山河社稷図周りの過去の描写を少しだけ変更しました
「ああもううざい!面倒くさい!陰湿!」
ハーフエルフの少女が、手に持った拳銃から弾丸を3発、素早く放つ。神人たるディートリーネが、武技を乗せて放った弾丸は、正確に敵の脳天を直撃する軌道を描いていた。しかし、その軌道上に突如として大樹の枝が割り込む。
弾丸は全て大樹の表面で弾け、辺りに木屑が散乱する。
既に100発以上の弾丸を撃ち込んだ。しかし、その全てが大樹に受け止められている。
閉鎖された空間の中心に聳え立つ巨大樹。
そこから、直径数メートルはある太さの枝が触手の様に伸び、暴れ回る。
それを操作するのはダークエルフの少女…いや、少年。先日の戦いに、『集団戦だと味方を巻き込む可能性があるから』と置いていかれた為生き残った、ナザリック地下大墳墓第六階層の守護者の片割れ。『マーレ・ベロ・フィオーレ』。
その両脇を、創造主が課金ガシャで当てた2体のレベル90近くのドラゴン──勿論ボス化アイテムで強化済み──で固め、さらにその周りを姉が残した、魔獣タイプのシモベで固めている。
世界級アイテムである山河社稷図により展開された隔離世界。
選択されたフィールドエフェクトは、『世界樹の根元』。戦場の中心に巨大樹が出現し、森司祭系の職業を持つものが山河社稷図の所有者であった場合はそれを操作できるというもの。
レベル80のタンク職相当の能力値を大樹から展開される触手は持っており、そしてこれらは周囲の土壌の栄養素を吸い上げて再生する。
一般的な土地であれば20回も再生すれば栄養素が尽きてしまい、大樹は崩壊して、同時に隔離世界から脱出した扱いになって、敵に世界級アイテムの所有権が移ってしまう。
他の空間と比べれば使い勝手の悪い空間。しかし、これをマーレが選択したのには理由がある。
土壌の栄養素。この問題さえ解決すれば、かなり長い時間的を釘付けにすることができるからだ。そして、栄養素の問題を解決するのが、神器級武器である『アースリカバー』。ワールドチャンピオンであるたっち・みーの装備する盾と同じ名前をしたスコップ型の武器であるこれの攻撃力は下手したら最下級クラスの装備にも劣るかもしれないが、その代わりに、強力な副次的効果を持つ。その効果は、『土壌の栄養素の使用効率の増加』。倍率にして500%以上のブーストをするこの装備と、栄養素を回復させる魔法を併用すれば、100回以上触手を再生させても問題ない。
もう一つの理由は、『中心部に出現する大樹以外で、空間には一切の変化を起こすものがないから』だ。
これが重要なのには理由がある。
「■■■■■■■■■■!」
触手の間を縫う様にして巨大な溶岩状の粘体が突っ込んでくる。
それをエルフの少女が、氷属性の魔剣で迎え撃つ。
「『氷結斬』」
少女の攻撃が当たる寸前で、粘体が空中で軌道を変え、巨大樹の周囲を囲う溶岩湖へ落下する。
溶岩の河の領域守護者である紅蓮。それを戦闘へ参加させるために周囲に溶岩のフィールドを展開する。そのために、他のエフェクトが発生しない様にすることが必要だったのだ。
本来なら山河社稷図で展開された空間内で、さらに上書きするようにフィールドエフェクトを展開するアイテムは使用できない。
基本的に、ワールドアイテムの効果はワールドアイテムでしか上書きできないからだ。しかし、それを可能にする方法がある。
『多重起動グリッチ』。ナザリックきっての問題児であるるし☆ふぁーが発見した山河社稷図の特性を利用した禁断の技。
山河社稷図は、フィールドを塗り替えるその性質上、僅かにだが発動時にラグが発生してしまう。その瞬間にフィールドエフェクト展開系アイテムを使うと、
この時、山河社稷図で展開されたエフェクトを発揮するオブジェクトと、その後に展開しオブジェクトが被っていると消失してしまうが、被らなければ共存できてしまう。
世界級アイテムが一種類につき一つしか存在しないせいで終ぞフィードバックが行われず、修正されることがなかったこのバグ。
