香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ハイレイン②

 

 

『弾』印(パウンド)

 

 ラービットを前にした遊真はまず、「弾」の文字が刻まれた印を起動。

 

 加速能力を持つそれを踏み込み、跳躍。

 

 後方にいた紫色の泥刃型の懐に入り込み、拳を握り締める。

 

『強』印(ブースト)────────二重(ダブル)

 

 黒トリガーの出力を以て加速された遊真の動きに、ラービットは対応し切れない。

 

 完全に虚を突かれ、無防備になった泥刃型の急所目掛けて遊真は拳を振り抜く。

 

 結果、ラービットはその口内に遊真の拳撃を叩き込まれ、カメラアイを射抜かれ沈黙。

 

『弾』印(パウンド)

 

 更に、急所を射抜かれ機能停止したラービットを『弾』印で弾き飛ばす。

 

 その巨体は印に触れた瞬間に凄まじい勢いで加速し、後続のラービットに直撃。

 

 残骸となった同型機の骸により、二体の磁力型が地面に押し倒される。

 

『強』印(ブースト)────────五重(クインティ)

 

 そこに、遊真は強化を多重にかけた拳を以て襲撃。

 

 五重の印による強化によって規格外の膂力を得た遊真の右腕は、頭部が並ぶように折り重なった二体のラービットの急所を一気に貫通。

 

 瞬く間に、最初の一体と合わせて合計三体のラービットを瞬殺してしまった。

 

『────────!』

 

 あっという間に三体のラービットが破壊された事で、残る三体のラービット────────────────砲撃型二体、磁力型一体が反応を見せる。

 

 磁力型は前に出て、磁力片を掃射。

 

 その隙に砲撃型二体は口を開き、砲撃のチャージを開始する。

 

 前衛後衛の役割を分担した、教本に載るような理想的な戦術。

 

 だがそれは。

 

 今この場に於いては、失策だった。

 

『弾』印(パウンド)

 

 遊真は磁力片を避けるべく『弾』印に乗り、上空へ跳躍。

 

 凄まじい速度の加速を得た遊真は、空中へと撃ち出される。

 

 それを追って、二体の砲撃型が上を向き照準を定め直す。

 

 上空ならば、そう巧く身動きは取れない筈。

 

 そんな規定論理(ロジック)に従い、砲撃型は今度こそ遊真を撃ち落とさんと狙いを定める。

 

『鎖』印(チェイン)

 

 だが、その程度の動きは承知の上。

 

 遊真の発動した鎖が二体のラービットの頭部に巻き付き、それを牽引して地面へ叩きつける。

 

『強』印(ブースト)────────六重(セクスタ)

 

 身動きの封じられたラービット二体の口腔に、遊真は連続で拳を叩き込む。

 

 六重の印の強化により、遊真の攻撃はラービットの急所を貫通。

 

 二体の砲撃型は、為す術なく沈黙した。

 

「『射』印(ボルト)

 

 そしてすかさず、遊真は射撃を展開。

 

 磁力片を放とうとしていた磁力型に、防御を強要させる。

 

『強』印(ブースト)────────七重(セプタ)

 

 そして、軽やかな動きでラービットに肉薄し、拳撃一閃。

 

 ラービットの急所を突き穿ち、その機能を停止させた。

 

「すごい…………」

 

 照屋は鮮やかな遊真の手並みに、ひたすら感心していた。

 

 今の攻防、出力も然る事ながら戦術に一切の無駄が無い。

 

 流れ作業のようにも見えた戦闘の最中、遊真は一度たりとも余計な動きをしなかった。

 

 どうすれば最短距離で目標を達成出来るか、という事のみに重点を置いた、効率的な戦闘作業。

 

 それが、遊真の戦いであった。

 

 流石に多機能に過ぎるトリガー能力に照屋も内心では疑念を抱いてはいたが、今この場で遊真の存在が生命線であるという事実に変わりはない。

 

