「何人か船に残していく。俺達も協力させてくれ・・・・・」
「なんや京介。助ける義理はないと、いい抜かし取ったくせにどういう風の吹き回しや」
「せやせや」
「なんか、怪しいなおんし・・・・・」
「・・・・・人手増える、感謝」
気にしない。バスに乗る催促する。発車するバスはスーパーへ向かう。
「織部さん。ハチを誘き寄せるエサってなに?」
「あの巨体なので果実をたくさん使います。発酵して臭いが強くなったらハチや他の蟲が集まってくるでしょうが、それしかありません」
「この島にも大きいカブトがおるんかな?」
「次はきっとクワガタや。・・・・・挟まれたくないな」
危険な蟲と相対するはずなのに、どこか緊張感が緩い雰囲気になってる。・・・・・ずっと緊張、疲れる、これが丁度いい?
不意にバスが停車した。
「どうしました?」
「多数の車が道路を・・・・・」
「え!」
前の方を見ると、大通りの十字路の道路で車と車がぶつかって交通事故になっていた。炎上している車もある。空にいるハチも加わって、安全な場所へ避難しようとする車が長い行列を作って渋滞になってしまっていた。だからか降りて直接足で向かおうとした人達の痕跡である車が乗り捨てられたまま、バスを阻む形になってスーパーまで行けなくした。
「ま、薄々こうなることは思っていたっス」
「皆、逃げるのに必死なんだわ」
「これ以上は私達も歩いて進むしかありません。すみません、スーパーはどこにありますか?」
「スーパーなら・・・ほら、あそこの大きな建物がそうだ。でも歩いていくのは危険だよ」
・・・・・ふむ。
「・・・・・織部睦美」
彼女の携帯を取り上げポケットに入れさせた。
「・・・・・この先、撮影、禁止、見せられない」
「それは・・・・・あっ、はい。お願いします」
「え、何するん?」
バスを浮かせる。これが早い。スーパーの出入り口の前にバスを降ろす。
「・・・・・着いた」
「い、今バスが・・・・・」
「この事は内緒でお願いします」
「え、あ、うん・・・わかった」
運転手を納得させたところでバスから降りて皆でスーパーへ赴く。先に偵察目的で入り・・・・・中には人も蟲もいないこと把握。手招きして呼ぶ。
「中は大丈夫ですか?」
「・・・・・どっちも不在、安全」
「んじゃ、何を集めればいいっスか?」
「ゴミ袋とできるだけ沢山の果物と砂糖・・・アルコールが必要です」
「酒か。俺達の出番だなぜんさん」
「こんな状況じゃなかったら、つまみと一緒に焼酎を一杯飲んでたなぁ」
「もう、二人とも!」
手分けしてエサの材料を確保しに動く。酒、値段が高い筈・・・・・足りなかったらツケ、もしくは天宮に請求してほしい。
・・・数分後。
「これくらいでいいかしら」
「はい、十分です。バスに戻りましょう」
万札をレジに置いてからスーパーを後にした俺達の目の前に、停車したバスを潰さんと空から落ちて来た大型で緑色のバッタが現れた。
「トノサマバッタッ!?」
織部睦美side
突然に現れたバッタの仲間に私達は目を張って身体が硬直した。口を開けて私達を見ているのは、エサとしか認識していないからだろう。でも、それ以上に私はこの状況がチャンスだと思った!
「Dさん! トノサマバッタの天敵はスズメバチです!」
「・・・・・わかった」
目的のオオスズメバチの捕獲にトノサマバッタで捕まえる方向に切り替えた、私の考えを察してくれた彼はカメラを京介さんに持たせて、跳び掛かってきたトノサマバッタの顎を掴んで受け止めようとしたけれど、勢いが止まらずにスーパーの中へ押し戻された。
「ぜんさん!」
「おうよおやっさん!」
猟銃を構える二人は、スーパーから押し出されるトノサマバッタの横顔を挟む形に移動して狙い定めてイノシシ弾で撃った。その衝撃はやはり凄まじい。撃たれた蟲の方は傷一つも付かずだったけれど、目から光が消えていたことからヤゴと同じく気絶したようだ。
「坊主、大丈夫か!」
「・・・・・ん」
「ピンピンしてるなぁ~」
無事なDさんを確認できた。安堵して胸を撫で下ろす暇もなく、指示した。
「今なら後ろ脚をもぎ取ることができます。Dさん、逃げないように翅と後ろ脚を奪ってください」
気絶したトノサマバッタの後ろ脚に近づき、私の指示した通りに動いてくれるDさん。
「これからどうするの?」
「ここでオオスズメバチを待ちます。このトノサマバッタを狙うオオスズメバチが降りてきたら、もう一度気絶させてバスの中にある布で起きる前に結びます」
「・・・・・念入り、網、準備」
「そう言っても、高いところから落とせそうな場所はないよ。あったらあったで蟲に襲われそうや」
葵さんの指摘に、自分で投げるとバスから持ってきた大型魚専用の網を誰もいないところに投げた。でも、網が広がらず一塊に落ちたから・・・・・思っていたのと違うと風に首をかしげたDさんと。
