何も見えない。
何も感じない。
暗く、深く、視界は黒く染まりゆく。
見えない。何も見えない。
黒に染まりゆく世界の中で、何かが弾けた。
煌びやかな衣装を纏った骸骨は、何処ともしれない空間を歩く。
ぱきり、と何か乾いた物を踏んだ音がした。
下を向く。
骨だ。それも全て人間の骨だ。
誰のものかもわからない骨を踏みつけながら前にすすむ。
べちゃり。何か湿ったものが足を掴んだ気がした。
腕だ。血に濡れた腕だ。
体に血を塗りたくろうとするかのように、幾万もの血に濡れた死体が絡みつくが、骸骨の体は全く汚れない。
なんの感傷も湧かない、と言った様子で歩き続ける。
何も感じない、何も思わない。
邪魔だなぁ、と思うことはあるかもしれないが、それ以上の気持ちは湧いてこない。
「お前のせいだ」「お前さえいなければ」「お前が殺した」「お前が壊した」
耳元に、黒いモヤが囁きかける。
今自分が踏み締めているのは、自分が直接、間接的に殺してきた人々の命。
だが…だからなんだ?
これらは、俺に何を思って欲しかったんだ?後悔か?贖罪でもして欲しかったのか?あぁ…馬鹿馬鹿しい。
骸骨は歩き続ける。
死体の数は増え続け、しかし不思議と腐臭は一切しない。
そもそもここは何処か、何故こんなところにいるのか。
頭に靄がかかったように思い出せない。そして、歩みを続けるうちに、骨でできた玉座が三つ、そしてそこに座る自分とそっくりな三体の骸骨を見つけた。
「…幻術か?《幻術看破》」
骸骨の腕から放たれた魔法が、対象を発見できずに消失する。
これが意味するのは、目の前にいる骸骨たちは紛れもなく本物であるということ。幻術で作られた偽物ではなく、間違いなく目の前に実態が存在する。
「いや?俺たちは紛れもなくお前だよ。」
「俺は鈴木悟」
「俺はモモンガ」
「そして私はアインズ・ウール・ゴウンというわけさ」
骨でできた玉座に座る者達が名乗った名は、間違いなく自分が名乗ってきた名前。
ここは、何処なんだ?モモンガという名前ならまだしも、モモンガというプレイヤーの本名が鈴木悟だということを知っているのは一部のギルメンだけ、それともしかしたらあるかもしれないが運営ぐらいだろう。
お前たちは…お前は誰なんだ?
「まぁ、座れよ。時間はたっぷりあるんだ。」
その言葉に呼応するように、玉座が──ナザリック地下大墳墓の最奥にあるワールドアイテム、諸王の玉座と同じ見た目の──地面から迫り出してくる。
自分の意思に反して、体が勝手に動き、玉座に押し付けられる。
体が玉座にピッタリと張り付いてしまったかのように立ち上がれない。
理解できない現象の連続に、焦りのような物を感じる。
玉座から離れようともがく自分を無視するように、鈴木悟と名乗った骸骨と、モモンガと名乗った骸骨が語り始める。
「なぁ、俺。…お前、本当にギルメンのことを大切に思っていたのか?」
時が止まる。
背中から冷たい鉄の棒を差し込まれたかのような感触。今、目の前のこいつはなんて言った?
