香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ランバネイン③

 

 

(入ったか)

 

 ランバネインは大きな建物の敷地に入る風間を見据え、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 これまでも攻撃を続けてきたが、未だに被弾一つしない風間の回避技術は称賛に値する。

 

 まあ、一発でも当たれば致命傷なので防御の択を取らず回避をし続けた風間の判断は間違ってはいないのだが、だからといって実行出来るかどうかは話が別だ。

 

 高い火力と射程、連射性能が備わったランバネインの砲撃を躱し続けるのは至難の業であり、それを技量一つでやり遂げるのだから大したものだろう。

 

 少なくとも、玄界の兵で同じ事が出来る者は早々いないだろうとランバネインは思う。

 

 その在り様はまさしく、歴戦の兵士のそれだ。

 

 もしかすると、思っていたよりも年月を重ねた相手なのかもしれない。

 

 ランバネインは風間を追いながら、そんな事を考えていた。

 

「さて、では始めるとするか…………!」

 

 笑みを浮かべ、ランバネインが動く。

 

 彼は雷の羽の飛行機能を用いて、天高く飛翔。

 

 大きな建物────────────────旧三門大学を、一望出来る位置にまで上昇する。

 

 そして、敷地の四方へ向けて無差別に砲撃を撃ち放った。

 

「…………!」

 

 大学の敷地に隣接する住宅街が、雷の羽の砲撃に晒される。

 

 家屋は吹き飛び、粉塵が舞い上がる。

 

 その中で、建物の陰に隠れていた人影が動いた事をランバネインは見逃さなかった。

 

 追撃────────────────は、しない。

 

 撃ったところで一度目の奇襲で仕留められなかった段階で不意を打つ事は出来なくなった上に、そちらに注力して風間を逃がしては本末転倒であるからだ。

 

 今の攻撃は、あくまでも周囲に隠れている伏兵を炙り出し、尚且つ敷地から逃げる事を困難にする為だ。

 

 ランバネインとて、この場に誘い込まれた事くらいは理解している。

 

 この建物が彼にとって都合が良い事など、敵も分かっているだろう。

 

 だからこそ、自分が相手なら此処へ誘い込み()()()を行い迎え撃つ策を練る筈だ。

 

 待ち伏せされている事など、とうに承知の上なのだ。

 

 そのくらい理解出来ずして、アフトクラトルの将は名乗れない。

 

 ククロセアトロの失敗以降慎重になる機会も増えたが、それでもランバネインの本質は変わらない。

 

 罠があるのならばそれごと食い破り、敵を殲滅する。

 

 それが彼のやり方であり、最も効率的な戦闘方法なのだ。

 

(これで外部への逃走、外からの救援は困難になった。今逃げた伏兵も、戻る事は難しいだろう。あとは、着実に追い詰めていけば良い)

 

 周囲の建物を瓦礫の山に変えた事で外へ逃げる事は難しくなったし、逆に外部から応援を呼ぶ事も困難になった。

 

 案の定潜んでいた伏兵は、今の攻撃で外側に逃げ込んでいる。

 

 もしも戻って来るようであれば遠慮なく砲撃で迎え撃つだけなので、脅威はこれで一つ減ったと見て良い。

 

(後は建物の内部にどれだけの伏兵が潜んでいるかだが、それはすぐに────────────────来たか)

 

 そして、ランバネインは想定通りの光景を見てニヤリと笑みを浮かべる。

 

 彼の視線の先には、校舎の裏側から放たれたと思われる無数の光弾が映し出されていた。

 

 

 

 

『まずはハウンドで牽制しろ。命中率は度外視して良い。とにかく移動を続けて、一ヵ所に留まるな』

「了解」

 

 風間の指示を受け、王子はハウンドを撃ち続ける。

 

 ()()()()()()()()()から、無数の光弾が放たれる。

 

 誘導設定を限界まで弱める事により大きな曲線を描いたハウンドが、校舎越しにランバネインへ降り注ぐ。

 

 射程距離と弾速に大きくトリオンを振っているので、一発一発の威力は雀の涙に過ぎないし、距離が開き過ぎているのでまともに当てるのはまず無理だろう。

 

 しかし、問題はない。

 

 これの狙いは相手に攻撃を当てる事ではなく、回避もしくは迎撃の行動へ移させる事だからだ。

 

 こちらが罠を張っている事など、向こうは見通している筈だ。

 

 これまで碌な攻撃をせずに逃走に徹し続けた風間が、わざわざこんな目立つ建物へ逃げ込んだのだ。

 

