―――その日の夜。
「Dさん、お待たせしました。あれ、阿部ジュリアさんもいらっしゃったんですか?」
「睦美ちゃん。これからどこ行くの? 入ったらこの子がいて二人で出かけるらしいじゃない」
「はい。メディカルセンターに行きます。ではDさん」
「・・・・・」
「何で夜にメディカルセンター? あ、もしかしてイケナイことでもするため―――いたたっ!? 顔面を掴まないで!! ごめんなさい冗談冗談だから!!」
「・・・・・ついで、来る」
「え・・・私も? 別にいいけど何をするの?」
「蟲を倒すためにです」
「蟲を倒す・・・・・?」
メディカルセンター ナースステーション
「皆さん、お待たせしました」
「「っ!!」」
織部睦美とほぼ無人のメディカルセンターにまたやってきた。道連れに阿部ジュリアも連れてきた。今夜は夜勤だった二人のナースはシミの存在を知って気が気ではなかったらしく、俺達が来るまで二人で寄り添って怯えていた。
「・・・・・異変、聞くまでもない」
「は、はい・・・さっきからガサガサって音が聞こえて・・・・・っ!!」
「本当に朝の蟲がいると分かってから怖かったです・・・!」
「え? え? ゴキブリでもいるの? 凄い音が聞こえるんだけど・・・・・」
阿部ジュリアの疑問を無視し、他に誰かいないか尋ねる。
「・・・・・他に人」
「私達以外では警備員さんだけです。ここには滅多に患者さんが来ないので」
「・・・・・案内、その前、捕獲」
阿部ジュリアの方へ振り返る。なぜ自分を見るのか不思議そうな顔をした彼女の顔に落ちたシミ。数秒後、彼女は絶叫を上げて暴れる身体を抑えてもらい、顔からシミを取った。
「い、いきなり何かが顔に―――!!」
「・・・・・これ」
「きゃああっ!? ゴキブリィー!!」
「違います、これはシミです。とにかくシミを外に出さないためにDさんが持ってきてくれたこれで」
スチームクリーナー。高温の蒸気を放出するこれなら! と言う織部睦美の頭に落ちるシミを鷲掴みする。
「・・・・・時間かかる。隙間、外に逃げる。完全閉鎖、不可?」
「・・・・・えっと完全に閉鎖したいならシャッターを下ろすことが出来ます」
「それはどこで出来ますか?」
「警備室です」
ナースの一人が教えてくれた。それからでも遅くはないと考慮した織部睦美は、まず警備室へ向かう方針を定めた時。男の悲鳴が暗いメディカルセンター中に広がった。
「い、今の声は!?」
「・・・・・こっち。阿部ジュリア、携帯動画、急ぐ、貸して」
「行きましょう!」
「「は、はいっ!!」」
警備員がいる―――二階へ駆けだす。その際、阿部ジュリアから動画状態の携帯を借り、至る所にシミが壁や天井にいて移動しながら織部睦美がスチームクリーナーで殺していく。廊下の奥まで走って行くと、黒くて大きな塊が蠢いているのと遭遇した。カメラのライトを嫌がって逃げていくシミに。
「「「いやぁあああああああっ!?」」」
「っ!!」
撮影する俺の隣で織部睦美が追い打ちを掛けるように大量のシミに向かって高温の蒸気が放出する。一定の水分、それも高温の湿度が水蒸気に包まれるシミが活動しなくなり溺れ死んでいった。
「う・・・・・うぁ・・・・・」
まだ息がある被害者の警備員は服諸共皮膚だけ食べられ、筋肉の筋が綺麗に露出している。こんな姿は中々お目に掛かれない。
「・・・・・怪我の功名、これがこの島の将来の光景」
「「「・・・っ」」」
「すぐに彼を安全な場所に・・・! いえ、施設全体にいるなら安全な場所なんて・・・・・」
焦燥に駆られる織部睦美にナースが治療室ならと言った。
「・・・・・治療室?」
「あそこなら出入り口は何時も閉ざされて、隙間は少しもありませんっ」
「・・・・・織部睦美、二手」
「わかりました。ではジュリアさんと私で施設のシャッターを閉ざします。Dさんはナースさん達と警備員さんを運んで治療室に!」
異論はない。携帯を返して警備員を背負う。踵を返して行く二人を見届け警備員が持っていたライトと、壁に掛けられていた施設の懐中電灯を彼女達に持たせる。
「・・・・・勇気、行く」
「わ、わかりましたっ」
「大丈夫、大丈夫、ライトで逃げたならきっと・・・・・っ」
織部睦美side
「ね、ねぇ・・・なんでシミは水蒸気で死んじゃうの?」
「シミは水分を必要とする昆虫なのに水が苦手なんです。だから少しの水でも溺れ死んでしまう。そしてシミは高い湿度を好みますが、湿度が90%を超える場所では病気になり易く活動を抑えられます。反対に湿度を下げれば必要な水分を吸収できなくなり死亡します」
でも、この広い施設全体にいるシミ相手にスチームクリーナー一つじゃ時間が掛かる。それにシミが人を襲うまでのサイズになっているなら他の蟲達もきっと・・・だから急がないとっ!