「お前にとって本当に大切なものは、なんだったんだ?…最終日の事、覚えているか?」
あぁ、もちろん覚えているさ。
ユグドラシルのサービス最終日。そこで出会った最後のギルメン。忘れるわけがない。
「腹立たしかったよな、悲しかったよな…憎かったよな。お前、間違いなくあの瞬間に、ギルメンのことを憎んだよな。」
「お前、自分がどれだけ恵まれた境遇にいたのか分かっているのか?…そもそもの話、一人でギルド維持費を稼げるだけの暇がある、それだけでお前は十分勝ち組なんだよ。ヘロヘロさんだけじゃない、自分よりよっぽどブラックな境遇にいたギルメンを見てきたはずだ。」
「それに、だ。お前が本当にギルメンのことを仲間だと、大切だと思っているならまだ関係を続けるチャンスは幾らでもあったよな。ネトゲで仲良くなったギルメンと別ゲーでも遊んだりする、よくある話だろ。実際、ユグドラシル内だがギルメンで人狼やって遊んだりしたじゃないか。たりすまんさんに流行りの別ゲーに誘われたこともあっただろ。弐式炎雷さんに誘われたこともあっただろ。…なぁ、お前が大切だというギルメンは本当に仲間だったのか?」
「怖かったんだろ」
「今の状況さえ無くなるのが怖くて一歩踏み出せず。大切だと言いながら自分は何も変えようとしない。周りがなんとかしてくれることに期待して」
「お前が大切な、守りたいと思っていたのは仲間でもなんでもない。」
やめろ。それ以上言うな。
心が軋む。視界が揺れる。
「自分が輪の中にいられる、アインズ・ウール・ゴウンという、居場所だけだったんだろう。」
「そして今やそこは空っぽさ。過去の栄光に縋って、お前は前を見ようともしない。」
「なぁ、お前は誰なんだ?お前はモモンガじゃない。」
「お前は鈴木悟じゃない。」
違う。俺は、俺は!
「お前、自分の母親の顔、思い出せるか?」
玉座から離れようともがく。
骨が軋むほどの力で暴れるが全く離れない。
人の体であれば等の昔に崩れていたであろう力でもがき続ける。
アインズ・ウール・ゴウンと名乗った骸骨が語り始める。
「なぁ…NPCたちは大切か?」
今度は何を言うつもりか。
耳を塞ぎたい。だが塞ぐための腕は縛り付けられたように動かない。
「
「期待を裏切りたくない?違うだろ。
「一度だってNPCと正面から向き合ったことがあったか?」
「自分はNPCたちに虚像を見せ続け、自分はNPCに偽りの栄光を投影する。」
「NPCが勝手に暴走したなんて言わせないぞ。…全て、お前が分かっていて黙殺した事なんだからな。彼らは良かれと思って動いただけ。」
「それに、だ…今のお前にアインズ・ウール・ゴウンを名乗る資格はあるのか?」
やめろ、その口を閉じろ。
それ以上何も言うな。消えろ、頼むから消えてくれ。これ以上、俺を傷つけないでくれ…!
拳を握る力が強まり、掌の軋む音がする。
これ以上何も聞きたくない。苦しい。全身を刺すような痛みが襲う。
「悪の華、アインズ・ウール・ゴウン…なぁ、今の私たちをたっちさんが見たらどう思う?彼は私たちを許さないだろうな。ウルベルトさんは?あぁ、誰よりも怒り狂うだろう。NPCにギルメンを投影しちゃいるが、本質は理解してなかったってオチだ。私たちがやってきたことは、リアルの富裕層と何の違いがある?なぁ、アインズ・ウール・ゴウンの… ナインズ・オウン・ゴールの設立理念はなんだった?」
それは、理不尽にPKされる、異形種の現状を…弱者救済を…
「異形種こそ優れているという選民思想。私たちだけが、というその考え。なぁ、これの何処がアインズ・ウール・ゴウンなんだ?教えてくれよ。私。」
シルクハットを被った山羊が、白銀の鎧をきた聖騎士が。
短刀を握りしめた忍者が、太刀を構えた醜悪な巨人が。こちらを指差して、「お前のせいだ」と責め立てる。
「私は結局、自分を客観視できない、自分から見える景色でしか世界を認識できない、そんな存在なんだよ。」
「お前はアインズ・ウール・ゴウンじゃない」
靄のかかっていた頭が晴れ、記憶が流れ込んでくる。
1匹の竜に蹂躙される
涙を流すことさえできやしない。
なら、俺は誰なんだ?
