香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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バトル・オブ・エモーション②

 

 

(獲った…………っ!)

 

 香取は、スコーピオンを振り下ろしながら勝利を確信する。

 

 樹里の弾幕を掻い潜り、至近まで肉薄する事に成功した。

 

 こうなれば、香取の独壇場だ。

 

 樹里は射撃トリガーと狙撃トリガーを併用する、射手と狙撃手を複合したような中・遠距離タイプの戦闘スタイルの使い手だ。

 

 言うまでもなく、格闘戦が可能な距離というのは狙撃手は勿論射手にとっても致死領域(デッドライン)である。

 

 射撃トリガーはキューブの展開・分割・射出という工程が必要である以上、近距離での即応性に乏しい。

 

 この距離でもイーグレットやアイビスの火力は脅威ではあるが、既にイーグレットは放たれた後であり、再装填(リロード)には時間がかかる。

 

 今この瞬間、樹里に反撃の手段は無い。

 

 この一撃が防がれたとしても、このまま至近距離で攻め続ければそのまま削り殺せる。

 

 そう、確信した。

 

「え…………?」

 

 故に。

 

 遠方から飛来した一発の弾丸が香取の右手首をスコーピオンごと吹き飛ばした瞬間、彼女は驚愕に目を見開いた。

 

 何が起きたかは、瞭然。

 

 潜んでいた狙撃手である佐鳥が、香取に狙撃を実行したのだ。

 

 それも、背後からではなく正面から。

 

 即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()からの狙撃によって。

 

 背後や側面であれば、まだ分かる。

 

 この工業地帯は障害物が多く射線が通り難いとはいえ、建物の上からならばある程度の射線は確保出来る。

 

 しかし、だからこそ香取は背後や側面からの射線が通らない場所である事を確認した上で作戦を実行したのだ。

 

 だが。

 

 佐鳥は、あろう事か樹里に当てるリスクが非常に高い正面の方角から、正確に香取の身体だけを狙って撃ち抜いたのだ。

 

 それがどれ程の絶技であるのかは、言うまでもない。

 

「────────アステロイド」

 

 そして。

 

 佐鳥の狙撃によって、必要な時間を稼がれてしまった以上。

 

 樹里が、攻撃を躊躇う理由はない。

 

 展開された無数の弾丸が、至近距離から香取へ襲い掛かる。

 

「く…………っ!」

 

 香取は、即座にグラスホッパーを展開。

 

 最大加速を以てその場から離脱し、樹里の弾幕を回避する。

 

「…………っ!」

 

 しかし、その全てを回避するには彼女との距離が近過ぎた。

 

 このままでは、少なくないダメージを受けてしまう。

 

「葉子ちゃん…………っ!」

「…………!」

 

 だが、そこで三浦が割って入った。

 

 香取の前に出た三浦は再びシールドを展開し、樹里の弾幕を防御。

 

 脇腹に弾を受けながらもガードを成功させ、香取と共に撤退した。

 

 

 

 

「惜しかったね。けど、流石はさとりんだ。あの狙撃を成功させられるあたり、彼も充分変態の域だね」

 

 試合を見ていた王子は何処か満足そうに頷き、隣で観戦していた修は画面越しに起きたハイレベルの戦いに目を見開いていた。

 

 速攻を仕掛けた香取と、それを迎え撃つ樹里。

 

 彼女の弾幕を防ぐ為に遠隔シールドを展開した三浦と、必殺の一撃を狙撃による介入で防いで盤面をひっくり返した佐鳥。

 

 練度の高い戦術を以て試合に臨むのは、当たり前。

 

 重要なのは、如何なる展開でもすぐに次の手を模索し、即座に実行する機転と実行力。

 

 少女達の戦いは、その双方がそれを高いレベルで実践していた。

 