そして、これはこの世界においてもこのグリッチが使用できることが実験の中で発覚した。
だったら利用する。使えるものは何でも使う。チートだろうがグリッチだろうが、遊びではなく現実であるこの世界であれば、いくらでも使ってやる。生き残るためなら、最善を尽くす。
ただの閉鎖空間を選択しても良かったが、それでは普通に撃破されて終わりだ。
少しでも粘る。出来ることなら敵を撃破する。そのことを考えるのなら、この組み合わせがベスト。一見溶岩と樹木は相性が悪い様に見えるが、流石は世界樹、当たり前のように火炎に対する完全耐性を有している。
「『残光の座天使』『青褪めた乗り手』『根源の星霊』行きなさい!」
ディートリーネの体から三体の怪物が現れる。
その全てが物体透過能力を持ち、触手をすり抜けてマーレを殺そうと殺到する。
「はぁ!?明らかに物質系なのに透過も無効かよ!鬱陶しいったらありゃしない!」
天使と不死者が多数の触手に絡め取られ爆散し、光と闇の派手なエフェクトを周囲に撒き散らす。
星の精霊は、迫り来る触手の間を縫い、マーレの眼前まで到達するが、その瞬間に全方位を触手に囲まれ、そのまま全身を滅多打ちにされる。
もはやこれ以上の突撃は不可能と判断したディートリーネは、精霊に自爆を指示する。
瞬間、精霊の姿が赤く輝いたかと思うと、爆発。
周囲の触手を全て巻き込み、消滅する。数体の魔獣も巻き込めた様だが、マーレの肌には一切の傷がついていない。
(でも…これは囮!)
体を貫こうと迫る大樹の枝々を避けながら、振われる触手を足場にして四方八方を飛び回り、片手剣を携えたハーフエルフの少女が駆ける。
デヴァスティーネ。十三英雄のリーダーの娘である彼女は、特に特殊な職業を修めているわけでは無い。ユグドラシルで言うところの、テンプレ構成。単純に強い職業構成をした彼女は、一つだけ突出した能力を持っている。それは、レベル限界がない事。そんな彼女のレベルは、110を越え、装備差を無視すればそれこそカンストプレイヤー相手でも圧倒できてしまうほど。
その圧倒的な身体能力で、超音速で迫り来る触手を避け、目の前を遮る触手を断ち切り、一瞬で触手の包囲網を突破する。
そして今にもマーレの目の前まで到達しそうになった瞬間、突如として周囲を覆い隠すほどの数存在していた触手が消滅する。
(…不味い)
そう思った時には遅かった。
いつの間にやら周囲を取り囲む様に存在していた魔獣たちがその牙を、爪を、尾を、その肉体をデヴァスティーネにぶつける。
デヴァスティーネの力であれば、一撃で数体の魔獣を一度に消滅させることは可能だが、魔獣たちは微妙にタイミングをずらして、確実にダメージを与えてくる。
一つの生命の様に敵は蠢く。吐息が、石弾がどこからともなく放たれ、一歩進むごとに魔獣たちは数を増やして噛みついてくる。
これで主人であるビーストテイマーがいないと言うのだから驚きだ。獣の本能とでも言うべき脅威的な連携力で確実にダメージを蓄積させてゆくが、とはいえ110を超えるレベルの戦士職の前では大したダメージではない。
とはいえ、突撃の速度は鈍り、それでもなんとかマーレの眼前に辿り着いた瞬間、足元から、上空から、左右から、先を尖らせた触手が殺到する。
全身を触手に絡みとられ、拘束無効が発動するまでの一瞬のラグに、マーレは魔法を発動する。
「《魔法最強化・大溶岩流》」
同時に、左右を固めていたドラゴンからブレスを吐きかけられ、流石に無視できないダメージを負ってしまう。
お返しに多重発動した武技と特殊技術の合わせ技を放とうとした瞬間、マーレの放った溶岩流に乗って、紅蓮が突撃する。
デヴァスティーネは撃ち落とされ、溶岩に背中から叩きつけられる。
それを追って紅蓮が突撃し、大半の触手がデヴァスティーネを追いかけた瞬間、空から大質量の何かが高速で落下してきた。
「やって!姉さん!」
デヴァスティーネが叫ぶ。
デヴァスティーネの全力に見せかけた──とはいえカンスト級の戦士職の全力に近い威力はあった──も囮。
