「この森の先に医療施設があります」
織部睦美の先導により、ジガバチの巣からそれなりに離れた距離を移動した。またうっそうとした森の中を移動する前に問いを投げた。
「・・・・・本当に、あの森か?」
「はい、そうですよ」
・・・・・俺だけなら簡単、他は死に向かうようなものだ。
「・・・・・迂回、できない?」
「蟲がいるのですか?」
「・・・・・大小、数える、面倒・・・・・ダニ? みたいなのが」
『―――っ』
事実を明かすために亜空間に放り込んだジガバチの幼虫を一匹掴み出して森の手前に放り投げたら、落ちた衝撃か震動で敏感に反応した無数の虫が幼虫に群がる。
「マダニッ!!!」
「・・・・・全員の身体、調べる。念のため」
「はいっ!! マダニに噛まれるとウイルス感染して最悪死んでしまいますっ!!」
彼女の言葉に全員が自分の身体、相手の体の隅々を調べると、神野美鈴が背負ってる人間の身体に大きなマダニが引っ付いていた発見をした。織部睦美がマダニを払って難を逃れたが、最悪の状況はまだ変わらない。
「・・・・・マダニの巣の森」
「入ってしまったみたいです・・・・・」
小さいマダニもいるだろう・・・・・。実に厄介・・・・・。施設、距離もあるから囮の幼虫も使い切る、得策ではない。
「Dさん、何とかならないのですか」
「・・・・・危険ある、出来る」
「私はあなたを信じます」
中城茉莉華が真っ直ぐな目でそう言ってくる。・・・・・面倒、しょうがない。全員を魔法で浮かせてマダニの森の上空を飛び、移動することにした。
「うおっ!? そ、空を飛んでるぅ~~~!?」
「な、何がどうなってるの~~~!!!」
「ひっ、ひぃいいいいいいい!?」
空からの移動なら地上で跋扈してる虫達の脅威に怯える必要はない。ただ、飛翔する蟲に見つかる脅威が変わるだけ。それが危険の意味・・・・・。そうして飛び続けて数分後、ヘリポートがある医療施設らしき建物を見つけそこに降りた。
「・・・・・ここ?」
「は、はい・・・・・あの、今のどうやってしたんですか・・・・・?」
「・・・・・脱出したら」
「ま、待てよ・・・・・最初から黙っていたのか。何時でもこの島から脱出することをよッ!!」
それは違う、否と首を横に振る。
「・・・・・日本の海域のどこの島、不明、無鉄砲に飛ぶ、できない。長く飛ぶ、できない、しない方がいい」
「あ~~~、途中で海のど真ん中に落ちてしまうオチなら空を飛びたくないね。それに飛び続けてたらジガバチのような空飛ぶ蟲に襲われる危険性もあるなら頻繁に飛ぶことも出来ないって理由も納得できるよ俺」
ドレッドヘアーの言い分に一先ずその通りだと首肯する。・・・・・長くは飛べる嘘を吐いたが。
「・・・・・それに、疲れる(嘘)」
「そうね。織部さんとDさんが中心に動いてもらってしまったから私達より精神も肉体も疲労してるでしょう。Dさんのおかげでマダニの脅威を回避できたのだから、今日はここで一夜過ごしましょう」
「えっ、ここで避難しないのですか?」
「私と青山さん以外にも実は生き残りがいるのです。私達だけあなた達と合流をするべくDさんに協力を求めたのです」
「その通りよ。多分今頃、避難できる場所にいると思うから迎えに行きたいの」
青山も事情を説明する。
「勿論、皆まで一緒に来てもらうつもりはありません。Dさんを連れて私と青山さんだけ迎えに行くのでここに居ても構いません」
「・・・・・話は以上、中に入る」
誰も異を唱えない。すぐに戻ってくるだろうと達観しているだろう・・・・・。閉じ切った医療施設の扉を触れる丸坊主は開かないことに苛立ち、近くに無造作に置かれた廃材に目が入り、それでガラスを叩き割ろうとした直前に開く扉。
「壊したら虫が入っちゃうっしょ!」
いつの間にかドレッドヘアーが中に侵入していた。どこから入ったのかはこの際気にせず、中に入る。・・・・・妙に静まり返ってる森が気になる・・・・・。
「おっきな水槽・・・・・この中にナニが入っていたのかな?」
5人を寝かせる場所に大きな水槽があった。その部屋に入り一息つくや否や丸坊主が催促する。
「アキラを助けるにゃどうすりゃあいいんだっ!?早く教えろ!!」
