白金の竜王に転生した人間の日記   作:美味しいラムネ

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戦闘bgmは、For UltraPlayersとかかな


番外席次vsパンドラズアクター

 

 

 

 

 

 

右腕に持った大鎌──カロンの導きと、ビーストマンの爪が衝突する。

ビーストマンは、振り下ろしの勢いにあえて逆らわず、肉体のカーブを利用して鎌の刃を地面へ押し付け、左腕で全力で番外席次を殴りつける。

それを地面に突き刺さった鎌を軸に逆上がりの要領で回避して、左手に持った大鎌──ノルンの予言をビーストマンの背中に押し付け、縦に回転しながら切り裂き、後方へ着地する。

確実に相手の背中を切り裂いた感触があった。しかし、次の瞬間視界に飛び込んできたのは、醜悪な巨人(ネフェリム)

こちらの下腹部目掛けて放たれた拳を、すんでのところで持ち替えた大楯で防ぐ。

 

(軽っ!見た目のゴツさに反して軽…いや違う!)

 

殴られた感触を感じないほど低い攻撃力。しかし、それと反するようにノックバック能力は今まで戦ってきたどんな相手よりも高い。

巨人が振るった拳、『女教師怒りの鉄拳』の効果。攻撃力を犠牲に手に入れた異常なノックバック能力は、盾の防御を突破して番外席次を吹き飛ばす。

横へ抉るように殴られたことで、錐揉み回転しながら音速を超える速度で後方へ飛ぶ。

強烈なGにより、視界が僅かに赤く染まる。そんな中で番外席次は武器を持ち変える。取り出したのは─狙撃銃。

 

「《第四位階怪物召喚》『狙撃』!」

 

風の中位精霊を召喚し回転を安定させ、取り出した狙撃銃の引き金を引く。

それと同時に、巨人の姿はバードマンへと変わり、その手に持った弓から太陽が放たれる。弾丸は太陽の表面で炸裂し、対消滅する。

 

「墜ちろ。『天帝殺』」

 

太陽を射殺した大英雄。その神話が体現される。

空へ向けて放った矢が九つへ分裂し、それぞれが太陽へと変わり、落下する。バードマン──ペロロンチーノが240時間に一度だけ使える最大威力の技。

 

「海よ唸れ、『海神顕現』!」

 

番外席次が狙撃銃を三叉槍へ持ち替え、それを高く掲げる。

六大神の中でも、水を担うプレイヤーが、300時間に一度だけ使えた大技。

槍から万雷の撃滅にも似た雷が放たれ、その中から筋骨隆々とした男─海神たるポセイドンの分身が現れ、その背後に高さ百mに相当する大波が出現し、太陽へとぶつかる。

 

圧倒的な熱と触れた大波は瞬時に蒸発し、急激に体積を増やしたことで大爆発を起こす。

太陽は海神に撃ち落とされ、海神は太陽に飲み込まれる。

僅かに残った海水が雨のように降り注ぐ。

辺りに蒸気が漂う。息もできないほど熱く、空気は重い。一歩先も見えないほど悪い視界の中、バードマン目掛けて、今度は短刀を持った番外席次が突撃する。

 

「『疾風走破』『疾風加速』『能力向上』『能力超向上』『英雄殺し』」

 

四種の武技で加速された一撃が、強者を殺すことに特化した忍びの一撃と共に放たれる。

それを受け止めたのは、陽と月を象った忍刀。ハーフゴーレムの忍者の口から、業火が放たれる。

 

「『不動金剛盾の術』!」

 

この短刀を持つことで5時間に2度だけ発動できる特殊技術を使い、炎を命中する寸前に散らす。

 

「しぃっ!」

 

