「力を貸してくれ、スルシャーナ!『清浄投擲槍』ッ!」
ツアーの右腕から、勢いよく光の槍が射出され──それをツアーは掴み、天使の心臓へ突き刺した。
胸に空いた大きな穴から光が溢れる。四方八方を照らす奇妙な光はそのまま膨張し、絶叫と共に破裂した。
最後のセフィラが落ち、死の支配者の無敵が解除される。
「これで終わりだ…………っ!?」
死の支配者の背後。
そこに浮かび上がるは金色の時計。その針は既にXIを指していた。
『あらゆる生ある者の目指すところは死である』。これは竜神においても例外ではない。リレイズ系能力をあらかじめ使うことでのみ抵抗できる、即死耐性さえ貫通する最強の即死系能力。
最後の蘇生系スキルを切ってしまった今、これを防ぐ手立てをツアーは持ち合わせていなかった。
たが、防ぐ手立ては無いが、対処する方法はある。
(選択した魔法はなんだ。《嘆きの妖精の絶叫》?それとも《永遠の死》?前者であれば問題はないが後者であれば…
っ、時間がない、流石に後コンマ数秒で殺せるほど甘い相手ではッ!)
《嘆きの妖精の絶叫》であれば簡単だ。
魔法蓄積により第五位階信仰系魔法《死者復活》の込められた短剣。これを体に突き刺せばいい。多少レベルダウンしようが、相手とこちらには圧倒的差がある。
だが、《真なる死》が選択された場合、《死者蘇生》のような低位の蘇生魔法では意味がない。
永遠の死の副次的効果。この魔法により殺された存在は、低位の蘇生魔法での蘇生は不可能になる。
(だが、真なる死は単体対象の魔法…防がれる確率の高い《嘆きの妖精の絶叫》をここで使う訳がない…だったら!)
時計の針がXIIを指すまでのコンマ数秒。
賽は投げられた。
放たれた魔法は直線上に進み、竜の体へと命中。予想通り、選択された魔法は《真なる死》。
それと同時に、ツアーは二つの言葉を唱えた。
「『鎧召喚』『魂移し』」
竜の体が、静かに沈む。
同時に、白金でできた──その表面は竜鱗や他の鉱石によって補強されている──鎧が、その隙間から青白い魂のゆらめきを迸らせながら浮き上がる。
「やはり、立ち上がるか」
死の支配者は立ち上がり、腹に浮かぶ宝珠を撫でる。
光が球となり、アインズの掌で小さな木の実となる。それをアインズは齧る。
それと同時に、白金の全身鎧の背中に、竜の体から光輪が移る。
それが右腕を上げると、虚空から4本の武器が現れる。
それは大剣。見るだけで吸い込まれそうな漆黒の刀身を持つ大剣。
それは槍。ゾッとする美しさを持つ鍵のような形をした銀の槍。
それは太刀。その大きさは山に迫るほどの巨大な太刀。
それは槌。無駄な装飾の一切ない、無骨な見た目とは反対に、恐ろしいほどの大地の魔力を秘めた大槌。
「あぁ、知ってたさ…君が、
「知ってたぞ…貴様が死んだ程度では終わらないことぐらい」
アインズは巻物を広げると、そこから魔法を引き出す。
引き出された魔法は《連鎖する龍雷》と、《連鎖する龍炎》。
「穿て、『
漆黒の大剣が、その軌跡に闇を残しながら左から横一文字に振われ、銀の槍が真上からアインズの頭蓋目掛けて落下する。
大剣が雷を受け止め、槍から放たれた光が炎を散らす。
両手で槌を持ち、そして太刀を自身に追随させながら、地を蹴って一瞬でアインズの近くまで移動する。
漆黒の大剣がアインズの左手を切り飛ばそうとした瞬間、地面から這い出してきた数十の死の騎士が剣へと絡みつき、その重量で無理やり地面へと落とされる。
真上から落下してきた槍は、それが貫いた空間の軌跡に外宇宙の裂け目を作り出し、そこから七色の泡がアインズ目掛けて放たれる。
それがアインズの頭上十数メートルに到達した瞬間、数発の爆発が発生し、泡と相殺しあい、槍の軌道は逸らされる。
「おっと言い忘れていたな。そこには特製セメントの詰まった死の騎士が埋まっているのでな。それと私は結界の内部に限界まで《魔法最強化・爆撃地雷》を仕掛けていたのだよ。《魔法効果範囲拡大・核爆発》《魔法の矢》…やはり無効化されるか」
魔法の衝撃で自身だけ後方へ飛び、槌の殴打をすんでのところで回避したアインズの掌から放たれた魔法は、鎧の表面で弾けて四散する。
「『流水加速』」
避けられることまで織り込み済みだったように、槌を振るった際の回転エネルギーを利用しつつそのままアインズの飛んだ方向へ加速する。
(結界の内部に《爆撃地雷》?確実性のない魔法に魔力を裂く余裕がどこに…?)