血の一滴さえ流れない。
「「「なぁ、偽物ならさっさと死んでくれよ。」」」
「「俺「私達の、思い出をこれ以上汚さないでくれ」」」
三体の骸骨から魔法が雨霰のように降り注ぐ。
体が砕ける。魂がバラバラになったかのような痛みを覚える。あぁ、このまま死んでしまうのもいいかもしれない…
否。
脳裏に浮かぶのは一つの光景。
ほんのひと握りのプライド。やられっぱなし、それで終わる俺じゃない、そうだろう。そうだろうが!
たかだか一度負けただけじゃないか!いつだって初めは負けていた!一度敗北したとしても、まだ自分の命があるのなら次がある!
二度目、三度目でその心臓を食い破ればいいだけのこと!
降り注ぐ魔法から痛みを感じなくなる。
これは、全て幻だ。魔法的なものじゃない。自分の心が生み出した幻想。
あぁ、そうだよ。俺はもう鈴木悟でも、モモンガでも、アインズ・ウール・ゴウンでもないんだ。
なら俺は…俺は死の支配者。
オーバーロードだ!
あぁ!もう知るか!我儘に、どこまでも我儘にやらせてもらおう!
偽りの愛だった?知るか!私の、仲間を、NPCを愛する気持ちは間違いなく本物だ!
それが偏愛でも、狂愛でも、妄執であったとしても!
もう後戻りなってできやしない…だったら!悪役として、どこまでも古典的な魔王として、最後まで戦わせてもらう!
覚悟はできた。これからは、死の支配者として、自分の本質に忠実に、暴れさせてもらおう!ただで死ぬと思うなよ!異世界!
死の支配者を中心に複雑に絡み合った立体魔法陣が展開される。
魔法の雨を避けようともせず、一歩。また一歩と歩みを進める。
ここは夢の中、なら、なんだって出来る。
「お終いにしよう。《失墜する天空》」
光に包まれ、視界が真っ白に染まる。
そんな中で、三人の骸骨は、僅かに笑っていた。そんな気がした。
そして──目が覚める。
「…お帰りなさい」
「父上っ!」
目が覚めて、視界に飛び込んできたのは、シャルティアの顔だった。奥からは、自分の作ったNPC──パンドラズ・アクターの声がする。
そっと、その体を抱き寄せる。
あぁ、これからは、ちゃんと子供達と向き合っていこう。…もう手遅れかもしれないけど、それでも。
───────────────────────
シャルティアとパンドラを連れて、宝物庫の中を歩く。
何も知らないものが見れば、まるで家族みたいだと思う、そんな後ろ姿だ。
「シャルティアにはこの『幾億の刃』を。『真なる無』はそのまま所有していてくれ。」
幾重にも刃の重なった集合体をシャルティアは受け取り、それはシャルティアの体に吸い込まれる。
最強のNPCが、最強の矛と盾を持つ。
「そしてパンドラには…『ヒュギエイアの杯』とそれとギルメンの装備を。」
「ン父上ッ!それはつまり…全力戦闘、ということですね?」
「あぁ、そういうことだ。」
パンドラには水が並々と注がれた杯が渡される。
所有者を完全な状態へ導く水の注がれた神の杯をパンドラは受け取り、そしてそれは体に同化する。
「あとは…『山河社稷図』を渡しておくから、マーレに渡しておいてくれ。もちろん、多重展開グリッチの説明も頼む。」
静謐な空間を歩く。
必要なアイテムを取捨選択し、貴重なアイテムを惜しげもなくとってゆく。
腕に『強欲と無欲』を装備し、アイテムボックスの中に、AOGとして所持する二つの二十の片割れである、『闇輪の悪神』を装備する。
世界全体を負と闇のエネルギーで覆い尽くす切り札。
さまざまなアイテムを取り出しながら、シャルティアとパンドラに、そのアイテムを入手するまでにあった冒険の話をする。