受け止められることは知っていた。

顎目掛けてハイキックをお見舞いする。しかし、命中する寸前、ハーフゴーレムの姿が溶けだし、また別の姿へ変わる。

番外席次、アンティリーネ・ヘラン・フーシェは戦いづらさを感じていた。

100年を超える人生で初めて出会う、自分と同じように他者の能力を操る相手。…いや、相手の方がより上位かもしれない。

自分が使用できるのは自分が所有している武器の所持者の切り札級スキルと、幾つかの低位魔法と特殊技術──例えばカロンの導きであれば、第八位階魔法『死』や、特別製アンデッドの『スパルティアト』の召喚など。

 

それに対して、相手は模倣元の能力を100%そのまま、あらゆる特殊技術と魔法を使用できる。必殺技も、普段使いの強スキルも。

逆にいえば、模倣元と同じ能力になる必要があるとも言えるが。

こちらが有利な点と言えば、武技や、自身が身につけてきた職業の技を上乗せすることが可能な点。

 

薙刀と、細剣が衝突する。

ギチギチと音を立てて、パンドラと番外席次がぶつかり合う。

 

「まぁ、無いと思うけど…まさかここで止める気はないかしら?」

 

「はは…もう止まれない、もう止められないんだ。止められなかった私には、どうしていいか分からなかった私には──!」

 

パンドラが、番外席次の腹を蹴り飛ばす。

その口から放たれた冷気の吐息は、火球と衝突する。

 

「そもそも私達はあの時消える筈だった、それを後悔なんてしていなかった、そもそも、父は私たちが生を持って動き出すだなんて想像してもいなかった!」

 

「消える筈だったんだ!それを、この世界の誰かがわざわざ引っ張り上げて、この世界に堕として!」

 

「道標のない私たちが、父が狂っていくのを見せられて!あぁ、どうやらこの世界には、我々以上に悪趣味な奴がいるようだな!」

 

硬質な塊が、地面に拳を叩きつけると、地面が隆起し、放射状に岩石の柱が勢いよく出現する。

それを、番外席次の手にもつ扇形から放たれた大竜巻がバラバラにする。

 

「あぁそう。貴方達にも言い分があるんでしょう。でも知ったことか!」

 

私にだって、守りたいものがあるのよ!

そう、声にならない叫びを上げながら、番外席次は自身の数倍の大きさのある大弓を全身で引き絞り、放つ。

 

それを振り払ったのは、片手に剣をもち、もう片方の手で魔法を放ちながら突撃してくる、全身に口のついた化け物。

その口々からは酸の吐息が放たれるが、全て鎧の効果で無効化される。

 

そして無防備に突撃してきた化け物目掛けて居合の構えを見せ──瞬間、異形の腹が肥大化し、大きな口となって番外席次を居合ごと喰らおうと迫る。

 

「『鏡花水月』」

 

「『貪食の王(アバドン)』」

 

互いに放つは48時間に一度の一撃。

素早く抜き放たれた刃は、あらゆる原子の隙間をすり抜け、怪物の腹を切り裂き、同時に番外席次の肩に牙がめり込む。

番外席次は、刀から手を離し、武技の乗った拳で、異形を全力で殴りつける。

異形は、吹き飛び、再び互いの距離は膨らむ。互いに少なくないダメージを負う。

 

その隙目掛けて、番外席次は苦無を投擲し、それが異形の体に突き刺さった瞬間、爆発する。

 

 

「『異端判決』『異端断罪』『神々の宮殿』《下級全能力向上》《中級筋力増大》《中級敏捷力増大》」

 

インクイジターを極めた際に習得できるスキルである、自分と同じ神を信仰しない周囲の神官の魔法発動失敗確率を上昇させるスキルと、自分と同じ神を信仰しない周囲の神官の消費MPを僅かに増加させるスキル、そしてワルキューレの派生職であるヴァルキリーを極めた際に習得できるスキルである、周囲の自分と同じ神を信仰する存在の全能力と耐性を僅かに向上させ、信仰しない存在の全能力を低下させるスキルを発動する。

 

戦闘が開始して3分、ようやくこれらのスキルを発動する隙を作れた。

これを発動するのにかかる2秒、その隙さえ今まではなかったのだ。しかし、2秒は長すぎた。相手が復帰するのに1秒、そして反撃するのに──1秒。

 