「今の狙撃も凄かったですけど、三浦先輩はどうして試合開始直後にすぐにカバーに入れたんでしょう? これ、木岐坂先輩と香取先輩以外はランダム転送ですよね?」

「良い質問だよオッサム。じゃあ、まずこの工業地帯というMAPの特性から話していこう」

 

 そんなハイレベルの戦いを観戦しながら、しっかりと自分の糧にしようとする修の姿勢に好感を覚えた王子は学校の教師のような口調で説明を始める。

 

 案外教え好きな彼にとって、こうしてきちんと疑問を口にしてくれる生徒はとても教え甲斐があって気合いが入るというものだ。

 

「この工業地帯は、数あるMAPの中でも割と狭い地形でね。その分チームの合流がし易いという特徴があるんだ。MAPを選んだのはカトリーヌの方って聞いてるし、最初から合流が容易に出来るように計らっていたんだと思うよ」

 

 王子の言う通り、この工業地帯というMAPはそれなりに狭く、障害物も多い。

 

 その為他のMAPと比べても合流が格段に楽な地形であり、チームの集結を第一とする柿崎隊等はMAP選択権がある時は好んでこの戦場を利用している。

 

 三浦が試合開始直後にカバーに来れたのも、そういったMAPの特性ありきのものだろう。

 

「それに、ミューラーはああ見えて機動力評価が8でカトリーヌと一緒なんだ。裏方に徹してるから目立たないだけで、ミューラーは結構動ける男なんだよ」

 

 更に、三浦の機動力もまた無視出来ない要因である。

 

 三浦の機動力評価は、8。

 

 これは、スピード特化のエースである香取と同じ数値だ。

 

 フォロー等の裏方に専念している為分かり難いが、三浦は中々の機動力を持ち判断力も悪くはない。

 

 それが目立っていないのはその場その場で場当たり的にチームのフォローに専念するという今の役柄が、彼の強みを半ば殺しているからだ。

 

 三浦の有能さは、今回ちゃんとした作戦を組んで試合に臨んだ事で如実に表れている。

 

 香取の攻撃をサポートする際のシールド展開及び、逃走時の補助。

 

 どちらも悪くない動きをしており、王子から見てもこれまで見て来た彼の動きよりも一段上のものであると判断出来る。

 

 それだけ、しっかりした作戦の上で運用される三浦という駒は有用なのだ。

 

「でも、作戦が失敗しちゃいましたし此処からの挽回は厳しいですかね?」

「確かに、千載一遇の好機を逃した事は確かだ。けれど、一概にそうとも言えないな」

 

 何故なら、と王子は前置きして告げる。

 

「さとりんの位置が、割れたからね。これでカトリーヌ達は、先に彼を落としに行くという選択肢が出来た。これは大きいよ」

 

 狙撃手である佐鳥の位置が、明確になった。

 

 これは、ランク戦に置いて無視出来ない要素である。

 

 何処から来るか分からない不意打ちに怯える必要がなくなり、何よりも浮いた駒である狙撃手を落とすという選択肢が生じる。

 

「加えて狙撃手の位置が割れた以上、バッグワームの使用を躊躇う理由もなくなったからね。此処からは姿を隠して、ゲリラ戦を仕掛けるつもりなんだと思うよ」

 

 

 

 

「雄太、このまま姿を晦ましてチャンスを待つわよ。麓郎、アンタは佐鳥を落としなさい。良いわね?」

『了解』

『りょ、了解だ』

 

 バッグワームを纏った香取はチームメイトに指示を出しつつ、路地を駆ける。

 

 既に三浦とは別行動を取っており、このまま姿を隠して樹里の隙を狙っていく心づもりだ。

 

 そして、未だ敵に位置が判明していない若村は単独で佐鳥を獲りに行かせる。

 

 これが、香取が想定していた初撃が失敗した時の第二プランだった。

 

 最初の作戦は、香取が突っ込んで樹里の迎撃を三浦が防いだ隙に攻撃を叩き込むというシンプルなものだった。

 

