「っ、スルシャーナ!」
「いけぇええええええええ!」
絶叫が大気を震わせる。 声援に背中を押される。
剣の柄を強く握りしめる。眼前の魔王へ、突撃する。
全身に極光をまとった白金の騎士が、一条の白の光となって、漆黒と衝突する。
右手に持った大剣と、黄金の杖が十字に重なり、ツアーの持つ白金の剣と拮抗する。
光が、二人の顔の無機質な顔を照らす。
アインズはその手を虚空の中へ差し込み、何かを取り出そうとした。
その時、アインズの目線が一瞬ツアーの後ろへ外れ、そして──
一瞬、死の支配者の顔に、諦めたような、そして悲しげな表情が浮かんだ気がした。
「あぁ、そうだよな…」
アインズが、何かを取り出そうとする動作をやめ、最後まで傍から離さなかった杖から手を離した。
そして両腕を広げ──
ツアーの斬り上げが、一度死の支配者の命を散らし、蘇生アイテムにより蘇った命を、再び散らすべく、剣が振り下ろされる。
その刃は死の支配者の、モモンガの、アインズ・ウール・ゴウンの胴体を両断した。
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ドスッ
両断され、軽くなったアインズの半身が地面に落ちる。
骨のかけらが風に吹かれ、空へと消えた。
同時に、分たれた下半身が灰となって消える。
「あぁ、俺は、負けたのか、負けた、のか………」
ゆっくりと、ツアーがアインズの側へと歩く。
「あぁ、そうだ。君は負けた。アインズ。アインズ・ウール・ゴウン。」
「本当は、これを使おうと思ったんだけどな…」
そういって、アインズはアイテムを取り出そうとする。
「何を…っ!?」
近寄ってきたスルシャーナがそれを止めようとするが、ツアーがそれを腕で制す。
取り出されたアイテムは、黒い輪っか。ツアーの背に背負われた光の輪によく似たマジックアイテム。
「世界級アイテム、暗輪の悪神…まぁ、なんだ。これを使えば、最後に世界の半分ぐらい道連れに出来たかもしれないが…使う気にはなれなかった。ただ、それだけだ…。」
自嘲気味に笑う。
骨がぶつかる乾いた音が響く。
「なぁ、白金の竜神、ツァインドルクス=ヴァイシオン。出会い方が違えば、俺たちは、争わずに済んだのだろうか?まぁ、考えても意味がないことか…」
「…そうかも知れないね。」
勝者であるはずの竜神の後ろ姿はどこか悲しげで、敗者であるはずの死の支配者は、何処か吹っ切れたような雰囲気をしていた。
「なぁ、竜神。これを使わない代わりに、といってはなんだが、ひとつだけ頼み事を聞いてはくれないか?」
アインズはツアーの目を見つめて言う。
少しだけの逡巡を経て、ツアーはそれに頷いた。
その顔は、勝者であるはずなのの、辛いことがあったかのように歪んでいた。
頷いたのを見たアインズは、そばに自立する黄金の杖を、ツアーの方へ動かす。
「それを、貰ってはくれないか?そして、勝者として、ギルドを破壊して欲しい。…守れなかった、歪んでしまった過去の栄光を消し去って欲しい。」
「……元からそのつもりだったよ。でも、本当にそれでいいのかい?」
「もう、俺も、あいつらも…みんな、アインズ・ウール・ゴウンではなくなってしまったからな。あぁ、それならもう思い残すことは…いや。」
何かをふと思い出したかのうように、アインズは閉じかけていた目を開く。
そして残っていた片腕を天に突き出し──
「『I wish! 残されたNPCたちよ、お前たちはもう自由だ!これからは、AOGのNPCではなく、一つのこの世界の生命体として生きろ、これが俺の最後の命令だ!』…これで、満足だ。」
ピシ、と突き出した腕にヒビが入り、残っていた腕が崩壊を始める。
「本当なら、サービス終了と共に終わっていたはずの俺たちが、なんの因果か続いてしまった…ふふ、どこの誰だか知れないが、随分と酷いことをしてくれたものだ…もうこの手に残ったものは何も無い。けどまぁ、あのまま終わった世界で死ぬよりかは、良い死に方をさせてもらったよ」
アインズの頭蓋に、縦に亀裂が入る。
それはまるで泣いているかのようにも、怒っているようにも、苦しんでいるようにも見えて──
「あぁ、アインズ・ウール・ゴウン。君は、悔いてはいない。…本当に不死者になってしまったのだね。」
「流石に知っていたか。竜神。既に異形へ変わった身だ。異形に人の倫理を求めるのか?」
「狂っているね、君も、私も。」