「《魔力の精髄》…流石に嘘だと思いたいけど、凄いねこれは」
ツアーの目に映ったのは、自分の本体よりも多いのではないかと思うほどの魔力の量。いや、確実に上回っている。
しかし、同じくカンストプレイヤーの魔法詠唱師の友人の10倍以上の魔力量は流石にあり得ない。偽装か?
数十の白金の長剣を瞬時に展開し、アインズ目掛けて乱射する。
「『
「《魔法三重最強化・骸骨壁》《魔法三重最強化・石壁》《光輝赤の体》」
左右から挟み込むように現れた嵐風と紫電を纏った刃を壁で防ぎ、剣戟を無効化魔法で防ぎ切られる。
それをカモフラージュに、激しくスパークする空間を加速し、アインズへと迫ろうとした瞬間、地面から再び死の騎士が這い出てくる。
明らかに普通の死の騎士よりも音が重い。先程のセメント入り死の騎士だろう。
十二方位と真下からそれぞれ一体ずつ。この程度、一刀で殺し切れる。
「『
鋸のような刃をした刀が、周囲の死の騎士を切り払う。
「おっと、危ないぞ?その死の騎士には核地雷が埋め込まれている。《魔法三重最強化・現断》」
瞬間、死の騎士の体が爆散し、轟音と爆炎が吹き荒れる。
同時に、鎧の装甲を魔法の斬撃が撫で、同時に左足に何かがしがみついたのを感じた。
ライオン型のゴーレム。洋風の浴場に置かれていそうな装飾のそれは、ツアーの足にしがみつき、そのまま地面に押し付けようとする。
「効かないよ、その程度じゃ。」
足にしがみついたそれに取り出した金色の槍を突き刺し、そのまま全力で投擲し、ゴーレムを射線上にいた数体の死の騎士を巻き込んで破壊する。
再びの爆発、そしてそれを避け、時に爆発の威力を推進力へ変えて、全力での引き撃ちを繰り返すアインズを追う。
まばらに飛んでくる魔法は、盾と武器を使い避け、こちらが飛ばす武器は、魔力の消費を度外視した防御魔法の連発で殆どがギリギリで防がれる。
「堕ちろ、『
鎧に追随していた巨大な太刀が、見た目に反した俊敏な動きでアインズの進行方向へ先回りしてそのまま振われる。
それはアインズの体を掠め、その体は衝撃で吹き飛ばされる。その飛んだ方向へツアーは先回りし、手に持った槌を全力でスイング。
同時に白金の大斧をアインズの胸目掛けて射出する。
「《第十位階天使召喚》『金剛砕き』『雷鳴落とし』『火砕流』!」
攻撃系武技により、威力を増した殴打がアインズの頭蓋を砕こうと迫る。上空からは白金の大斧が、後方からはその両手に棍棒を持った天使が、そして巨大な太刀が追撃を狙う。
「『アンデッドの副官』こい、
アインズの両手に装備された白と黒の小手から光が漏れる。
それは骸骨の姿へと変わり、それは超高位の攻撃魔法を周囲へ乱発する。同時に、それは大斧を受け止め、巨大な太刀との間に入り込み、盾となって果てる。
同時に、アインズの体から立体魔法陣が展開され、それは瞬時に消える。
現れたのは、六体の天使。『
(超位魔法をここで…!?)