 しかし、これには三浦の転送位置が彼女に近くなければ難しいし、樹里との位置関係によっては即座に落とされてしまう危険もあった。

 

 だが三浦の転送位置は香取のいる場所からすぐ向こうの路地というこの上ない好条件だった為、即座に作戦実行にゴーサインを出したのだ。

 

 これが巧く行けば言う事はなかったが、相手は樹里に加えて狙撃手の佐鳥である。

 

 予想外の横槍を入れられて作戦が失敗する可能性は、充分以上に高かった。

 

 想定外だったのは佐鳥の技術の高さであり、彼の力量をある程度軽視していた事は否めない。

 

 何せ、香取は佐鳥が戦っている姿など碌に見た事がないのだ。

 

 嵐山隊の狙撃手であるという基礎情報(パーソナル)は知っているが、逆に言えばそれだけだ。

 

 三枚目の印象が強い佐鳥が、あれだけの技量を持っていたなどと予想もしていなかったのだ。

 

(とにかく、これで正面から樹里と撃ち合うって最悪の状況は回避出来た。あとはアタシと雄太でヒット&アウェイを繰り返して、その間に麓郎が佐鳥を落とせれば充分勝機はあるわ)

 

 初撃の失敗は痛いが、まだ挽回は可能だ。

 

 ギリ、と歯を食い縛りながら香取は路地を駆けていく。

 

(こいつ等を馬鹿にして良いのは、アタシだけなんだから。まだアタシの部隊に入ってもいない樹里に、その権利はやんないわ。だから────────っ!!??)

 

 そして。

 

 そんな香取の思惑を、嘲笑うかのように。

 

 無数の()()が、彼女の付近に降り注いだ。

 

 合成弾、誘導炸裂弾(サラマンダー)

 

 それが、天から舞い降りた烈火の流星の名前だった。

 

 

 

 

「ひゃー、派手だねえ樹里ちゃん」

 

 佐鳥は、遠目から見える爆発を横目で見ながら路地を駆けていた。

 

 撃ったら即座に逃げるのが狙撃手の鉄則であり、その基本は佐鳥もしっかり守っている。

 

 数少ない例外を除き、狙撃手は寄られればその時点で終わりなのだから。

 

『葉子達は隠れてゲリラ戦を狙うみたいだから、隠れる場所は全部吹き飛ばす。賢は、巻き込まれないように動いて』

「了解っと。でも、合成弾の使い過ぎで隙を見せないようにね」

『分かった』

 

 佐鳥は心配は要らないと思いながらも樹里の返事を聞いて安堵し、周囲を警戒しながら進む。

 

 正直な話、先程見せた香取隊の動きには驚いた。

 

 これまでランク戦でチームプレイとは無縁の戦い方をしていた香取達なだけに、鋭く無駄のない動きで樹里を落としに来た戦いぶりには感嘆した。

 

(けど、やっぱり慣れてないね。香取ちゃんが即興で指揮出来たのは驚いたけど、あくまで即興でしかないし。それに────────)

 

 

 

 

「雄太、とにかくサラマンダーの軌道に注意して動きなさい…………っ! 絶対に巻き込まれるんじゃないわよ…………っ!」

『葉子、俺はどうするっ!?』

「アンタは当然そのまま佐鳥を落としに行きなさい…………っ! 最悪位置バレしてもいいから、あいつが姿を晦ます前に絶対に獲りなさいよ…………っ!」

 

 樹里の無差別爆撃に対し、香取は声を張り上げてチームメイトに指示を出しながら路地を駆けていた。

 

 想定外の攻撃に対する混乱はあったが、出している指示は正確なものだ。

 

 しかし、予定になかった動きに対して香取の処理能力が追い付いていないのは事実である。

 

(メテオラなら、なんとかなった。樹里の近くの建物から順番に壊していくなら、まだ対処の余地があった────────────────でも、アレは駄目だわ。何処に落ちるか分からないから、下手に仕掛ければその隙を狙われる…………っ!)

