伊織side
辰野大島から飛行機に乗った僕達は無事に本土に戻ってこれた。空港に到着した僕達を先生が学校の校長先生に頼んで迎えの手配をしてくれた。僕等2学年の生徒の殆んどが飛行機事故で死んだとばかり思われていたので、迎えに来てくれた先生達は僕達を見て凄く驚いていた。学校に送られ校長先生と会い今までどう過ごして来たのか訊かれたんだけど。
「言葉だけで信用されない大変な目に遭いました」
「具体的にどんな風に?」
「教えれません。本当に話だけでは信用してくれない出来事を私達は体験したのです」
敢えて今までの出来事を誰かに打ち明けない方針を、僕達は話し合って決めた。教えたって飛行機事故で後遺症になったんだって思われるだけだから。後日、僕達の生存のことは記者会見で発表すると言って家に帰してくれた。久しぶりの我が家に両親は泣いて喜んでくれた。僕も嬉しく感じたし、元の生活が送れる幸せを噛み締めた。そして翌日―――僕はカメラを片手に迎えに来てくれた先生の車に乗って東京のテレビ局へと向かった。
「Dさん、今頃戦っていますよね先生」
「きっとそうでしょう。私達は彼に託された物を世界に知ってもらうため行動します」
「はい」
そして着いたテレビ局でアポも無しで独占取材を応じてくれる人を求めると、何時もテレビを点けると見ていたニュースの人が是非とも取材をしたいと申し出て来た。
「いやぁ、あの飛行機事故の奇跡の生存者が取材を求めて来るとは驚きでした。当局に教えて戴くこととは一体何でしょうか?」
「はい。とても人に教えても信じられないような体験をしました。しかし私達は夢でも幻でもなく、ましてや幻覚や後遺症でおかしくなったわけではない実体験をこのカメラに収め続けました」
「見てもよろしいでしょうか?」
「はい」
カメラの動画を見始めるテレビ局の人は見る見るうちに眉根を寄せた。とても信じられないと思っているだろうね。
「・・・・・拝見させてもらいましたが、色々と信じられない物が映っていました。お二人以外にも生存者もいることはわかりましたが・・・・・えっと、巨大なカニと蟲みたいな生物が人を襲う島にいたのですか?」
「東ノ小島・辰野神島でそれらと遭遇しました。信じられないのは無理もありませんが、今からでも辰野大島に向かえば確実に遭遇することができますよ。どの島にもシンメイ製薬という施設がありましたので巨大化した蟲と海の甲殻類と関りがあると思います」
「シンメイ製薬・・・ああ、確か辰野大島で養殖ニシキエビの巨大化を成功したお話はこちらも窺っております・・・・・まさかその巨大化の影響が他にも与えているのだと思われているのですか?」
「わかりません。しかし飛行機事故に遭った私達が奇跡的にも漂着したその島で、巨大な蟲やカニに襲われることも、そこに無人のシンメイ製薬会社のメディカルセンターがあるはずがありません。他にも巡視船が襲われる映像が映画か何かだと思えるんですか?」
彼はカメラの映像に目を落としてしばらく沈黙した。
「・・・にわかに信じ難い話です。巨大な蟲がこの世にいるなんて直接見ない限り誰も信用は―――」
やっぱりすぐに信用されないか。予想通りだけど何とかこの映像をテレビ局で通して他の人にも見てほしいのに・・・・・。
「―――あ、飛花錦さんここにいたんですか! 大変です、直ぐにスタジオに入ってください!」
「南さん? どうしたんですか?」
「辰野大島でとんでもないのが生放送されているんですよ!! 取材しに行った彼等が現地でその状況を伝えています!!」
「―――巨大な蟲が現れたんですか!」
僕の声に南さんという人は「誰?」的な目で見て来る。
「彼女達は飛行機事故に遭った唯一の生存者だ」
「えっ、あのっ!?」
「しかも昨日・・・辰野大島の空港から帰って来たばかりだ。聞くけどその生放送の内容は?」
「・・・・・見た目が巨大な蜂の生物が辰野大島の人達を襲っている。既に被害者が出ているとのことだ」
「「―――――」」
織部さん、甲斐くん、真美さん―――Dさん!
「わかった。すぐに行くよ。ただ、彼女達もスタジオに連れて行く。とても今回の一件と無関係ではないらしいからね話してもらう。独占取材をする」
「そうなのですか? では、知っている限りのことを教えてください」
僕達はわかりました。と告げた。それから僕達もスタジオに向かい足を運ぶ。織部さん達、待っていてね。必ず伝えるよ僕達の今までの出来事を―――!!