ようやく向き合うことができたかも知れない。本当の友人のように、笑い合えているように感じる。
でも、もう全部…
ナザリックの全て。それをぶつけなければあの竜神には勝てない。死の支配者はそう思考する。
いや…そのままぶつけたところで勝てやしないだろう。
ワールドエネミーでさえ、カンスト級の存在を無造作に一撃死させるほど理不尽では無かった。あそこまで、プレイヤーでは勝ち目がないと思わせる存在では無かった。
おそらく…八階層のあれらを、知恵の実を併用して使ったところで勝ち目は薄いだろう。
雑多な存在であれば1500人いようが殲滅でき、ガチプレイヤーでも150人を殲滅できるあれら。
10のセフィラを司るあれら。しかし、それらはあくまで不完全な存在。本来なら36人からなる軍団を一騎で殲滅できる、仮に400人のガチプレイヤー相手でも勝利できてしまう力を持つはずだが、二つのワールドアイテム、ギルドの補助、ワールドエネミーのドロップした10個のボス化アーティファクト。それらを使ってもその力の六割さえ再現できなかった。
ユグドラシルのゲームシステムは、格下相手であれば無双できるが、格上相手だと急に勝ち目がなくなるように出来ている。
レベルの限界が100であったユグドラシルならば、完全再現できていないワールドエネミーでも無双できたが、仮に本物のワールドエネミー相手であれば。
明確な格上相手であれば、たとえ10体でかかっても勝利は難しいだろう。
なら、本来ならストップコマンドとして機能するはずのヴィクテムを武器として利用したら?
そもそも、奴がのこのこと八階層までやってきてくれるか?
もし仮にこちらの反撃による被害を黙認して兵糧攻めに移行されたら?
だったら… 向こうから攻めてきたくなるチャンスを作ってやろうじゃないか。
八階層のあれらじゃ勝てない?あぁ、そうかも知れない…だが、まだ最大の切り札が残っている。
宝物庫の最奥にある、一つの指輪を見る。
『永劫の蛇の指輪』。
アインズ・ウール・ゴウンの終わりを…もしかすると始まりを冠するに相応しい、永劫を司る蛇の指輪。
無限、セフィロトの樹と相性のいい性質を持ったこれを使えば、確実に八階層のあれらの真の力を解放できるだろう。それに、少し願い方を工夫さえすれば、相手を誘いだすこともできる。
だが…本当にこの願いを叶えてしまってもいいのだろうか?これを使えば、蘇生できなかった、『聖者殺しの槍』で殺されたNPCのようにデータが消失したNPCたち──あの戦いに参加した、ルベド以外のNPC──を蘇生できる。ルベドは何故か蘇生可能だったが、あれは制作にワールドアイテムが関わっている特別製だからだろう。
今ここで、NPCたちを蘇生させ、静かに暮らすという手段もある。
僅かな余生を静かに暮らすという選択肢も。だが…それでいいのか?殺されるために、NPCを蘇生させて。
ここで竜神を殺せなければ、ナザリックに未来はない。
例えば、データ消去状態からの復活を実現するアイテムは他にもある。仮にデータ消去が魔法によるものなら『五行相剋』が。そうでなくても『ホーリーグレイル』のような回復系ワールドアイテム。それらがこの世界にあるのであれば、まだ可能性はある。それに──竜神を、そしてこの世界にいるプレイヤーやギルドを全て滅ぼし、集めた七色鉱を使って熱素石を作れば、蘇生できるのはかつて使用した時に確認済みだ。
それに、あの竜神を殺せれば、アンデッド化させることで最大の戦力を得ることができるかも知れない。
全員が生存できる、そんな僅かな可能性に、自分勝手な我儘に、最後の切り札を使うのか。
「魔王…悪役、か……」
