183120日目
新しくきたプレイヤーは、スレイン法国に住み着いたらしい。スルシャーナが推し進めている『漆黒聖典計画』なるものに協力しているそうだ。なんでも英雄で構成された対プレイヤーを想定した部隊だそうで。彼女は元いた世界でPvP勢だったらしく、戦闘時の様々な小技や警戒するべきコンボ、強力なビルドのテンプレートなどを書物に纏めているそうだ。少し読ませてもらったが大変読みやすい。常闇の住処にアホ面晒して突撃しようとしていたのが嘘みたいだ。
聖典計画か…実際この世界では数万の雑兵より1の英雄が重要だからな。騎士団長とか族長とかなら、それこそ雑兵が何人いようが問題ないだろう。あの子達異形種だから疲労しないしな。騎士団長に至ってはスルシャーナがくる以前から生きてるから経験も凄まじい。魔法禁止で武器一本しか使わない縛りの移動鎧相手なら勝てるんじゃないかあいつ?なんか今目の前で件のプレイヤーにボコボコにされているが。
………誰かあいつを止めろ!
稽古をつけてもらっているだけだって?蹂躙にしか見えないのだが。
そういえば、あの馬鹿、名前はアリーナというらしい。ならリーちゃんだな!名は体を表すとはいうが…
194501日目
植物族の族長がついに70レベル植物の栽培に成功したらしい。ポッター曰く、20レベル以上自分よりレベルの高い植物は栽培成功率が0%になるそうなので、彼女は難度が150はあることになるな。それにしても、難度とレベルと二つ強さの指標があるのは分かりにくいな。
70レベルのカミィで作ったパピルスを使ってついに第九位階魔法をスクロールに込められるようになったぞ!まぁ相変わらず使い手がほとんどいないから量産は不可能な上、第八位階を超えたあたりから必要金貨がとんでもない量になってきたからそもそも作りにくいんだがな。
カミィの他にも様々な高レベル植物が手に入るようになった。だがしかし高レベル過ぎるとそれはそれで加工難度が異常に高くなるからそもそも活かせていないのが現状だ。
例えば木材。70レベル木材を使えばそれはもうポッターたちの元いた世界でもそこそこ通用するような素晴らしい剣が作れるはずだが、加工できる人物がそれこそ族長しかいない上に、彼女は鍛冶屋じゃないから2ランクほど下がるレベル60台の剣にしかならない。それ以前に如何にポッター達のいた世界の植物の成長速度が異様に速いとはいえ、樹木は成長にそこそこ時間がかかるからそれですら作れて年に1、2本が限界だ。
木刀なんておもちゃだろって?木を舐めてはいけない。生産と加工が安定して可能なレベル40台の木材から作った木刀だったらそれこそアダマンタイト製の鎧を簡単に打ち破る。どこぞの黒の剣士の最終装備も木剣だし、木を舐めてはいけないのだ。まぁ私は普通に金属と糞蜥蜴どもの鱗を使うのだが。白金と七色鉱の合金装甲である。毎日のように鍛冶屋連中が新しいルーンを刻むせいでとんでもないことになっている。文字が複雑に絡み合いすぎて紋様みたいだな。
197310日目
今日も体に新しいルーンを鍛冶屋連中が刻んでいった。なんでも、「本来なら一つの装備にルーンはせいぜい三、四個が限界だけど、ツアー様の体は何故か幾つ刻んでも問題ないから実けn…研ky…ともかく最適なんです」だそうだ。よし、お前らそこに並べ、竜の威厳を見せてやろう
そういえば今日はやけに体にルーンが馴染んでいるようななんというか…この感覚、前にも覚えがあるな。装甲が体に馴染んだ時と同じ感覚である。進化でもするのか?
追記:リーちゃんに全身発光ドラゴンだと笑われた。新しいルーンを刻むときは何故か光ってしまうんだから仕方ないだろう…
197401日目
体にルーンが完全に馴染んだ所為なのかは知らないが、ついにこれ以上ルーンを刻めなくなってしまった。これで実験台にされる日々も終わりか…長かった…鍛冶屋連中は悲しそうにしていたが。
限界まで刻んだ所為なのかは知らないが明らかにクラスというか種族というかが変わった感覚がある。ルーンの魔力を引き出すことで幾つかの特殊能力を発動できるようになったし。
例えば1日に一回自身に、残り生命力が1の状態で復活するリレイズ系のバフをかけることができる能力に、1日に三回まで自然回復力を強化して生命力を1割ほど回復する能力など。どちらも力の信奉者のデメリットの影響を受けない系統の能力なのがありがたい。
また、ポッターに魔法を幾つか使ってもらって発覚したのだが、元々耐性を持っていた聖属性への完全耐性、弱点だった酸への半減耐性、弱点でも耐性でもなかった冷気と音波と風への半減耐性、ついでに毒への完全耐性を獲得していた。もはや無敵である。
いやまぁ風への耐性とはいえ、風系統全部ではなく文字通り竜巻などの風属性だけで電撃は弱点だし炎と力場に耐性はないんだが。酸への耐性はあっても大地系統全てを無効に出来るわけではないし、流石に全属性への完全耐性みたいなことは出来ない。世界の常識である。まぁ全ての魔法とバフ、ついでに装備を使えば一瞬ぐらいは出来るかもしれないが。
ルーンドラゴンだぞ!がおー!