辰野大島―――・・・・・。
オオスズメバチが辰野大島の空を支配し始め、何も知らず外出した人々を襲い、襲われた人間は悲鳴を上げて命を奪われ肉塊にされていく。ニシキエビ祭りの様子を撮影に来たカメラマンを捕まえ、峰岸に島の状況をカメラに向かって訴えてもらう。織部睦美も交えて。
「・・・・・従え、動くな、逃げたら喰われると思え」
「ひぃっ・・・!!」
飛び交う蜂の様子を撮影。蜂の脚には人以外にも人が乗っている車まで捕まえ運んでいる。それらは全て山の方へ持って行っている。
「見てください! 辰野大島の空を支配せんとする巨大な生物が人々を襲い、どこかへ運んで行っている! あれは一体何なのか予想が出来ません! 代わりにあの生物に詳しいという先日の飛行機事故の生き残りの一人である彼女、織部睦美さんに尋ねてみます。織部さん、あの生物は一体?」
「あれはオオスズメバチです。理由は不明ですが私達人間を襲うまで巨大に成長して、今は私達をエサとして襲っているんです。ですから辰野大島の皆さんは家の中から出ないでください! 車で移動しようと車自体エサとして認識して捕獲します! まだ家の中なら外より比較的に安全です!」
織部睦美の必死の叫びはどこまで届くか不明。・・・・・ハチがこっちに来た。透明のローブで姿を隠したまま、ハチを撃退する。殺さず生かして追い払う。その際、ハチの身体に魔方陣を付与した。
「繰り返します! 家の中に避難してください! 外より安全です! オオスズメバチは朝の間にエサを集め、夜の間は殆どが巣に籠って襲わなくなります! なので朝の外出は極力しないでください!」
「ということは、私達も襲われる可能性があるのでは?」
「はい。そうです。しかしこうして命を懸けて訴えなければ! 飛行機墜落事故で、奇跡的に生き残って漂着した東ノ小島、巡視船に乗って着いた辰野神島と同様に殆どの人が蟲に襲われ死んでしまいます!!」
カメラの前で命の危険を顧みず話をしている二人を守っていた時、離れていたカメラマンがカメラを放り投げだし(地面に落ちる直前に掴み取った)逃げて行ってしまったために、動くエサとして空からの奇襲者であるオオスズメバチに捕まり、目の前で肉団子にされてしまった。その瞬間はバッチリ撮影。二人へ振り返りカメラに収める。
「峰岸さん。私達もそろそろ避難しましょう。外にいては襲ってくださいと誘っているようなものです!」
「わかった。では、私達も退避します!」
・・・・・止め方、わからない。このままでいい? すぐ近くに止めてた車に乗り込む前に・・・・・おい。
「ジュ、ジュリアさん・・・? どうして運転席に?」
「いいから早く閉めて! 飛ばすからっ! だから頭グリグリは今だけはやめてねっ!?」
「・・・・・危険運転、一部、毛髪、消失、覚悟」
「安全運転しても逃げ切れないでしょう!?」
「・・・・・同じ、安全運転、希望」
ジュリアの泣きそうな悲鳴を残して真美が訊ねてくる。
「ね、ねぇ・・・この車は大丈夫? 襲われない?」
「可能性は十分あります。なので、襲われない対策として車の天井にハチが嫌う煙を焚きます。甲斐さん、準備は」
「バッチリっスよ。いやーこの木も今や俺達のお守りみたいなものになってるスね」
窓を開けた状態で車内を通して天井に紐でくくりつけた忌避剤の効果がある煙を出すたくさんの木材を燃やす。
「・・・・・煙り、確認」
「ジュリアさん。車を出してください。この島の避難施設へ向かいます」
「わかった!」
「・・・・・ハチ、襲来」
俺達が車に乗り込み出発した時と同時にハチが来た。燃える炎と焚かれて出る煙りに、車を捕まえ辛いようで自分から距離を取った。
「おおー、本当にハチが襲ってこないスね」
「しばらくはこれで凌げます。が、外に出れば危険なので警戒して行きましょう」
煙をたなびかせながら走る車に乗る俺達は、ハチや他の蟲の出現の可能性に警戒する。安全運転で着いた辰野大島の避難所はドーム型の公民館。コンクリートで出来ていて、多少の蟲の襲撃なら耐えれそうな強度が窺える。・・・・・でも、出入り口の方はそうではなく。
「・・・・・人の気配、無い」
解放されている出入り口の前に立ち止まり、朝なのに中は真っ暗な公民館の中に疑問。偵察に俺が降りて中に入ると、この状況で避難していない人間の不在にあり得ない。報告に車へ戻り織部睦美達に告げた。
「・・・・・どうする」
「・・・・・入りましょう。蟲がいるのかもしれません。調べないとここに避難する人達が犠牲者になってしまいます」
