─これは、最も有名で、そして最も嫌われた英雄譚。
「「『次元断切』」」「『大威徳明王撃』」「『小災厄』」「《魔法三重最強化・内部爆発》」
ツアーの体を世界を断つ一撃が切り裂き、明王の一撃が叩き、凡そ人の身では耐えられないような魔力の奔流に飲まれる。
しかし、白金の竜王は倒れない。全身に激痛が走っているはずなのに、その力は一片も衰えることなく、この場にいる四人のプレイヤー─全員がプレイヤーの頂点たるワールドチャンピオン─と、100レベルNPCの集団を相手にその圧倒的な力を振るう。
─それは、魔神を討伐する勇者たちの輝かしい物語でも、さまざまなマジックアイテムを制作し、大陸中に影響を与えた賢者の功績を称えた伝記でも無い。
ましてや、世界を支配する邪悪な竜王を八人の英雄が討伐する伝説でも、世界を我が物にしようとした八人の大罪人を偉大なる竜神が討ち倒す伝説でも無い。
「《魔法三重最強化・神炎》『二光連斬』『五連空斬』『神技一閃』『ドラゴンブレス《浄化》』」
悪を断ずる裁きの炎が、竜の鋭爪から放たれる斬撃が、竜の最大の切り札たる浄化の光を纏った吐息が戦場を撫でる。
あらゆる防御手段を、その圧倒的な威力で捩じ伏せる。同じ竜王相手であれば大半がこの一撃で死していただろう。しかし彼らは誰一人欠けることなく立っている。
それどころか、攻撃を全身で喰らいつつ、反撃してくる者さえいた。
「『金剛夜叉明王撃』ッ!」
雷撃が鎧の上からツアーの肉体に流れる。
─それぞれがそれぞれの正義を掲げ、互いに己の守りたいモノのために戦った、つまらないストーリー。
後の世の吟遊詩人は皆口を揃えて言う。過去の人間は何故わざわざこんな面白くもない神話を作ったのか。そして冒険者は気付く。これは神話でも何でもなく、実際にあった物語なのだと。
十三英雄の時代よりさらに三百年前、現在の人間の生存領域にて、人智を超えた戦いが繰り広げられた事を示すように、削れた山が、平地に急に現れた全長数キロの亀裂が、溶解し硝子化した大地が今も残っている。
竜が咆える。
友に手を出した大罪人を絶対に許さないと。この身が朽ち果てようと必ず代償を払わせると。
私たちの領地には手を出させないと。それが異形であれ亜人であれ人であれ、大切なモノは全てこの手で守ってみせると。
王者が吼える。
竜を殺し、異形を殺し、亜人を殺し。どんな代償を払っても、その手を悪事に染めてでも、人の世をこの世界に打ち建てると。
人間種を繁栄させてみせると。大切なモノのために戦いに勝利してみせると。
千の矢が放たれ、人智を超えた術が荒れ狂い、剣戟の嵐は止むことがない。
結局のところ、圧倒的な力を持つ竜神も、プレイヤーの頂点に君臨した人間も、本質は変わらない。
戦いは、どちらかが死ぬまで終わらない。
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side.ワールドチャンピオン・アースガルズ
「(こりゃあ、不味いなぁ)」
後に八欲王と呼ばれることになる集団のリーダー、『ワールドチャンピオン・アースガルズ』は恐怖していた。
少し前に戦った、数百の竜の集団よりも、たった数匹の竜の方が恐ろしい。あの七彩に包まれた竜王が、何重にも重ねられた装甲板を纏った白金の竜神が恐ろしい。
たったの2体、全員で押し潰してしまえる、筈だった。
しかし彼らを倒せない。最強の一撃を放っても、レベル80近くまで弱体化した状態では大したダメージにならない。カンストプレイヤーでさえ耐えられないであろうNPCたちの全力の一撃を何度食らっても起き上がる。
多少の犠牲は黙認して、さっさと帰還しておくべきだったか、そう後悔する。
二つの世界級アイテムを所持した熾天使。アレの持つ聖者殺しの槍と傾城傾国は共に誰かが喰らえばその時点で致命的な崩壊が起きるのは確実。そのためワールドチャンピオンの防御スキルで様子を見つつ、少しづつダメージを蓄積させて倒そうとした。だがそのせいでスルシャーナのスキルを食らってNPCは数体倒されてしまったし、時間を稼がれて援軍が到着してしまった。
しかも肝心のスルシャーナ抹殺はギリギリの所で防がれてしまったし、熾天使は気づいたら居なくなっている。
1番の目的である、財宝の強奪は完了した。2番目の目的であるスルシャーナ抹殺は失敗してしまったが、もうこれ以上戦いにこだわる必要はない。ギルド拠点から迎撃すれば、あの竜神だって討伐できる自信がある。
しかし戦場からの離脱が出来ない。どうしても一手足りない。竜王の集団に戦いを挑む前にこいつを殺しておくべきだった、本拠地の防衛の人員は最低限にしておくべきだった、スルシャーナ抹殺は諦めて財宝だけ持ってさっさと逃げるべきだった。後悔が浮かんでは消えて行く。