魔王、その言葉を噛み締めるように呟く。
「かくて汝、全世界の栄光を我が物とし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう。はは…笑えるよな…」
手にした栄光は、虚飾に彩られた偽物だった。
暗きものは、全て他人に押し付けて見て見ぬふりをしているだけだった。
「ごめんなさい、皆さん。私は…私は…!俺は…!」
指輪を手に取った。
──────────────────────
「失敗した…失敗した失敗した失敗した…っ!くそっ!」
フェルンオスト評議会、その円卓内に神々が集う。
先日の対悪魔戦線、そしてその後の戦闘。
今回の百年の揺り返しでやってきたプレイヤーとの邂逅。
「『アインズ・ウール・ゴウン』…これはまたとんでもない大物が来たわね…」
スルシャーナが溜息を吐きながら溢す。
「できればあそこで全員仕留めたかったんだが…プレイヤーと一人のNPCには逃げられた。…それに、あの一体だけ少し強かったNPC、あれの魂は咀嚼できなかった…まぁ、解析は終わっているからもう一度殺せれば終わりなんだが。とはいえ、別構造の魂を解析できたおかげか、何か新しい力に目覚めそうな感覚はあるな。」
白金の鎧がそう言う。
「何それ怖…」
「だが、アインズ・ウール・ゴウン、か…最上位ギルドの一つだったこともある強豪。か…」
机に拳を叩きつけながら、唐突に男が叫ぶ。
「なぁ、ほんとにアインズ・ウール・ゴウンなのか!?あいつが… タブラのギルドはそんなことをするような狂人の集まりじゃ無かったはずだ!」
「落ち着け、リーダー。…俺も、あのギルドにはそこまで仲が良かったわけではないとはいえ、厨二病仲間がいた。…そいつらは、至って普通の人間だったよ。…狂っちまったんだろうな。というかマジでAOGかよ。勝てんのか?これ。千五百人殺しのAOGだろ?」
「糞…」
信じられないものを見たというように、リーダーと呼ばれた男が溢す。
それに答えたのは、全身を漆黒の鎧で覆った男、暗黒騎士である。
「うーむ…はっきりいうと、今出てる情報が全てなら、AOGと戦って十分勝ち目はあるんだよな。WI所持数最多は確かに恐ろしいが、一応俺たちも全員が一つづつ持っても大丈夫な数のWIはある。それに、千五百人殺しで使ってたのってあれ、セフィラーの十天使の劣化コピーだろ?多分。」
水晶に画面に映る映像を逆再生しながら答えるのは、魔法使い然とした姿の男。
ポッターは映像の所々で一時停止しながら語る。
「ワールドチャンピオン・ムスペルヘイムの魔王化と似たようなものなのは判明していることだし、まぁ万全のバックアップの元ならツアーが蹂躙できそうなもの、しかしなぁ…」
「AOGのことだし、ウロボロスとか持ってそうなんだよな…」
「ただ、一番怖いのはこれでAOGが自棄になって暴れ回ることだな。現状、本拠地の位置も特定できてないわけだし。」
突然、窓の外から何か巨大な物の羽ばたきが聞こえる。
それも一つではなく十数、いやそれ以上かもしれない。
「来たか。」
白金の鎧は扉を開け、外に出る。
そこにいるのは竜王たち。七色の鱗を持つ竜が、遠い西方の土地で評議国の評議員をやっている竜王が、嘗ての戦いや、それよりも前より友好関係にあった竜王の集団。
その中でも、一番の存在感を放つ、七彩の竜王が前に出る。
「久しいな…我が友よ。…ぶっちゃけこの口調疲れるから普通に話していいか?」
「いや、別にいいが…というかお前に友と言われると色々複雑だな。」
旧友と再会したかのような親しさで、白金の鎧と竜王が語らう。