「全然なっとらん!! なんやそれっ、ただ本当に投げただけや! そんなんで蟲を捕まえる気でいたんなら阿保やおんし! 見習いやけどそれぐらい私でも教えれるから、投げ方を叩き込んでやるからしっかり覚えるんやでっ!!」
漁師見習いの鏡さんが彼の網の投げ方にダメ出ししたのだった。心なしか、Dさん・・・落ち込んでる? 無表情の顔が暗くなってる。
「Dさんでも失敗することあるのね」
「そもそも、Dさんは直接何かに触れてしたことがなかったような・・・・・いや、巨大蟲との戦いを除いてっスよ?」
そういえば、そうだった。でも、したことがない体験を初めてするなら失敗してもしょうがないと思う。
「頑張ってください、Dさん!」
「・・・・・織部睦美、優しい」
それからというもの。鏡さんからの教えに網の投げ方を練習しながら上達していった。
「なぁ、睦美ちゃん」
「甲斐さん?」
「ぶっちゃけ、捕まえなくてもあの大きなハチだから簡単に巣の場所も分かるんじゃないかって思うっスけど、実際そこんとこどう考えてるっスか?」
「私達が知っているハチではないので、Dさんはともかく私達じゃ追いかけるのは非常に困難です。ですので捕まえて印をつける必要があります」
「身体に布を巻きつけるっスよね? でも、直ぐに見失うんじゃ?」
その疑問は最もです。けれど、見失わない方法が私達の手元にあったんです。甲斐さんにそのことを伝えると、凄く納得した顔で手を叩いた。
・・・・・首相官邸
「なんだと、巨大飛行生物の巣があると!?」
「現地の少年少女達が巣を探すために巨大飛行生物の捕獲を臨んでいるそうです」
「危険だ、無謀すぎる! 今すぐ止めさせなさい!」
「我が国の海上と陸上、航空自衛隊は?」
「到着までまだ時間が。それに辰野大島に着陸するにも、巨大飛行生物が空を飛んでいる以上は危険すぎます」
「巣の破壊目的ではなく、捜索するだけなら・・・・・」
「一般市民が人を補食する生物と接触すること自体危ないと言っているのだ!」
「しかし、既に何度もその危険と修羅場を乗り越えてきた者達だ。今さら安全な場所にいる我々が心配しても、彼等彼女等は自分達の意思で行動している」
「巣を見つけ次第で戦闘機によるミサイル、もしくは爆破で破壊をする他ない。今は若者達を信じるしかできない」
甲斐side。
車体の陰、バスの中に隠れてその時を待っていた。脚を奪われたトノサマバッタが残りの脚で動き始めた様子と猟銃で撃たれたのに生きている蟲の生命力に圧巻っスね。翅と後ろ脚を奪われてもトノサマバッタはどこかへ向かうつもりか、進みだして隠れてる俺達は何もせず息を殺して見守っているだけ。最悪このまま逃がしてしまうかと思ったけど、何が飛んでる五月蝿い音が聞こえだした。その正体はトノサマバッタの真上から襲って脚で拘束、鋭い顎で噛みつくオオスズメバチだった。よし、来た!
「今です!」
タイミングを見計らった睦美ちゃんが叫んだ直後、オオスズメバチの上から大きく広がる漁業に使う網が落ちてきた。よし、成功だ! って短く喜ぶ俺達の目の前で次の作戦に入った。網に掛かったオオスズメバチに近づく猟友会の二人。二人が猟銃を巨蟲の顔に目掛けて射撃した。撃たれてもまだ動く蟲にもう一度、装填した弾で撃ち込むとオオスズメバチの動きが鈍った。それを待っていたかのように長く結びあった白い布を持つDさんが網に潜りオオスズメバチの身体を登っては降りて、白い布で縛りつけた。
「・・・・・縛った」
「では、オオスズメバチを解放します! 引っ張ってください!」
網に直接繋げていた紐を、バスの中にいた俺達が引っ張る役目っス。危うくなく網を外すと拘束から解放されたことで、オオスズメバチはトノサマバッタを残して空へと飛び出った。
「甲斐さん、どうですか?」
「勿論、バッチリ睦美ちゃんの携帯が動いているっスよ! こういう方法にも使えるんスねGPSって。でも、よかったスか? お偉いさんと話が出来なくなるっスよ」
「弘原海さん達の方も巣の居場所がGPSでわかるなら調べられるって言ってたから、あとは自衛隊の人達に任せる。私達は助けを待ちましょう」
りょーかい。一先ず俺達がやるべきことは果たせたし、睦美ちゃんの言う通り後は大人達に任せて救助を待っスかね。
「そう言えば、この状況で空港ってどうなっているのかしら?」
「おそらく、飛行機は出せない状況になっていると思われます。出せたとしても一、二便が出発してこの事件が解決するまでは外から飛行機は来ないでしょう」
「当然と言えば当然だな。襲ってくれと言っているような物なんだろうお嬢ちゃん」
船から脱出できそうなものだけど・・・・・あっ。