「まずはジガバチの毒を薄め体外に排出するために生理食塩水を探してください! 薬剤室か治療室に置いてあるはずです」
「なんとか食塩水って書いてあんのか?」
「はい」
聞くだけ聞いて、「アキラ待ってろ!!」と友人の為に動く丸坊主。その間に二人の容態を改めて確認する。魔方陣を展開して異常を調べる。
「Dさん、なんですそれ。何をしてるんですか?」
「・・・・・触らない、調べてる。マダニがいた、寄生虫の確認」
「わかるんですか?」
・・・・・でなければ困る。・・・・・アキラの身体に寄生虫がいる反応を示した。
「・・・・・早期発見、左の手」
「!!」
バッと織部睦美がアキラの左手を取って確認した途端に目を丸くした。
「本当に、寄生虫が潜んでいました。これは一刻も早く体外に摘出しないと彼が危ないです!!」
「・・・・・手術?」
「いえ、私の専門外ですのでできません。Dさん、寄生虫の除去が出来ますか?」
「・・・・・荒療治」
闘気で具現化した剣をアキラの左腕を両断した。悲鳴を上げる少女達を無視、聖杯で生み出した液体をアキラの口から注ぎ込み、両断された腕の先が光に包まれ復元されて元通りになった。
「・・・・・終わり」
「・・・Dさん。それは欠損した部位を復元できる道具ですか?」
「・・・・・見ての通り、死なない限り、元通り」
切断した手を持ち、大きな水槽の方へと放り投げる。すると断面から何かが血まみれで這い出て来た。
「レウコクロリディウムっ!? 主にカタツムリの触覚に寄生し行動(脳)を支配、最終宿主である鳥類に捕食されることが目的な寄生虫まで巨大化の影響を受けていただなんて!!」
「わ、私達も寄生されているの!?」
「だ、大丈夫です。アキラさんはレウコクロリディウムに寄生されたのは恐らく生水や木の実の表皮から体内に入ったと思われます。逆に絶対に口にしなければ寄生されません」
・・・・・どうやら、まだ安心できない感じ。
「・・・・・全員、5人を連れて離れる」
「ど、どういうことだよ?」
「・・・・・」
闘気の剣を販売機の方へ投げて刺したその直後、自動販売機が勝手に激しく揺れ倒れた。陰に隠れていた何かが姿を現す。
「・・・・・カニ、ガザミ?」
「甲殻類まで巨大化になっていただなんて・・・・・」
・・・・・それも4匹、これから4杯になる。巨大カニの姿に悲鳴を上げ、気を失っている5人を引きずってでも助ける姿勢を示してくれる。
「・・・・・捕獲、塩茹で」
展開した魔方陣から極寒の冷気を放ち、たちまちワタリガニを氷結させて凍らせる。・・・・・冷凍保存は便利。
「凄い・・・・・あっという間に凍り付いた」
「・・・・・水槽、洗浄、沸騰、塩茹で」
「え、あの、甲殻類の臭いは強烈で他の蟲達を集めてしまう恐れがあるから・・・・・」
「・・・・・臭い消し、出来る」
亜空間の中に放り込む。何時でも食べるように仕舞う。すると、生理食塩水を探しに行っていた丸坊主が返ってきた。
「おう! 虫女ああああ!!」
その両腕に抱えてるパックを見て次にやることが決まった。
パックを釣らしてチューブと繋げた針を血管に刺すだけの作業だが、織部睦美もしたことが無ければ俺もしたことが無い。代わりに白川と言う少女が、糖尿病の身内がいて血管注射の経験があると買って出てくれた。彼女のおかげで無事に一安心したところでドレッドヘアーが箱を持ってきた。
「みんな朗報だよ~♪ 地下に大量の飲食料の非常食がたんまりあったから持って来た」
ドレッドヘアーの発言に一同は歓喜の声を上げ、久しぶりの食事を得ることが出来た。
「・・・・・何か見つけた?」
「へぇ、非常食よりも別のことが気になるんだアンタ。実を言うとまさにその通りなんだよ。気になるなら案内するけど?」
「私も確認しましょう。この島に関わることがあるなら知るべきです」
「OK、じゃあ行くっしょ」
「・・・・・カメラ」
「僕も? わかったよ」
中城茉莉華もカメラを持たせている少女も地下へ同行する。ドレッドヘアーが見つけた何かを俺達も同じ物を見る。それは一体何か・・・・・案内された地下室にある物を見て目を細めた。
「こ・・・これは・・・・・」