「ツアー?これは?」
「あぁ…援軍さ。我々は、全力でアインズ・ウール・ゴウンと思しき存在を殲滅することにした。…向こうの勝利条件はただ敵を殲滅して運営費を稼ぐだけでいいが、我々はそうも行かない。被害が広まる前に、滅ぼす必要がある。」
「でも、現状敵の本拠地の位置も割り出せてないでしょ?」
「…いや、それに関しては、先日の戦いで既に割り出してある。」
「…じゃあ、なんで言わなかったの?まさか、私たちを置いていくつもりじゃないでしょうね」
語尾に僅かに怒気を漲らせながらスルシャーナはツアーを詰める。
「…スルシャーナ。これは私たちが、仮にもこの星の旧支配者であった我々がやらなければならない使命なんだ。我々が犯した罪である以上は、やらなければならないことなんだ。…スレイン法国が主戦場になった先日の戦いならまだしも、これからの戦いに巻き込むわけには…」
「ざ…」
「ざっけんじゃないわよ!」
スルシャーナがツアーの頬を全力で叩く。
「何百年も一緒に過ごしてきて…何を見てきた!私がそれを許さないことぐらい、分かるはずでしょう!何一人で主人公ぶって一人で走ろうとしてるのよこの大馬鹿野郎!別にこれは貴方だけの問題じゃないのよ!私たちだって、私は…!」
思考がまとまらないような様子で、ただ激情だけを声に乗せて叫ぶ。
頬を紅潮させながら、興奮した様子で捲し立てる。
「そんなことはわかってる!だが…だけど!巻き込みたくなんだよ!」
「何言ってんのよこのバカ!うじうじしてんじゃないわよ!」
「馬鹿馬鹿言うなよ!」
「馬鹿を馬鹿って言って何が悪いのよこの馬鹿!縛り付けてでも止めるわよ!」
ツアーとスルシャーナが取っ組み合いになって暴れる。
周りが大慌てて引き剥がそうとするが、方やレベル100相当の最高品質の鎧、方やボス級の力を持つカンスト級の存在。
なかなか引き剥がせない。
ようやく離れた時には、互いに息を荒らげて──鎧は呼吸をする必要がないのだが──睨み合っていた。
白金の鎧の肩をリーダーが叩く。
「なぁ、ツアー。俺からも言わせてくれ。魔神討伐の旅、覚えているか?みんなで色んなところ周っただろう?…俺たちも、この世界を守りたいって思ってるんだ。…あまり、気負いすぎるなよ」
沈黙が場を支配する。
息遣いだけが聞こえる。
そんな中で、急に七彩の竜王が堰を切ったかのように笑い始めた。
「はは、ははは!だから言っただろう、白金の!お前が思っているよりも、存外お前は愛されているらしいぞ?…悪いことは言わん。連れて行け。」
「それが感情によるものなら私は否定するぞ。」
「はは、そう意固地になるな。戦力的な面でも、だ。お前以外の竜王は世界の守りを持つ存在相手だとあまりにも不利すぎる。世界の守り持ちの相手でも十分戦える戦力は必要だろう」
「そうだな…そう、だな。」
「お前の友は、仲間はお前に守られるだけの弱い存在なのか?違うだろう。数百年の間に耄碌したか?いつの間にお前はそんなに弱くなった?違うだろう」
「そうだな…あぁ、本当に私は幸せ者だよ、本当に…!あぁ、行こうじゃないか!おそらくこれが最後の戦いになるだろう。…力を貸して欲しい。」
「!…言われなくても!」
この世界最強の集団が、遂に動き出す。
感想、評価などありがとうございます!励みになります!
更新遅れて申し訳ありません…
完全体パンドラ、もとい100%パンドラ。
二章プロローグ的な感じのお話でした。
アインズというかアインズだったもの。覚醒というよりは開き直り。
ツアーが追加獲得した能力:ソウルコネクターとワールドコネクターをカンストへ
どっちも本当の本気の戦い。