巨蟲列島   作:ダーク・シリウス

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蟲以外の脅威

2人を待つことしばらく時間が過ぎた。そう、過ぎたのだ2時間も。

 

「なぁ、さすがに遅くないか?」

 

「虫を飛ばしてもそこまで遠いのかしら」

 

「島を一周回っているなら遅くなっても仕方がないけど」

 

不審に思いざわめく一同。青山望が意を決した風に質問の言葉を投げた。

 

「2人に何か遭っているのですか?」

 

「Dさん、どうなのですか?」

 

中城茉莉華もこっちに問いを飛ばしてくる。飛んで行ったヘビトンボの方向へ探知する。・・・・・?

 

「ヘビトンボ、支配、消えてる」

 

「それってどういうことですか?」

 

「・・・・・ヘビトンボ、死ぬ、あるいは島から離れた」

 

「待って! あの大きな虫が死ぬことになっているなら2人は、睦美は無事なの!?」

 

織部睦美の親友が血相を変えて食って掛かってきた。気配を探る。感じた気の気配は・・・・・。

 

「・・・・・織部睦美、生存、野沢・・・・・気配ない」

 

別の意味でざわつき始めだす一同、中城茉莉華が冷静に質問をまたしてくる。

 

「野沢先生は、死んだという事ですか?」

 

「・・・・・眠り、気配感じる。それでもしない、死、可能性」

 

「睦美はいまどこに!?」

 

必死な形相の鳴瀬千歳が縋りつく感じに服を掴んで見上げて来る。それも確認・・・・・。

 

「・・・・・遠い、多分、海」

 

「っ!」

 

「・・・・・全員、準備」

 

「オッケ~オッケ~、睦美ちゃんのところに行くってんなら俺はついていくよ~」

 

「まだ生きてるなら助けに行かないと!」

 

一斉に動き出す彼等彼女等。鳴瀬千歳も遅れまいと動き出し荷物を纏める。出来た者は先に外へ出て待機する。最後に出る俺を待っている全員を宙に浮かせ、一緒に織部睦美がいる海の方へ飛んで行った。驚きで叫ぶ声を無視して急いで向かう。途中、飛行する虫とは遭遇することなどなく、何事もないまま漁港らしき場所へ辿り着いた。

 

「・・・・・ここ」

 

「睦美ー!」

 

無残にも胴体を真っ二つにされてるヘビトンボを見つけ、港に着くや否や開口一番に鳴瀬千歳が叫び声をあげる。その後すぐに織部睦美が小さな建物から出てきて無事な姿を―――。

 

「みんな、海から離れてぇえええええっ!!」

 

「えっ?」

 

その声と同時に海から複数の影が現れた。反射的に闘気で具現化した剣を投げて鳴瀬千歳達を襲う何かを突き差す。

 

「・・・・・避難」

 

「みなさん、織部さんのところへ早く!」

 

中城茉莉華が疾呼して生徒を突き動かせる。その様子を横目に刺した何かを確認する。

 

「・・・・・ヒル?」

 

眼や手足が無く、蛇のように体は細長くはない、凶悪な無数の牙が開いたY字の口から窺える。謎の生物を見ていると、漁港に現れる巨大な影―――。

 

 

織部睦美side

 

 

みんなが漁港に唯一ある建物の中へ雪崩れ込み、Dさんが巨大化した生物と対面を果たした。

 

「睦美! 無事だったのね!」

 

「心配をかけてごめんね千歳ちゃん。ここから身動きが取れなくなってたの」

 

「原因は、アレなんだな?」

 

キャプテンが外へ視線を送る。私は頷いた。外には片方だけ大きいハサミを持つ巨大な蟹が陸に上がっている。

 

「また蟹かよ・・・・・あれは何て蟹なんだ」

 

「シオマネキという蟹よ。片方だけ大きいハサミが特徴なの」

 

「野沢先生と虫は?」

 

当然質問してくるだろうその話題に私は言い辛く沈黙した。

 

 

2時間前―――。

 

いろんな場所へ飛んでたらこの漁港を見つけ、降りてDさんから受け取ったビデオカメラで撮影していた時だった。何を考えてるのか野沢先生が乗ったままヘビトンボを飛ばそうとしてた。慌てて制止の声をかけようとした私の背後から何かが迫る恐怖を感じて、直ぐにその場で倒れ込み真上にすぎる何かがヘビトンボを捕らえた。もうあの子は助けられないと判断して急いで建物の中に隠れて外を見ていたら、大きなハサミがヘビトンボを真っ二つに両断して野沢先生が地面を這う無数の虫に覆われ、正体を認知した巨大な蟹が野沢先生をハサミで摘まみそのまま海の中へ戻って行った。

 

 

それから私はDさんが異変を感じてここに来るのを待っていた。そうキャプテンに告げると力強く頷いてくれた。

 

「もう大丈夫だ。Dさんがあの蟹を倒してくれる!」

 

そう、私も彼を信頼している。振り下ろす大きなハサミや飛び掛かる無数の虫、ヒルを難なく躱すどころか、そのハサミを両手で掴み力強く巨体の蟹を持ち上げてヒルごと地面に叩きつける。その一撃は地面にクレーターを作るほどだった。それを何度も繰り返し、シオマネキが痙攣すると止めて・・・・・真っ二つにされたヘビトンボを持ち上げ、高く跳躍したDさんがヘビトンボの大顎でシオマネキを貫いてトドメを刺した。