巨大な水槽に氷漬けにしたばかりのワタリガニやその他の昆虫達が、何かの液体に漬けされていた。
「・・・・・この液体、ホルマリンですか」
「さっすが先生、その通りだよ~~~ん。最初にこれを見た俺もびっくりしたよ。これがあるってことは、明らかにアレ、しかないっしょ?」
「・・・・・人工的に巨大化された生物」
・・・・・生物兵器にするにはあまり笑えない話。制御できない生物兵器は動植物と人類の害にしかならない。・・・・・現にここに働いていた職員達も姿を暗ましている。恐らくこの島の島民達は知らずに餌食になったに違いない。
「じゃあ、あの巨大な水槽も・・・巨大化した生物をホルマリン漬けにするための?」
「・・・・・高い確率。日本政府も絡んでる?」
「だとしたら俺達、とってもやばいっしょ。知っちゃならないもんを知って見てしまったからねぇ~~~」
そう言うドレッドヘアーは焦りの色が浮かんでいない。
「・・・・・これ、この技術、本国にも、可能性、高い」
「この島以外にも巨大化をした昆虫がいるというのですか?」
「受け入れたくない事実っしょ。でも、ホルマリン漬けにする時間もあるなら、虫を巨大化にする、巨大化する時間もあったってことだよね・・・・・」
受け入れがたい事実、中城茉莉華の顏が真っ青になる。もう本国に戻っても安全な場所は無いに等しいと察したようだ。
「・・・・・甲殻類、巨大化、魚介類、巨大化になっている?」
「巨大化したタコなんて勘弁っしょ。あっという間に海の藻屑になるのが目に見えるってば」
「では、救助船もそうなると?」
・・・・・巨大タコがいたらの話。
「・・・・・証拠写真」
「それが何の役に立つのです」
「いやいや、先生。俺等がどんな島にいたのか口だけじゃ笑い者になるっしょ。そんな巨大な蟲が日本にいるわけないじゃんって。なら、集められるだけ証拠を揃えておくべきだよ。だから伊織ちゃんにも来てもらったんっスよDさんは」
携帯で撮り始めるドレッドヘアー、この水槽も持ち帰るべきか。
「・・・・・電気系統、調べる」
「元々廃島じゃなかったから電気は通ってるっしょ。俺が調べるよ」
「・・・・・電灯、蟲が集まる可能性が高い、相談」
「早めに寝れば問題ないでしょう。取り敢えず上に戻りつつ他の非常食も運びましょう」
織部睦美side
やっと避難場所と言えるべきところで腰を落ち着かせることが出来た。千歳ちゃんに寄生虫の反応が無いから後はジガバチの毒が薄まるのを待つだけだ。こんなに早く夜が更ける前に医療施設に辿り着けたのも幸運だ。おかげで余裕をもって考えられる。
「うっ・・・・・」
呻き声が聞こえて来た、千歳ちゃんっ? じゃない。快楽物質で生餌にされていた、Dさんが不思議な道具で助けた女性だった。
「大丈夫ですか?」
「・・・こ、ここは」
「医療施設です。ここなら安全です」
「あん、ぜん・・・・・? ―――っ!?」
刹那、彼女が突然飛び上がるように起き上がって瞳孔が開くほど大きく目を見張り叫び出した。
「虫ッ、巨大な虫が私を捕まえて気持ち悪い幼虫が私の身体を、身体をいやああああああああああああああああ!!」
「お、落ち着いてください!! 大丈夫ですっ、大丈夫ですから!!」
「何が大丈夫なのか言ってみなさいよっ!? 虫に襲われて生きたまま虫の餌にされる恐怖を知らないくせにぃっ!!」
パニック状態っ、恐慌状態に陥ってしまっている彼女が私に覆いかぶさり首を絞めて来たっ。
「おいアンタ止めろっ!!」
「突然現れた化け物に襲われて、私達は逃げ惑った!! でも森にもまだいなかったはずの大きい蟲達が潜んで次々と私達を襲ってきたのよ!? その恐ろしさも知らないくせにっ!!」
松岡さん、キャプテンが後ろから羽交い絞めして私から遠ざけても恐怖で責め立てる。
「私達も巨大化した昆虫と何度も出くわしました!! 襲われもしましたしジガバチに連れ去られた友達を救いに行動しました!! その過程であなた達も助けたんです!!」
「誰も助けてと望んでいなかったわよっ!! どうしてあのまま死なせてくれなかったのよ!! 生きたまま食い殺されようとしたトラウマを抱えて生きる私の身にもなってよっ!?」
それはっ・・・・・。でも・・・・・っ!