異形の姿が変わり、中から現れたのは、冒涜的な姿をした崇拝者。

首に歪んだ五芒星をかける狂信者から放たれるのは不可視の光線。

完全不可知化までなら看破できる能力を使い、すんでのところで回避するが、光線の当たった地面が硝子状になって溶ける。

頬に一筋の切り傷ができる。

 

「《魔法三重最強化・万雷の撃滅》《魔法三重最強化・朱の新星》《魔法三重最強化・極地の爪》《魔法三重最強化・超酸の霧》魔法三重最強化・七の御使い…ちっ!」

 

異形の姿が一瞬にして3回切り替わり、四大精霊系、そして信仰系の中でも最高位の威力を持つ魔法が使用される。

信仰系魔法である七の御使いのみはインクジクターの能力により発動が失敗したが、それでも計12発の最強化された魔法は、まともに食らえばタダでは済まない。

 

「『避雷針』『赤竜牙突き』《火属性防御》…くっ!『重要塞』『不落要塞』『双空斬』ッ!」

 

細長い金属製の棒を降り注ぐ雷に向けて投擲し、雷の軌道を逸らし、極寒の一撃は燃え盛る薙刀で相殺する。

防ぎきれなかった新星の一撃は僅かではあるが魔法でダメージをカットし、残りは武技の同時発動により気合で耐える。

そもそも、金属鎧は酸に対する脆弱性を持つ。だからこそ酸に対する高耐性を誇るようにデータを構成することが多い。番外席次が今装備する鎧もそうだ。

魔法の連撃をなんとか防ぎ切り、再び取り出した大鎌で反撃を放つが、その時にはもう異形の姿はどこにもなかった。

たん、と何かを踏む音がしたかと思えば、気配が自分のすぐ近くに現れる。

逆手に持った大鎌の石突でそれを叩こうとするが、その気配は番外席次の下腹部を抱え込むようにタックルをし、そのまま地面に押し倒す。

そのまま首を固められそうになるのを体を捩らせて避けるが、その時に体に鋭い体毛が突き刺さる。

 

その瞬間、体に痺れを感じる。

 

(毒…それも耐性を貫通するほど強力な…!)

 

一瞬意識が朦朧としたが、すぐに魔法で治癒しようとする。

 

「《毒治………!?」

 

大木のように太かった異形の姿が溶け出し、真っ黒な粘体へと溶ける。

そのまま粘体は番外席次の体に張り付き、兜の隙間から入り込み、顔面を塞ぎ、窒息させようとしてくる。

硬く閉じた口を無理やりこじ開け、黒い粘体が入り込み、装甲に守られない体内から番外席次を蹂躙しようとする。

粘体は蠢き、兜を無理やり外し、全身鎧の装甲を少しづつ溶かし始める。

純七色鉱製の鎧さえ溶かす強酸。毒と酸で痺れ、朦朧する意識の中、粘体が喉の奥まで到達し、そして──

蘇生魔法が発動する。蘇生アイテムの効果で、体力が半分まで回復した番外席次は魔力の大半を割き、魔法を発動する。

 

「《小厄災》…!」

 

番外席次を中心に破壊のエネルギーが吹き荒れ、黒い粘体は引き剥がされる。

 

「げほっ…はぁ、はぁ…《大治癒》《大治癒》『空斬』!」

 

口から体内に残った粘体を吐き出す。

すぐさま回復魔法──自身が使える中で最高位である《大治癒》──を発動し、毒と傷を癒す。しかし、破損した鎧までは回復せず、頭部が完全に露出し、右肩の肩当てもすでに溶けて無くなっている。

怒りを込めて放った斬撃は、歪な形をした大斧に防がれる。

そして大斧を持った化け物は、こちら目掛けて突撃を行う。

同時に、大斧が数百倍に巨大化し、アンリティーネ目掛けて振り下ろされる。

24時間に一度しか放てない大技を、発動までのタイムラグでなんとか回避して、カウンターを繰り出す。

 

