八欲王の生き残り   作:たろたぁろ

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無能

 

 

 

 

 絶叫を上げながらペンギン頭の同胞が天幕に飛び込んで来たのを見て、ワニの頭を持つビーストマンの最高司祭アムドールは、驚いて椅子から転げ落ちた。

 どうしたのかと問うてみるも、焦点の合わない目で「コイ!ヤマダ!!ヤマダ!!」としか答えず拉致があかない。

 アムドールは情けない同胞の姿にため息をついて起き上がると、テーブルに立てかけてある杖を手にとった。

 

 アムドールには悩みがあった。ビーストマンとして生まれ落ちてから現在に至るまでの深き悩みが。

 ビーストマンとは彼ら動物の頭を持つ二足歩行の種族の名称である。動物の頭を持つ以外は人間とよく似た外見であるが、大きな違いが二つある。

 一つは人間よりも遥かに強靭な肉体を持っているということ。そしてもう一つは人間よりも知力で圧倒的に劣るということだ。

 アムドールは目の前でヤマダヤマダと喚き散らしている同胞を憐れみの目で見つめる。

 そう、アムドールの悩みとはこのビーストマンと言う種族において、異常なほど賢く生まれてしまったことだった。

 ビーストマンが平均的にもう少し賢かったなら、もう少し思慮深かったなら、人間などとっくの昔に彼らの食糧に成り下がっていたはずだ。

 現在彼の国では彼ほどの知能を持つビーストマンは100人しかいない。これは国の総人口からすれば少なすぎる数だ。当然この国は彼ら100人の力によって成り立っている。

 人間でいえば3〜5歳児程度の知能しか持たない彼らを統率するのがどれだけ難しいことか。

 正直国として纏まっていること、人間の国である竜王国を攻めていること、軍として竜王国の第三砦の前に陣をひいていること。これだけでも彼には奇跡に思えていた。

 勿論奇跡と言う言葉ではすまされないほどの努力と犠牲の賜物ではあるのだが、それでも「人間を食べたい」という絶対的な共通願望がなければ彼の国など既に崩壊していただろう。

 6大国家の一つにビーストマンの国があるらしいが…彼にはとても信じられなかった。聞けばあちらの方には人間などほとんどいないと言うではないか。それは『食欲』という三代欲求の一つに必死にぶら下がっている彼らからすればあり得ない話だ。

 もしかしたら向こうには人間よりももっと美味な食糧があるのかもしれない。もしくは平均的知能がずっと高いか。それならば6大国家に名を連ねるのも頷けるか。

 

 グイッと手を引っ張られ我にかえる。日頃の疲れからかぼうっとすることが多くなった気がする。アムドールは頭を軽く振って雑念を追い払った。

 見れば必死の形相をした同胞が目を血走らせて「早くキテ!!」と吠えていた。

 こうして同胞が天幕に飛び込んで来たのは何度目だったか。

 どうせ大したことではない。やれおやつを食べられたとか、背中がかゆいとか、口喧嘩が殴り合いになったとかそんなことだろう。そんなことでこんなにも必死になれる彼らがある意味では羨ましい。

 知能が高くなるということはそれだけ激情が減ることを意味するのだから。

 

 ふと同胞の顔を見て一つの疑問が浮かんだ。何故彼がここにいるのか。このペンギン頭の同胞「ムー」は審判長ガラウムの部隊だったはずだ。

 ガラウムの部隊はアムドールの部隊よりずっと後方に位置していたはず。ムーがそこからわざわざここまで来た理由。少し胸騒ぎがする。思えば外の騒ぎもいつもより大きいような…。

 

「アムドールハヤく!!」

「ああ、わかったすぐ行こう。」

 

 天幕を出るとそこは大騒ぎだった。同胞達は皆部隊の後方をしきりに指差して叫び声を上げている。

 いったい何があると言うのか。指の差された方向を見て、アムドールは驚きのあまり絶叫を上げて腰を抜かした。

 

 ガラウムの部隊の後方に、空にも届きそうな程の巨大なドラゴンが鎮座していたのだ。

 その大きさはここからでは全容を全く捉えきれない。

 ガラウムの部隊までかなりの距離があるというのにすぐ側に感じるほどの威圧感。遠近感が完全に狂う。いったいどれ程の大きさだというのか。

 ムーの言っていた意味が分かった。これは正に山だ。山の様に巨大なドラゴンがガラウムの部隊後方に突如出現したのだ。

 