「お前は俺ほど堕ちちゃいないさ。お前は、な…なんとなく察してはいたが…お前もそうなんだろ?経路は違うかも知れないけどな」
アインズが、眩しそうにツアーの背後を見つめる。
そして、残った方の腕でツアーの腕を掴み、言う。
「お前は俺になるなよ、竜神。お前がただの竜に心を落とすのなら、地獄から這い出て殺してやる。まぁ…」
──そんな日は、来ないだろうがな。
アインズの体が完全な崩壊を始める。
「あぁ、謝らなければならない相手が、沢山…40人ぐらい、居るな…」
そう呟いて、声が消える。
そして、ツアーが、手に持った剣でアインズの頭蓋を砕き、そして──
「──いや、私はお前を異形のまま殺さない。再び人として生きろ。」
踵を返し、ツアーは、大切な仲間たちと共に歩き始める。
「これは、私のエゴだ。」
暗黒騎士が三つ首の竜に乗り、近寄ってくる。
目を凝らすと、デケムと騎士団長が神官姿の一段に治療を受けている。そのそばにはリーダーもいた。
リーダーはこちらに気づくと、手を振ってきた。
「さて…やらなければならないことはまだ沢山ある。」
「先ずはツアーの肉体の蘇生もしないとね。残存兵力の殲滅も。」
スルシャーナが肩に寄りかかってくる。
「そして──全てを終わらせる。大墳墓を落とす。」
拳を握りしめる。
雲の合間から、日が差し込む。
「もうここには何も無い…行こうか、皆。」
勝者は去り、そこには無人の荒野だけが残る。
その夜、誰もいなくなった荒野に、一人の人間の慟哭が響き渡ったという。いつまでも、いつまでも──
夜明けは、訪れた。
荷台に山積みの物資を乗せた馬車が走る。
その荷台には弓使いと、右腕をやられたのか、血を流すチェーンアーマーをきた戦士、そしてその奥に魔法詠唱師風の姿の男とがいた。
「『射撃』『フレイムショット』!…くそ、流石に無理か…街道まで
三人の胸には、銀色の冒険者プレートが輝いていた。
「平気じゃ無いが!『投擲』!」
「《魔法の矢》《魔法の矢》!《魔法の矢》ー!」
馬が嘶きながら、悪霊犬の追撃から逃げる。
一体であればなんとかなっただろうが、それが三体。なんとか振り切ろうとするが、駆ける速度はほぼ同じであり、全く引き剥がせない。
「Grrrrrrrrrra!!」
痺れを切らしたのか、悪霊犬のうち一体が、体に巻き付いていた鎖を馬車目掛けて放つ。
「あ、終わった。」
御者も、護衛の3人の冒険者も、その奥に載っていた商人も思った。
「──《雷撃》」
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「いやぁ、助かりましたよ!魔法使いの旦那!一時はどうなることかと思いましたが…あなたは命の恩人です!ありがとうございます!」
商人が、襤褸のローブをきて、フードを被った魔法詠唱師の手を握り、縦に振る。
「…するべきことをしたまでです。先程の冒険者たちにも言いましたが、私に感謝を受け取る権利なんて、ありませんから…」
「そんな、謙遜なさらずに!ここ最近はどこも人手不足、王国が帝国に吸収されてからは街道が安全になったとはいえ、例の戦争以降、危険なモンスターが異常に発生したり、移動したりすることが多いせいで対応し切れてはいない…そんな中で貴方に助けていただけていなければどうなっていたか…まぁ、皇帝に文句は言えないんですけどね。吸収されてから国が良くなったのは間違いないことですから。」
「…色々なところで聞きますが、皇帝はそんなにも?」
「えぇ、本当に。死者も殆ど出さずに国を併合したと思ったら、画期的アイディアの数々で生活はどんどん好転していって…少し前まで日々を生きるので精一杯な人が多かったのに、今ではちょっとした嗜好品ぐらいなら買えちゃうぐらいですよ!お蔭で商売繁盛、皇帝様様ですよ。まぁ、ほぼ無血で国が併合されたのは、あの戦い以降、真っ当な貴族が増えたのも原因なんでしょうけどね。」
手元のグラスにアルコールを注ぎながら、商人は答える。
「そう、ですか…では、私は失礼させていただきます。…まだまだ、しなければならないことがあるので。《転移》」
「あ、まっ………行ってしまわれた……」
そこには、呆然と佇む商人だけが残された。
「お前、だから!なんでカルカ様の言うことを聞けんのだっ!」
「けっ!だから、俺が仕えるのは竜神様、それと評議国の竜王たちだけだ!」
聖王国首都:ホバンス。
その街中のある一角で、荷物を抱えて辛そうにしていた老婆の荷物を代わり持ち、魔法詠唱師が歩いていた。