 

 こちらがゲリラ戦を選択した時、樹里が炸裂弾(メテオラ)で建物を吹き飛ばしにかかる展開自体は可能性として予想していた。

 

 しかし、それだけならばまだ対処は出来たのだ。

 

 メテオラで近くの建物から順番に壊して行くのであれば、その隙に遠くへ逃げれば良いだけだからだ。

 

 だが、樹里はメテオラではなく合成弾である誘導炸裂弾(サラマンダー)を用いて来た。

 

 誘導炸裂弾は、その名の通り誘導弾(ハウンド)炸裂弾(メテオラ)の合成弾だ。

 

 ハウンドの誘導性能が加わった弾丸は、遠方に直接爆撃を落とす事が出来る。

 

 樹里はそれを、碌に狙いも付けずに四方八方に手当たり次第に落としている。

 

 これが香取達の逃げた方向だけを狙い撃ちして来たのであれば軌道を予測して動く事も出来たが、完全な無作為(アトランダム)故に次何処に落ちるのか全く予測出来ない。

 

 これでは、香取達だけではなく潜伏中の若村も下手に動けば巻き込まれてしまう。

 

 全く以て、考え得る限り最悪の一手であった。

 

(こんな時、華がいれば…………っ! ああもう、とにかく次の手を打たないと。この状況なら────────)

 

 

 

 

「分が悪いね。カトリーヌの限界が見えて来た」

 

 観戦していた王子は、にべもなくそう言い放った。

 

 試合映像を見るその眼は冷徹で、取得出来る情報を探りつつ試合の展開を見守っている。

 

 そして、その結果として()()()()()()()()と判断したのだ。

 

「えっと、それは木岐坂先輩があの爆撃で建物を壊し始めたから、ですか?」

「それもあるけど、本質はもっと別だ。分かり易く言えば、メッキが剥がれたようなものだよ」

 

 いいかい? と前置きしつつ王子は話し始める。

 

「これまで、香取隊の指揮は概ねオペレーターのハナナンが執っていた。大まかな作戦方針はジャクソンが立てて、劣勢になったらハナナンが指揮を執ってフォローに入る。それが、今までの香取隊のやり方だった」

 

 でも、と王子は続ける。

 

「今はそのハナナンがこの場にいないから、指揮はカトリーヌが執っている。指揮能力は想定以上に高かったけど、所詮は付け焼刃だ。慣れない事をやっている以上、どうしても無理が出て来るワケだ」

 

 そう、これまで香取は具体的な指揮を執った事は殆どなかった。

 

 作戦方針は若村が、いざという時の指揮は華が。

 

 それぞれ担当する事で、なんとかチームとしての体裁を保っていた。

 

 しかし、今回は香取が本格的に指揮を執った事で動きの練度が上がった反面、指揮を執る香取の処理能力の負担が一気に増加した。

 

 これまで基本的に突撃しかして来なかった香取が即興で指揮を執れた事自体驚きではあるし、判断自体も悪くない。

 

 だが、それは香取の天才的な感覚(センス)によって無理やり実行した付け焼刃のものにしか過ぎない。

 

 その反動が、処理能力の圧迫という形で香取に襲い掛かっているのだ。

 

「それじゃあ、このままだと香取先輩達の負けですか?」

「このまま、何もなければね。元々カトリーヌとジュリアーナには地力の差もあったし、何よりさとりんがいる事でジュリアーナの不安要素だった安定感のなさも克服されている。ジュリアーナ単独だったら、もしかしたらがあったかもしれないけどね」

 

 でも、と王子はニヤリと笑いながら試合映像に目を向けた。

 

「────────今回、あれだけの変化を見せてくれたんだ。もう一波乱くらいあった方が、ぼくとしては面白いかな」

 

 何処か期待するように、王子はスクリーンに映る香取の姿を見据える。

 

 少女二人のすれ違いから始まった戦いは、佳境を迎えようとしていた。

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