それを化け物は避けずにそのまま喰らった。

そして、手に持つ武器が変わり、純白の聖騎士へ変わった瞬間──

 

「『次元断切』」

 

あまりにも呆気なく、世界を断つ一撃が放たれる。

アンリティーネの体が両断され、鮮血が溢れ出る。

 

そして、最後の蘇生アイテムが発動し、アンリティーネの体力が再び半分まで回復する。

もう、保険は無い。これまでの戦いで巻物も、短杖も全て使い切った。

 

これ以上時間をかけたら負ける。実力は相手の方が上だ。

アンティリーネは決意する。次の激突で、最低でも相手のHPを半分は削る…!

 

「『死せる勇者の魂』『死せる勇者の魂』『影技分身の術』『影技分身の術』『影技分身の術』『着色』」

 

手に持った突撃槍、そして自身が修める職業であるレッサーワルキューレの能力を発動し、白色の分身を2体──それも自身の9割の能力を持ち、一部のスキルを使用可能なものを作り出し、さらに腰に下げた短刀から、自身の四分の一の能力を持つ分身を作り出す力を引き出し、それら全てを、絵師(ペインター)のスキルである『着色』により本体である自分と同じ色に染め上げ、どれが本体かわからなくする。

 

全員が武器を構え──そして突撃。

 

(これで──墜ちなさい!)

 

四方八方から放たれる攻撃。

それが当たる瞬間、異形の姿が山羊頭の悪魔に変わり、そして──

 

パンドラズ・アクターはほくそ笑む。

これで、()()()の切り札は潰した。

 

大仰に腕を開き、練り上げた魔力を解放する。

本来なら二重の影の能力で力をコピーしただけの自分には使えない最大最強の技たち。

本来なら、コピー元の8割の力しか発揮できないパンドラが、全ての技を使いこなし、10割の力を扱うことを可能にしたのは一つの杯。

『ヒュギエイアの杯』。装備者を完全な状態へ導くそれを、二重の影が装備することで、全ての制約を無視して、全ての力を振るうことが可能になる。

解き放った魔法は、『大厄災』。ワールドディザスターの最大最強の大技。

堕ちたる世界樹の葉の怨嗟の声が、純粋たる破壊の熱量となって、解放される。

 

 

「終幕の時だ!『大厄災』ッ!」

 

 

番外席次は気づく。自分の同僚が愛用する魔法とよく似た…いや、それ以上に高密度な魔力の奔流。

これは…喰らえば確実に死ぬ。

 

「『疾風走破』『流水加速』…だめ、避けきれない!」

 

分身は一瞬で蒸発し、エインヘリヤルでさえ一秒も耐えない。

大地を蒸発させながらエネルギーの奔流は迫り、自分の視界を真っ黒に染め上げる。

そして、エネルギーが今にも自分に触れそうな瞬間、アンティリーネの脳裏に、走馬灯のように記憶が駆け巡る。

 

「アンリティーネ。私の父はね、愚かだったかもしれない。でも、人類を守りたいと、救いたいと思った偉大な人だったんだ。だから…」

 

お前も、自分の守りたいものを守れるだけ強くなりなさい。

 

 

(そうだ、私は…私は、こんなところで負けるほど弱くない、弱くない…!私は、漆黒聖典最強の、)

 

「番外席次だぁああああああああああああ!」

 

魂の底から絶叫をあげる。

本来なら不可能な、「3つ目の」能力の同時発動。取り出したのは、白金製の剣と盾。

 

「『次元断層』ッ!」

 

ワールドアイテムさえ防ぎうる、ワールドチャンピオンの最強の防御スキル。

次元を引き裂き現れた不可視の壁は、破壊のエネルギーと衝突する。世界の力が拮抗する。

大地はぐちゃぐちゃに歪み、スプーンで掻き回したかのように荒く削られる。あちこちで爆発が発生して、吹き飛んできた岩石が、体に細かい傷を刻む。

ぴしり、視界が割れる。まだだ、まだ…足りない!