「何を企んでるのか知らないけどね…!《魔法三重最強化・聖なる極撃》《大溶岩流》!」
鎧に使われたパワードスーツの魔法使用機構と自身の魔法行使能力を合わせて、計4発の魔法を放とうとした。
その時、遠方から
「何が起きたッ…そこか!『
それと同時に、地面から這い出てきた全く同じ姿の二人の拳を構えたメイド姿のアンデッドを目掛けて2本の槍を放つ。
一体は即死したが、もう一体は拳を盾に槍の攻撃を回避し。続く光の槍と触手による追撃は、同じく同じ姿をしたメイド達の放った聖属性の爆発と、豪雷、そして虫達に防がれる。
複数の白金の刃が弾丸の飛んできたであろう方向へ飛翔し、空中で刃で出来たゴーレムとなって攻撃主へ迫る。
それが何者かと戦闘を開始したのを感じ、再びアインズへ視線を戻す。
「『竜撃』『ドラゴンブレス《浄化》』」
ドラゴンの体の時よりは低いとはいえ、かなりの威力を誇るブレスを放つ。
それはアインズの放った《現断》と交差し、互いに少なくないダメージを負う。
(クッ…やはり本体が死んでいる状態だと能力の減少が酷いな…いつもならもうとっくに倒せていてもおかしくはないのに…!)
全力で投げた槌は、アインズの召喚した精霊髑髏を瞬殺する。
そして巨大な手甲を嵌め、地面へ叩きつける。
そこから発生した地割れは残っていた智天使を飲み込み、そのままプレスして破壊する。
「プレ
空間を切って現れたのは、5人のメイドが2セット。
ナザリックにおいて、侵入してきた100レベルプレイヤーパーティへの、時間稼ぎを想定して作られたNPC集団、プレイアデス。
100レベルNPC オーレオール・オメガの指揮官バフを得てこの場にいる彼女ら、そしてそれをコピーした上位二重の影の集団、エーリッヒ擦弦楽団たち。
「お前…盾にするつもりか!」
眼前を埋め尽くす虫の群れを焼き尽くし、放たれた雷撃を素手で引きちぎる。
獣毛を逆立てる人狼は、その心臓に銀の杭を突き刺し、背中から拳を構えた首無し騎士に殴り飛ばされる。
その体目掛けて、氷を纏った三叉槍を突き刺し、毒を放つ粘体へ、紅蓮の拳を放つ。
ほんの数秒。数十秒に満たない時間。
しかし、それでも圧倒的格下が格上相手に時間を稼いだ。
死の支配者から様々な魔法が放たれる。
聞いたこともないような魔法がいくつも混じる中、纏わりつくメイド達を切り払い、魔法を放とうとして再び霧散する。
(…あれを耐えた?つまりこれの発射主はこのメイド達よりは格上…カンスト級が他にも?だがここで彼を出すのは…あの吸血鬼がまだ出てきていない以上…っ!?いや違う、刃は確かに何かを倒した、つまりあれはダミーか!)