いくら完全耐性持ちとはいえ、流石に聖属性パンチをするのはどうかと思うぞリーちゃんよ。
198100日目
なんでも、《伝言》の魔法の力で発展していた人間種の大国が滅んだらしい。ハンバーグみたいなそんな名前だった気がする。
虚偽の情報に惑わされて滅んだそうだ。伝言の魔法か。プレイヤーや私のような世界へ接続して直接連絡できる存在ならまだしも、この世界の一般的な魔法詠唱師が使うと世界の上を通るせいで音質が悪くなるわ魔力が少ないと距離が短くなるわ、本人確認が難しいわで使いにくいんだよな…
スルシャーナは会えない日も毎日のように《伝言》してくるがな。まぁこれがなかったら、スレイン法国のある大陸西部の端の話など入ってこないしありがたい。転移でひとっ飛び出来るとはいえ、用事がなきゃ行かないわけだし。用事があってもスレイン法国かアーグランド評議国、竜王国ぐらいだしな。ちなみに七彩の変態は半人半竜の娘に王位を譲って隠居したらしい。隠居している割には変態エピソードが風の噂で流れてくるが大丈夫か?
198402日目
風の噂で聞いたのだが、天候の竜王がついに死んだそうだ。数少ないまともな竜王の中の一人だったんだがな…まぁ彼は外敵から領民は守るが、後は領民に任せた放任主義だっただけだが。噂では、病気を拗らせたから万病に効く薬草を採取しようとして返り討ちにあって死んだらしい。
薬草採取で返り討ち?どういうことだ?
…思い出した!肉食ってる場合じゃねえ!そういえばあいつ破滅の竜王封印してたな!それも頭に薬草生えてる奴を!不味い封印から解放されたら周辺国家が滅ぶ!
198404日目
なんというか、その、出会った瞬間懐かれた。自分よりも圧倒的にでかい大樹の化け物に懐かれた。これどうするよ…
破滅の竜王はその性質上誰かに懐くことなんてないはずだが…責任とって面倒みるべきだよな、これ…
でも、こんな周囲の栄養吸い取ってる怪物、うちの領に連れてけないよな…とりあえず族長に任せてみるか…?
198501日目
族長に任せた私の判断は正しかった。族長の頭脳に破滅の竜王の破壊力が合わさってまさに破滅的強さ。
周囲の栄養を吸い取っていたのは、完全復活するためだったらしく、森祭司連中と協力して栄養を注いだら安定したらしい。その後はおとなしく森の中心に佇んでいるそうだ。族長によると、「あれの性質は守り神とかに近いから、有事の際は活躍すると思う。」、だそうだ。種族的能力である程度本質を見極められるアーラも、どちらかと言えば善の位相にいるから大丈夫、と言っていた。
じゃがいも馬鹿の百科事典で似たモンスターがいないか確認したら、「ザイトルクワエ」というザイクロトルの死の植物の一種だそうだ。コズミックホラー系のモンスターじゃないか……宇宙に向けて種を発射しそうで不安である。それにしても何故懐いたのだろうか…?