最初に降りる織部睦美に続き・・・・・。
「その前に施設の電灯を点けないとね~。ああも暗いと見え辛くて襲われるっス」
「念のためにコレ持って行きましょ」
「キミ達、随分と逞しいな・・・・・」
「ア、アタシは車の中に残っていようかな~?」
「わ、私も・・・・・」
「睦美ちゃん達の手伝いをする。それに一緒におれば車の中より安全や」
降りて煙を出している赤松の根の松明と物々しい銃を所持する甲斐と真美、葵。
「・・・・・頼んでいた物」
「あるっスよ。でも、用意できたのは3つしか」
無いよりマシだ。何かの液体が入っている瓶に布を突っ込んだそれを、甲斐から受け取る。
「・・・・・俺も行こう」
「峰岸さん!?」
「まだ若い子供達が身体を張っているのに、大人が身体を張らずに隠れていられない。なんて建前を言うが、実際は年甲斐もなく俺は記者としてこの状況に立ち会いたいと思っている」
「・・・・・記者魂」
「ふっ、そんな大層な物はもうないさ」
同行者は6人。暗い公民館の中へ警戒と緊張の面持ちでカメラを構えながら中に入る。
甲斐side
「え、何で閉めるん?」
「・・・・・逃亡、阻止」
「二人がいる車と目の鼻の先にいるっスからね。二人が襲われちゃうと車がつかえなくなるっス」
「こうなるともう背水の陣となるか」
「電気を点ける場所はどこかしら?」
最初は案内図を探してみようと歩くと、Dさんが俺の襟を掴んで後ろに引っ張られた。
「Dさん、なんスか?」
「・・・・・下」
「これは・・・・・」
床がどうしたんだ、と思いながら視線を下に落とすと白い綿を伸ばしたような感じに床を覆う何かがあった。睦美ちゃんは腰を落として指先で触れたら、白いのがくっついた。
「粘着性のある物質・・・・・蜘蛛の糸?」
「蜘蛛ってじゃあ・・・・・この中には巨大化した蜘蛛がいるの!?」
「うす暗い場所に糸で巣を作る蜘蛛の仲間がいるのは間違いない筈です。この先は彼等のテリトリーならば、私達がこの糸を踏んだ震動で巣を張った蜘蛛に伝わって襲ってきます」
いきなり前途多難っスか・・・・・。
「ど、どうするん? 糸を踏まないで行くんは無理やで」
「糸を燃やしながら進むしかないですが、それでは時間が掛かりますし手段がありません。かと言って粘着性のある糸を踏んだら動けなくなってしまいます・・・・・」
そう悩む睦美ちゃんでも対処が困難極まった。ならDさんはどうだろうと思って見たら・・・・・いつの間にかなんか長い手持ちの複数の松明を二本だけ、片方だけ巻いていた布に火を床に置いたまま点けてた。巻いた布の割には燃える火が大きいっスけど・・・・・。
「・・・・・できた」
「いつの間に」
「・・・・・気にしない」
敢えて突っ込まないでほしいっスか。一本は睦美ちゃん、もう一本は真美ちゃんに持たせて糸を燃やしながら前進できるようになった。おかげでようやく案内図を見つけた。
「ええっと、私達がいるのは一階だから―――」
案内図を見ていた俺達は気付かなかった。天井から静かに降りて来る蟲の存在に。それに気付いた睦美ちゃんが燃えている松明で弾いてくれるまで気付かなかった。
「え?」
「気を付けてください。天井から蜘蛛が降りてきています!」
「・・・・・今ので気付かれた」
二階まで吹き抜けた天井に向かってDさんが、瓶に詰めた布を燃やして思いっきり投げたことで割れた。中に入っていた液体―――アルコールに火が点いて燃え広がり・・・子犬ほどの大きさの黒く蠢いている何かが燃えながら落ち、落ちていない方はうじゃうじゃと・・・・・。しかも燃やさずまた天井に投げ、割れて撒き散ったアルコールに松明を投げたDさんの行動で、燃える広がる天井で見えたたくさんぶら下がっている白い糸の塊。それも燃え移り、傍に落ちてきて何なのか気付いた時は戦慄した。―――糸に包まれた人間だったからだ。生きていようが死んでいようが、この状況下で運べるはずが無いっしょ。
「・・・・・背中が赤い」
「まずいっ、セアカゴケグモ!! 毒を持っている蜘蛛です!!」
「毒蜘蛛だって!? にしたってこれは多すぎっしょ!? 一体何匹いるんスかこれっ!?」
「セアカゴケグモ1匹の生涯産卵数は最大5000個になることもある話です。恐らく複数の雌のセアカゴケグモがここに集まっていて密かにたくさんの卵を産んでいたのでしょう」
「説明はいいからはよ逃げなあかん!?」
幸い、出入り口はそこまで離れていなかった。葵ちゃんの悲鳴の指摘に俺達は踵を返して急いで走って公民館を脱出する。うおっ、糸を投げて来た!!