「行きなさい!『メテオリック・タートル』!」
空から流星の如く落下してきたのは、レイドボスであるメテオリック・タートル。
それが使える最大の技である、上空から流星の如く落下する事でエリア全体に超特大ダメージを与えるスキル。
大樹に衝突した瞬間、全力で争っても吹き飛ばされそうなほどの衝撃が発生する。
同時に召喚した、神祖カインアベルに守られた事でディートリーネにダメージはないが、姉に迫っていた触手や魔獣は全て消滅し、大樹の枝もその大半が折れてしまっている。
しかし、肝心のマーレは無傷。大量の触手が眉の様に彼を守り、表面の触手は破壊されても、内部まで衝撃は貫通していない。
そして、一瞬にして大樹が再生を始める。
その上、単純な物理攻撃に絶対耐性を誇る紅蓮には通じてすらいない。
「あー…、これ。貫通属性じゃなきゃダメかー。ごめん。多分これ私と相性悪すぎるわ。」
溶岩の海に、まるでプールにでも入っているかの様にぷかぷかと浮かぶ戦装束の少女が、することもないからと斬撃波を飛ばしながら語る。
殺到する触手にダメージを与えられることはないが、同時にこちらが相手にダメージを与える方法がない。
敵の森司祭の魔力切れを狙う手もあるが、敵は基本的に巻物や短杖、魔封じの水晶を使っているせいでそれも相当な時間がかかりそう。
これがもう一人のハーフエルフや死の神であれば、強制的に相手全員死滅させたり、生の神であれば圧倒的火力で上からねじ伏せ、竜神であれば多分大樹を根本から引っこ抜いて解決していただろう。
ただ、相性が悪かったのだ。
ディートリーネは、虎の子の
戦闘は千日手の様相を呈してきた。
「あーもう、うっざいなぁ!このダークエルフ!穴熊決め込んでないで攻め込んでこいよクソが!」
「…………」
ダークエルフは何も返さない。
「だんまりかい。…デヴァスティーネ。3分稼いで。」
少女はそう言って、巨大な砲身を持った兵器を虚空から呼び出す。
全長150m、重量は10tを超える超兵器。明らかに一人で使うことを想定していない大きさをした、対城兵器。
150m級エーテル砲『スレイン』。七色鉱と貴重なアーティファクトをふんだんに使用して作られた武器。
良くいえばロマン砲、悪くいえば産廃。その能力は、『3分のチャージの後に、超特大威力の弾丸を放つ』と言うもの。
チャージ中は動けない、チャージ時間が超位魔法よりも圧倒的に長い、そもそも一度置いたら重くて動かせない、1発打つのにレベル80ぐらいのNPCを蘇生できるレベルの金が必要、滅茶苦茶目立つ上に、放たれる攻撃は直線的とデメリットばかり目立つこの兵器。
しかし、一点だけ他のあらゆる攻撃を凌ぐ長所がある。それは、「圧倒的威力」。一度放てば決着まで確実に持ち込める威力。
ディートリーネは、自身が召喚できる合計レベルの最大までモンスターを召喚し、自分の周囲を守らせる。
「わかった。外すんじゃないわよ。『ウォークライ』『ナイト・チャレンジ』」
デヴァスティーネは、ディートリーネに目配せをし、片手剣に盾のスタイルで突撃する。自身へのヘイトを高める技を使いながら、無視しようにも出来ないだけの高威力の攻撃を放つ。
「『紫電斬』『氷結斬』『灼熱斬』」
一呼吸の間で3本の触手を霧落とし、もう一拍の間にマーレの放った魔法を迎撃する。
馬鹿げた耐久値に任せた無謀な突撃。とにかく触手の攻撃を引きつけるために攻撃を繰り返す。
巨大な溶岩で構成された粘体を神祖が引きつけ、最高位天使と精霊が再度の合流を防ぐために妨害を繰り返す。
しかし、マーレの表情は一切変わる事がなかった。
「ここまで来ると不気味だな…『斬撃』『能力向上』『能力超向上』『ワイドスラッシュ』!」
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だだっ広く広がる溶岩湖の上で、神と厄災が対峙する。
「…っ、らぁ!」
深紅のドレスを纏った少女目掛けて、高速の突きを放つ。