 たった今送り込まれた分のラービットは全滅させられたが、敵の追撃がこれで終わるという事はまずないだろう。

 

 そんな時に自分一人の些細な疑念程度で場を停滞させてしまう事など許される筈もなく、照屋はこの場で何が起きようと都合が悪そうな部分は全て見なかった事にすると決めた。

 

 今の彼女にとっての至上命題は、キューブ化させられてしまった柿崎を安全な場所に送り届ける事。

 

 その為ならば多少の違和感や疑念は全て放り投げると、照屋はノータイムで決定を下したのだった。

 

「空閑」

「ああ、分かってる」

 

 そしてまた、遊真達も照屋に応対する暇などなかった。

 

 視界の先、未だ屋根の上に陣取っているその男は。

 

 ハイレインは、ラービットを瞬殺してのけた遊真を険しい表情で見据えていた。

 

 

 

 

玄界(ミデン)の黒トリガー使いか。巧く浮かせていたつもりだったが、まさか雛鳥を引き連れてやって来るとはな)

 

 ハイレインはたった今ラービット相手に無双を繰り広げた遊真に対し、これまで敢えて浮かせる方針を取っていた。

 

 トリガーの出力から考えて、彼が黒トリガーの使い手である事はまず間違いない。

 

 加えてラービットを鮮やかに殲滅してのけた手並みから考えても、相当な実力者である筈だ。

 

 だからこそハイレインは遊真の守る場所には一切の兵を送らず、駒として浮かせる方策を取っていた。

 

 ハイレインは、敵の戦力を決して軽視しない。

 

 トリガー後進国である玄界の兵士が相手とはいえ、所属する兵の質まで低いとは限らない。

 

 事実、これまでに三人もの精鋭が彼等の手によって倒されている。

 

 いずれもアフトクラトルに於ける自陣営に於いて、指折りの戦闘力を誇る者達であった。

 

 ヒュースは若いながらも扱いの難しい蝶の盾(ランビリス)を自在に操る器用さや高い発展性を有していたし、ランバネインは歴戦の将として誰よりも戦場に慣れ親しんだ猛将だ。

 

 エネドラもトリガー(ホーン)の浸食による精神汚染こそあったが、単純な戦力として見た場合の脅威度は相当なものであった筈である。

 

 にも関わらず、玄界側は彼等を撃破してのけた。

 

 しかも、向こうに碌な損害を出さずに、である。

 

 この結果を見て敵戦力を過小評価する程、ハイレインは愚かではない。

 

 最初から低く見積もるつもりはなかったが、その評価にさえ上方修正を加える必要が出て来た。

 

 今言えるのは、それだけである。

 

(見た限りでは、肉弾戦を得意とするトリガーのようだ。ならば、無理に近付く必要はない。距離を保ったまま、目的達成の為に動けば良いだけだ)

 

 敵の能力は多彩ではあるが、そのいずれもが白兵戦を主とした戦闘スタイルに繋がっている。

 

 恐らくではあるが、敵の黒トリガーの能力は泥の王(ボルボロス)のような特殊性がない代わりに、ひたすらに高出力を押し付ける事に特化した代物なのだろう。

 

 単純ではあるが、それ故に突くべき穴が見当たらない。

 

 少なくとも傍目から見た無敵性という多大なアドバンテージと引き換えに自然現象に弱い、という明確な弱点を抱えていた泥の王とはコンセプトそのものが全く異なると見て良いだろう。

 

 単純な能力は使い手の技量が問われる代わりに、目立った弱点を晒す心配が無い。

 

 そういう意味で、単騎の遊撃兵に割り当てるには最適な能力であると言えた。

 

 仮に自分が指揮していれば、まず間違いなく彼を状況を動かす遊撃役として重宝しただろう。

 