アインズの手が空を切り裂くように振われる。
それと同時に放たれたのは12発の現断。三重化された《上位魔法封印》のそれぞれの内部に三重化された魔法を込めることで可能になる12発の魔法の同時行使。
「『
魔法を全身で受けつつ、周りを囲う敵を切り裂く。
そして、獅子の意匠を持つフレイルをアインズ目掛けて振るう。残っていたメイドの大半がこれでその命を散らす。
それはアインズを囲うように展開された壁を飛び越え唸りを上げて振われる。
「ご武運を!《次元の移動》《荒れ狂う龍雷》…っ!」
生き残っていたメイド姿の二重の影が、第八位階魔法を放ち、同時にアインズの盾となって消滅する。
「ナーベラルっ!…すまない、皆…《魔法三重最強化・現断》
(かなりの耐久が削られた…これは少し不味いね……敵ながら、見上げた忠義だね。その心を何故少しでも外に…いや、私にこれを言う資格はない、か…)
「『
旋風を纏った太刀と、黒い炎を纏った細剣ががアインズ目掛けて飛翔する。
それは途中で混ざり、あらゆる現象を内包した何かへと変わる。
「出番だ、『ガルガンチュア』!」
アインズの真下の地盤が急に膨れ上がり、中から巨大なゴーレムが出現する。
戦略級攻城ゴーレム。基礎能力だけ見れば守護者最強の存在の一撃は、特殊技術を伴っていないにも関わらず、カンスト級の威力を発生させる。
その剛腕が2本の武器の攻撃を防ぎ切り、もう片方の腕がツアーの胸を殴打する。
「盾よ!くっ!」
みしり、と嫌な音を立ててツアーの体が吹き飛ばされる。
そのまま地面に体がバウンドし、しかしツアーはその状態から反撃の剣を放つ。
「『
竜の如き刀身を持った直剣が、その先端から黒い吐息を放ちながらアインズへ迫り、それはゴーレムが受け止める。
周囲に火の玉を振り撒きながら飛ぶ刃は、12発の迫り上がる氷柱とぶつかり、水煙を広げながらその威力を失う。
そしてその間を縫うように降り注ぐ大量の武器は、地面から這い出した大量の死の騎士に防がれ、しかしうち一本がモモンガの腹の球体を掠める。
瞬間、無限にも思われたアインズの魔力が僅かに減った気がした。
(あの魔力量…偽装じゃなく本当だった!?ワールドアイテム…あの天使の使役だけではなかった!?まさか…)
「セフィロトの樹…永劫…知恵の実か!」
前世の神話がふと頭をよぎった。
人は知恵の実を食べ、善悪を知る者となった。そして主は恐れた。人が命の実を喰らうことで永劫の命を持ち、知恵を持つ存在となることを。神となることを。
では、初めから不老の存在が、知恵の実を喰らえばどうなるのか。
モモンガ玉、知恵の実を象ったそれの最後の効果。
それは、装備者が使役するセフィラーの十天使が討伐された時、装備者が寿命が設定されていない種族であった場合MPを最大値で固定すると言うもの。
同時に、デメリットも存在する。それは、ワールドアイテムであるモモンガ玉が破壊可能になること。
勿論、これを壊されればバフも解除されるし、同時にデメリットとしてMPが1で固定される。
だが、そんなこと敵対者は知る由も無い。
(おそらく、あの球を壊せば魔力の源はなくなる…だが、ワールドアイテムに干渉できるのは同じワールドアイテムか、始原の魔法で作られた武器だけ…だから光雨で傷つけれた?だったら…)
あのゴーレムを壊して、そのままワールドアイテムを壊す。
「『疾風走破』『音速突破』『神速』『剛腕剛撃』」
地を蹴る。
瞬間、地面にクレーターが発生し、白い光となってツアーが駆ける。
その背中には7本の武器が追随し、次々と現れる不死者達を切り裂く。
「《魔法三重最強化・朱の新星》《魔法三重最強化・流星群》」
「射出!」
魔法と武器がぶつかり合い、魔力の光が太陽のように二人を照らす。
頭上に影が迫る。
「『不落要塞』」
振われたガルガンチュアの豪腕を、交差させた2本の長剣で防ぎ、それを投げ捨て、大鎌に持ち帰る。
銘は『死神』。捻れた刃がゴーレムの首に迫り、硬質な音を立てる。刃は僅かにその表面にめり込む。
「『流水加速』『
水生生物を象った鎌が、挟み込むようにゴーレムの首にめり込み、2本の鎌がゴーレムの首を切り落とす。
ガルガンチュアの体が震え、その衝撃でツアーの体は浮かび上がる。
「『急速落下』『回転斬波』」
ガルガンチュアの背中を2本の鎌を縦に回転させ、ガリガリとその背中を削り取る。
そのままガルガンチュアの体は崩壊する。
(特殊能力がなくただただ能力が高いだけ…そう言う手合いは一番得意だ。下手したらあのメイドの方が厄介だったね。現に…)
「《朱の新星》」
アインズ目掛けて突きつけた魔法は、飛来した弾丸に霧散させられる。
毎回他の方角から飛んでくる弾丸。魔法を散らされるのは厄介。何より、相手が例の隠し札を切るまでに発見して殺さねば確実に不利になる。
(けど、それをする暇がないのも事実…っ!)