線で攻撃する斬撃、面で攻撃する打撃と異なり、極小の線を狙い撃つ刺突を受け流すのは達人であっても容易なことではない。
ましてや、それを放つのが神の領域へ至った戦士であるなら尚更。
秒間十数回の刺突。右腕に接続された大型のランスから放たれる一撃は、もはや逸脱者の目を持ってしてもただの光の集合体にしか見えない。
しかし、その刺突は全て避けられ、受け流され、撃ち落とされる。
針の穴に糸を通すよりも、一寸の誤差も許されない絶技。それを深紅のドレスの少女は涼しい顔でやってのける。
「《魔法二重化・第十位階天使召喚》行け、
天使でありながら共に刺々しい印象を与える2体の異形が、その手に持った武器で左右から斬りかかる。
同時に、天使を召喚した女性の姿をした天使──至高天の天使たるアーラ・アラフが、手に持った七色に輝く長剣の先から魔法を放つ。
左右からのラッシュ、正面からの刺突の乱打。その間を縫う様に魔法が放たれる。
須臾の隙間さえ見いだせない速度の連続攻撃。しかし、少女はそれを無表情でひたすらに防ぎ続ける。
「対象…召喚モンスター、種族…天使。排除します。」
刺突から次の刺突へ繋ぐ間のステップ。隙とは呼べない刹那の動きに少女は無理やり足を捻じ込み、力に任せて払う。
それに対応した戦乙女は、横にかけられた回転に身を任せて側転の要領で少女の顎目掛けてハイキックをお見舞いする。
顎に掠るようにして当たった蹴りは、その存在が正常な人間と同じ構造をしていれば確実によろけていたであろう一撃だが、その顔を微動だにもさせず、低く体制をおろし、そのまま左右から攻撃を繰り返していた2体の天使の顔面を鷲掴みにして互いの顔面をぶつけ合い、消滅させる。
光の粒子を浴びながら、少女は下から抉るように拳を放ち、今にもその槍を振り下ろそうとしていた戦乙女の胸にぶつける。
凡そ肉がぶつかりあったとは思えない硬質な音と共に彼女は吹き飛びそうになるが、少女がその足を全力で踏みつけているせいで衝撃をもろに全身で喰らってしまう。
「《魔法三重化・魔法盾》、気合いで耐えろ!スルシャーナ!」
「が、はっ!いやっちょっと無茶言わない…あっ」
口から肺に溜まっていた空気を全て吐き出し、全身に強い衝撃を感じた瞬間、少女は背後に周り、背中から魔法を打ち破って拳を叩きつける。
肺の空気を全部吐かされたところで背中からの一撃。
口から血が溢れる。通常の生物であれば絶命は免れない一撃。しかし、放った側が化け物なら、受けた側も尋常の相手ではない。
「起動、システム『幾千の槍衾』…《
戦乙女が嘗て死の支配者であった時に習得した最上位の強化魔法が乗った、ワルキューレとして使用可能な一撃。
多段化された穂先と、それら全てに付与された《二重》の魔法の効果で8発になった神速の一撃が、拳を放った後に一瞬硬直をした少女目掛けて放たれる。1発目は確実に少女の胸を抉った。かなりの量の生命力が削れたのを感じた。
しかし、残りの7発は、想定の半分のダメージも与えられていない。
戦乙女──スルシャーナは、刺突を放った右腕に違和感を覚える。
相手に攻撃を当てた瞬間、刺さりがやけに悪かったような、まるで流水に槍を突き刺したかのような感覚があった。
そしてその違和感は確信へ変わる。
「《魔法三重最強化・神罰の大剣》」
雲を割って、金色に輝く刃が出現する。
空が少女へ命中した瞬間、その体がふにゃりとへこんだように見えた。
割れる。
命中した剣の方が砕け、少女の体には傷一つついていない
「魔法…いや違う!化勁か!」
攻撃のベクトルを操作し、威力を吸収し、そして反射する。
中国武術における技術の一つ。だがそれは…ユグドラシルではなく、リアルの技術の筈だ。
「ご明察。そして私はこんなこともできる」
拳を深く構えたかと思うと、体制を一切変えずに体がそのまま前へスライドされる。
移動したことを認識させない独特の歩法で近づいた少女は、そのままスルシャーナの体を手刀で抉る。
まるで同時に複数人の格闘家を相手にしているかのような感覚。
