別れの時が来た。飛行機墜落事故組の学生達が本土へ向かう飛行機に乗り込み帰る。織部睦美、甲斐、アイドルを除いてだ。
「・・・・・帰らない?」
「帰ったら絶対報道陣に囲まれるし、何より事務所に戻っても居場所がないもの。もうしばらく残る」
「東京帰っても面白くないっスからね~」
「おーい、帰る前に使い捨てカメラを貰ったから全員で写真を撮ろうよ~!」
伊織がカメラを片手に集合写真を求めた。異論はない俺達は空港まで送ってくれた迫田に写真を撮ってもらう。女子が前に座り、男子が後ろに立つ形でシャッターを押された。記念写真のつもりなら・・・・・。
「・・・・・お土産、全員、手」
虚空から発現した金色の杖を掴み輝かせる。全員の手の中に光が収束、様々な形と色の宝石が彼等彼女等の手に収まった。
「こ、これ宝石?」
「・・・・・否、俺の不思議な力の一部、宿した物。念のため、お守り、肌身離さず」
金属探知機にも引っ掛からない代物。これから飛行機に乗る一行は、お守りを見て感嘆の息を吐いた後、
「テメェのことはずっと気に食わなかったが、一応礼だけは言ってやる」
「あんがとよー」
「お前のことはずっと覚えとくよ」
「真美ちゃんを守ってね!」
「今までのことを感謝する。また会える日まで楽しみに待っている」
「じゃ~ねぇ~」
「睦美のことよろしくね」
「また誰かに襲われないように守ってくれよ」
「お前もこっちに来たら守ってくれた礼に一日中抱いてやるぜ」
「本当にありがとうね! 生きて彼氏とまた会えるよ!」
「Dさん、今まで本当にお世話になりました」
「気を付けてDさん」
「また会いましょう。戻ってきたら是非私の家にご招待いたしますわ」
「あなたと別れは名残惜しいですが、Dさんと交わした約束を果たすため、生徒の皆と教師として戻ります。どうか無茶だけはしないように」
去る者残る者同士お互い別れを告げて離れた。
「Dさん、今まで撮った映像は必ず世界中の人に見せるからね! Dさんの今までを無駄なんかにさせないよ!」
最後に伊織がそう言ってくる。頷いて返して甲斐に一瞥する。
「顔バレしててもネットに流せば否が応でも世界中の人間が注目するっス。それに映っているのが俺達飛行機墜落事故の奇跡の生還者だったら無視できないっしょ。それが終えたら先生とテレビ局へ向かってもらい巨大蟲の公表をしてもらうっス。まぁ、信用してくれないのが関の山だろうけど」
何もしないよりはマシ。
「あの、迫田さん。私達が研究施設の見学って可能でしょうか?」
「天宮リーダーの許可が必要になります。もしもダメだったらごめんなさいね?」
「はい。お願いします」
私達って・・・・・こっちも含まれている? 織部睦美の要望を叶うか雨宮に連絡を取り入れようと携帯を手にした迫田が呟いた。
「それにしても東京に戻るなんてバカな連中・・・・・」
「・・・・・?」
「奇跡の生存者なんていうチャンスを捨てるなんて・・・・・」
・・・・・知名度、利益のために言っている? だとしてもそれは・・・その言葉は・・・・・。
「・・・・・今の言葉、生き残った者達への侮辱」
「え?」
「あなたは私達がどんな思いでここまでこれたのか知らないくせに、バカな連中って言わないでよ」
「俺達に対して何か企んでいるっスなら、従う気はないっスからね。特に俺達の友達や仲間にそんなこと言う人を信用と信頼しろなんて論外っス」
俺だけじゃなくしっかりと彼女の呟きを耳で拾っていた甲斐とアイドル真美。二人も非難の眼差しを向け、織部睦美はオロオロと困惑。・・・・・お前はこっち側じゃないのか。
「・・・・・今度、お前、奇跡の生還者・・・・・」
「そうっスね。一度経験したらこっちの気持ちも分かるっしょ」
「精々一人で頑張ってね。二度と行きたくないあんな島の中をひ・と・り・で」
何時でも放り込めれる。突然の神隠しにあったらどうすることも出来ないのが人間というもの・・・・・。実際は生きているが、人知れず巨大な既知の蟲に食い殺されてもしょうがない。