「アムドール!!ガラウム…山にやられる!!」

 

 ムーが立ち上がらせようと腕を引っ張ってくるが、正直行きたくない。自分が行ったところで何の役に立つというのか。

 あのドラゴンが指を軽く弾くだけでこの軍は全滅してしまうではないか。

 それならば今すぐ散り散りに逃げ出し、後で軍を再編成したほうがまだ生存率が高まるというもの。

 まあ…それでも致命的なレベルで犠牲が出るだろうが。

 既にガラウムも逃げ出しているはずだ。現にチラホラと彼の部隊の兵が逃げてくるのが見える。

 ならば此方も早急に敗走の指示を…声を上げようとし、アムドールはかぶりを振ってその考えを否定した。

 きっとガラウムは一人残っている。あの巨大なドラゴンの攻撃を一身に受け止めようとしている。

 奴はそう言う男だ。昔からそうだった。どれだけ絶望的な状況でも、どれだけ戦力差のある状況でも、自分一人だけが犠牲になることで周りを救おうと考える。そしてそれは諦め、絶望した故の決断ではない。最後に一人残ろうとも、彼は最終的に勝利を手にしてきたのだ。

 そんなガラウムを同じ100人の賢人として誇りに思う。そしてそんな彼を…やはり見捨てることはできない。流石の審判長も、あのドラゴン相手では踏み潰されて終いだ。それを理解した上で、自分以外が助かるよう交渉しているのだろうが…あの不器用な男にそのような交渉などできるだろうか。いいや、不可能だ。逆にドラゴンの怒りを買う可能性すらある。

 アムドールはフッと笑う。それならば私が行くしかないじゃないか。死ぬ時は共に逝こうぞガラウム。

 

「全く、奴の自己犠牲にも困ったものだ。おい、ムー。ガラウムの所に連れて行け。おーい、あの竜を近くで見たいやつおらんかー!あんなドラゴン滅多に見られないぞー!」

「何っ!!珍しいのか!?」 

「行くっ!俺が一番だ!」

「ずるいぞ!ぼくも行くぞぉ!」

 

 無邪気にワラワラと集まってくる同胞を見て、やはり羨ましく思ってしまう。彼らはきっと恐怖心よりも好奇心の方が強いのだろう。間近でドラゴンを見たもの達は流石に逃げ出してしまっただろうが、此方の部隊は距離がある分まだ心に余裕がある。

 騙しているみたいで少し気が引けるが仕方ない。流石にムーと2人だけでは、ドラゴンに自分が総司令だと信用してもらえない可能性がある。

 

 十分な数の兵が集まった事を確認し、アムドールはそれらを率いて走り出した。巨大な山の麓へと。

 きっと自分は死ぬだろう。だが…もはや恐れはない。思えば良い一生だったのだろう。賢く生まれたこともそう。皆に最高司祭最高司祭と意味不明な肩書きで祭り上げられたこともそう。この童心のままの同胞達と美食を求めて突っ走ってきたこの一生の全てがアムドールの宝だ。

 流れて行く走馬灯に心を任せて走っていると、荒野で一人這いつくばっている鶏頭の同胞の姿が見えてきた。やはり残ったか、大馬鹿者め。

 ああ…ガラウムよ。もうお前を1人にはしない。お前がどれほど拒絶しようとも、共に残って死を選ぼう。お前がどれだけ拒絶しようとも、地獄の果てまで共に行こう。お前がどれだけ拒絶しようと…

 

「ガラウムっっ!!私も今行くぞっ!!!」

 

 友の為駆け出したアムドールの見たもの、それは。

 

「ねぇ、もうやめようよぉ。死んじゃうよ?本当にさぁ。」

「良い…死んで良い!!!!だからっ早くっっ踏むのだ!!!!あああ私はこのために生きてきたのだなあ!?おい!早くっっ!」

「いや死んだらダメでしょうに。もぉーお腹空いてんだってばぁ。お前を喰うぞ」

「それも良い…が食す前に踏ん゛て゛く゛れ゛!!」

「だぁかぁらぁあ!!」

 