「じゃあ、手っ取り早く全滅させるには台風用のシャッターを閉めて、シミを外に逃がさないようにしてから施設全体のスプリンクラーを作動させて、シミを溺死させるしかないのね?」
「はい!」
それが一番の効率! ジュリアさんの案内の下、私達の皮膚を食べようと天井、壁、床から近づいてくる数十匹のシミに高温の蒸気を当てていく。何度もそうしていくと警備室に着けてすぐに扉を閉じた。
「操作できますか?」
「え、え~と・・・・・触ったことが無いから解からないけれど、やるしかないよね」
幾つものの制御装置を迷いながら動かすジュリアさんをしばらく見守り・・・・・。
『火災です! 消火を始めます』
「できたっ、睦美ちゃん!! 」
「ありがとうございますっ! Dさん達のところへ向かいましょうっ!」
きっと今頃治療室に無事で着いているはず。警備員さんの治療が終えたら脱出だ!
治療室―――。
何とか無事にシミの襲撃を受けながらも、治療に使う道具を集め辿り着けた治療室で警備員の治療が行われていた。・・・・・火災報知設備を動かしたか。織部睦美達が上手くいったようだな。
「・・・・・治療、時間」
「もうしばらく時間が掛かりますっ」
「それまであの蟲をお願いしますっ!」
筋肉が剥き出しの警備員の体に包帯が巻かれミイラ状態に。まだ全身の三分の一も満たず巻かれていないから時間が掛かるのも無理はない。
バンッ!
「Dさん!」
治療室の扉を勢い良く開け入って来た二人。俺達の様子を見て安堵の息を吐く彼女に問う。
「・・・・・首尾」
「大丈夫です。全ての窓に防風シャッターが閉じ、スプリンクラーを作動させました。まだ生きているシミもいると思いますが、下がる湿度の屋内にいる限り時期に全滅します」
理解したと首肯する。
「・・・・・警察、連絡」
「信用してくれるかわかりませんが、被害に遭った方もいますから住民の皆さんに危機感を抱いてくれるなら」
「え、ちょ、待って? 警察沙汰になったらリーダーが困るかも。明日は祭りあるし・・・・・」
「・・・・・命より祭り? 死者出たら責任取れる?」
「せ、責任って・・・! リ、リーダーに報告する!」
携帯を取り出す彼女の手を掴む。
「・・・・・蟲が人を襲う、信用してくれない。言っても無駄」
「で、でも!? 現に被害者がいるんだし!」
「・・・・・口と言葉だけで世の中思い通りになるなら戦争は起きない」
内心、虐待と暴力もだ。と付け加えて手を放す。
「・・・・・それでもする、勝手にする。結果は見えている」
「・・・・・」
阿部ジュリアは俺の言葉に逡巡しても、天宮に連絡を入れた。
「あ! リーダー! 大変なの蟲がメディカルセンターに出たの!!」
『なに? 蟲!?』
「ホント! ホントなの! 巨大な蟲がうようよと・・・・」
『ナニ言ってんだ? 暗闇で猫とか勘違いしたんじゃないのか?』
「でもでもぉ」
『ジュリア・・・・・今が大事な時だってわかってるのか? 見間違いじゃないのか!? パーティを台無しにして責任を取れるのか?』
「え、えと・・・・も・・・もう一度確認します・・・・・」
・・・・・役に立たない。使えない。ジュリアさん!? と焦る織部睦美の気持ちがわかる。
『ソコは警備員に任せて早くコッチに来なさいよ』
天宮との通信が切れた直後。無言で死骸のシミを阿部ジュリアの顔面に思いっきり投げつけた。
「・・・・・使えない。警察、報告」
「待って! リーダーにとって明日はホントに大事な日なの! 警察に連絡したら祭りが中止になっちゃうかもしれないよ!」
「・・・・・命と祭り、どっち選ぶ?」
生きている方のシミを突き出して選択を突き付ける。
「・・・・・人がいてこそ祭り。この島、シミより巨大な蟲、多数。喰われて死ぬ、祭りが出来ない。それでも祭りを選ぶ?」
「で、でもぉ・・・・・」
・・・・・話にならない。こいつに言っても無意味。織部睦美に質問。