 優秀な将であるランバネインからしてみれば、何を狙っているかは一目瞭然だったろう。

 

 ならば当然、伏兵の存在は警戒している筈だ。

 

 故に、ランバネインの視点で初手で撃つべき最適解は何か。

 

 そんなもの、建物ごとの破砕に決まっている。

 

 風間が逃げ込む先を建物ごとぶち抜いていけば、いずれは逃げ場所がなくなり詰みに至る。

 

 それをさせない為の、王子達の攻撃なのだ。

 

 建物ごとぶち抜けば良いとは言っても、この旧三門市立大学は相応の面積がある。

 

 その建物全てを破壊するにはランバネインといえど相当な時間がかかるだろうし、少なくとも三人がかりのハウンドに狙われ続けたままやり遂げるのは難しいだろう。

 

 故に、次に敵が取るであろう選択は。

 

 

 

 

「────────見付けたぞ」

「…………!」

 

 発射元へ向かい、直接攻撃で仕留める事に他ならない。

 

 最初は発射元と思われる校舎裏に向けて砲撃をして来るだろうと考えていたのだが、どうやら敵の用心深さは想定以上だったらしい。

 

 無駄に終わったであろう初手を省略し、直接飛来された事で身を隠すのは間に合わなかった。

 

 一度目の攻撃を無駄撃ちで終わらせてくれればどうとでもなったのだが、流石にそこまでは甘くなかったらしい。

 

 壊れた窓越しに王子の姿を睥睨するランバネインの口元が、獰猛に開かれる。

 

「最初に逃げた兵か。撤退したフリをして待ち構えるとは、中々に豪胆だが────────────────残念だったな」

「…………!」

 

 そして、容赦のない砲撃が放たれる。

 

 王子は咄嗟に中庭側の窓を突き破り、下へ飛び降りる。

 

 間一髪で砲撃を回避した王子は中庭に着地し、そのまま校舎の一階に飛び込んだ。

 

「下か」

 

 ランバネインは滞空しながら校舎の一階部分に視線を移し、即座に砲撃。

 

 吹き飛ばされた壁を抜け、校舎内へ侵入。

 

 視界の先に、逃走する王子の後ろ姿が見える。

 

 まずは射撃でこちらを邪魔して来る射程持ちを潰した後、建物を片っ端から破砕。

 

 どうせ風間は既に潜伏を完了させている筈なので、そちらを直接追う無駄はしない。

 

 あの者の技量であれば、まともに追撃してもあの手この手で逃げ隠れされるのが目に見えている。

 

 ならば、遠距離攻撃手段を持たない彼よりも、まずはこちらの動きを牽制して来る射程持ちを全滅させる事こそ肝要。

 

 透明化トリガーを用いて逃走する可能性はあるが、既に近くにラービットを配置してある。

 

 ラービットの高性能な索敵能力があれば、たとえ敵が透明化していても感知可能だ。

 

 作戦の肝であるラービットではあるが、それなりの数を持ち込んである。

 

 多少別の用途に用いるくらいならば構わないと、許可も取ってある。

 

 風間相手であればラービットであろうと倒されるであろうが、それならそれで足止めにはなるので問題はない。

 

 ラービットが戦闘したという報告さえあれば、文字通りそこへ飛んで行けば良いだけの話なのだから。

 

「さて、追うとするか」

 

 敷地内に入って来たラービットを確認し、ランバネインは廊下の先に視線を向ける。

 

 此処から直接撃っても、距離がある以上避けられるのは必定。

 

 ならば飛行機能を用いて追撃し、至近距離で撃てば良いだけの話。

 

 ランバネインはそう考え、狭い廊下を飛行機能を用いて移動する。

 

 だが。

 

「む…………っ!?」

 

 その一瞬後、ランバネインの肩が何かに引っかかる。

 

 弾力のある紐状のものに肩をぶつけた事で、飛行中だったランバネインは体勢を崩す。

 

 咄嗟にブースターを噴射し、ランバネインは崩れた姿勢を制御する。

 

 そして、気付く。

 

 たった今自分が引っかかった、黒いワイヤーの存在に。

 

 眼を凝らさなければ見えないそのワイヤーこそが、己の体勢を崩させた元凶。

 

 敵が事前に仕掛けていた、自分に対する罠。

 

 そして、この隙をこそ敵は狙っていた。

 

「────────!」

 

 ランバネインの下に、窓の外から無数の弾丸が降り注ぐ。

 