プロボクサーの如き重いストレートが、柔道の熟練者の如き技の数々が、古今東西あらゆる武術家の技が放たれる。
魔法など、スキルなど無用。
これこそが厄災、スピネルたる彼女の設計理念。ワールドエネミーの劣化版の肉体を持ち、その炉心に熱素石の残骸が使われている少女、ルベトの特性。
ユグドラシルにおいて、存在するあらゆる種族のどれにも相当せず、その能力はユグドラシルを逸脱していた。
基礎能力はカンストプレイヤーのそれを大きく超え、基礎能力だけ見れば、ワールドエネミーのそれと遜色はない。
しかし、ルベトには致命的な欠点がある。それは、『あらゆるアクティブスキルを使用不可である』という点。身体の内部に武装を内蔵することはできても、魔法や特殊技術による攻撃は行えず、パッシブのバフも一切所有していない。だからこそワールドエネミーに近しい基礎能力──実際のワールドエネミーの能力はそこにパッシブバフや、ワールドエネミーとしての特典としてバフが上乗せされるからそれを勘定に入れると差は大きいのだが──を得られている。
しかし、それだけでは強いとは言いがたい。ルベトを最強足らしめている所以。それは、その内部に内蔵されたデータにある。
古今東西あらゆる武術が詰め込まれたルベトの肉体。運営とギルメンの悪ノリによって誕生した、システムによらない完成された強さを持つ。そんな完成された技術と、至高の肉体が合わさった時、その驚異度は数十倍に膨れ上がる。
刺突と拳、魔法と気合がぶつかる。
ルベトがスルシャーナの左腕を絡めとり、そのまま地面に叩きつけようとする。
そこから抜け出した戦乙女は、右腕に接続された槍を横に振るい、そしてそれは僅かに跳んだルベトに避けられる。
放たれた第九位階魔法を絶妙な角度の手刀で弾き飛ばし、その持ち上がった腕めがけて槍が振われる。
紅と白。
血と汗が霧散し、二人の少女と至高の天使は踊り続ける。
回転する二人は時に反転し、ぶつかり、弾けとび、しかし粘性を持った液体のように絡み続ける。
終わらない。
互いに逸脱した能力を持つが故に終わらない。
槍と拳がぶつかり合い、光の粒子が弾け、火の粉が舞い、地面は凍てつき風は絶えぬ。
「『清浄投擲槍』!」
正のエネルギーで構築された光の槍が戦乙女から放たれる。
それと並走するように戦乙女は前へ駆ける。矢の如く地を駆け、そのままルベトの肩を抉る。
それに合わせて鞭の如くしならせた腕を叩きつけようとするルベトの体に空いた左腕で触れ、そこから魔法を発動する。
「《生気吸収》」
ルベトの腹に触れ、そこから生命力を吸い取る。
第八位階魔法《生気吸収》。相手のレベルを一時的に吸い取り、相手にはレベルダウンという厄介なデバフを、自身には様々な特典を付与する、近接魔法だからこそ許される強力な効果。
顔を顰め、急に訪れた虚脱感に思わず動きを鈍らせたルベトの顎目掛けて左腕を振り上げる。
顔が大きく上へ向いたルベトの体目掛けて、全力で刺突をお見舞いする。
「『スマイト・オブ・ラグナロク』!」
1日に3回まで使用可能なスキル。その3回を同時に全て使用して、ルベトの体に叩き込む。
ついにルベトの体が僅かに揺らめく。それでもルベトの生命力はまだ7割以上残っている。しかし、その瞬間ルベトの表情が歪む。
アーラの全身から立体魔法陣が現れ、それが瞬時に収縮したかと思うと、光が溢れる。
衝撃。そして遅れて轟音が鳴り響く。
超位魔法『天上の剣』。
対建築物、対物に特化した宇宙兵器の一撃が、ルベトの体に突き刺さる。
位階魔法を大きく上回る威力の一撃は、確実にルベトの生命力を削る。範囲全体を焼却する一撃。星幽体となることでスルシャーナはその一撃を回避したが、ルベトはそうもいかない。
「やっぱり…スルシャーナ!こいつ物質系の性質も持ってるぽい!急所攻撃系は全部無効だわこれ」
「あぁもうやっぱりかよ!急所殴っても効かないしおかしいと思ってたのよ!もう1発!『清浄投擲槍』!」
ホーミングする投げ槍はルベトの肩を僅かに貫通する。
そしてこのまま、一気呵成に攻め滅ぼす!