「ご、ごめんなさいね? 空気読めなくて・・・・・」
「み、皆さんもうその辺に・・・・・施設に戻りましょう! 夜まで準備しなくてはならないことがありますから!」
チッ! ×3
三人揃って舌打ちを迫田に向けて残し、空港まで乗って来た中型の車が停車している駐車場へ足を運ぶ。
「・・・・・蟲、襲撃、放置」
「了解っス」
「同じ目に遭えば、自分がどんな愚かなことを言ったか心からわかるでしょうしね」
アイドルの言う通り・・・・・同じ苦労は分かち合うべき。
―――シンメイ製薬海洋生物研究所
織部睦美side
研究所の見学の許可を得た私達は、メディカルセンターのところに戻り別れる迫田さんの代わりにとして、アイドルの衣装を着た女の子と迎えに来てくれた天宮さんと研究所の中を歩く。
「睦美ちゃんは彼氏がいるのぉ~?」
「いえ男の人はどちらかと言うと苦手で・・・・・」
初対面なのに照れくさくて気恥ずかしい質問をしてこられてちょっと当惑してしまう。視界の端にDさんが入ると不思議と更に恥ずかしくなった。
「ふ~ん。もったいないね。真美ちゃんは~?」
「いないわ。そう言うあなたはどうなのよ」
「もちろんいないわよ? というか男の子も女の子も好きなのよねぇ~」
「・・・・・睦美さん、この人は警戒した方がいいわ。女の子を襲う人よ」
「・・・・・護り、必要」
「睦美ちゃんって異性にも同性にも人気っスね」
甲斐さん、嬉しくないですよそんなの・・・・・。天宮さんがある扉の前に足を停めてロックが掛かっている扉なのかパスワードを入力した。すぐ傍に壁に生体研究室と書かれたプレートが掛けられてあった。
「さぁココが僕の自慢の研究室だよ」
部屋の扉が開き、雨宮さんが中へ招いてくれた。入る私達の眼には、等間隔で設けられたテーブルに置かれたパソコンとモニターに向かって座っている、白衣を着た男女の研究員の人達が大勢いた。
「ココは経営に失敗して赤字で潰れかけたラボを“全世界まんぷく計画”の為に僕が買い取ってね。優秀なスタッフがここで各所の研究成果をまとめているんだ」
「“全世界まんぷく計画”?」
「ああ、それは後で説明するよ。シオちゃん!」
手を挙げる天宮さんが呼んだ人は複数のモニターのデータを見ていた、髪がちょっとボサボサで無精ひげが伸びてる男性だった。私達を見て客人だと察した彼は席から立ち上がって自己紹介をしてくれた。
「ココの責任者をしている塩谷です」
「・・・・・塩谷、シオちゃん」
「ええまあ、リーダーにそう呼ばれてます。このラボはそのリーダーが買い取ってくれたお陰で資金のコト考えず自由に研究できる素晴らしい職場ですよ」
「・・・・・夢中」
「僕は生粋の研究者だからね~」
二人が話している他所にモニターに表示されているデータを見て、理解した。
「なるほど・・・・・外骨格を形成するキチン質は菌類から摂取させてるんですね・・・・・甲殻類が大きくなるのに一番のネックになりますから」
「ほう・・・分かるのかい?」
感心した様子の塩谷さんに振り返る。
「海にないミネラルを与えて吸収できるんですか?」
「効果抜群だよっ!甲殻類は脱皮のたびに外骨格を脱ぎ捨てるから苦労したね~~~。いくら成長速度を上げてもキチン質の摂取が間に合わなくて、粉末にした昆虫やサプリメントを与えたりしてたんだけど・・・・・」
それはさほど効果がなかったらしく、別の方法を模索していた塩谷さんは見つけたようだった。
「G県の施設が見つけてくれた菌類から摂取させるのが一番効率的だったね~~~」
G、G県・・・!?
「し・・・施設はココと辰野神島・東ノ小島だけではないんですか!?」
「ん? 島以外では今話した・・・昨年閉鎖したG県の施設くらいかな」
Dさんの予想が遠からず当たったかもしれない!!! 本土にも巨大化した蟲がいるかもしれないって!!