 体勢が崩れた自分を、この攻撃で被弾させるつもりなのだろう。

 

「この程度…………!」

 

 だが、それを受ける程ランバネインは甘くはない。

 

 シールドを張り、弾幕を受け止める。

 

 少なくとも、あのワイヤーがあれ一個というワケではない筈だ。

 

 この校舎内に、無数に張り巡らせているに違いあるまい。

 

 つまり、敵は最初から自分をこの建物の中に誘い込む前提で動いていた。

 

 故に、下手な移動は愚策。

 

 隙を作り易い移動ではなく防御を選び、その後に砲撃で建物を破砕しながら追撃をかければ良い。

 

 迂闊に動いて敵の策に嵌まるよりも、そちらの方がより堅実。

 

 地力に自信があるからこその、どっしりと構えた一手。

 

「…………!」

 

 だがそれこそが。

 

 敵の、風間達の作戦通りの動きだった。

 

 ランバネインの背後に、教室に隠れていた男二人が飛び出した。

 

 その手に持つのは、二丁のショットガン。

 

 諏訪隊銃手、諏訪と堤の二人である。

 

 彼等は防御を固めたランバネインに向け、不敵な笑みと共に一斉掃射を開始した。

 

「ぬ…………!」

 

 シールドの上から、絶え間ない散弾銃の斉射が叩きつけられる。

 

 今受け止めている外からの弾幕よりも威力で勝るその攻撃は、徐々にではあるがランバネインのシールドに負荷をかけ、少しずつその強度を削っていく。

 

 高いトリオンから構築されるランバネインのシールドは高性能ではあるが、無敵の防壁というワケではない。

 

 このままでは遠からず盾が崩れ、被弾するのは目に見えている。

 

 ならば。

 

「こうだな」

 

 ランバネインは自分に向かって銃撃をして来る二人目掛けて、シールドの隙間から射撃を放つ。

 

 攻撃に全力を注いでいる様子のあの二人の銃手では、この攻撃は受け止められないだろう。

 

 万一防御されたとしても、それは向こうの攻撃の中断と同義。

 

 少しでも攻勢が緩めば、火力戦を展開してこちらの勝ちだ。

 

 外からの弾幕は鬱陶しいが、それはこの二人を片付けて余裕が出来てから対処すれば良い。

 

 無理をせずとも、地力はこちらが上なのだ。

 

 二人がかりであろうと雷の羽(ケリードーン)の火力には及ばない以上、一旦攻勢に出れば形勢は逆転する。

 

 ランバネインは今に至っても焦らず、冷静な対処を選択した。

 

「なに…………っ!?」

 

 だが。

 

 二人の前に出現したシールドによって、その目論見は崩された。

 

 ランバネインの攻撃はシールドによって受け止められ、霧散。

 

 それと同時に硬質な靴音を響かせ、銃手二人の前に一人の大柄な男が現れる。

 

 他の者と比しても軍人そのものといった風情の隊服に身を固めた男の名は、木崎レイジ。

 

 ボーダー最強の部隊玉狛第一の隊長であり、唯一無二の完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)

 

全武装(フルアームズ)起動(オン)

 

 ランバネインの攻撃を受け止めたレイジは、虎の子であるユニークトリガー全武装(フルアームズ)を展開。

 

 それは彼のみに許された拡張されたトリガースロットより、文字通りの全武装を引き出す最強形態。

 

 右手にガトリングシールド、左手にアサルトライフル。

 

 右肩にはガンポットを、左肩には小型の砲を装備。

 

 左右のアームにはシールドモードのレイガストが装着された、攻防一体の重武装。

 

 まさしく完全武装形態となったレイジは、無言のままその火力の一切を撃ち放った。

 

「ぬぅ…………っ!」

 

 凄まじい威力の弾幕が、防御の上からランバネインに襲い掛かる。

 

 此処が屋外であれば、飛行能力によって如何様にも対応出来ただろう。

 

 だが、この場所は狭い屋内。

 

 加えて外からの弾幕で下手な移動も封じられた状態では、回避する事すら出来ず攻撃を受け止め続ける他ない。

 

(まさか、この俺が火力戦で押される事になろうとはな…………っ!)