「『死せる勇者の魂』!」
スルシャーナにそっくりな姿をした人造体が現れ、ルベト目掛けて攻撃を開始する。
二人合わせて同時に16回の攻撃。それだけではない。
「『光輝儀式成熟』『上位天使創造』こい、恒星天の熾天使!」
1日に4回まで使用可能な上位天使創造。それを2回分消費することで最大90レベル弱までの天使を召喚可能にする光輝儀式成熟。
これを限界まで使用し、2体の熾天使を呼び出す。
90レベルに迫る天使のラッシュと、二人の戦乙女の、視界を覆い尽くす量の圧倒的刺突。
そして、アーラは自身の持つ神としての最大の権能を発揮する。
天使として最高位まで上り詰め、多量の信仰を獲得し、その他様々な条件を満たした上で獲得できる最上位職業。最低でもレベル95は習得に必要な職業、『神話の担い手』。
アーラの腕から、光が溢れる。
「『その者に荊の冠を』」
ルベトの体を荊が絡めとり、その体の上を這えずりまわり、全身を引き裂く。
その間にも、光の剣と、幾千の穂先はルベトの体を穿つ。
荊を引き裂き、相手の攻撃を逸らし、ぶつけ合わせるが、それでもルベトは抜け出せない。
「『その者に礫を投げよ』」
大地を引き裂き、巨大な腕があらわれる。
百足の足のように蠢く無数の腕は、地面を引き剥がし、岩盤を礫のように投げる。金属製のゴーレムでさえ潰されて煎餅になりそうな質量。それを一撃で当たり前のようにルベトは塵へと変える。
「『十字架は罪の象徴となり得るか』」
無数の歪んだ十字架が、その先を尖らせルベトの体目掛けて降り注ぐ。
それらを、他の攻撃をいなしつつ弾き飛ばす。しかし、流石に対応しきれずに体に微細な傷が増え始める。
「はっ!」
ルベトが咆哮する。
肺活量に任せた圧倒的声量の咆哮。それは大気を震わせ、音波属性の威力さえ伴う。
ただの咆哮で第八位階に相当する威力を発揮させる、異常なほどの声量。同時に、暴風の如く空気が肺から放たれ、十字架は全て吹き飛ばされる。
咆哮した瞬間の一瞬の隙、スルシャーナは行動へ移す。
ルベトの右肩を鷲掴みにし、そのまま大地に押し倒す。そしてヘットバットをするように頭を持ち上げた瞬間
「『ドラゴンブレス・浄化』」
その口から放たれたのは、白金の竜神の放つ吐息と同じ性質を持った光。
咄嗟に息を吸い込んだルベトは、その口から放たれる暴風で相殺しようとするが流石に無理であり、ルベトの真紅のドレスの端が焼失する。
横へ思いっきり転がることで回転から抜け出したルベトは、そのままスルシャーナの腱を断とうとする。
「『その者の四肢に杭を刺せ』」
虚空から現れた杭が、ルベトの腕を穿ち、昆虫標本のように地面へ貼り付ける。
「『それは聖者を殺す槍』」
アーラは、自身が手に持つ槍──見窄らしい見た目をした槍を持ってルベトへ突撃する。
元となったワールドアイテムと違い、ただ威力が高いだけの技であるが、それでも強力であることには違いがない。
オリジナルとなった槍との相乗効果で威力を上げた一撃。それがルベトの心臓があるはずの位置を抉った。
熱素石の残骸と、聖者殺しの槍がぶつかり合い、互いに干渉し合い、そのまま互いに勢いよく弾く飛ばされる。
弾き飛ばされたルベトの体を、槍をバットのように振るったスルシャーナが、全力で地面に叩きつける。
(これでもまだ…残り3割…!普通のプレイヤーなら10回は殺せている筈…!)