「あなたの気持ちは、この島に漂流して右も左も分からないままに突然巨大な蟲に襲われる恐怖と絶望の中に立たされている私達も理解できます」
「漂、流・・・・・?」
「私達はこの島の人間ではないんです。修学旅行で乗っていた飛行機が、突然理由が判らない状態のまま海に墜落してしまったんです。他にも同じ飛行機に乗っていた乗客、クラスメートや先生たちもここにいる人達と他数名の生存者がいる以外は皆、死んでしまったのです」
女性は押し黙り私の話に耳を傾ける姿勢になってくれた。立ち上がって彼女と面と向かって真っ直ぐ目を見つめて言い続ける。
「全てを共感する事はできません。でも、同じ島にいて同じ境遇に遭っている者同士が協力し合わないとこの島から脱出できないんですっ。3日後に救助隊が来る可能性がある以上、それまで私達は何が何でも生きなければならないんです!! この出来事は死ぬまで私達も強く記憶に残り、小さな虫を見ても恐怖に怯えることもあります。それでも、生きたいならトラウマを抱えてでも前へ進むしかないです!!」
話し合いでどうにか落ち着いてもらわないと、この人はこの先死んでしまう。それだけは絶対にダメ、助けられる人は助けないと・・・!!
「・・・・・しばらく、話しかけないで」
頭を垂らして小さくそう言う彼女が静かになった。キャプテンを見ると頷いたので一先ずは落ち着いてくれたみたい。キャプテンにお願いして彼女と傍にいてもらうとDさんと先生が非常食が入った箱を持って戻ってきた。
「・・・・・リーダー、織部睦美」
「ええっ!?」
突然の皆のまとめ役を指名されて、私は出来ないと必死に否定したら「俺がリーダーだろうが!」と食って掛かる上条君が無言で拳を見せつけるDさんの仕草に、急に大人しくなる。完全に上下関係が築き上げられてるんだ。
「・・・・・一応、お前、行動を示した、認めてる」
「うるせぇよ、お前なんかに認められてもムカつくだけだ」
「・・・・・誇れ、ひとりの為に動く、勇気、友情、なければできない」
「・・・チッ、俺はアキラだから助けたんだ。他の連中なんざ絶対に助けねぇ」
「・・・・・アキラの為、協力、それで生き残れる」
「テメェッ・・・・・!」
友人をダシに使われていると思って上条君は怒ってる。でも、Dさんは純粋に言葉のままに言っていると何となくそう思う私がいた。私も千歳ちゃんと生き残る為に出し惜しみせずこの島から脱出する覚悟をしてる。でも、それだけじゃ足りないんだ。その不足している部分を補ってくれるのがいま目の前にいる。
「Dさん!」
「・・・・・?」
「私も持てる虫の知識を駆使して脱出を目指します! Dさんもどうか私達を守ってください!」
「・・・・・破壊、守護、しかできない。知識、任せるリーダー」
「はいっ!! ・・・・・えっ?」
後に、言質取った。と言われ、私はまんまとDさんに言葉の誘導をされてしまったことに気付き、もう断れない状況に追い込まれてしまった。うう・・・・・話術も身に着けないとダメみたい。
・・・・・。・・・・。・・・・・。
・・・・・。・・・・・。
・・・・・。
医療施設に着いてから数時間が経過。外は夜の帳が降りて森は闇に支配されたように真っ暗だ。夜行性の昆虫たちの活動する時間帯となり、ドレッドヘアーが地下の自家発電装置を動かしたので医療施設の中までは暗くならないで済んだ。
「・・・・・あの、大丈夫ですか?」
「・・・・・少しだけ」
「すみません。少しだけこの島について教えてくれませんか?」
「知って、どうするのよ。この辺鄙な漁業で生活してるだけの島を」
「何時から巨大化になっていたのかだけ教えてくれると助かるんです」
織部睦美が沈黙を保っていた女に話しかける。女はしばし無言を貫いてから、口を開いた。
「・・・・・ここ、本当はこぢんまりと小さな治療院だったのよ」