 

 困惑するドラゴンに尻を剥き出しにして己を踏みつけろと懇願する醜い変態の姿だった。

 此方に気づいたガラウムの顔が凍りつき、ハッと顔を伏せた。

 

「お前は何をしとるんだあぁあぁぁぁぁあ!!!!」

 

 張り裂けんばかりのアムドールの絶叫は、天を衝くほどの巨大なドラゴンすら怯ませるものだった。

 

 

 

 

 天幕の中に咀嚼音が響き渡っている。白い布と木の枠だけで作られた簡素な作りだが、この軍の天幕の中では一番広く、中も比較的綺麗だ。

 中央には大きめのテーブルが置かれ、その上にはこれでもかと言わんばかりの肉の山。その山をかき分けながら一心不乱に肉に食らいついている角の生えた少女を、ビーストマンの最高司令官及び最高司祭アムドールは注意深く観察していた。

 赤黒い長い髪と、その頭に生えたこの世の終わりを齎すかの様な禍々しくドス黒い一対の角。瞳は琥珀色に透き通っており、縦に走る黒い瞳孔は彼女がドラゴンだということを思い出させる。

 身につけている黒を基調とした鎧は、武具というものにあまり詳しくないアムドールをして、一目で強力な物と分かる作りをしていた。

 胸と腹、手の甲など最低限の箇所以外は布のような柔らかい素材でできているのがわかるが、その布でさえアムドールがどれだけ切りつけても傷一つつけられる気がしない。足具も…上等なものだろう。

 アムドールが見つめていることに気がついたのか、チラリと此方を一瞥するが、またすぐに食事に戻った。

 余程腹が減っていたのだろう。彼女がアムドールの存在に気づき、対話が可能だと判断した後の反応を思い出す。即座に現在の姿に戻ってからのあまりにも見事な土下座を。

 涙を流しながら肉に食らいつく彼女を見て、アムドールはガラウムへの怒りから眉間に深く皺を寄せた。

 聞けば飯をくれという彼女に対し、交換条件として己を殴れと提案したとか。

 なんでも物々交換すら持ちかけられて尚断ったとか。たまりかねた彼女があの巨大なドラゴンの姿になっても応じなかったとか。

 ここにきてあの友人が何を考えているのか彼には全く理解できなかった。飯が欲しいなら幾らでもくれてやれば良い。何故ならこの目の前の娘は尻尾の一振りで此方の軍を全滅させかねない程の…もはや竜の神とも呼べる存在なのだから。

 彼女は大きい。大きいというのはそれだけで強い。この世界にドラゴンという種族は複数存在しているが、彼女ほど巨大なドラゴンに成れるものは存在しないと断言できる。

 もしそんな存在がいたのならとうの昔に伝説として語られていなければおかしい。

 では彼女の場合はどうかといえば、それは全くの謎だ。考えられるのは今までこの小さな姿で生きてきたが、ガラウムへの怒りのあまり本来の姿に戻ってしまったとかだろうか。

 だとしたら不味い。軍はおろかビーストマンという種族そのものの危機だ。初対面では不気味なほど好意的…むしろ謙ってすらいたが、それは腹が減っていたからだ。机上の肉を平らげて満腹になったらどうなるかわからない。

 なんとかしてあの愚かな友人の失態を帳消しにしなければならない。

 アムドールの胃がキリキリと痛む。今の事態に比べれば今までの悩みがとてもちっぽけに思える。いや、中途半端に知恵をつけていなければこんな責任を負うこともなかったか…。

 

「プハーッッ!!生き返ったぁ!!」

 

 アムドールが己の境遇を憂いていると、丁度目の前の竜神が食事を終えたところだった。布で口を拭い、此方を向くとペコリと頭を下げた。

 

「ホント助かりました!あのままあなたが来てくれなかったらきっと飢え死にしてたと思います。」

「あ、頭をお上げください!全てはわたくしの同胞の不徳のせいであります。竜の神の為あらば我々の食糧など幾らでも献上する所存でございますぞ!」

 