「《魔法最強化・聖なる極げ…………」
魔法を放とうとした瞬間、ルベトが急に全力で逃走を開始したかのように見えた。
ルベトが飛行した方向を見ると、そこから光の光線が──
「不味い!あっちはディートリーネ達が戦ってる方向…追うわよ!」
────────────────────────────────────
『充填完了…撃てるわ!』
無詠唱化した伝言で、デヴァスティーネに伝言を送る。
全ての怪物をフルに使用して自身と砲身を守りつつ、妹のデヴァスティーネが全力で敵を引き付けたお陰で稼げた3分間。
デヴァスティーネの体には火傷を始めとした傷が蓄積し、それでもまだまだ余裕そうだ。
しかし、召喚した怪物は、ボスクラスを除いた全てが討伐され、現状すぐに召喚できるストックがあまり残っていない。
ギリギリ間に合った。
「『シールドバッシュ』『スマイト・マカブル・フロストバーン』『殴打』!」
紅蓮の体を盾で叩きつけ、氷結属性の一撃でそのまま一瞬だけ体を硬直させ、殴打属性の一撃でマーレ目掛けて吹き飛ばす。
「装填、氷結榴弾…『フルバースト』!」
腰に下げていたドラムマガジン式ショットガンを抜き放ち、そこから魔力で練り上げられた炸裂する氷結弾を放つ。
大樹に紅蓮の体が貼り付けられる。
「『超斬撃』『紫電双空斬』!やって!姉さん!」
おまけに広範囲に向けてスタン効果のある斬撃を放ち、残りは姉に託す。
「エネルギー充填完了…穿て!エーテル砲『スレイン』!」
150mに及ぶ砲身から、全てを呑み込むエネルギーの奔流が放たれる。
それに触れた触手は一瞬で消滅し、何重にも編み上げられた触手でさえ一瞬で消え去る。
しかし、それでもマーレの表情は動かない。
何故なら──
エネルギーが放たれてからマーレに到達するまでの、認識できないほどの短い時間。
全力で飛んだルベトは、マーレとエーテル砲の間に割り込み、その攻撃を弾く。
手を高速で振るう事で、その表面から光が弾け、四方八方にエネルギーが霧散する。
カンスト級のタンクでさえ一撃で葬り去る一撃。それを全力を使うとはいえ弾き飛ばす、災厄の少女。
「は、はぁ!?」
思わず今起きている事態が現実か目を疑う。
「《魔法三重最強化・大溶岩流》」
ダークエルフの放った魔法がこれが現実だと教えてくる。
自身の目の前に、《石壁》の魔法の篭った弾丸を放ち、それを防ぐが長くは持たない。
吹き飛ばした触手も、エーテル砲が拮抗する間に復活してしまった。
万事休すか。
「『清浄投擲槍』!残り3回分、全部喰らっていきなさい!」
少し遅れて到達したスルシャーナが、ルベトの背中目掛けて光の槍を矢継ぎ早に投擲する。
流石にエーテル砲を受け止めるので精一杯なのか、額から僅かに汗を流す。
しかし、ルベトの動きは鈍らない。
「あーもう!《魔法遅延化・魔法解体》《究極の妨害》!」
自身に、魔法耐性を大幅に上昇させる代わりに魔法行使能力を下げる魔法を使用し、スルシャーナは無理やり自身の防御力を上げる。同時に、3秒後に対象の魔法を解除する魔法を自分を対象に発動する。同時に魔力が殆ど枯渇──あと一回魔法を撃つのが限界な量になる。
そして、ルベト目掛けて突っ込み、背中から羽交い締めにする。瞬間耐性が崩れてルベトは全身にエーテル砲の一撃を喰らう。同時にスルシャーナも強力な一撃を喰らい、一瞬でHPを全損し、蘇生アイテムが発動する。
「貴女、心中でもするつもり?」
ついにルベトの顔が歪む。
「はは、勝てるなら心中でもなんでもしてやるわよ!あのクソッタレな世界にしないために、戦ってきた…この美しい世界を汚させてたまるかっての!アーラ!」
「《核爆発》《核爆発》」
魔封じの水晶から、2発の強力なノックバック効果を持った魔法が放たれる。