「えっ? 新しく造り替えられた施設だったんですか?」
「東ノ小島の人口は五百人も満たない人数しかいなかったのよ? 大きな治療院なんて作られなかったし病気や怪我をする人なんて滅多にいなかったわ。変化のない平和な暮らしを続けていて、これからも変わらない日々を送るんだと誰もが思ってたある日・・・・・変な人間達が海からやって来ては、この島に新しい医療施設を建設するって言うだけ言って、今の施設を完成させたわ」
・・・・・島民も部外者と交流、干渉をしようとしなかったらしい。彼女の話は自然と同じ場にいる全員の耳が傾いていた。
「完成したここは、さっきも言ったように滅多に病気も怪我もする人がいないから利用する人はほとんどいなかった。―――だから、しばらく経ったある日。山中を散歩していた人が巨大な蟲を見たって言う話を聞いても誰も笑って聞き流した」
「っ!?」
「ところで今何日かしら? ・・・・・ああ、もうそんなに経ってたのね。だとしたら今から数ヵ月前の話になるわね。最初に目撃した人の話は数ヵ月前、それから半月もせずに数人が巨大な蟲を見たって話が挙がって、数ヵ月前になると等々巨大な蟲に噛まれたって人が出た。例の医療施設、ここに初めて利用するために一人で向かったその人は、それから戻ってくることはなかった」
途中で肉食の蟲に襲われてそのまま喰われたかもしれない。
「舗装された道に続けば迷うことが無いから行方不明なんて絶対にありえない、この島は鳥しか動物がいないから人間を襲う肉食獣だっていないから島の皆はおかしいと、捜索したその日にまた数人が戻ってこなくなった」
「・・・・・」
「巨大な蟲と関係がある? と思った人はいたけど、蟲が人を襲うはずが無いという多数の人達がその考えを否定してからというものの・・・・・日に経つにつれ人がどんどん姿を消した代わりに巨大な蟲が見かけるようになった。そして昼夜問わず人を襲うようになった。船を持っている人はさっさとこの島から脱出したけれど、島から出ても生活できる当てがないからと、島に残った人たちもいた。私はその一人」
住み慣れた島と生活を放棄する行動は中々に難しい。手放し難いから残る方に選択をした結果。
「極力森の中に入らないよう気を付けていたのに、私達を嘲笑うかのように空からあの巨大な蟲が・・・・・」
彼女の話を聞けばこの医療施設から巨蟲の出現の始まりを匂わせる。実際、地下には巨大化した昆虫とカニがホルマリン漬けで保管されていた。ヘリポートもあったから研究員達がヘリコプターで本国と行き来した可能性がある。ドレッドヘアーがぼやく。
「ネットが繋がれば調べれるのになぁ~」
「できないことをぼやいても仕方がないよ。今は僕達の救助してくれる人達を待たないと」
ポニーテールが言う言葉は、あまり期待に値できない。一度この森の中に入れば銃弾を弾く装甲の昆虫の餌食になる・・・・・。
「皆さん、時間は早いですが今夜はもう寝ましょう。この島で唯一明かりが点いていると、ここに光で虫が集まってしまいます。襲われたら堪ったものではありません」
「そんな心配することないでしょ。この施設は頑丈っぽいし虫達がぶつかっても簡単に壊れないって」
「いえ、窓ガラスだけは頑丈ではないのでそこから入られたら私達はこの施設を放棄するしかありません。更に言えば、巨大化した昆虫の力は建物を破壊できるまで強くなっていると最悪の想定をするべきです。安易な考えはとても危険です」
中城茉莉華の意見にリーゼント頭が否定する間もなく、織部睦美がそう警戒させることを言う。
「・・・・・寝ずの番、見張り、やっておく」
「申し訳ございません。お願いしますDさん」
「不思議とDさんなら絶対に守ってくれる凄い安心感があるわね」
「俺が頭だ、リーダーだとか言ったどっかの誰かさんと大違いだな。率先して寝ずの番をしてくれるんだからよ」