(しかし、これで保険の一つはなくなったか。此処で目的を達せられなかった場合、彼等の元にラービットの大群を送り込んで物量で押し潰す予定だったが、合流されてはそれも叶わない。予想していたかどうかは分からないが、中々良い采配をする者がいるようだな)

 

 加えて、彼が此処にやって来た事でハイレインが用意していた保険(サブプラン)の一つが使えなくなった。

 

 ハイレインは万一この場での戦闘で雛鳥の鹵獲が叶わなかった場合、遊真の守るC級の所へ強襲し、目的を達するつもりだった。

 

 ラービットとハイレインが同時に攻め込めば如何に黒トリガーの使い手とはいえ手が足りず、必ず防御に罅が入るであろうからだ。

 

 あの場に於いてまともに戦えるのが遊真一人であった以上、それは確定した未来だったと言える。

 

 その事に気付いていたかどうかはともかくとして、今回の行動でボーダー側の暗雲が一つ取り除けたのは確かだった。

 

(しかし、こうなった以上はこの場での雛鳥の捕獲に全力を注ぐ他ないな。考えようによっては、狙える標的が増えただけとも言える。あの黒トリガー使いには注意しつつ、目的を達成するとしようか)

 

 だが、だからといってハイレインの行動に変更はない。

 

 保険が利かなくなっただけで、こちらが圧倒的に不利になったワケではないのだ。

 

 敵の黒トリガー使いは厄介だが、特殊な能力がないとなれば能力勝負で卵の冠(アレクトール)に敵う確率は低い。

 

 この黒トリガーは、アンチトリガーとも言うべき代物なのだから。

 

「始めるか────────────────卵の冠(アレクトール)

 

 そして。

 

 ハイレインはその目的を達するべく、攻撃を再開した。

 

 

 

 

「…………っ!」

「これは…………っ!」

 

 その光景を見て遊真は眉を顰め、修は息を呑んだ。

 

 空を埋め尽くす、大量の白い鳥の群れ。

 

 リョコウバトの如く上空を席捲したその大群は、全てハイレインの黒トリガー卵の冠によって生成された生物弾。

 

 そして。

 

 当たれば終わりの白い鳥の大群が、一斉に地上に向けて降り注いだ。

 

「避けて…………っ! あの鳥は、シールドも食い尽くすわ…………っ!」

「わ、わかりました…………っ!」

 

 その脅威を既に体感していた照屋が叫び、修はそれに呼応する。

 

 あの白い鳥の生物弾が相手では、シールドは紙屑程度の価値しかない。

 

 一度張ろうと瞬く間に食い荒らされ、照屋がそうだったように一瞬で防御を丸裸にされるだけだ。

 

 故に、その指示は正しい。

 

「『射』印(ボルト)────────三重(トリプル)

 

 この場に、遊真がいなかったらの話ではあるが。

 

 遊真は射撃の印を三重に重ね、射出。

 

 無数の弾丸が、降り注ぐ生物弾目掛けて撃ち出された。

 

 放たれた弾は生物弾に触れるとキューブとなり、事実上相殺される。

 

 だが、それで問題はなかった。

 

 生物弾は確かにトリオンで構成された物質であれば、触れたものを全てキューブに変える。

 

 しかし、それはあくまでも使()()()()だ。

 

 一度キューブ化の能力を発動した生物弾はその場で霧散し、役目を終える。

 

 つまりそれは、射撃で撃ち出す弾を当てればその強弱に関係なく相殺出来る事と同義。

 

 遊真はいち早くそれに気付き、実行した。

 

 彼に、出水クラスの精密射撃能力はない。

 

 されど、そこは数で補えば良い。

 

 数を撃てば当たるというのは、現実として有効な方法だ。

 

 黒トリガーの出力任せに撃った弾幕は、次から次へと白い鳥を迎撃していく。

 

「照屋先輩、撃って下さい…………っ! 少しでも鳥を減らしましょう…………っ!」

「え、ええ、分かったわ…………っ!」

 