 

もう一歩踏み込む。魂の奥へ、心の底へ。四つ目のスキルへ手を伸ばす。

 

「『イージス』『ウォール・オブ・ジェリコ』!」

 

輝煌天使ねこにゃんの、六大神の風の神の鎧から引き出したのは、最上位の防御系スキル。切り札級スキルを引き出す余裕はなかったが、それでも、生まれながらの異能は、魂に紐づいた力は、自分の限界を超えた。

二つの守りが、厄災とぶつかり合い、そして──

 

「『能力向上』『能力超向上』『流水加速』『無拍子』!」

 

膨大なエネルギーの爆発を背後に、アンリティーネが駆け出す。

体から、ダメージを肩代わりしてついに崩れた全身鎧が剥がれ落ち、鎧も何もない軽装の姿となる。もはや防御を捨てた全力の突進。

一歩目さえ見せない高速の突撃。漆黒聖典『隊長』の誇る最大の武技、それの模倣。セレスティアル・ウラニウム製の穂先が山羊の両の角を切り飛ばす。その体を貫く瞬間、山羊の姿が変わる。

死の支配者へ。パンドラの創造主の姿へと。

 

刺突への完全耐性が、全力の刺突を無効化する。

骸骨が、ニヤリと笑った気がした。

 

嫌な予感がした。

両腕にゴテゴテしい手甲をはめ、その内部から『気爆掌』の力を取り出し、全力で殴る。

それを魔法で防がれた瞬間、死の支配者は自身の本当の切り札を解放する。

 

 

 

 

「『The goal of all life is death』《魔法効果範囲拡大・嘆きの妖精の絶叫》」

 

 

不味い。

不味い不味い不味い不味い!

 

自分もあの技を使えるからわかる。

蘇生手段のない私があれを食らったら、抵抗する間もなく死ぬ…!

 

 

猶予は十二秒。

 

 

その間に、奴を殺す!

 

 

 

 

「《魔法二重化・第十位階死者召喚》『中位アンデッド創造』…行け!」

 

黒い靄が人型を作り出し、中から不死者が溢れ出る。

死の騎士と破滅の王。どちらも何体かかろうが番外席次にとっては敵ではない相手。しかし、タイミングが悪すぎる。

破滅の王の攻撃を避け、死の支配者目掛けて大鎌の一撃を浴びせようとした瞬間、死の騎士が割り込む。

連撃で一体消滅させる隙に、破滅の王が背中から斬りかかり、死の支配者から豪炎と呪詛、旋風と冷気が浴びせられる。

 

片目は潰れ、耳から血が溢れ出し、全身には隈なく傷ができる。

全身にできた水膨れは鈍い痛みを訴えかけ、体を動かす度に体から体液が溢れでる。

 

「《第十位階不死者召喚》《第八位階不死者召喚》さぁ、追加だ!どうする、人類の守り手よ!」

 

芝居がかった声色で、死の支配者が煽る。

そんな様で人類を守れるのかと、お前の力はその程度かと。

 

四色に発光する骸骨が魔法を乱発し、蒼褪めた乗り手がそのランスでアンティリーネの腕を貫かんと迫る。

上からは蒼褪めた乗り手が、左右からは破滅の王が、周囲には死の騎士、そして精霊髑髏が魔法を準備する。

 

「あぁもう!邪魔!来なさい、スパルティアト、『根源の時精霊』!」

 

母から受け継いだ戦鎌の力を解放し、根源より溢れ出た時の精霊を解放する。

スパルティアトと死の騎士が激突し、時の精霊が、その最高位の権能を駆使して、破滅の王と精霊髑髏を殲滅する。

 

「『疾風走破』『流水加速』潰れてしまいなさい!」

 