「ンだと美鈴っ!」
次の瞬間。外から羽音が聞こえ一同は息を呑んだ。
「・・・・・大きい気配、近い」
「皆さん・・・騒がず静かに男女別に纏まって寝ましょう」
寝台がある部屋へ移動し、未だ深い眠りについている四人もそこへ連れて行く。不安で眠れない女子達はお互い身を寄せ合って眠りに着こうとするその間、同じ部屋の中で寝ずに見張りをする。・・・・・夜行性の昆虫、大きい気配は近いところ以外、他は離れてる・・・・・大きい気配から遠ざかって、警戒している? それほどの強い虫・・・・・。・・・・・また羽音が聞こえた。
「ヒッ!!?」
「な、何の蟲・・・・・?」
「わかりません。とにかく今は騒がず静かにしてください」
だが、織部睦美の忠告は無意味だった。
「う、うわぁああああああああああああああああああっ!?」
「いやぁああああああああああああああああっ!!!」
誰かが悲鳴を上げた。まだ眠りにつけていない者、意識を放棄して眠っていた者がその悲鳴と叫びを混濁した発声に飛びあがり、目を見開いた。悲鳴を上げた者・・・・・ジガバチの幼虫に生餌されていた男女が目を覚ました。が、虫の羽音を聞いて虫の襲来だと認識して叫んでしまった。
「な、なんだっ!?」
「その人達を取り押さえてください! 音で他の蟲が反応して襲い掛かってきます!」
「・・・・・遅い、急ぐ、窓側からくる、離れる」
「皆さん、急いでここから離れるのです!」
全員がこの場から離れようと動くと同時に窓と壁が外から強い衝撃で粉砕し、鋭利な何かが突っ込んできた。それを掴み受け止めて勢いを殺す。掴んでいるこれはハサミのようなクワのような・・・・・。織部睦美が叫ぶ。
「ヘビトンボ!?」
ヘビ・・・・・? トンボ・・・・・?
「Dさん気を付けてっ、ヘビトンボは私達の体液を狙ってます!」
「・・・・・わかった」
外へ追い出そうとすれば、ヘビトンボという虫は頭を引っ込めようとする。掴んだまま一緒に外へと出たら2本の触覚が長く身体が細い六本脚、二対四枚の翅の巨大な虫の姿を確認した。・・・・・ヘビでも、トンボでもない。想像していたのと違った・・・・・。アゴを足場代わりに乗ってヘビトンボの顏に突っ込んだ。そのまま下に降り音を立ててヘビトンボの意識をこっちに向かわせる。体の向きを変えるヘビトンボの様子を、亜空間から琥珀色の液体が詰まった大きな瓶を取り出して蓋を開ける。
瓶の中身から漂う匂いを嗅がせヘリポートのところ誘導する。医療施設の壁から離れ匂いに誘われ近づいてくるヘビトンボは宙に浮かせた瓶に夢中、口から舌のような物を出して舐めるようにすすり始めた。
・・・・・食事中、邪魔してはいけない。施設の中に戻り、待っていた一同と合流。
「倒しましたか?」
「・・・・・餌、囮、これからどうする」
「残念ですが、この場所は放棄するしかありません」
「マジかよっ!」
「そんな、せっかく避難できる安全な場所だと思ってたのに・・・・・」
・・・・・巨大化した蟲、それがいる以上は安全な場所は無い。自分達で工夫、安全にしない限りは。
「おいテメェ、虫共を倒せるだけ強いならここに集まってくる虫を全部倒して俺等を守れ!」
「・・・・・多勢に無勢、知らない?」
坊主頭を睨み黙らせる。
「いくらDさんでも百の群れの蟲相手に対応しきれません。織部さんの知識でも織部さんの予想を上回る虫がいてもおかしくない。そういうことですね?」
「はい、相手は巨大化した蟲です。私達が知っている小さい蟲とは思わない方が賢明です。今の内に非常食と飲み物を集めましょう」
「・・・・・ヘビトンボ、相手する」
餌を食べ尽くしたかもしれない・・・・・踵を返して戻れば瓶の中身をすすり尽くしたヘビトンボがこっちに気付いて突進してきた。この虫、利用できないか聞いてみよう。