199001日目
ザイトルクワエの頭に生えている薬草は、それはもう凄まじい効果を発揮した。ポーションの素材に使えば第六位階魔法《大治癒》と同等の効果を即時で発揮するそうだ。より高位の薬師がいればもっとすごいものも作れるかもしれないらしい。
とはいえ、年に数回しか採取できないから量産は難しいのだが、それでも高位のスクロールよりかは金もかからないし作成難度も低いから安定している。
やはり我がフェルンオストは植物に関しては世界一だな!実際、記録的猛暑だろうが冷夏だろうが常に豊作である。噂ではフェルンオスト産の果物の中でも、じゃがいも馬鹿の遺産から増やした異世界が原産のものは他国の貴族の間で嗜好品として持て囃されているらしい。まぁレベル20以上の果物なんて他所じゃほぼ生産できないからな。
200000日目
最近、なんというかすごくゾワゾワする感覚がある。
何か自分とは相容れない存在が動き出したような、どこかの糞蜥蜴が動き出したような、そんな感覚。知り合いの竜王に聞いてみても心当たりはないらしいから杞憂なのかもしれないが、勘というのは馬鹿にならない。
ひょっとすると、こいつの出番があるかもしれないな。
移動鎧の中でも最強の一品。複数の種類の竜鱗と白金で作成された、パワードスーツ技術の応用で位階魔法を複数仕込んだ難度300相当の一品。…ただこれが出撃するレベルの事態なら、私本体が出た方が速いことの方が多いからなぁ…
200024日目
ゾワゾワが治らない。
何かが起きているのは間違いない。
情報を探るために、私のポケットマネーを使ってハンゾウ、カシンコジ、フウマ、トビカトウという難度240超の傭兵モンスターを一体づつ召喚した。それぞれ隠密発見、幻術、肉弾戦、武器戦闘に優れている。あぁ、お金が、お金が吹き飛んだ…!
実は殆ど私の給料はゼロだからお金があんまりないんだ…食料はお供物が沢山あるから問題ないし、政治にも周りが優秀すぎて役に立てている気がしないし…千年生きた経験があっても本職には敵わない。そのせいであんま高くする気になれなくて…
さぁ行ってこいニンジャ組!いや、これは御庭番衆とか呼んだ方がかっこいいな。では御庭番衆!行ってこい!始原の魔法で強化したからそう簡単には敵に見つからないし死にもしないだろ!まぁ敵がいるのかすら分からんのだが。
とはいえ、彼らにだけ任せるのもそれはそれで落ち着かない。久しぶりに白金の移動鎧の出番だな。
200382日目
おかしい。あまりにもおかしい。
この一帯に、何が起きている?
魂の反応が一切ない。生命の反応が一切ない。いくつもの都市が空になっている。
負のエネルギーの残滓は確認されたが、アンデッドの1匹さえ見つからない。いや、文字通り「何もない」。何もないんだ。
ここには国があると聞いていた。しかし、その痕跡さえない。あるのは空っぽになった石の塊。
何が、何が起きている?何が起きているんだ?
200384日目
ここは、地獄だ。
魂の悲鳴の残滓が頭を揺らす。悲痛な叫びだけが残り、そこに魂はない。
言うなれば、「
ああ、私とは相容れない存在だ。どこの誰だか知らないが、貴様は滅ぼす。私が、この手で滅ぼす
誰一人、生存者は見つからなかった。
200387日目
一人の少女と出会った。
運よく、いや運がいいと言っていいのだろうか。アンデッドへとその身を変えられながらも、その生まれながらの異能の力で人格を失わなかった、魂を失わなかった一人の少女。
たった一人の生き残り。キーノ・ファスリス・インベルン。
彼女の証言や、今まで集めた情報で全てが分かった。
はは、ああ、やってくれたな。
やってくれたな!糞蜥蜴どもの生き残り!死の竜王…いや、朽棺の竜王!キュアイーリム=ロスマルヴァー!
貴様のその行い、その性質、もはや見逃してはおけない。何もせずあの時のように隠れて縮こまっているならよかったものを。殺す。その肉の最後の一片までも残さず絶滅させてやろう。
200393日目
やはりそうか。
あの糞蜥蜴、魂を収奪した国家のマジックアイテムやら装備やらを軒並み剥ぎ取り、その上アンデッド化させた国民を全て吸収してから去っている。糞蜥蜴は基本的に位階魔法のことを「竜帝の汚物」と言って嫌うから、それに関わるアイテムもたとえそれがどんなに価値があろうと嫌うと思っていたんだがな…仮に奴が位階魔法を操るために変質した、私のような竜であれば最大限の警戒をする必要がある。
だが、奴は同格以上との戦いに慣れていないな。
証拠に、ダメ元で《物体発見》を使い、奴の奪っていったアイテムを探ったら奴の居場所を発見できてしまった。情報系魔法に対する攻性結界すら用意していない時点で底が知れている。…いや、誘い出そうとしているのか?逃げているように見えるのはブラフ?