三叉槍で岩盤を捲り、どんな生物でも潰れてしまいそうな一撃を死の支配者にお見舞いする。

そして、左手に持った短機関銃で敵がいるであろう方向を撃ちまくり、奥の手である、《現断》の籠った魔封じの水晶を起動する。

 

そして、大槌を取り出し、死の支配者に向けて突撃する。

火の神が操る最大の大技。120時間に一度だけ発動できる、創世の火を模した一撃。

 

「『ビックバン・スマイト』!」

 

殴打に対する脆弱性を誇るスケルトンに対して、絶対の威力を誇る一撃。

聖、火、殴打の複合属性の一撃。

 

「『次元断層』」

 

しかし、盾とぶつかり合う硬質な音で、攻撃が無力化されたことを悟る。

衝撃で晴れた土煙の中から、純白の聖騎士が現れる。

弾かれた熱が、周囲をドロドロに溶かす。

 

番外席次と、純白の聖騎士が立つ足元。そこを除いて、半径数百メートルが溶岩地帯へと変貌を遂げる。

 

「残念だが、お前の負けだよ。私は、ワールドチャンピオンの圧倒的防御力をそのままに、絶死の一撃を放てるのだよ。」

 

嘘だ。

同じようなことを出来る番外席次だからこそ、その嘘に気づけた。

この様なチャージ時間のある技は、チャージ中に他の力へ切り替えることはできても、チャージ完了の少し前、つまり技の発動する一秒前には発動元の力へ切り替えなければならない。

この敵も、その制約は同じはず…いや、そうであると仮定して動かなければ最早勝ち目は無い。

 

最早やけっぱちになったかの様に、純白の聖騎士へひたすらに斬りかかる。

武技の多重発動で、全身の筋肉という筋肉が嫌な音を立てる。全身の骨には隈なくヒビが入る。

 

蹴りかかり、殴りつけ、切り払い、打ち据える。

その全てを純白の盾と剣に防がれる。

 

「『輝龍昇天撃』!」

 

左腕の鎌を手甲へ変え、最大の一撃を引き出す。

そこから、膨大な量の気が溢れ出し、螺旋を描き、竜の形をした光線が聖騎士を射抜く。

聖騎士の体を貫通し、なおも進む光線は背後の溶岩を全て蒸発させる。

 

(なぜ無効化しない…?もう防御スキルは残っていない…?)

 

時計の針は残り二秒を指した。

この2秒で、全てを叩き込む。

これが、本当のラストチャンスだ。

 

左手の手甲を片手剣へ変え、体を低く屈め、突撃。

全身のバネを使い、突撃。

 

「『能力向上』『能力超向上』『疾風走破』『流水加速』『光速突破』『限界突破』『限界超越』『脳力解放』『剛腕剛撃』『六光連斬』

 

──『鎌裂(デレパノ・クラック)』『白光円陣(ルクセリア・サークル)黒白(ニグルアルブム)ッ!」

 

 

光の矢となって、少女は駆ける。

 

巨大化した鎌が、光と闇の斬撃を放ち、振り下ろされた鎌をずらし、流れる様に聖なる斬撃を、そして、空間と時を切り離す白黒の斬撃を放つ。

究極の武技の三連撃。

自身の全精神力を使い放つ、究極の連撃。絶死の一撃。

どんな攻撃にも勝る最大の攻撃。

 

 

「『次元断層』」

 

 

あぁ、残していた。

最後の瞬間。この時まで敵は防御スキルをひとつだけ残していたのだ。2度使用可能、想定外だった。

 

時計の針が進む。

11を指した瞬間、敵の姿が再び死の支配者へと戻る。

しかし、防御スキルは、その残留時間がゼロになるまで残り続ける。この壁は、世界を分つ断層。それこそ、世界を断つ一撃でも持ってこなければ、壊せない。

 

弾かれた鎌が、地面に突き刺さる。

轟音と共に、深さ数十メートルを超える渓谷が地面を割る。しかし、次元断層の不可視の壁より後ろには、一切の影響を残さない。

そして、亀裂を作った衝撃で、番外席次の軽い体が宙に投げ出され、鎌から手が離れる。

 

ここからだ。

ここからが私の、最後の反撃だ!