「俺達が乗って来た巡視船、大丈夫っスかね」
「ありゃあどうやっても動かせれねぇよ。ま、避難が出来るだけマシってことで逃げ込んでいると思うが・・・・・」
「漁船がたくさんありました。きっと漁船に乗って脱出しようとする人達は、辰野神島の二の舞になっていると思います」
トンボじゃなくてハチに狙われるって、どっちもイヤっスねぇ・・・・・。
・・・・・。・・・・・。・・・・・。
・・・・・。・・・・・。
・・・・・。
「作戦は達成したと思っていいんだな蟲の博士」
「はい。協力ありがとうございます」
使う必要が無くなった物資を戻して、代わりに京介達と生存者の食糧を大量に集めて京介達を漁港に送り届けた。辺りを見回せば巡視船以外、停泊していた漁船があるはずの漁港から姿を消していた。
「やっぱり、島の人達は脱出したみたいね」
「動かせる人間以外、はな」
「他の人達は・・・・・」
「大丈夫だ。きっと他の島よりはまだ生き残っている人間の方が多い筈だ。お嬢ちゃん、これからどうする?」
おやっさんの指示を乞う言葉に織部睦美は俺を一瞥した。
「オオスズメバチの巣を確認しに行きます。あの蟲の巣はきっと巨大なものとなっていると思われます。地中で作られているなら、自衛隊の爆弾では簡単に破壊しきれないと思います」
「航空自衛隊の戦闘機のミサイルとかは?」
「針の穴に糸を通すものです。確実に破壊尽くせる確率は多分少ないです。私達が知っている巣より頑丈な硬度であった場合は、オオスズメバチを怒らせるだけです。確実な方法と一度でオオスズメバチごと巣を広範囲に破壊できる威力のある爆弾でなければ」
その次の言葉は俺に向けられた。
「Dさんなら、可能ですか?」
「・・・・・可能」
「睦美ちゃん、今すぐ行くっスか?」
「はい。Dさんと私だけで行ってみます。巣の確認だけなので直ぐに戻ってきます。甲斐さん達は巡視船で待っていてください」
「わかった。気を付けてね」
カメラを担ぎ直し、甲斐から携帯を貸してもらった織部睦美に、飛んでもらいたいとお願いされた。彼女の腰に手を回してオオスズメバチの巣がある場所へと空高く飛ぶ。
「そのまま真っ直ぐ」
「・・・・・」
街からかなり遠く離れた。もう山しかないところまで飛び続けオオスズメバチの巣を探す。空からでは巣穴らしき物は見つからない。どこにある・・・・・?
「っ! 止まってください!」
「・・・・・」
空中停止する。その理由は俺も今認知できた。
「建物の陰や屋内では巣を作ることは適わない大きさにまで成長したオオスズメバチは、巣を地中に作ると既知の情報を当てにしてましたが・・・・・まさか、島の反対側にも―――」
人が住む家や建物の存在までは知らなかった。そして当初の捜索対象の巣は、肉眼で確認できた空を飛ぶオオスズメバチが大きな肉の塊を持って山の斜面に消えていき、後を追いかけると直径五メートルの大穴が空いているところを見つけた。その穴のそばに白い布らしき破片が落ちていて、地上から登って確認した。
「・・・・・布」
「間違いありません。捕まえたオオスズメバチがこの中に入って行ったのでしょう」
布から織部睦美の携帯が出てきた。同時に巣穴からオオスズメバチが出てきた。
「・・・・・去る」
「きゃっ!?」
織部睦美を脇に抱えて疾走。隠れられそうな建物の中へ潜める。
「・・・・・今後」
「自衛隊の人達にも発見しやすく目印を施したいところです。Dさんならどうやってしますか?」
「・・・・・燃やす、凍らす」
そう言うと、織部睦美の携帯が鳴り出した。
「はい」
『弘原海だ。君の携帯をGPSで探したところ、巨大飛行生物の巣があると思われる場所に一定時間止まったのを確認できた。今は君の姿が映っていることも知ったので連絡を入れさせてもらった』
「そうですか。これから私達は巣穴の回りに目印を施そうと思います。木々に隠れるように山の斜面に大きな穴を見つけましたので、おそらく空からや海からでは発見しにくいかと」
『どうやって目印を?』
「これから決めます」
『わかった。しかし、時間の猶予はないと思ってくれ。もうじき自衛隊がその島に到着する』
急ぐべしか・・・・。
「Dさん、目印の方法・・・・・凍らす事が本当にできますか?」
「・・・・・可能」
「では、お願いします」
頼まれた。織部睦美ともう一度、オオスズメバチの巣穴のところへ戻り・・・・・穴を塞ぐような魔方陣を展開して氷結の魔法を放つこと数分後。山の斜面の木々も凍てつかせるほどの冷気が巣穴の奥まで届いたと思う。
「・・・・・終わった」
「こ・・・こんなことも、できたんですか?」
「・・・・・多種多彩、可能。巣、掘る?」
「できるのであればお願いします。でもどうやって?」
―――龍化だ。