは間違いない。

 

 明確な懸念があるのであれば慎重に慎重を期すようになったのは、紛れもない事実だった。

 

(丁度、この先に広い敷地の建物があるようだ。あそこならば、派手にやっても早々に他所に隠れる余裕はあるまい。一つ、あそこで勝負をかけてみるか)

 

 

 

 

「────────という感じに敵は考えてくれている筈だ。粗雑に見えて、かなり慎重で堅実な相手のようだからな。恐らく間違ってはいないだろう」

『成る程。了解した』

『ったく、相変わらず性格が悪ぃなおめーは。敵さんにそんな思い込みをさせるだなんてよ』

 

 風間は通信でランバネインの思考の推測を語り、通信の向こうで悪友二人がその内容を理解しつつ相槌を打った。

 

 彼は最初から、ランバネインに「自分の姿を見失わせるリスクのある行為は行えない」と思考を誘導する為に、敢えて自分の姿を晒しながら動いていた。

 

 時折透明化を行いやや離れた場所に出現する、といった行動を繰り返したのもそんな敵の考察を補強してやる為だ。

 

 ランバネインは粗雑に見えて堅実極まりない論理派であり、リスクがある事に()()()()()()軽々な行動は取らないと予想していた。

 

 そしてランバネインが風間の想定通りの動きを見せた事で、思考誘導が巧くいった事を風間は確信したのだった。

 

『もし、敵さんが構わず無差別爆撃して来たらどーするつもりだったんだよ?』

「その時は、敵の懸念を現実にしてやるだけだ。ある程度こちらの被害も許容する事にはなるだろうが、あの砲兵を野放しにするよりはマシだ。そちらのプランも、当然考えていたさ。最終手段ではあるがな」

『────────ほんっと、おめーは性格悪ぃな。初めて敵に同情したぜ』

 

 尚、万が一ランバネインが無差別爆撃を敢行した場合は彼の懸念していたリスクを現実にするだけのつもりだった。

 

 その場合ある程度街の被害は許容しなければならなくなるが、高い火力と連射性能に加えて飛行機能まで備える砲兵を完全に野放しにするよりはマシだと、風間は判断していた。

 

 つまり、風間はランバネインに無差別爆撃を思い留まるよう誘導はしたが、彼の懸念自体は間違いでもなんでもなかった、というワケである。

 

 必要ならば、どんな作戦だろうと躊躇いなく実行する。

 

 それが、風間蒼也という男のやり方なのだから。

 

「敵はこの先の旧三門市立大学を決戦の地と定めている筈だ。あそこなら派手にやっても俺を逃がすリスクは低い、と考えているだろうからな」

『それも、お前の想定通りか』

「そうだ。あそこは、俺達にとっても都合が良い。確かにあの敷地から完全に離脱するのは少々骨が折れるが、幾ら奴でも学校そのものを吹き飛ばすには時間がかかる上に盛大に隙を晒す事になる。()()()はどうだ? 木崎」

『問題ない。既に済ませている』

 

 通信先の悪友、レイジの返答に「なら良い」と答え、風間はもう一人の悪友────────────────諏訪に、通信越しに声をかけた。

 

「諏訪。お前の方の準備はどうだ?」

『ああ、いつでもいけるぜ。おめーが囮になってくれてっからか、道中特に妨害もなかったしな』

「なら良い。タイミングを間違えるなよ。単独で撃ち合いになれば瞬殺されるのを、忘れるな」

『わーってるよ。今だけは、おめーの指示に従ってやらぁ』

 

 諏訪の返答を聞き、風間はふっ、と薄く笑みを浮かべた。

 

 口は悪いがなんだかんだで仕事は丁寧に済ませるのが、諏訪という男だ。

 

 傍から見ればガラの悪いチンピラにしか見えない諏訪であるが、その実賢明な人柄で面倒見が良く、人望も厚い事は風間も知っている。

 

 その諏訪が、「問題ない」と言ったのだ。

 

 ならば、それを信じない理由は風間にはなかった。

 

 これが彼を欠いて精彩をなくした諏訪隊であれば戦力外通告を下したかもしれないが、諏訪に統率された状態の彼等であれば使いようは充分にある。

 

 あそこは鈴鳴第一と同じで、隊長の有無がダイレクトにモチベーションに影響して来る部隊だ。

 

 戦力になるとか、指揮を執る者がいるだとか、そういった事よりも。

 

 隊長に対する高い信頼と敬愛を持つが故に、その存在の有無で明確に動きが違って来るのだ。

 

 諏訪隊は個々で見ればA級の風間からすれば取るに足らない戦力に過ぎないが、部隊として動いた場合の脅威度は決して無視出来るものではない。

 

 そもそも、諏訪隊のダブルショットガンスタイルも対風間隊を意識して構築したのではないか、という疑惑さえある。

 

 考え過ぎのようにも思えるが、諏訪は実際にそういう事をやりかねないと知っているからこそ風間はその戦術眼を高く評価していた。

 