「・・・・・祭り、人多数、巨大な人食い蟲、現れる?」
「可能性はあります。Dさん、何か考えでも?」
「・・・・・ない。いっそのこと、現実を突き付けさせる。初めて恐怖、実感させて今の島の現状、向き合わせるべき」
「し、知っていて・・・み、見殺しにする気なの?」
「・・・・・それ、今のお前。祭りが大事、今回の事件、隠せばいい。発覚、警察に連行されればいい」
織部睦美と向き合いながら阿部ジュリアに言い返す。
「・・・・・天宮、結局口だけ。何も動かないでいる」
「そう、みたいですね・・・・・どうしましょう?」
「・・・・・記者、カメラ、日本に放送」
「この島で起きる巨蟲の事件を放送するんですか? それなら確かにいろんな人たちに伝えられますね」
納得した織部睦美もおそらく起きる死者が出る祭りに、混乱した場に乗じてカメラを奪い放送する。俺の考えを察したと思う。
「・・・・・重傷者、研究所、ナースと避難」
「彼を車に乗せられる状態ではありませんね。すみませんがお二人もそれでよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫です。あの、研究所に蟲はいませんよね・・・・?」
「・・・・・大丈夫、不在」
「なら、安心して明日の朝を迎えれます」
ナース達も安堵して納得した。その後、完全に体中に包帯を巻き終えたことで警備員を台車に寝かして運び、センターから脱出。研究所の中へと避難させる。(固く閉ざされていた扉は魔法で開けた)
「・・・・・甲斐和彦とアイドル」
「二人と合流するんですね」
最後に阿部ジュリアへ振り返る。
「・・・・・お前、天宮のところ」
「な、何で?」
「・・・・・言った。口と言葉だけで世の中思い通りになるなら戦争は起きない」
彼女が持つ携帯を指す。
「・・・・・動画、見せて来る」
「っ!?」
「・・・・・それでも信用得られない。行動しないより、マシ」
それだけ言い残して直接空から織部睦美を抱えて飛ぼうとした矢先、阿部ジュリアに掴まれた。
「だったら車に乗って! 次はわたしもちゃんと話すから!」
「・・・・・信用できない。押しが弱いと見える」
「だ、大丈夫っ! 確り話をするから!」
「・・・・・今の地位、捨てる。逆らえる?」
シュンと何も言わなくなった。期待ゼロ・・・・・。
「・・・・・安全運転。絶対、したら後頭部、アイアンクロー」
「わ、わかった・・・・・」
「・・・・・甲斐、連絡、お願い」
「はい」
―――リゾートホテル 辰野大島
「真美ちゃん。睦美ちゃんから連絡っス。合流したいと」
「問題は解決したのね? でもこっからじゃ遠いわねどうしよう」
「話がしたいとか言って、未成年に不純異性交遊を持ち掛ける大人に連れて来られたのが間違いだったスね。どこか車で送ってくれる人いないっスかねぇ~。探してみるっしょ」
「それ、いいネタになるんじゃない? ホラ、こっそりとバッチリ撮っておいたから」
「さすがっスね真美ちゃん。んじゃということで俺ッチらを車に乗せてくれる人を探してほしいっスよ。じゃなきゃ、ネットに拡散させるっス」
「・・・・・わかったわ。だからお願いだからネットに上げないで、お願いだから」
「「よろしく~」」
織部睦美side
「・・・・安全運転、言った。頭の中、空っぽ。すぐに割れる?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! いたいっ、痛いから頭をぐりぐりしないでお願いだからっ!! 運転できないよぉ~っ!!」
危険なドリフト運転をしたため、即座にDさんからお仕置きを受けているジュリアさん。私も安全に運転してほしいからDさんを止めないで静観の姿勢を保つ。
「ところであの幼虫以外にも蟲はいましたか?」
「・・・・・コオロギみたいなの。頭に二本の触手、後ろ脚だけ体の倍、異様に長い、身体は小さい?」