 慌てたのはアムドールの方だ。相手は絶対強者。頭を下げさせて良い相手ではない…と思うのだがこうも下手に出られるとどうしても緊張が緩んでしまう。いかんいかんと頬を叩き、緊張感を引き戻す。

 あの巨大なドラゴンが決して幻影やまやかしでないことは、遥か先までクレーターのように抉られた大地が証明している。

 

「…神?」

「我々の食事はお気に召しましたか?」

「ん?ああ!すっごく美味しかったです!もーこれまで食べた何よりも!今まで何食ってたんだって感じ」

「そうでしょうそうでしょう。それこそ我々を突き動かす食の結晶でございます故。足りなければまた持って来させます故いつでもお申し付け下さい。」

 

 社交儀礼なのかもしれないが、自分達の生きた証とも言える食を褒められて悪い気はしない。それにしてもこんなにも目を光らせて喜んでくれるとは…。思わず頬が綻んでしまうのをアムドールは感じていた。

 なんにせよこの価値観の合致は大きい。ここが分かり合えなければそれは両者の決定的な溝になりかねないのだから。

 

「いいんですか!?じゃあまたお腹空いたらお願します。」

「勿論ですとも。竜の神よ…。それで、不躾ながら幾つか質問させていただきたいのですが、宜しいですかな?」

「良いですよー。てか私も聞きたいこといっぱいありますんで、よろしくお願いします。」

「はい。我々に答えられる範囲であればお答えしましょう__それでは。」

 

 ゴホンと先払いをし、アムドールは質問を投げかけた。

 何処から来たのか。目的はなんなのか。何故腹を空かせていたのかなどから始まり好きな食べ物など他愛のないものまで。

 一通りの質疑を終えた結果、彼女に対する疑問は深まるばかりだった。聞けば天空城ラヒュテルなどと言う聞いたことのないところで目覚めたといい、目的もそこにいた仲間を探す以外特にはないらしい。では目覚める前は何処にいたのかといえばよく分からないと言う。

 仲間も同じくらい大きくなるのかと聞いてみたがそんなことはなく、そもそもあの大きなドラゴン自体彼女の数多ある形態の一つにすぎないのだとか…。

 全くもって得体が知れない。確かなことは彼女が途轍もない力を持っていることと、とんでもない大食漢なことくらいか。

 アムドールは唸る。が、これは幸運なことでもあった。彼女が目覚めてから初めて会う種族はこのビーストマンなのだ。

 今ビーストマンという存在に好印象を抱いてもらうことができれば、他の種族に対して大きなアドバンテージを持つことができる。

 上手くいけば竜王国侵攻の助力をしてもらえる可能性すらあるのだ。アムドールは自身の眼に宿る邪な光を必死に押し隠した。

 

「そっかー。アムじぃも苦労してるんだねぇ。」

「おお。イリスよ、分かってもらえるか!」

「わかるわかる!私だってご飯貰うのがこんなに大変なんて思わなかったし!これが毎日でしょ?考えらんないなぁ。頑張ってるよアムじぃは」

「おぉ…。苦労を労われることのなんと嬉しいことか…。」

「わわっいきなり泣かないでよっ。」

 

 質疑を通してアムドールはこの半竜の娘イリスと、お互い名前と愛称で呼びあう程に打ち解けることに成功していた。それは最早敬語すら使う必要がないほどに。成功と言ってもほぼ向こうからの一方的な打ち解け方だったが。

 突き抜けた存在というものは孤独なものだ。アムドールがこの種族で抜きん出た知力を持っている様に、彼女は絶対的な力を持っている。それは互いの肩を抱くときにすら握り潰さないよう気を使わねばならないほどに。

 きっと彼女は孤独なのだ。少ないとはいえ100人の理解者のいるアムドールよりもずっと。

 故に敬われるのを嫌うのだ。故にその力を振るわないのだ。力による従属を要求してこないのが疑問だったが、なにも不思議なことなどなかった。

 単純にそれでは彼女の欲する物が手に入らないだけなのだ。それならば__とアムドールは思う。

 彼女の悩みを雀の涙ほどだが理解できる彼が、彼女の良き相談相手になれば良い。そして彼の孤独も彼女に癒やして貰えば良い。それはつまり友になると言うことだ。アムドールにはきっとそれができる。いや、彼にしかできないと言ってもよい。