あぁ、駄目だ。またNPCが一人死んだ。
このままだと全滅する。
陽動に向かっていたワールドチャンピオン・ヴァナヘイムは、蘇生アイテムを持っていたはずなのに蘇っていないそうだ。反応は『聖者殺しの槍』によって完全消滅させられた時と同じ。おそらく、この竜は理不尽なことに、殺した相手を完全抹消する能力でも持っているのだろう。
─ここで全滅すれば、何も残らない。何も残せない。何も守れない。
ギルドマスターである『ワールドチャンピオン・アースガルズ』は、自分が何をするべきか考える。
ギルドマスターとして、なんとしても仲間は全員この場から逃したい。自分が消えることになっても。
そこで、自分が持っていた超希少アーティファクトのことを思い出す。
そのアイテムの名は『大欲の種子』。そのアイテムは、使用することで自分の能力を一時的にダンジョンボス級まで底上げする。七大罪のワールドアイテムの劣化版。
そのアイテムを使えばこの場から皆を逃すことができる。
しかし、それをすれば俺は、
デメリットがあまりにも大きすぎて、ユグドラシルでは終ぞ使われることのなかったアイテム。
それを、俺は、躊躇なく自分の心臓へ突き刺した。
「全員、生きて帰れよ…!」
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side.ツァインドルクス=ヴァイシオン
何故だ、何故そんなことができる!
魂を理解する竜王であるからわかる。あの、心臓に何かを突き刺し異形と化した男。その魂は崩壊を始めている。
もしあの状態で殺されれば、私が手を下すまでもなく魂が消滅し、二度と蘇生できなくなるだろう。
それなのに、自分の身を盾にして仲間を逃している。自分の命なぞ惜しくは無い、そう言っているように。
何度でも蘇ることが出来るから。死を越えることが出来るから。だからあそこまで傲慢になれるのだと思っていた。
だからあそこまで残酷になれるのだと思っていた。自分を神と勘違いした愚か者としか思っていなかった。
だが、あの男の目には覚悟の光が灯っていた。
そんな目をできるのなら、何故、何故こんな事をした!竜王の時代を終わらせたいだけなら、ただ竜王を殺せばいいだけなのに、何故非力な亜人や異形を殺した!何故平和に過ごしていた者たちにも手を出した!
ああそうか
彼らにも、守りたいものがあったと言うことか。
ああ。
いいだろう。
もうやめだ。
私は、今この一瞬は、人の心を捨てよう。竜となって、どこまでも傲慢な竜王となって、フェルンオストの領主として成すべき事を成そう。竜帝の子として成すべき事を成そう。
守りたいものがある?知ったことか!
どうして私がお前らの都合に付き合わなくちゃいけない!
私も、守りたいものがある。私も、守らなくてはならないものがある。
それに手を出した時点で、この結末は決まっていたんだ。
その覚悟ごと、全員消し去ってやる。
「─穿て『始原の魔法・■■■■■の一撃』」
それはあらゆる魔法を超えた至高の一撃。
轟音と灼熱、閃光が空間を埋め尽くす。それは奇しくも別の世界において科学がたどり着いた極地の爆弾と酷似していた。
生み出された衝撃波は大地を捲り、舞い上がった土砂はキノコの形を空に描く。
毒々しいほど白い光は、終幕を告げる。
壊れた大地の中、立つのは異形にその身を堕とした王者と、その心を竜へと落とした竜の王。
「「ああ、消えろ消えろ目障りだ。「人の「竜の王よ。ここはお前のいていい世界では無い!」」
109597日目
結論から言うと、スレイン法国を攻めていたプレイヤーのうち、二人には逃げられてしまった。しかも陽動に来ていたプレイヤーの魂にも逃げられてしまった。
私は、竜王としては不完全な存在である。
その為、魂を捉えたとしても、その魂が強力な─難度250以上の魂であれば、すぐに無垢な、自分のものにすることはできない。一回咀嚼する必要がある。その為、理論上は咀嚼するまでの間に脱出すれば復活は可能。
ほぼ不可能に近いが、あの男、八王のリーダーの攻撃と、NPCたちの魂が暴れ回ったことにより、脱出して逃げられてしまった。その代わりNPCの魂は砕けたが。
己の魂と引き換えに己の主人を逃すとは。見上げた忠義心だな。
そして、スルシャーナ…スルシャーナだが…最善は尽くした。死なせずに済むことができた。
魂は、生きていた。会話が出来るほどには。
八王と戦い、魂が成長した今の私であれば、魂を肉体に戻して蘇生することが出来る。だから蘇生しようとしたが、肝心の肉体が崩壊していた。一度は諦めかけた。あと数分で彼の魂は消滅してしまう所だったから。
ポッターでも、消滅したアンデッドの肉体は再生させることが出来ない。あの時の全てが崩れ落ちる感覚は二度と忘れられないだろう。
