巨蟲列島   作:ダーク・シリウス

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大脱出

漁港のドックに戻り船の修理は間もなく終わるところだったが、ラジオの放送で辰野神島に嵐が来ると知った。嵐の中での出航は危険すぎるという事で、明日に持ち越しになったおれ達は嵐が過ぎるのを待った。

 

「最後の晩飯だ。悔いが無いよう食べろよ坊主達」

 

「言い方!」

 

巡視船から持ってきた食料を食べ、ドックの中で一夜を過ごす。それだけのことなのに、同じ屋根の下にいる男女いると何も起きないはずがないことを知らなかった。

 

「なぁDさんよ。あんた彼女はいないのかよ」

 

「・・・・・いない」

 

「へぇ、じゃあフリーなんだ? それなら好きな女のタイプとかあるのか?」

 

今まで話もろくにしなかった相手から身を寄せてきながら話し掛けられた。

 

「ちょっと美鈴さん、Dさんにくっつかないでください! Dさんが困っています!」

 

「この無表情の顔を見て何で困っていると解るんだよ」

 

「うぐっ、と、とにかく離れなさい!」

 

「そうだね。もしもの場合、カニとか蟲の襲撃の対応にDさんが遅れるよ。離れようよ」

 

「ワンダもかよ。話を聞いているだけだろ? 第一くっつくってのはこうして密着することだぜ」

 

美鈴が両腕を俺の首に回して体を押し付けた。騒ぐ二人の声が聞こえ、抱き着いてきた美鈴が訝しい顔になった。

 

「・・・少しも反応しないとか、あんた性欲とかないのかよ」

 

「・・・・・? 興奮する要素が解らない」

 

「いやいや、女に抱き着かれて男が黙るはずないだろって話だよ」

 

そういうものなのか? 男性陣の甲斐達に振り返る。

 

「・・・・・男は女に抱き着かれて嬉しいもの?」

 

「そりゃ人によるっしょ」

 

「身体のスタイルがイイ女だったら誰でも喜ぶぜ」

 

「右の相棒と同じく」

 

「ぼ、僕は推しのアイドルと手を繋ぐだけでも・・・・・」

 

「もう特定してるじゃんかよ」

 

「・・・・・」

 

「その通りだよ~」

 

なら逆はどうなのかと織部睦美等、女性陣に訪ねると。

 

「え、えと・・・男性は苦手ですので」

 

「恋愛対象がいないからわからないわ」

 

「委員長に同じく。というか別の意味で抱いてるし抱かれてるしな」

 

「知らない人でも知ってる人でも恥ずかしいかな」

 

「私も・・・・・」

 

「私は彼氏いるから、彼氏とだったら嬉しいかな」

 

「私もわかりません」

 

「好きな人だったならば、誰でも嬉しいのと安心するのでは?」

 

「その通りですね」

 

訊いてもよくわからないと首を捻る。

 

「というか、お前彼氏いたのかよ。相手は同じ学校のやつか?」

 

「ひ、秘密で! そもそもDさんは歳とか幾つなんですか?」

 

「・・・・・16」

 

「嘘、同い年じゃない!」

 

「えええ~・・・・・? それであんなに強いってどういうこと?」

 

「・・・・・秘密」

 

「じゃあ、好きな食べ物は?」

 

空間の収納庫から取り出すアップルパイ。

 

「・・・・・これ」

 

「どこから出したのかは突っ込んでいいかしら。というか、食べられるの?」

 

もちろん。実際に食べて見せる。自然と身体が小さく頭と腰からキツネの耳と九つの尻尾が生えちゃうけど、アップルパイが美味しいからしょうがない。笑顔になるのもしょうがない。

 

「か、可愛いっ!?」

 

「待って! なんでそうなっちゃうの!?」

 

「人は身体を小さくできるんだっけ・・・・・」

 

「初めて笑ってるところ見たぞ」

 

「ええと、本物?」

 

伊織が尻尾を指して訊くから伸ばして触らす。両手で確かめる伊織は驚嘆の息を吐いた。

 