本当なら一回鎧で様子を見たいところだが、それをやったら最後、奴が糞蜥蜴である以上私のことは知っているはずだし、逃げられるか迎撃の準備を整えられるのは想像に難くない。これは自惚れでもなんでもなく、竜帝の子という忌まわしい称号によってもたらされた事実なのだ。
とはいえ、《遠隔視》で確認できた千万に迫る数のアンデッドの鎧をどうするべきか。
表層に骸骨弓兵や骸骨の魔法使いが多いことからわかるが、明らかに厳選されているし、いくつか異常に強力なアンデッドの反応がある。奥深くに隠されているようだが、特に強力なアンデッドは大体が難度120〜150ぐらいか?数体しかいないとはいえそれらが《不死の軍勢》を使えたら無限に鎧を再生されて厄介だな。
始原の魔法が通じれば簡単に剥がせるが、なんらかの手段で無効化してきたらかなり怠い。それこそ私の装備する装甲のように、あのアンデッドの鎧が糞蜥蜴の外骨格扱いになっていれば弾かれる可能性がある。超位魔法じゃあの数は吹き飛ばせない。
正直、大半の弱小アンデッドの攻撃は全く効かないだろうが、それでも本体の攻撃は相当強力だと予測される。
とはいえ、対悪の戦闘は、私が最も得意とする分野だ。
此処で悩んでいても仕方ない。とりあえず一回殴ってから考えよう。
200395日目
糞蜥蜴、倒すのに丸1日かかったぞ…
まさか防御系のワールドアイテムを所有しているとは。戦いの中で消費型の効果を使用したのか、失われてしまったが相当厄介だった。それの効果で始原の魔法はアンデッドの鎧にすら通用しなくされてしまっていた。
それにあいつ、油断してくれればよかったものの、悪態をつきながらも最初から位階魔法を全開で使ってきた上に、鎧のアンデッドにはバフ魔法を使わせ、始原の魔法は対真なる竜王戦で有効な自己強化系だけに絞って攻撃技は一切使ってこなかった。
鎧の中に混ざっていたそこそこ強力なアンデッドもひたすら鎧を補充し続けていて無限に耐久してくるし、あまりにも長期戦すぎたせいか後半の記憶がない。ここまで追い詰められたのは八王との戦いぶりだな。スキルも相当な回数使わされてしまった。まぁ彼らとは違って私を殺せはしなかったのだがな。
途中で気づいたのか参戦してきたポッターたちのおかげで押し切れたようなものだ。正直、難度は300あったと思う。その上千万以上のアンデッドがいるのだから相当厄介な敵であった。
ただ、戦いの中で掴み取ったあの技、世界を断つ一撃。一切合切貫いて奴の首を刎ね飛ばした一撃。
あれがおそらく八王の操っていた至高の一撃。これをものにした今なら、千万のアンデッドの鎧も問題にならないだろう。
敵は殺した。
だから、だからもう泣かないでくれ、キーノ。
これはあまり有名ではない物語。
その物語は語る。かの竜神、神々を引き連れ魂を弄ぶ死の竜王へと戦いを挑む。
その爪から放たれる一撃は天を裂き、その咆哮は大地を揺らし、その羽ばたきはそれだけで天候を変える。
その神威なる威光に触れた不死者は、恐れを知らない存在でありながら、恐怖し、自ら消滅を選んだとされている。
その誇張された物語を聞いた不死者の王が、「アンデッドの完全耐性を突破して恐怖を起こした」という一文で竜神をワールドエネミーと勘違いするかも知れないが、それはまた別のお話である。
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感想、評価などありがとうございます!励みになります
あの、新しくきたプレイヤーは前作の人とは別人ですよ…?前作とのリンク要素はないです。
Q.なんかこのキュアイーリムキャラ違くない?なんかアンデッドの数増えてない?あと深淵なる躯吸収されてない?
A.これも全部ツアー対策のせいなんだ。レベルが上がってるのもそのせいなんだ。ワールドアイテムもどこぞの聖域からぶんどってきたものなんだ。というかツアー相手じゃなかったら普通に汚物発言してると思う。キュアイーリムからすれば野生のラスボスに出会ったようなもの。なんで特攻持ちの相手が数日でこっちを捕捉してくるんですか?
Q.ツアーの獲得した新しい能力って?
A.言うなれば重装紋様竜とでもいうべきもの。重装甲竜がこれに置き換わった。
最大レベルで弱点も耐性も持たない三属性への半減耐性、弱点一属性を反転させて半減耐性へ、元々耐性を持つ一属性を完全耐性へ、あとついでに毒への完全耐性、1日に一回即死肩代わり付きの食いしばり付与、1日に三回全生命力の1割回復。ちなみに元ネタはユグドラシル基準だともっとチートだからこれでも控えめ。
次回、英雄、或いは魔神の十三冊目