 個々の練度の問題でまだB級上位には上がれてはいないが、上に上がれるだけの潜在能力(ポテンシャル)は充分にあると風間は見ている。

 

 精神的な未熟さが目立つ笹森が一皮剥ければ、本気でその芽はあるだろうとも。

 

 実質彼等の指揮官を現在預かっている状態となった風間ではあるが、不安はない。

 

 大まかな指示さえ下せば、後は諏訪の方で微調整はやってくれるだろうと信頼しているからだ。

 

 指揮下に入れたとは言っても、いちいち隊員個々へ直接風間が指示していたのでは効率が悪い。

 

 故に最初から諏訪に作戦を説明し、何かあれば随時連絡する形が最も効率的なのだ。

 

 普段から一緒に飲みに行くなど、交流に事欠かない三人だ。

 

 諏訪が実はマメな性格であり、相手の意思を汲み取る事が上手である事などとうに承知の上である。

 

 思いも寄らぬ共闘にはなったが、彼等相手であれば異存などない。

 

 楽しそうな風間の様子に菊地原が面白くなさそうな顔をしていたが、後でケーキの一つでも奢れば機嫌は直してくれるだろう。

 

 トマトなど酸味のあるものやピーマンのように苦いものが苦手が菊地原であるが、以前ケーキを食べさせた時には見るからに機嫌が良さそうだった事を覚えている。

 

 甘党かどうかまでは知らないが、とにかく菊地原は構って貰えればそれで良いので対応としては問題ないだろう。

 

 風間は通信を繋ぎ、もう一組の協力者へ声をかける。

 

「王子隊。そちらの準備は良いか? 問題がないなら、始めるぞ」

 

 

 

 

「はい、問題ありません。いつでもいけます。クラウチ、カシオ、良いね?」

『ああ』

『はいっ! いつでも大丈夫ですっ!』

 

 王子は通信で風間にそう答え、それに賛同するようにチームメイトの二人も通信越しに頷いた。

 

 彼等は風間の指示の下、旧三門市立大学の近辺に潜伏していた。

 

 ランバネインから風間の支援により何とか逃げ切った三人は、そのまま撤退するのではなく風間に協力を申し出た。

 

 どんな指示にも文句を言わないという確約はさせられたものの、風間は特に異論もなく彼等の共闘を受け入れた。

 

 それは風間が王子隊の一個の戦力として認めてくれている証左であり、その時は柄にもなく嬉しくなった王子であった。

 

「風間さんは、ぼく等に期待して駒として扱ってくれている。だから、その期待には存分に応えてみせようじゃないか。場合によっては落ちる事もあるかもしれないが、そこはそれだ。別に死ぬワケじゃなし、気を張りつつも緊張し過ぎて固まる事だけはないようにね」

『ええ、分かりましたっ!』

 

 主に樫尾に向けて告げた忠告に、とうの樫尾は元気良く頷いて見せた。

 

 どうやら緊張よりも決戦を前にした昂揚の方が勝っているらしく、これならば問題はないと王子は判断した。

 

 樫尾は精神面は未熟な部分が散見されるが、これでも王子のやりたい放題(きまぐれ)に付き合って散々に揉まれた経験がある。

 

 その為ちょっとやそっとでは動じる事はなくなっており、あの経験は無駄じゃなかった、と王子を増長させる結果にもなっていたが、閑話休題(それはさておき)

 

 駒としての役割を割り振られた以上、全力でそれを全うするつもりである。

 

 話によれば諏訪隊とレイジが作戦に参加するとの事で、今からもうワクワクが止まらない。

 

 此処が本物の戦場である事は分かっているが、それでも風間の下でこれだけの戦力が一丸になって動く事など早々にある事態ではないのだ。

 

 燃えていない、と言えば嘘になる。

 

 聞けば、香取隊は既に人型を一部隊のみで撃破しているのだという。

 

 それに比べればこちらは合計三部隊+αであり、同一の条件とは言い難い。

 

 しかしだからこそ、この機会を逃すべきではない、とも思っている。

 

 他の部隊はランク戦での競争相手であると同時に、切磋琢磨し合う戦友なのだ。

 

 その相手が一層の躍進を遂げたのであればそれを祝福しつつ、自らも更なる研鑽を遂げて来るべき戦いに備えるべし。

 

 以前東が告げた言葉が、脳裏に蘇る。

 

 香取隊の成長は、予想していた以上だった。

 

 例の一戦を超えて、彼女達は既に高みに足をかけつつある。

 

 ならば、この機会をものにせずいつ上を目指すというのか。

 

(ぼく等も、負けてはいられない。ぼく等はぼく等なりに、この修羅場を潜り抜けてみせようじゃないか)

 

 王子は一人闘志を燃え上がらせ、作戦開始を待つ。

 

 決戦の時は、刻一刻と迫っていた。

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