ふと爆発音が聞こえてきたと思うと、都市のはるか上空で、光を放つ剣を持った聖騎士と、ドラゴンがぶつかり合っていた。
「…あれ、大丈夫なんですか?」
「あぁ、またやっているねぇ。なぁに、いつもの事さ。レメディオス様の喧嘩は。」
「あーその攻撃、向こうの平野の…そうです、マーカーをつけたあのあたりに平地する要領で放ってください…あ、丁度いいです姉様。」
「ほら、ケラルト様なんかあの喧嘩を整地に使ってらっしゃる。カルカ様は心労で一度倒れたそうですが、まぁそれ以降吹っ切れた様にお強くなられたので…」
魔法詠唱師は、ふと、南方の貴族が数人暗殺されたらしいという噂を思い出した。
「それにしても、本当に、助かりましたわぁ。荷物を奪われそうになったところを助けてもらったばかりか、運んでも貰って…」
目的地につき、家の中へ荷物を入れた。
その中で、老婆が話しかけてくる。
「いえいえ。この程度、当然のことですから…それでは、まだまだやらなきゃいけないことがあるので。」
そう言って、魔法詠唱師は去ろうとする。
「あ、ちょっとまってください。…ほら、これ。ホバンス名物聖騎士まんじゅう…まぁ、儂が勝手に作っただけだからまだまだ浸透はしとらんのですがね。ピリッと辛くて美味しいですよ?」
魔法詠唱師は、拒むこともできずに受け取った饅頭を口に含める。
味を感じられなくなった舌でも、辛さだけは感じられた様だ。
「ご馳走様でした…それでは。」
そう言って、魔法詠唱師は消えた。
魔法詠唱師は歩み続ける。
竜王国では、不死者たちとの戦いがきっかけで、ビーストマンの国と関係が改善し始めた話を、ギガントバジリスクに襲われていたところを助けた戦士から聞いた。「背中合わせて戦った奴と、殺し合うってのもそんな気分になれなくてな」と、言うビーストマンにビーストマンの国では出会った。
魔法詠唱師は、世界中を回った。
そんな中で、いつしか奇妙な噂が生まれて行った。急に現れては名も名乗らずに、助けを求める人を手助けしては消えてゆく謎のマジックキャスターの噂が。
その中で、極東の竜神が治める国へ辿り着いたかもしれない。
南の、天空都市にたどり着いたかもしれない。遥か彼方の、放棄された海上都市の残骸を発見したかもしれない。
そんな中でも魔法詠唱師は歩き続けた。
自分の古巣がついに崩壊したという噂を聞いても、とある国に妙に回復魔法に精通した犬頭の神官の噂を聞いても、歩き続けた。
その胸は、常に刺す様な罪悪感と、狂いそうなほどの後悔で満たされていた。
それでも、この体が死ぬことは許されなかった。
そうやって、歩き続けて、歩き続けて。
100年が経った。世界に何かが起きた。
200年が経った。世界に何かが起きた。
そうやって、世界が回っていくのを見続けて。
時には世界の破壊者と戦うこともあって。
幾万もの命を救って、幾百の時を越えて。摩耗した記憶を頼りに、歩き続けた。
そして、長い、長い時が流れて。
一人の、人間と出会った。
造形は違えど、何処かで見たことのある軍服をきて、帽子を被った人間と。
別人と分かっていても、どこか懐かしくて、似た雰囲気を纏っていて。
「んん!どうか、しましたかっ!」
膝から崩れ落ちた私の腕に、手が差し伸べられる。
「あ、あぁ…あぁ!」
視界がぼやける。
思わず、その手を取った。摩耗した記憶でも、思い出せるその名前は──
最後に、救いは訪れたのかもしれない。
感想、評価などありがとうございます!励みになります!
無事、ここまで辿り着いた…難しかった、そして、よくここまで続けれたな…これも全て、ひとえに読者の皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございました…!
ちなみに、現時点でのツアーのレベルは大体160ぐらいになります。
ただ、この作品だと100レベル以降はレベル差によるダメージ減衰とかがほとんど無くなるからカンストプレイヤーからすると40レベルと100レベルが戦った時ほどの絶望感は無い。それでも間違いなくワールドエネミー級以上。
ただし、あの戦闘は、(特に最後の鎧戦闘)は、一人でもAOGのギルメンがいたら負けていました。それぐらい紙一重の戦いでした。
重ね重ね、本当にここまでありがとうございました!あ、最終回な雰囲気出していますが、まだもう少しだけ続きます。
ただ、それは2月中に出せるか分からないです…申し訳ありません。