 それを見て生物弾の有効な対処方法に気付いた修は、照屋に呼びかけて自身も射撃を敢行する。

 

 遊真のそれに比べれば修の弾は威力も射程も著しく乏しいが、それでも今回に限って言えば大きな問題にはならない。

 

 生物弾は触れたものを全てキューブに変えるのだから、そこに弾の強弱など一切関係が無いのだ。

 

 そして、それは照屋の場合も同じ事。

 

 アサルトライフルという修よりも斉射に向いた武器を持っている彼女の弾幕は、生物弾の迎撃に於いてこの上なく有効だった。

 

 射撃トリガーと異なり単一工程(シングルアクション)で撃てる銃手トリガーは、引き金を引くという動作だけで弾をばら撒ける。

 

 更に、彼女の扱うのは連射性能に特化した突撃銃型(アサルトライフル)

 

 威力と弾数に乏しい修のそれよりも数段上の効率で、生物弾を駆逐していった。

 

「…………! あれは…………っ!」

 

 そこで、気付く。

 

 修達の側方、家屋の陰。

 

 その場にいつの間にか開いた黒い穴の中から、灰色のボディをした砲撃型のラービットが現れている事に。

 

 既にそのラービットは砲撃準備を開始しており、照準は修達に向けられている。

 

 防がれる可能性が高い遊真ではなく修達を狙ったのは、こちらの防御を薄める為に違いあるまい。

 

 遊真の戦闘スタイルは、その機動力を生かしたヒット&アウェイのスピード型。

 

 性質上戦場を縦横無尽に動き回り、敵を翻弄して不意打ちで倒すのが基本の戦い方である。

 

 故に、彼の戦闘スタイルは防御ではなく攻撃を重視したもの。

 

 防衛戦闘も出来なくはないが、それをすれば彼の強みを殺してしまう事になりかねない。

 

 だからこそ、C級の護衛に専念する照屋と修の存在が光るのだ。

 

 彼等が守りに専念しているからこそ、遊真は全力で戦場を跳び回れる。

 

 その照屋達がいなくなってしまえば、遊真の機動力を抑止する事が可能になってしまうのだ。

 

 ばら撒いた大量の生物弾は、この為の囮。

 

 白い鳥の対処に注力した彼等を、横から砲撃で吹き飛ばす為の布石。

 

 その策にまんまと嵌まった修達の額に、冷や汗が流れる。

 

 弾幕によって数を減らせてはいるが、下手に動けば生物弾の餌食になる事は変わらない。

 

 自分達に被弾する範囲の鳥を集中的に相殺したのだから、動く為には更に広範囲の生物弾を迎撃する必要があるが時間が足りない。

 

 かといって、シールドを張ったとしてもあの砲撃の威力の前では焼石に水だ。

 

 遊真もこの場全体をカバーする広範囲の射撃を実行している以上、それを放棄すれば瞬く間に白い鳥の蹂躙を許す事になる。

 

 もう一人この場に残っている虎太郎も、後方でC級隊員を守っている為持ち場を離れる事は出来ない。

 

 万事休す。

 

 その言葉がこれ以上なく相応しい光景に、修は息を呑む。

 

「させないわ」

 

 されど。

 

 その未来は、少女の鋭い声と共に棄却された。

 

 いつの間にか砲撃型の背後に忍び寄っていた、一つの影。

 

 赤い隊服を着た豊満な体型の少女、木虎はその手にスコーピオンを構え。

 

 ラービットが反応を見せる前に、一閃。

 

 砲撃の為に開いていた口内に刺突を叩き込み、沈黙させた。

 

 機能停止し、崩れ落ちるラービット。

 

 その残骸を背に、木虎はこちらを振り向いた。

 

「待たせたわね。助けに来たわよ、三雲くん」

 

 嵐山隊エース、木虎藍。

 

 修とも浅からぬ縁を持つ少女が、主戦場に名乗りを上げた瞬間だった。

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