「ふわふわのもこもこ! 干したての布団なんか目じゃない柔らかさと温かさだこれ! はー・・・・・いい匂い、抱き枕に顔を埋めて寝てみたいよ。うん、僕は今夜この尻尾を抱いて寝るね」

 

と、伊織の食レポ並の感想を言うものだから織部睦美達の好奇心を擽らせた。

 

十数分後・・・・・。

 

揉みくちゃに触られて毛並みがボサボサ・・・・・。櫛で一本一本毛並みを整えなくちゃいけなくなった。京介の膝の上に乗せてもらっている間にも無雲達までもが触ってくる。

 

「おんしの身体はどうなっとるんや?」

 

「・・・・・秘密」

 

「すごーい、動物のキツネの尻尾もこんな感じなのかな?」

 

「とんでもない体験をしとるんのは間違いない」

 

珍獣扱いされ、無遠慮に触られる。・・・・・あいつらから避難した意味がないっ。

 

「・・・・・質問。次の島に避難。その後は?」

 

「まずはこの島の危険を訴えるんのが始まりやな」

 

「・・・・・口だけ、信用されないのが人である」

 

「化け虫の死骸を見せつければええんや!」

 

「・・・・・避難先、衣食住、宛ある?」

 

「ないけど、でも、この島から一刻も早く脱出せなあかんのは知っとるだろ」

 

「そうやそうや! 場合によっちゃ次の島のモンから奪えばーーー!」

 

「・・・・・それ、信用されなくなる。外から来た俺達が」

 

「そうだな。俺達はそんなことをするつもりはない。この島から化け虫どもを完全に駆除しない限りは数日前までの平和が取り戻せない」

 

協力はできる限りしよう。でも、最後まではできないかもしれない。そんな予感がする。・・・・・この気配は。

 

「・・・・・ドックの明かり、外に漏れる?」

 

「完全密閉してればそないなことはない。唯一の出入り口もあそこのみや。なんでや?」

 

外を透視の魔法で見たら、大きな変なのが歩いていた。

 

「・・・・・変なのがいる」

 

「変なの? 蟲?」

 

「・・・・・カマキリと合体したようなエビ」

 

「なんやそれ」

 

判らない。だから全員を一ヶ所に集まってもらい何時襲撃されてもいい態勢を構える。織部睦美にも外にいた変なのの特徴を教える。その最中に鏡が思い出した風に言う。

 

「カマキリみたいなエビ・・・・・あ、シャコやないか?」

 

「シャコ、ですか?」

 

「せや。たまーに網に掛かったり海に潜れば見掛けることがあるんよ。・・・カニの甲羅や貝をパンチで砕く方もおるやけど」

 

「・・・・・巨体化したそれ、全員を守れる自信ない」

 

愕然の表情する織部睦美達。見付からなければ問題ないということで、息を潜めて静かに眠りについた。寝ずの番は俺とおやっさんが自然とするようになった。理由は警戒心が解けないからだ。

 

AM7:30

 

台風が過ぎた。極力ドックの扉を開ける音を立てないようにし、周囲を警戒しつつ見回す。近くに虫も甲殻類の水生生物がいないことがわかると、漁船を押し出すため扉を大きく開ける合図を出す。

 

「下総と婆婆と爺爺、ガキ共は先に乗れ!」

 

京介の指示に船に乗る老人と子供と操舵者。船は全員で押し出し、海へ着水させることまで無事に終えた。甲斐達も巡視船に乗り込む。全員、甲板で待機してもらっている。

 

「よし、俺達も急いで船に―――」

 

「待ってください! ヤンマが海上の空に飛んでいるときは船の速度は必ず落としてください! Dさんもお願いします!」

 

「・・・・・理由は?」

 

「ヤンマのテリトリーに侵入したと思われ、それが動いているものは同じヤンマ以外はエサだと認識するんです。追いかけられて船の速度を上げると、逆に襲ってくれと言っているものでヤンマはどこまでも追いかけてきます。そして、この漁船と巡視船の速度よりヤンマの方が速いので逃げ切ることはできません」

 

「じゃあどうすりゃいいんだ」

 

「漁船だけなら速度を落として、身体を隠すことで船自体が海に浮かぶ漂流物と認識します。ですが漁船を隠せる巡視船と一緒なら、巡視船の陰に隠れて同じ速度で進めば大丈夫かと思います」

 

顔を見合わせ頷きあった京介が漁船に乗り込んだ時、甲板からアイドルが声をあげた。

 

「あ、見て! 巡視船と同じ船がこっちに来る!」

 

「嵐が過ぎるのを待っていたのは俺達だけじゃなさそうだな」

 

港の向こうから別の巡視船がまだ離れているが、こっちに近づいてきている。本当に来るとは・・・・・これで俺もお役御免―――。

 

ドゴンッ!!!