ツアーは白金の薙刀をアインズ目掛けて投擲する。
「『アンデッドの副官』こい、
黒い小手から溢れた経験値が、不死者を形成する。
生み出されたのはレベル90強のアンデッド、具現した死の神。それは手に持った鎌で薙刀を切り裂き、返す刀でツアーの肩を僅かに切り裂く。装甲の表面に薄い傷が刻まれる。
「『冥府の扉』こい、ルーファス!」
取り出したのは、棺桶を象った大楯。
その中から具現した死の神が飛び出し、アインズの召喚した死神と鎌を交える。
スルシャーナがオーバーロードであった頃に召喚したアンデッド、具現した死の神のルーファス。
棺桶の魔法的効果として、その能力が数段強化されたルーファスは、アインズの死神を打ち倒し、同時に自身も大きなダメージを負い、棺桶の中に送還される。
「『開け、
アインズの背後から67体の悪魔の彫像が現れ、さらに四色のクリスタルが頭上から落下してくる。
ナザリック最奥の最終防衛機構。それが、外部への矛として使われる。
そしてアインズは一本の杖を取り出す。
「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。私達のギルドの証。これが、最後の私の切り札だ!『根源の精霊召喚』」
7匹の絡み合う蛇の口にはめられた宝玉が光り、内部から7体の根源の精霊が現れる。
ついに取り出されたギルド武器、そして高位のゴーレムと、精霊を吐き出す四色のクリスタル。そして、さらにその周りに浮かぶ大量の不死者。
どれも本体のバックアップがあれば問題にならない相手だが、今の自分では倒し切れるか怪しい相手。
(もう、ここで呼ぶしかないのか、彼を…糞!)
瞬間、精霊の一体が横合いから乱入してきた精霊に吹き飛ばされる。
同時に周囲から大量の矢の雨が降り注ぎ、騎士鎧に全身を包んだ人型が、精霊の一体に斬りかかる。
「ふん。我が父を倒した竜王がどれ程の強さかと思えば…この程度の雑魚に苦戦しているとは…失望させるな!ツァインドルクス=ヴァイシオン!既に我々の国は敵の殲滅が終わったぞ!」
「本国の守りはスヴェリアー殿達に任せて来ました!神官長や、族長が戦っているのに、私達が戦わない訳にはいかない、何のためのフェルンオストの剣だ!さぁツアー様、ご指示を!」
「デケム…騎士団長…!何故ここに…いやいい、任せられるか!」
「「言われなくても」!」
エルフの国の王、そしてフェルンオストが騎士団長。
その二人が、互いの部下を引き連れ、精霊とゴーレム達に戦闘を仕掛ける。
この世界では相当な実力者、しかし、足りない。だが…任せるしかない。
「《魔法三重化・第十位階天使召喚》彼らのサポートをしろ、天使よ。…すまない!『疾風走破』」
ガラ空きになったアインズ目掛けてツアーは突貫する。
後ろは振り返らない。それは彼らへの侮辱と同義。
後方で、武器がぶつかり、魔法が弾ける音がする。
「『能力向上』『能力超向上』『流水加速』『四光連斬』ッ!」
「《力界の透明壁》《陽光の帳》良いのか?彼らを見捨てて?勝てると思っているのか?」
「彼らは任せてくれと言った、私はそれを信じるだけだ、『雷斬撃』ッ!」
両手で持った両刃剣を大上段に構え、そのまま垂直に振り下ろす。
それは不可視の光壁を両断し、そのままアインズのローブと刃がぶつかる。
杖から引き出された物理防御の魔法で斬撃の威力が散らされるが、ついにアインズの体に傷らしい傷が刻まれる。