「・・・後ろ脚が長い。跳躍する蟲、バッタの仲間だとしてコオロギみたい・・・・・カマドウマ?」
Dさんが見た蟲の特徴に当たる蟲を想像して、もしもという可能性に鞄の中からある物を二つ取り出す。安全運転してくれて速度がゆっくりな今なら・・・・・。
「・・・・・車止める」
「え、なんで?」
「・・・・・止めろ」
不意にジュリアさんにそう指示するDさんが車を止めさせた。
「どうしたんですかDさん?」
「・・・・・この先、コオロギみたいなのがいる。たくさん」
「―――カマドウマのテリトリーがこんなところに!?」
まだ夜中で車のライトでも数百メートル先までは照らせず届かない。Dさんはかなり視力が良くて夜目も利くらしい。
「さっきから睦美ちゃんが言っているのって何? 蟲?」
「そうです。バッタの仲間で獲物を探すために多くの情報を長い二本の触覚で得る蟲で、空高く跳び空から奇襲してくるんです。カマドウマが多く潜んでいるこの先に車で進もうとすれば、確実に空から奇襲されてしまいます」
ペットボトルをシャカシャカと振りながら説明口調で語る。
「なのでここから先は車から降りて静かに歩いて進む他ありません」
「え”っ 蟲がたくさんいるところを、歩いて!?」
「車の中に居たら囲まれて脱出が出来なくなります。ですが・・・・・」
Dさんを見る。Dさんと視線が合い、私が頼みたいことがあると察してくれて頷いた。
―――十分後。
何かを塗るために男の俺は車から出て待った。蟲に対して有効的な物らしく、臭い消し的な物だと教えてくれた。それを肌や服に付け終えるのを待っていると、車の扉が開いて二人が出て来た。
「お待たせしました。行きましょう」
「・・・・・ん」
「だ、大丈夫なのよね・・・・・?」
「大丈夫です。Dさんはとても強いですから」
車は放棄。壊れると分かって壊されに行く阿呆はいない。山道を徒歩で数百メートルも歩いて、気配を感じたものが道路のど真ん中にいた。
「・・・・・あれ」
「間違いないです。カマドウマです」
「ひ、ひぃ・・・本当に他の大きな蟲がいたぁ~・・・・・」
怯える安倍ジュリアと歩く織部睦美の隣から離れて、片手に持つメガホンを構える。
「・・・・・やる」
「はいっ」
音に反応して襲ってくる。織部睦美から教えてもらった情報をもとにカマドウマを倒す作戦にでる。阿部ジュリアには動画の撮影を構えてもらっている。
「・・・・・すぅ―――・・・・・」
大きく酸素を肺に溜め、腹部が膨らむ勢いで息を吸って・・・・・メガホン越しで獣以上の咆哮をした。二人が五月蝿い余りに耳を塞ぎ、目の前のカマドウマはあっという間に空高く跳躍した。道路と隣接する森の方からも気配が動き出した。
・・・・・だけどこの時は知らなかった。俺の叫びが、島の町の方にも轟いて届いてたとは。住民達が山の方から聞こえて、大きな獣か何かがいるんじゃないかと、不安を抱く人達が警察官に連絡、直接向かい殺到した。
跳躍したカマドウマがいなくなってそのあとすぐ、ヒュルヒュルと何かの音が聞こえ、それが真上からだと分かれば前へ転がりながら立っていた場所から離れた矢先、一匹のカマドウマが落ちてきた。
ヒュルヒュル・・・・・。
「・・・・・?」
まだ落ちてくる音が・・・・・。最初に落ちたカマドウマとぶつかる形で別のカマドウマが落ちてきた。それも五匹以上も立て続けに。高いところから落ちてきたからか、相手もろとも自分も衝撃に耐えきれずに砕けていく。カマドウマの死骸の山が出来上がったところで、やっと蟲が落ちてこなくなった。
「・・・・・予想以上」
「わ、私も想像以上でした・・・・・」
「み、耳がキーンとするぅ・・・・・」
こっちこっちで、俺の叫びで影響を受けていた。・・・・・ごめん。
「・・・・・歩く」
「ほ、本当に歩くのぉ~?」
「ここはカマドウマのテリトリーです。他にもたくさんいても不思議ではありません。空から奇襲されては車を止められかねないですので、今すぐここから離れないと」