とはいえ、この程度の魔法ではルベトの耐性は貫けず、ルベトは全く動じない、しかし、スルシャーナは別だ。
それは魔法が解除されて耐性が消失したスルシャーナの体だけを吹き飛ばし、ルベトの体が光に飲まれる。
そして、ルベトの体が消滅
しなかった。
光の奔流の中でルベトは立ち上がり、再び攻撃を受け止める。
「損傷率8割を突破…しかし…戦闘能力に損害なし、まだ、耐えられる…!あ、ああああああああああああああ!」
ルベトが吠える。
殆どの表情を変えなかった、感情を出さなかった厄災の少女が吠える。敵を殲滅するために作られた厄災としての目的を果たすために。
「『傾城傾国』」
アーラの体から光の竜が放たれる。
それはルベトの体をすり抜け、後方の、溶岩状の粘体へ迫る。
不味い、そう思ったのかマーレの左右を固めていたドラゴンが割り込もうとするが、対象が既に決定された光の竜はすり抜けてしまう。
せめて命中する前に術者を殺そうと、アーラ目掛けて竜の切り札たるドラゴンブレスと、紅蓮の溶岩砲が放たれるが、それをアーラは全身で受け止める。
マーレは動けない。動いた瞬間、大樹が消滅してしまうから。
そう、80レベルのタンク職相当の触手を召喚し続ける破格の能力には、もちろん栄養の他にも代償があった。
今のマーレは大樹の上から離れられない。だから、せめて召喚した精霊と魔法で応戦するが、間に合わない。
紅蓮の頭が憎悪で染まる。
守護者には世界級アイテムを持たせていたが、悪くいえば兵器としての運用しか想定されていなかった紅蓮はもちろん所有していない。
先程まで味方だった紅蓮がルベトに絡みつき、自分の体が消滅するのにも構わずルベトを道連れにする。
ついにエーテル砲はルベトの体を貫通し、そのまま大樹を貫き──
空間が崩壊する。
「損傷率限界…でも、まだ…戦え…る…」
仲間は全員消え去り、しかしルベトは生き残ってしまった。蘇生アイテムを使用してもなお残り続ける攻撃判定に、死んだと思った。
しかし、マーレが最後の力を振り絞って発動した《沙羅双樹の慈悲》。これがルベトを生かした。
声にならない絶叫を上げながら、ルベトは突進する。
「『
戦乙女の姿が、一瞬死の支配者と重なった気がした。
残り12秒。その中でディートリーネが操るボスモンスターを、100レベルを超えるデヴァスティーネを、最強の熾天使であるアーラ・アラフを、そして最後に術者であるスルシャーナを突破しなければならない。
ルベトはもがく。少しの可能性を手繰り寄せるために。
4秒でなんとかカインアベルは撃破した。残り8秒。しかし、アーラは天使を追加で召喚し、デヴァスティーネが自分の出番と言わんばかりに自身の生命力を最大限に活かして攻撃を受け止める。
1秒、また1秒と時間は過ぎる。
そして、ついに時間がゼロになり、疑似神経が走っていないはずのルベトのコアに激痛が走る。
意識が離れるまでの一瞬に、熱素石のエネルギーを臨界点まで増幅させ、自爆しようとした瞬間
「来なさい、『マーレ』。」
ダークエルフの紛い物が召喚され、それがルベトの体を地の奥底に埋め、そして最後の足掻きも無為に終わる。
「あーもう、ほんと強かったわね…でも、私たちはこれでも人類の守護神。ワールドエネミーの紛い物程度に負けるわけにもいかないのよ」
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少なくとも、時間稼ぎの役目は万全に果たしたことでしょう。
ぶっちゃけルベトは一対一ならツアー一族以外にこの世界に勝てるやつ居ないんじゃないかな?
運営から嫉妬マスクが届いたよ!やったね!熱と頭痛に苦しむメリークルシミマス!
次回 ワールドエネミー大決戦
アインズ戦だけで今までの日記以外の分量越えてしまいそうな予感があるが本当に大丈夫なんだろうか。