ふと横を見たら、戦いの中で召喚してたまたま生き残っていた指輪の戦乙女がいた。
スルシャーナに、「肉体は変質して、より辛い思いをするかもしれない」と言ったが、スルシャーナは、蘇ってスレイン法国を守り続けたいと言った。つまり同意の元だ。駄目だ上手く文章が纏まらない。
何が言いたいのかと言うと、その、スルシャーナが憑依TS転生した。スルシャーナが戦乙女になった。
今スルシャーナは隣で美味しそうにご飯を食べている。骨の体では食べられなかったからその分バクバク食べている。
その、うん。うん。ごめんなさい。私はスルシャーナが死ぬのに耐えられなかった。
私のことを許さなくてもいい。
ちょ、ちょっとスルシャーナ私の頭を撫でるんじゃ無い!お願いだから、私を許さないでくれ。
109599日目
決戦だ。八王か、私たちか。どちらかが絶滅するまで戦いは終わらない。
それは私だけの認識ではなく、向こうもそう思っているだろう。
あの戦いでわかった。普通に戦っていてはまた倒し切れない、もしくは負ける可能性がある。
少しでも戦力を強化する。
巣の中に乱雑に置かれている周囲の魔力を吸って生まれたマジックアイテム。これら異世界には存在しないマジックアイテムを全て有効活用する。
あらゆる防御を貫く刃《剃刀の刃》。致命の一撃や、あらゆる異常状態、時間停止を無効化する鎧《守護の鎧》など、それらのアイテムを使って新しい移動鎧を作成。
それだけでなく、今までは大した効果もないからと装備していなかった指輪を全て装備していく。
異世界の指輪とは違い、魔力を吸って生まれた指輪は全ての指に装備可能だ。少しでも能力値を上げて、勝率を高める。
それでも勝ちきれるかは分からない。
だが、それでも、いくら付いていきたいと言われても、ポッターや、スーちゃんたちを戦いに連れていきたくは無い。
私は何も失いたく無い。置いていかれたく無いんだ。
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来週は投稿お休みします
Q.ある意味性転換の反対票が多かったらどうなってた?
A.スルシャーナが死んでツアーがケツイガンギマリになってた
これ性転換タグ必要だよなぁ…
ここから先は蛇足
ツァインドルクス=ヴァイシオン
tsaindorcus vaision
住居─フェルンオスト内部の洞窟迷宮
誕生日─星の降る夜
趣味─友人と語らい、領地内を散歩すること。修行をすること。
種族レベル
職業レベル
ホーリーロード -10lv
ホーリーナイト -8lv
ホリー・バニッシャー -5lv
力の信奉者 -5lv
ミューテッド・プリミティブキャスター -7lv
オーバードドラゴン -7lv
ワールドコネクター -5lv
ソウル・サクセサー -6lv 他 計73lv
種族レベル+職業レベル 計128lv
128レベル。100を超えるレベルはチートに感じるかもしれないが、ツアーは「ボスエネミー」扱いなので実際は100レベルプレイヤーがしっかりと対策をしてパーティを組んで挑めば勝てなくも無い。ワールドエネミーよりは弱い。
これは余談だが、先日原作世界の竜帝がレベル100を超えていることが確定した。
そもそもオンラインゲームにおいて、ボスエネミーがプレイヤーの最大レベルを超えていることは少なくない。そう言ったボスと同系列だと思えばいい。
ユグドラシルにおいて、ボスモンスターは「取り巻きが多い代わりにHPはせいぜいプレイヤーの数倍程度」のパターンとボス単体で出す代わりにプレイヤーとは違うさまざまな面でプレイヤーとは違った能力を与えられるパターンがあるが、憑依ツアーは7:3で前者寄りである。
ホリーパニッシャーは、web版によるとモモンガの天敵と呼べる対アンデッド最高の魔法職。
ミューテッド・プリミティブキャスターとなっているが、これは通常のプリミティブキャスターとは本質的に違う変異した存在であることを表している。始原の魔法の強化倍率は下がったが、位階魔法へもバフが乗るようになっている。
力の信奉者はオリ職業。回復、蘇生魔法の使用不可の代わりに、魔法威力上昇、本来なら習得不可な魔法やスキルの習得が可能。何の神も信仰せずに70レベル以上まであげた上で習得可能なため存在に気づくプレイヤーが少なかった上に、デメリットが大きすぎる為ユグドラシルでは地雷職業扱いされていた。
原作ツアーは「ソウルアドラー」だったが、憑依ツアーは「ソウル・サクセサー」。つまり魂の継承者になっている。他の竜王と比べて魂を強制簒奪する能力は圧倒的に低く、戦いで奪ったものですら一度咀嚼しなければ自分のものにはできない。そのかわり魂を憑依させたり、会話したり、継承する能力に特化している。