僅かにそれた斬撃の軌道は、アインズの肋骨の一本を切り飛ばした。
「ぐぅっ…っ!《魔法三重最強化・黒竜の咆哮》」
さらにV字に切り上げた斬撃が肋骨の先端を切り飛ばし、同時に酸と音波属性の複合属性の魔法が鎧を揺らす。
耐性のお陰でダメージは少ないが、吹き飛ばし効果のある魔法を至近距離で受け、ほんの一瞬だけ体が硬直する。
その瞬間、アインズが叫ぶ。
「こい、シャルティア!」
《転移門》のエフェクトの中から現れたのは、ずっと潜ませていた、最後の切り札。
守護者最強の存在。
シャルティア・ブラッドフォールン。
(──来た。)
「…来てくれ!ポッター!」
同時に、ツアーもずっと隠していた札を切る。
自分の知る中で最高の魔法詠唱師。そして、共に国を作ってきた最高な友人。
「実は、さっきから宇宙空間ギリギリの高度でスタンバッてました!《魔法六重最強化・黒曜石の剣》」
「《魔法最強化・朱の新星》!っ、あぁあああああああ!」
巨大な火球と二本の石剣が相殺しあい、奇妙な形状をした槍が飛来する残り4本の剣を叩き割る。
そのままポッターへ槍を振おうとした瞬間、その姿が掻き消え、同時に先ほどまで彼がいたはずの場所から6体の怪物が現れ、その首を突きつけ、火炎の吐息を吐きかける。
「『
「《魔法最強化・連鎖する竜雷》」
さらに同時に、流水を纏った槍がツアーから放たれ、それと雷撃が交差する。
雷撃はポッターに吸い込まれるように消え、反撃にポッターが隕石を放つ。
「消えろ!」
シャルティアが周囲を薙ぎ払うように槍を振るうと、同時に16発の攻撃が発生し、怪物達が一回の攻撃で殲滅され、同時に隕石も細切れにされる。
「げ、こいつHP吸収持ちかよ…《魔法六重化・焼夷》」
互いに考えていたことは同じ。
だが、アインズはシャルティアの存在を既に知られていた。ポッターの存在は最後まで知られていなかった。
そこが産んだ差。
「《魔法六重最強化・重力渦》《魔法六重最強化・現断》!ツアー!ぜっったいに勝て!」
「『不浄衝撃盾』!アインズ様!『エインヘリヤル』!」
シャルティアの衝撃波と重力の渦が激突し、魔法と魔法がぶつかり合いながら、二人は何度も激突し、そのまま離れる。
そして、ワンアクションでアインズの元へ辿り着けない距離まで離された瞬間、シャルティアは半透明の分身を繰り出し、しかしそれはポッターの放った魔法に止められる。
これで二人の間を分つものは何もない。
「『疾風走破』」
駆ける。
地面から死の騎士が這い出す。それを切り捨てる。
背後で爆発が起きたのが聞こえた。
「『音速突破』『能力向上』『能力超向上』『一閃』『構築・無敵要塞』」
地面から巨大なワームが這い出し、死の支配者が3発雷撃を放つ。
大地を隆起させながら迫る
前へ駆ける。
「『流水加速』『五連空斬』『四光連斬』ッ!」
背後から迫っていた三体のハンゾウを切り飛ばす。
うち一体は一撃で仕留め切れず、僅かにだが斬撃を喰らう。同時に、死の支配者から放たれた《現断》が装甲を削る。
「《魔法三重化・第十位階不死者召喚》」
現れた三体の破滅の王の鎌を浮遊する大剣の腹で防ぎ、後ろから突撃してきた白銀のゴキブリのようなゴーレムを吹き飛ばす。
剣の切先がアインズへ触れる距離へと届く。
「《完全なる自由》《次元の移動》…駄目かっ!《骸骨壁》」
「遅い!──捉えたッ!」
この瞬間、奇妙なことが起こった。
アインズが手に持っていた杖が勝手に動いたように見えて──