そう言う彼女が見る先には洞門があった。あの高さならカマドウマの跳躍からの奇襲はできない。狭くて跳べもしないだろう。
静かにトンネルへ足を運ぶ前、死骸の山となったカマドウマを夢中に食べる他のカマドウマ等を一瞥、すぐには襲ってこない様子を見てトンネルの中へ入る。そしてすぐに天井に張り付いていたカマドウマに道を阻まれ、後ろからも俺達の気配を察知したか別の個体のカマドウマが来た。
「いやぁあああああああっ!?」
「Dさん・・・」
「・・・・・いいタイミング」
「えっ」
後ろにいたカマドウマに霧が掛かった。それが俺達の方にも広がって・・・この霧に覚えがあったところで、いきなりカマドウマが跳び上がって天井にぶつかって自滅した。しかもそのカマドウマに呼応するかのように別のカマドウマまで天井に跳び、頭を強く打って死んだ。
「こ、これって・・・・・?」
突然の出来事に理解が追い付けない。この霧の正体はスチームクリーナーが発する蒸気。車に置いてきた筈・・・・・。律儀に持ってくる助っ人に感謝。籠る蒸気から姿を見せる甲斐とアイドル、迫田と眼鏡をかけた中年の男性。
「甲斐さん!」
「二人とも、大丈夫っスかっ!?」
「ありがとうございます。助かりました!」
深々と自分達の窮地を救ってくれた甲斐に頭を下げる織部睦美。スチームクリーナーを見る俺の視線に気づく甲斐。
「途中に車が放置してあったのと、おっきな蟲がたくさんいたっスから、俺っチ達のために何か残したのないかと、思って探して見つけたんで持ってきたっスよ」
「・・・・・役立った」
迫田の方は信じられないと口許に手を当てて震えていた。朝、ヤンマ見せたのにこの反応の差は・・・?
「にしてもこのスチームクリーナーの威力凄いっスね! 一瞬でこのバケモノがのびちゃったスよ」
はたして本当にそうなのか・・・・・? 高温の蒸気に当てられて飛び跳ねたようにしか見えなかった・・・・・実際はなに?
「えっと、それは対シミ用・・・メディカルセンターにいた蟲用に使っていたものですけど・・・・・」
「え? コイツに有効な武器じゃなかったんスか!?」
「じゃあ何で効いたの!?」
害虫用スプレーの代わりになるものかと思っていたのか・・・? 甲斐とアイドルの素朴な疑問にこう答える織部睦美だった。
「た・・・多分・・・・・高温の蒸気に当てられて・・・驚いて飛び跳ねて自滅・・・・・した?」
「・・・それって、自分で天井に頭ぶつけて死んじゃったってコトっスか!?」
はい、と首肯した彼女は言い続けた。
「通常なら触覚で空間を認識して飛び跳ねないのですが、甲斐さんが高温スチームを当ててくれたから驚いて跳ねたんだと思います」
「・・・・・偶然、発生、発見、凄い」
「とにかくよかったっス」
終わりが良ければ全て良し・・・・・みたいか。洞門から日が昇る様子が窺える。
「カマドウマは昼間 暗い場所で身を潜めます。洞門に留まっていたらここに集まってくるかもしれません。早く移動しましょう」
異論、無し。
峰岸雄三side
慈善事業には興味がないんだが、文字通り身体を張った説得と勧誘されたから来てみりゃ・・・な・・・・・なんだこりゃ。本物なのかっ? こんな生き物が他にもいるとすればこりゃ大スクープだぞ。帝報新聞記者としてうだつの上がらない俺への最後のチャンスか? それとも破滅への片道切符か?
「・・・・・興味?」
「うん?」
携帯を構えて録画している俺にまだ若い少年が話しかけて来た。
「・・・・・この虫、同等、それ以上、他、多数」
言葉を区切って話をする少年の言葉に耳を疑った。他にもまだこんな生き物がいることに。
「・・・・・東ノ小島、辰野神島、たくさん」
「他の島にもいると言うのか?」
「・・・・・いる、証拠、実物、持ってる」
少年は徐に巨大な生き物の死骸を触れりゃ、たちまち凍り付いては虚空に開いた空間の穴へ入れた。俺は・・・夢でも見ているのか?