 

 このままでは、いずれシールドを破られて被弾する。

 

 外であればいざ知らず、この閉所では純粋な弾数が多い方が有利なのだ。

 

 一発の威力や射程等はランバネインに軍配が上がるが、相手はそれを純粋な手数を揃える事で対処して来た。

 

 恐らく、自分をこの場に引き込む事まで敵の思惑通りだったに違いない。

 

 牽制役の火兵を囮としてランバネインを校舎内に引き込んだ上でワイヤーで隙を作り、そこへ外からの弾幕と二人の銃手による銃撃で足止めを行う。

 

 その上でこの大柄な男の最大火力を以て火力戦を展開し、手数の差で押し潰す。

 

 まさか、自分が得意とする力押しを相手に実践される事になろうとは考えてもいなかったランバネインであった。

 

(敵ながら天晴れよ。だが…………!)

 

 しかし、対処法が尽きたワケではなかった。

 

 ランバネインは天井に砲撃を向け、破砕する。

 

 砲撃によって天井に大きな穴が開き、パラパラと粉塵が降り注ぐ。

 

 この場での対処が困難なのであれば、移動を行えば良いだけの話。

 

 上の階にも例のワイヤーが仕掛けてある可能性はあるが、あそこまでの重量の武装を展開した大男がすぐに追って来れるとは思えない。

 

 上階にさえ上がってしまえばすぐさま屋外へ離脱し、そこから飛行機能で敵の射程外に逃れつつ鴨撃ちで敵を狙えば再びこちらが有利となる。

 

 そう考えての、逃げの一手。

 

「────────」

「な、に…………!?」

 

 だが。

 

 いつの間にか自分の懐に潜り込んでいた、小柄な影を視認した瞬間ランバネインの眼は大きく見開かれた。

 

 誰であるかなど、問うまでもない。

 

 風間蒼也。

 

 これまで散々ランバネインが警戒し、最優先で対処すべきと定めていた青年が、雨あられの如く降り注ぐ弾幕の中にいながら涼しい顔でこちらに狙いを定めていた。

 

 ランバネインは、彼の存在を失念してはいなかった。

 

 だが、奇襲をして来るならこの場から逃げた()であろうと思っていた。

 

 自身でさえ対処が困難な弾幕の雨の中、まさか単身近付いて来ようとは考えてもみなかったのだ。

 

 シールドを張りながら接近したのであれば、まだ分かる。

 

 しかし彼はたった今姿を現した事から鑑みても、あの透明化トリガーを使っていた事は明らかだった。

 

 ランバネインが見ていた限り、少なくとも透明化とシールドは併用出来ない様子だった。

 

 つまり風間は、被弾すれば即死であろう弾幕の中を防御一つ出来ない状態で潜り抜けて彼に接近した事になる。

 

 その度胸、胆力には流石に瞠目せざるを得ない。

 

(だが…………!)

 

 此処からでも、迎撃は可能。

 

 多少の被弾は止むを得ないと判断しつつ、ランバネインは致命傷となるであろう風間への対処に全力を注いだ。

 

「────────終わりだ」

 

 されど。

 

 その目論見は。

 

「な、に…………っ!!!??」

 

 ランバネインが空けた天井の穴より現れた、二人の少年の斬撃によって崩れ去った。

 

 その者達には、見覚えがある。

 

 最初に風間が連れていた、彼の部下達だ。

 

「油断したね。ぼく達が尻尾巻いて逃げたとでも思ってた?」

 

 吐き捨てるように、しかし何処か誇らし気に菊地原は告げる。

 

 風間が囮になって以降は透明化を用いて身を顰めていた筈だが、どうやら先回りをして此処に潜んでいたのだと、今更ながらに気付く。

 

 常のランバネインであれば、気付いて対処出来ただろう。

 

 だが、今の一瞬ランバネインは最も警戒していた風間への対処に集中した事で、余裕のなくなった状態にあった。

 

 ある程度の余裕を持って敵の攻撃に対処し、生じた余力で迎撃を行うのがランバネインの戦闘スタイルである。

 

 その対処に余力を注ぎ込み過ぎたが故に、想定外の攻撃への対処が間に合わなかったというワケだ。

 

 二人の少年の斬撃は、確実にランバネインの急所を斬り裂き致命傷を与えていた。

 

 圧倒的な火力を持ったレイジと、最優先警戒対象であった風間。

 

 まさか、これらの精鋭が()であったなどと、誰が思おう。

 

「見事だ」

 

 ランバネインは己の敗北を受け入れ、賞賛の言葉を口にする。

 

 彼の戦闘体は罅割れ、崩壊。

 

 此処に、アフトクラトルの誇る精鋭の二人目の脱落が決定したのだった。

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