 

『っ!!?』

 

数百メートルも離れたところでこっちに来る巡視船が激しく揺れた。船底に何かとぶつかった・・・・・?

 

「え、嘘・・・沈んじゃっていない?」

 

「まさか、そんなことないって!」

 

だが、甲板から乗組員と思われる大勢の人達が海へ飛び降りたり、救命艇を降ろしていたりしている。・・・・・どうなっている?

 

「こっちに避難してくるのよね」

 

「そんなことより、あの辺りに岩礁とかあるのかよ?」

 

「いや、ないっ! あったとしても高くは―――」

 

救命艇が真下から何かに押し上げられた形でぶっ飛ぶ。というか、船底に穴が開いてるほど凹んでいたような。

 

「Dさん、何かいますか?」

 

「・・・・・探るまでもない。出てきた」

 

沈みかけてる巡視船に乗り、その姿を見せつけてくれた。

 

「シャ、シャコや。それも・・・っ!!」

 

「カブトより大きい・・・!!」

 

シャコという海に棲む生き物らしい。カタツムリみたいに頭から離れた二つの眼が海面を泳いでいる人間達を見下ろし、カマキリのように折り畳んでいた腕がブレた刹那、人間の身体が易々と貫かれた。

 

「ひ、人を食べてるっ・・・!」

 

「シャコの腕の動きが全く見れんかったけど、あの腕を見る限り獲物を刺して捕食する方みたいやな」

 

「・・・・・食べられる?」

 

「あんだけデカいんなら、結構な量の身が食えるはず・・・ってそんなこといっとる場合やな! これからどうする!? あんなんいたら船を出せへん!」

 

どうするも何も・・・倒す以外他ない。海に落ちた乗組員達もシャコに追いかけられて―――串刺しにされ喰われて全滅した。

 

「は?」

 

漁船が出航し出した。この状況で独断で動くのは命の危険に繋がるというのに、操縦している下総という男は漁港から船の速度を上げて離れていく。京介たちが泡を食う。・・・・・否、京介がいつの間にかいなくなっている。

 

「お、おんしらぁっ!!」

 

当然、シャコも動く漁船に気付かない筈がない。海に潜って姿が見えなくなったシャコの移動速度が思った以上に速かったか、目の前に現れて自ら壁となって進む漁船を阻む。そしてカマキリのカマのような前脚を素早く伸ばそうとしたところで空から無数のヤンマが。シャコは漁船からヤンマに意識を変えて前脚を伸ばした。そのおかげで漁船は迂回出来てシャコから離れるも・・・・・。

 

「トンボが戻ってきておったっ!?」

 

「下総達が乗っとる船にも追いかけておる!!」

 

「ダメです!! スピードを上げたらダメッ!!」

 

「あんのバカ!! 睦美さんの話を聞いとらんのか!?」

 

実際にヤンマが船を追いかける様子を見て、織部睦美の説明を訊いても不思議に思う。あ、ヤンマとぶつかって転覆した。

 

「Dさん、何とかなりませんかっ!?」

 

「・・・・・」

 

織部睦美の懇願よりも別の方を見ていた。この漁港に続く道に海から出て来たもう一匹のシャコが現れたからだ。そっちの方にもヤンマが向かい、シャコを襲う。

 

「こっちにもシャコが出て来た!!」

 

「急いで船に乗り込むんや!」

 

自分の身の安全と命が何より優先。故に織部睦美達を優先して守らないといけない。

 

「・・・・・船に乗る。シャコとトンボ、お互い夢中になってる」

 