 

「大丈夫かぁー。アムじぃー。」

 

 と、イリスに頭を撫でられながら考えていた彼だったが…アムドールの目線がイリスのある一点に留まっては逸れる。もう一度…もう一度。

 イリスが肉を食べていた時から繰り返していたそれは、最早凝視と言っても良いほどの見つめっぷりだった。

 ビーストマン最高司祭アムドールは今、種族存亡の危機に立ち会おうとしていた。

 彼が見つめていたもの。必死で気を逸らそうとしていたもの。

 それはイリスの漆黒の鎧の裾と足具の間から覗く白い太ももだった。

 彼女が動く度にチラチラと垣間見えるそれは、彼のある欲望を刺激するのに十分すぎる破壊力を持っていたのだ。

 

 そう、食欲である。

 

 彼女は人間によく似ている。それはもう頭に生えた角と竜眼がなければ見分けがつかないほどに。

 人間の一番の旬はいつか?アムドールは自信を持って答えることができる。15〜16歳この期間だと。

 そして尚且つ健康的に育った雌。もう間違いがない。絶対に美味い。そしてこれは彼の中の迷信だが…容姿の整った者ほど美味い。

 この容姿の基準は個人差があるため一概には言えないが彼の中には絶対的な基準があった。

 イリスをこの基準に当てはめるとどうか?ぶっちぎりのSSSランクである。もうドンピシャ。もう何度湧き出した涎を飲み下したかわからない。観察などしなければ良かった。

 顔が出ているだけならばまだ我慢できた。手も…我慢できる。だが、太ももの存在に気がついてしまった瞬間彼の中で何かが壊れた。

 正直今すぐにでもかぶりつきたい。が、そんなことをすれば怒り狂った彼女にビーストマンごと根絶やしにされかねない。そんなことは分かっている。分かっているのだが。

 そもそも何故太ももの見える防具を着けているのか。誘っているのではないのか。

 そもそも何故こんなにも近くに座っているのか。もう少ししたら膝が触れ合いそうではないか。誘っているのではないのか。

 何故頭を撫でるのか。そんなことをしたら目線が下になるではないか。誘っているのではないのか。

 このまま屈んだなら…少し舐めるくらいなら許してくれるのではないか。

 

「ねぇ。アムじぃー。どこ見てるのー?」

 

 頭上から甘い声がかかる。

 

「ど、どこと…言われても…私はっ」

「んー?」

 

 そう言って彼女は少し足を開く。裾が少し捲れ上がり…あらわになる。それは雪のように白く…張りのよい…。

 もう間違いようが無い。彼女は誘っている。きっと先程の食事のお礼をしようとしてくれているのだ。少しだけなら齧っていいよと…。

 アムドールは屈み、口を開く。涎が彼女の太ももに糸を引いて滴り落ちるが…気にしている様子はない。ああ、もう我慢できない。私はっ。

 

「お楽しみのようだな、同胞よ。」

 

 声のした方を向く。そこには天幕の隙間から此方を覗く…ニワトリの眼。何故お前がそこにいる。巡回に回したはずでは。

 ハッと上を向く。半竜の少女がニヤニヤと笑い此方を見下ろしている。

 アムドールの頭の中が真っ白になった。

 

「随分とお楽しみだったようだな、同胞よ」

「ちっ違っ」

 

 違う。断じて違う。私はお前とは違う。己の欲望を満たすためだけに我々を滅亡させようとしたお前とは。お前とは違う。私は…。

 イリスの両腿を握り締め、アムドールは憤怒の眼でガラウムを睨みつけた。

 そんな苛烈な瞳を受けても、ガラウムは平然と受け流し満面の笑みを浮かべた。

 

「__同胞。」

「やめろぉぉおぉおお!!同胞っていうなぁあぁあああああああ!!!!!笑うな゛ぁ!!お前が私を笑って良いものかあぁああ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「あっはははは!おっお腹痛い!やばいビーストマン最高だわ!あははっ」

 

 夜の帳に包まれた天幕にアムドールの怒声が響き渡った。天に轟かんばかりのその絶叫は、夕刻の時のそれをさらに上回るものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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