「リスクはっ!? 周りの環境や他の生物に与える影響は調査したんですかっ!?」
「G県の施設では家畜に甲殻類が食べてる飼料を与えたり、大きくなった甲殻類そのものを食べさせる実験もしていたけど特に影響は出なかったな~~~」
「例えば甲殻類に近い蟲が影響を受けるとかは―――」
「何か問題が出るなら、その分野の研究者が対処したらイイんじゃない?」
そ、そんな・・・・・。
「それに蟲には結びつかないと思うよ。僕達がエビを大きくするのに3年も掛かったんだ。他の生物が簡単に大きくなるんなら苦労しないよ」
「・・・・・・」
この人が研究者として出した結果は間違ってないんだと思う。だけれど、この島も含めて三つの島にシンメイ製薬の施設があって巨大化した蟲がいた。この人達が気付かない何かがきっとあるんだ。
「・・・・・3年もかかる?」
「うん、そうだよ」
「・・・・・大きいカニ、ごちそうさまでした」
「ごちそうさま? 大きいカニってどういうことだい?」
Dさんが甲斐さんを見た。甲斐さんはDさんの視線の深意に気付き、携帯を取り出して塩谷さんに近づいた。
「実は俺っチ達が東ノ小島で遭遇したシオマネキっていうカニが超デカくて・・・・・これっス」
「・・・・・こ、これはっ!? キミ、これは本当なのかい!! 本当にこのサイズのカニが東ノ小島にいるのかね!?」
「まだいると思うっスよ? 十匹以上は見ましたからねぇ~~~。その内の何匹か俺チ等が捕まえたっス。漁港に置いてきてしまった巨大なシャコもまだあると思うっス~~~」
甲斐さんの言葉に塩谷さんが凄く興奮している。
「リーダー、巨大なシャコの話は本当ですか!?」
「落ち着いてシオちゃん。そのことについて話そうと思っていたんだよ。今は仕事に頑張ってくれ」
「巨大なカニとシャコを研究させてくれるなら、もっと効率的に巨大化させる秘密が解明できるかもしれませんのに、ラボにジッとしていられませんよ!! というか、今すぐ調べないとシャコの身体を調べようがなくなってしまいます!! それでいいんですかリーダー!」
あ・・・研究者の火がついたかもしれない。
「・・・・・実は、研究所の施設の前に、あったりする」
「そうなのかい!? では見て来るよ!!」
「・・・・・案内」
塩谷さんとDさんが研究室からいなくなった。遅れて私達も向かったら本当にあのシャコと氷漬けの状態のシオマネキがあったことに驚きだけど、それ以上に塩谷さんが感動している言動が凄まじかった。
「す、すごい・・・これは本物だっ!! エビと同じく3年もかかってここまで巨大化になったのか!? 東ノ小島と辰野神島の施設はどうしてこのことを報告にあげなかったんだ!!」
「・・・・・どっちも、無人」
「無人? 一体島で何があったのかな・・・いや、今はこのシャコとカニの成長の秘密の解明が先だ。すまないが、解体に手伝ってくれないかな?」
「・・・・・夜まで」
「他の研究者の手も欲しいな。ちょっと呼んでくるから待っててほしい」
それからDさんは本当に手伝わされ、集められた研究室にいた人達も目の前の実物を見せられて大変興味を持ってしまい仕事どころではなくなった。
「鮮度はもう落ちている! 今のうち出来るだけ調べなくちゃ!」
「これほどまでに巨大化を。この大きさを維持するために一体どれだけ海の生物をエサにしたんだ」
「甲殻の硬さはもう鉄並みかそれ以上です。かつ巨体ならコンクリートの建物すら破壊できてしまうでしょう」
「うわっ!? なんだこの黒いのは!!」
「・・・・・ヒル」
「ヒルだって!? このカニに寄生していたのかっ!?」
「蟲も巨大化する可能性が・・・・・?」
天宮さんもこれには止められない。“全世界まんぷく計画”・・・・甲殻類を巨大化させて世界中で飢えている人たちに食べさせる。後に天宮さんが語ってくれた大きなプロジェクトの為になるなら尚更だ。
涼子side
「お父さん、本部が辰野神島に向かった巡視船からの音信不通の原因を調査に乗り込むそうです。私達も帰投の命が下されました」
「やっとか。対応が遅すぎるなぁ」
「あの化け物並みのシャコを見てどう受け止めるだろうかねおやっさん」
「ありのまま受け入れるしかないだろうよ。俺達は巨大なカニより大きい蟲も見たんだぜ?」
飛行機墜落事故の生存者である子供達の事も本部に伝えてある。私達も飛行機に乗るべきなのだろううけれど、まだ織部さん達が残っている以上は離れるわけにもいかない。・・・・・私達が出来る事なんてたかが知れているでしょうけれども。
「辰野神島の連中は?」
「漁港で実物を交えて記者の人等と話している頃の筈だ。坊主の行動力には驚かされるが、将来同じ猟友会の一員になったら俺を超えるだろうな」
「そりゃあ頼もしすぎて、日本から熊が狩り尽くされて絶滅しちまうんじゃないかおやっさん」
「おっと、そいつは困るな。俺達の仕事が廃業になっちまう。手加減してもらわないと」
まったく呑気な事を言うわね・・・・・今はそれどころじゃないというのに。内心呆れていた私に、お父さんがふと思い出した風に言いだした。
「ああ、そうだ涼子。もしかすると坊主とお前は結婚させるかもしれないからな」
「そう・・・へ? えっ!? ちょっと、何でそうなるの!?」
「行く先も帰る家もなければウチで養子に引き取ろうと考えてるのさ。その際、男の気配もないお前と坊主を結婚させようと思ってんのさ」
何でそんなことになっているの、何時の間に決めていたの!? それ、あの子に言ったの!? 嘘、言ったの!? お父さんのバカ!! またこれから会うD君にどんな顔をして会えばいいのよ!! 恥ずかしいじゃない!!