「わかりましたっ!」

 

最後に俺達も船に乗り込み、全員が乗船してることを確認すると船を動かして出航。そして上空に広大な魔方陣を展開―――そこから雨のように雷を落としてヤンマとシャコに攻撃する。倒した海の方のシャコを持ち帰るため巡視船の錨で巻き付かせてそのまま引きずる。ヤンマも粗方倒したから空の魔方陣も消したが。

 

「睦美ちゃん、新たなトンボが来るっス!」

 

「これをヤンマに投げて!」

 

織部睦美がドックで皆と作製していた何かの紐で結んだ黒い長靴を甲斐に投げた。受け取り指示通りに長靴を大きく振り回して俺達の真上に飛ぶヤンマへ投げると、自ら投げ飛ばした長靴に近づき脚で捕らえたヤンマの身体にもう片方の長靴に繋がった紐が翅に絡まり胴体にも巻き付き、飛行能力が奪われたも当然の結果で艦橋のところに落ちて来た。

 

「・・・・・これがトンボを捕まえる方法?」

 

「はい! 光る物、回転する物にトンボの仲間は反応するんです。トンボ釣り、というものです」

 

あれだけで巨大なトンボを連れるのはなんだか面白い。

 

「ま、待ってくれぇぇ!!」

 

海から声が聞こえてくる。甲板から見下ろすと浮かんでいるヤンマの死骸の傍で散らばってる漁船の積み荷に、こっちに顔を上げてしがみ付いている京介たちがいた。・・・・・人の贓物らしき物と赤く染まった場所に。下総だけがいなくなっている。・・・・・喰われたか。

 

「京介、おんしら無事やったか!?」

 

「頼む、置いて行かないでくれっ!! 俺達を助けてくれ!!」

 

「・・・・・わかっている」

 

船から飛び降りて海面に浮かぶ。背中から十二枚の翼を生やして、奇跡的に生きていた京介たちの身体に巻き付けて巡視船の甲板へ一緒に戻る。

 

「・・・・・勝手な独断行動、命の危険、身に染みた?」

 

「あ、ああ・・・・・ほんとすまん・・・・・おんしは命の恩人だ」

 

「・・・・・助け合い、協力、大事」

 

遠ざかって行く辰野神島に振り返り、数日間を思い返す。この島にも巨大化した蟲がいるなら次の島にもいる筈だ。・・・・・次の島にいないことを祈りたいところだ。

 

「DさんDさん」

 

「・・・・・?」

 

「もしも次の島にも巨大な蟲がいたらどうするっスか?」

 

「・・・・・次の島にも水産試験場、あの名前の研究所があったら確実にいる」

 

「シンメイって名前のっスね」

 

首肯。イルカがいたあの施設の名前はシンメイだった。前の島で避難したメディカルセンターもシンメイだった。次の島にも同じ名前の施設があるなら・・・・・。

 

「・・・・・今回の全貌」

 

「食糧危機に備えて甲殻類の生き物を短期間で巨大化させる研究をシンメイが島々で行っていた。そういうことが判ったっスね」

 

「・・・・・様々、企業、関わっている可能性」

 

「あり得るっスね。となると次の島にもシンメイって企業の人達がいるとしたら、その人達に証拠を突き付けて訴えることが出来るっしょ」

 

艦橋の方へ見上げる。身体に巻き付いているものを噛み千切ろうともがいているヤンマがまだ生きている。生きた証人もとい証蟲・・・・・。皆のところへ移動する

 

「・・・・・問題」

 

「事実を受け入れてくれるかどうかっスね」

 

「それでも、私達は訴えないと駄目です」

 

「睦美ちゃん」

 

織部睦美も話に加わる。

 

「前の島と辰野島で犠牲になった人達が確かにいたんです。それを見て見ぬ振りをすれば次は自分達が蟲の餌食となり犠牲者となります。それを目の当たりにした私達が防がないと」

 

最もなことを言う彼女に異論はない。・・・・・ないが、相手がどこまで受け入れてくれるかそれ次第。相手にされないなら、巨蟲の危険を身を以って知ってもらおう。自分達が信じなかった愚かさを気付かせるために。

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