 

「『次元──断切』!」

 

両手持ちに持ち替えた長剣が輝いたかと思うと、断層が割れる。

防御を貫通して、世界を断つ究極の一撃が放たれる。

 

(勝ったッ!)

 

パンドラはそう思った。

いくらワールドチャンピオンの一撃といえど、同じワールドチャンピオンの防御スキルを無視することはできない。

唯一、次元断切の威力を弱めることができる技が、次元断層なのだ。

半分以下まで威力の抑えられた一撃は、死の支配者を殺すまでは至らない。

 

時計の針が、ゼロを、Ⅻを指そうとする。

その瞬間──

 

「なっ!?《魔法三重最強化・連鎖する龍雷》《魔法三重最強化・真なる闇》《光輝赤の体》!」

 

次元断切の斬撃を追い越さん勢いで、アンリティーネが飛び込んでくる。

その手に持つのは、自身の数十倍の大きさはある大太刀。

 

「『倶利伽羅剣』!」

 

次元断切の斬撃とクロスする様に、悪を滅する明王の裁きが下される。

合わさることで破壊力を増した斬撃は、死の支配者の魔法を切り裂き、しかし的確に選択された防御魔法が威力の大半を削ぐ。

それでも肋骨に亀裂が走り、全身がバラバラになりそうな衝撃が走る。

 

だが、耐え切った。

耐え切られてしまった。

 

時計の針がⅫを指す。

 

「まだ、だぁーーーっッ!『白黒』ッ!」

 

残った全生命力を振り絞り、空間と時を繋ぐ反転の一撃が、斬撃の交叉点に炸裂する。

同時に、女の絶叫が戦場に響き渡り、そして──

 

 

軍服を着た、本来の二重の影としての姿に戻ったパンドラと、番外席次が同時に膝をつく。

そして

 

 

 

 

「無念、ね。」

 

 

あとは任せたわよ、皆──!

 

 

 

がくり、とアンティリーネの体が倒れ、その体から命が失われる。

同時に、パンドラの両腕が切り離され、上半身と下半身が分かれる。

 

嘆きの妖精の絶叫が発動した瞬間、死の支配者の姿であったパンドラは、死の騎士をなんとか一体割り込ませ、僅かにダメージを減衰させていた。

それが生死を分けた。

僅かに1ポイント。パンドラに残った命は、それこそ子供に小突かれただけでも死んでしまいそうな少ない量。

そして、その最後の1ポイントも、余波により今にも消え去ろうとしていた。

 

パンドラは空を仰ぎ見る。

これで自分の役目は終わった。

 

自分の役目は、自分の創造主が、自分の父の最後かもしれない戦いに、邪魔者を入れないための露払い。

本当なら、今すぐにでも父の元へ馳せ参じたかった。

こんなことになる前に止めたかった。

 

パンドラズ・アクター。

父が、自らの奥底に秘めた想いと向き合うことを防ぐ、最後の安全棒。

パンドラの箱が開かれるのを防ぐ、最後の番人。

宝物庫に眠るアヴァターラ。仲間を象ったそれを守ると同時に、覆い隠していたのが彼に与えられた役割。

しかし、父はパンドラの箱を開いてしまった。

 

あぁ、今の自分に願えるのは、父が勝利すること、それだけだ。

パンドラの全身に亀裂が走る。

 

「あぁ、我が父(モモンガ)に栄光あれ…!」

 

そして、全身が崩壊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価などありがとうございます!励みになります!

実は戦闘中、パンドラは全くそんな素振りを見せず、隠しているだけで何回か死んで蘇生効果を発動していました。
あのタイミングでは互いに崖っぷちだったということですね。





この作品であえて一番の悪役を定義するなら慈母か竜帝でしょうね
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