「急いで扉を!! オスとメスのセアカゴケグモが外に出てしまえば島全体がもうお終いです!!」
確かに毒蜘蛛があんなに島中に居られたら住めなくなるっしょ!! ―――だけど最悪なことに!!
「あれ、何でこんなに暗いんだ?」
「何か怖いわ・・・・・」
「ママ、くらーい」
「そうね。でも我慢して頂戴」
この大変な時に十数人ほどの人達が避難してくるなんて!!
「皆さん、ここから出てください!! この中は危険です! 毒を持っている大量の蜘蛛がいるんです!!」
「は? 何を言っているんだ。外には巨大な人を襲うハチがいるのに出ていけるか!」
「そうよ!! もう家まで戻れないわ!」
「・・・・・松明、点ける。織部睦美、間に合わない」
最後の一本のアルコールを手前で境界線のように引いて、Dさんに指示された真美ちゃんは点けた。横線に燃え広がる炎から避ける蜘蛛の姿を照らした。それを見れた人達だけは俺達の必死な説得の意味をやっと気づいてくれて。
「早く外へ逃げて!! すぐに扉を閉めないともう本当の意味でこの島に居場所が失います!!」
我に返って外へ逃げ出す人が数人。釣られて続く人間が数人。そして反応が鈍く逃げ遅れる数人と恐怖でその場に固まって動かなくなった数人。後半の人達はDさんが掴んで外へと放り投げたことで何とか助かった。扉も急いで締め切り毒蜘蛛の進出を防げた。
「た、助かった~・・・・・!!」
「間一髪だったな・・・・・」
「せ、せやな・・・・・」
命辛々、蜘蛛から逃げれたホタルの幼虫以来の危機だった。でも、まだ安心できない要素を峰岸が言う。
「後からここに避難してくる人間がやってくるぞ。どうする」
「・・・Dさん」
睦美ちゃんは他の人達にも伝える方法を考えるけれど、思いつかなかった。頼みのDさんにアイディアを求めたらDさんが持っていた松明を突き出された。・・・・・ダンゴみたいに突き刺してた五匹以上の蜘蛛を。アンタ、何時の間にそんなことしていたんだ?
「・・・・・扉の前、看板、説明文付き」
「少なくとも中に何がいるのか証明できるな。それにカメラを回し続けていたから、テレビを見ている人間はここに来ようともしないだろう。それが頼みの綱だ」
「そうね。もしも避難しに来て開けてしまったら、もう私達じゃあどうしようもないわ」
「皆さんは車で来られたんですか?」
外へ一緒に逃げた人達に尋ね、睦美ちゃんの質問を返した男が頷いた。
「丁度バスに乗っていたんだ俺達。本当に巨大なハチが空を飛んでいたからここにも近かったし避難しようと」
「では、私達と一緒にシンメイ製薬の研究施設にいきませんか? 今ならあそこへ避難できます」
「あそこか・・・・・だけどハチが襲ってこないか?」
懸念はもっともだけど、多分問題ないっしょ。
「オオスズメバチは単独で狩りをします。なので単独で襲ってくる代わりに、その場しのぎで撃退できたなら何とかなります」
「どうやって撃退するんだ?」
その方法を知らされたバスの乗客の人達は凄く驚いた。自分達も危険に晒すような行為だが、現状を脱するに最も効果的でもある。
―――ガソリンをバスの天井に巻いて燃やしながら移動する事だ。