──『根源の星霊召喚』
「なっ」
壁を壊し、中から現れたのは、何度か見たことがある怪物。
「くく…はははは!どうやらお前は知らなかったらしいな!宝玉を七つ集めたことで解放される8体目の精霊を!」
ここにきて更なる伏兵。
そして再びアインズとの距離が開──かなかった。
「『根源の火精霊召喚』」
ツアーが手に取ったのは、一本の杖。
自分が作った武器ではなく、親友から貰った大切な杖。その先端に取り付けられた宝玉の名は、『火の宝玉』。
「夢から覚める時だ、
「I wish!…駄目だ、間に合わ…!」
ツアーの振るった杖が、アインズの腹に浮かんでいた宝玉を砕く。
同時に、そこからはチカチカと苦しげに明滅する光が溢れ、その光は萎み、一瞬で消えて無くなる。
同時に、アインズの魔力が殆どゼロになる。
そして、アインズは魔封じの水晶を一つ取り出し──
「
「っ…!させるか!」
杖を素早く長剣へ持ち替え、アインズの胴を両断しようとした瞬間、剣が硬質な音を立てて弾かれる。
幾ら無理な体勢だったとはいえ、ローブに当たる音ではない。そして、気づく。
目の前にいたのは、漆黒の鎧に身を包んだ死の支配者。
「
死の支配者の右手から僅かな魔力の反応が消えた。
同時に、死の支配者の気配が増す。
「まだ…まだ足掻くか!何が君を突き動かす!」
「何度も言っているだろう!生きたいからだ!」
大剣と白金の武器が衝突し、火花を散らしながら何度も衝突する。
火炎の大剣の振り下ろしが、氷結の槍の突き刺しが、旋風の刀の斬撃が、確実に死の支配者の体にダメージを蓄積させる。
しかし、それはツアーにとっても同じ。
技量も、能力も戦士としてはツアーの方が圧倒的に格上。
しかし、今までの戦いでの消耗が少しずつ響いてくる。
アインズのタックルがツアーの重心を崩しかけ、しかし逆にツアーの放った鞭がアインズの体を大地に打ち据える。
そのままそこ目掛けて放った短剣を、アインズは取り出したマジックアイテムで防ぎ、そのまま起き上がり、ツアー目掛けて頭突きを繰り出す。
そのままアインズの放ったハイキックを左腕でツアーが受け止め、そしてお返しに刀による斬撃が放たれる。
互いの肉体を──同時に互いにとっての偽りの肉体をぶつけ、拳と拳、剣と剣が交わる。
その中で、僅かだが見えた気がした。ここではない何処かが。
『な──サト─。──は─せか─?』
『も───。─ぁ、─当に、─────だ。』
あり得たかもしれない可能性。交わったかも知れない可能性。
そんなありえない空想は、二人の死の舞踏を、鈍らせることさえできない。
ぱきん、アインズの剣が折れる。
そして振り下ろされた棍は、アインズの小手から浮かび上がった盾とぶつかり、身代わりとなることで防がれる。
「建御雷七式っ!」
「『
刀と刀がぶつかり合う。
連鎖する斬撃が、刀のブロックをすり抜け、周囲に斬撃痕を刻む。
後ろに飛びのいたアインズが取り出したのは、一本の弓。
同時にバイザーのようなマジックアイテムを取り出し、そこから力を引き出しつつ矢を放つ。
放たれた矢はツアーの眼前で蛇のように唸り、武器の防御をすり抜け肩に突き刺さる。
「ぐっ…!《神炎》『流星剣』」
放たれた魔法は弾丸に打ち消され、しかし放たれた斬撃はアインズが縦にした弓を両断する。
そのままアインズは倒れ込むようにして斬撃を回避し、横へ転がりながら、取り出した木の枝を折る。
現れた二本の大剣を構え、暴風となって刃が回る。
それに対して、ツアーが取り出したのは2本の長剣。
その刀身から、刀身の数十倍の広さの光のゆらめきを迸らせる双剣。
「『双剣超斬撃』『流水加速』『超斬撃』『即応反射』『神技一閃』『縮地改』『即応反射』『六光双連斬』『五連空斬』っ!」
怒涛の連続攻撃。
一撃ごとに崩れる体勢を武技で無理やり繋ぎ合わせ、息をもつかせぬ連撃が、アインズの偽りの命を擦り下ろす。
一つの動作が終わる頃には既に次の動作が始まっている。防御を上から打ち砕く連撃。
最後の一撃を交差させた剣の腹で受けたアインズは、その刀身を砕け散らせながら後方へ吹き飛ばされる。
「『超加速』『超貫通』!」
吹き飛んだアインズを追いかけて、ツアーがその体を加速させ、そして──
『
同時に四方八方から大量の罠による攻撃が放たれる。
(戦場の超後方。誘導されていたというのか、この罠地帯に…っ!今までの札は…いや違う、この男は、私が用意した札を全て超えてくると予想した上で、更に何重にも保険を用意してきたということかッ!)
「『不落要塞』《力の聖域》」
既に弾切れなのか、魔法を無効化する弾丸はもう飛んでこない。
防御系の武技と魔法でもはや爆撃と化した罠の攻撃を耐える。全方位から繰り出される吹き飛ばし効果を持つ攻撃に、足が止まる。
前へ進めない。武器を放とうにも呼び出すまでのワンアクションを爆発に阻害される。
前へ進もうとするたびに、一歩後ろへ戻される。
もはやこの偽りの体は限界に近い。
「あ、ぁあああああああああああああああ!」
魂の底から叫ぶ。
少しずつ、少しずつ体は前へと進む。
それでも、近いはずの死の支配者との距離は遠い。
「《上位天使創造》行きなさい!」
現れた2体の天使が爆発の中へ飛び込み、そのままツアーの体を罠の攻撃網の外へ投げ飛ばす。
これは、アーラの声だ。
「ツアーーーーーーーーーーーっ!」
投げ飛ばされながら、ツアーの目は戦場の端に駆け寄ってくる人影を捉えた。
「っ、スルシャーナ!」
「いけぇええええええええ!」
声援に背中を押される。
一本の剣を取り出し、大きく前へ踏み出す。
一瞬、死の支配者の顔に、諦めたような、そして悲しげな表情が浮かんだ気がした。
「あぁ、そうだよな…」
アインズが、最後まで傍から離さなかった杖から手を離した。そして両腕を広げ──
ツアーの斬り上げが、一度死の支配者の命を散らし、蘇生アイテムにより蘇った命を、再び散らすべく、剣が振り下ろされる。
その刃は死の支配者の、モモンガの、アインズ・ウール・ゴウンの胴体を両断した。
決着。
感想、評価などありがとうございます!励みになります!
ここから先は蛇足
ワールドエネミー1シリーズ、セメント入り死の騎士に核地雷死の騎士、プレイアデス、ガルガンチュア、ソロモンの小さな鍵にクリスタル、とにかく他にも色々…
この鎧ツアーは、本体のサポートがないからイメージとしては耐性減少、能力1割減ぐらいしてた。それでも魂全乗せのバフで使用可能魔法が本体準拠になってたりで強化された面もありました。
時系列で言うと、スルシャーナ達vsルベト&マーレ達、番外vsパンドラ、ツアーvsアインズ(後裏でリーダー達vs最精鋭シモベ)は同時刻に始まってます。そして終わったタイミングがそれぞれ異なる、といった感じです。リーダー達は画面外で援軍の支援に入ってます。
今後の転移者は敵対することになったらこのワールドエネミーよりやばい竜相手にすることになるのか。