 

「す、すげぇ・・・・・あの人、何者なんだ」

 

「あんな大きな蟹を倒しちゃった・・・・・」

 

「やべぇ、強すぎるだろっ」

 

ここで彼の戦闘を始めてみるみんなが高揚感を覚え、シオマネキを見つめ何か考えてるDさんの元へ近づいた。私も近付き、感謝の言葉を言った。

 

「Dさん、来てくれてありがとうございます」

 

「・・・・・待たせた」

 

帽子ごと私の頭にポンと手で触れて来る。その後、シオマネキを指した。

 

「・・・・・食べれる?」

 

「えっと、脚の身なら多分これだけ大きいですから食べられるかと」

 

「・・・・・餌、非常食」

 

シオマネキの脚を掴み、根元から降り始め出すDさん。そんな彼に顔を見合わせ頷く男子達もDさんの手伝いを始める。それからヘビトンボを抜き取って真っ二つにされた体とくっつけてからガザミのように氷漬けにして不思議な収納庫の中へ収めた。当然、シオマネキも氷漬けにして収納庫に入れた。

 

「織部さん、私達はここで避難できるの?」

 

三浦(アイドル)さんが不安そうに私に訊いてきた。それは出来ないと私も残念ながら首を横に振った。

 

「医療施設にも巨大化したガザミが複数いました。あのシオマネキも他にも複数いる可能性が高いです。私も想定しなかった事実が発覚した以上、救助隊が来てくれるまでもう一つの避難場所へ向かうしかありません」

 

しかも、まるで私の言葉を後押しするかのように・・・・・また別の巨大なシオマネキが陸に上がってきた。絶句するみんな。だけど彼は、Dさんは恐れもせずシオマネキに向かって翳した手から稲光と共に放つ雷で攻撃した!! 感電するシオマネキは成す術もなく私達の目の前で地に沈み動かなくなったけれど・・・・・。

 

「・・・・・キリがない」

 

「えっ?」

 

Dさんが私達を浮かせる最中、漁港に続々と数多のシオマネキ達が陸に上がる光景に私達はゾッとする。これがDさんの言っていたキリがないという理由の意味だったなんて・・・・・っ。

 

「ヒッ!?」

 

「マ、マジかよ!!」

 

海にも恐怖があることを知らされる私達は、Dさんによってまた民家に戻った。

 

「な、何なんですあれっ! 虫以外にも巨大化した生き物がいたのですか!?」

 

「わ、私達、本当にこの島から脱出できるの・・・・・?」

 

「も、もういやぁ・・・・・家に帰りたい」

 

野沢先生達と一緒にいた女子たちが心が挫けそうになっていた。だけど、今ははみんなで協力して生き抜かないとダメなんだ。

 

「夜になったら移動しましょう。シオマネキがこの山の中まで移動してくるとなると最悪の事態になります。Dさんに空を飛ばしてもらうのも控えます。飛行する虫との遭遇を避けるために」

 

「緊急事態だったらいいんだな」

 

「はい、今回は私の救助とシオマネキの群れからの離脱のためにしてくれました本当に感謝します」

 

「・・・・・行かせた、救助、当然」

 

Dさんもこんなことになるとは思いもしなかったはず。ヘビトンボを失ったのは痛いけど、それでもまだ私達には希望が残されている!

 

 

 

 

その日の夜。火球を複数全方位に浮かばせて松明無しで灯りを確保する。触れれば火傷することを燃える物で証明、認知してもらう。山中の舗装路がない獣道で進み、先頭は俺、最後尾は織部睦美。その他は楕円形に配置していたが・・・・・。

 

「・・・・・待機」

 

挙手する俺に全体が足を停止した。

 

「どうしましたか?」

 

「・・・・・織部睦美、もう1人、勝手に離れた」

 

「D、Dさん! 探してきていいですか!?」

 

鳴瀬千歳も異変を感じた。捜索を乞う彼女に同伴するとドレッドヘアーも。

 

「・・・・・3分」

 

「ありがとうございます!」

 

「委員長、行くっスよ」

 

後方、森の中へ入っていく二人を見送る。

 

「織部さんが勝手に離れたっておかしいよね」

 

「あれ、碓氷がいねぇぞ?」

 

「あ、まさか虫に襲われたのか?」

 

・・・・・それの可能性はない、2人同じ場所にいる。何をしていた? ・・・・・鳴瀬千歳、ドレッドヘアーがそんな2人と合流。暫くして4人となって戻ってきた。

 

「Dさんっ、Dさんっ。お知らせしたいことが・・・・・」

 

走ってきて荒い息を吐く織部睦美の言葉を手で遮る。

 

「・・・・・理由、集団、離れた」

 

「そ、それは・・・・・」

 

「待ってDさん、睦美は悪くないの! 被害者なんです!」

 

「・・・・・理由」

 

理由を聞いているだけ、それから決める。

 

「・・・・・ドレッドヘアー」

 

「え、それ俺のこと? ・・・・・あ~、碌に自己紹介してなかったから名前なんて知らないか。甲斐和彦って名前なんで憶えてくださいっスね」

 

そう言えば、という思い当たる表情を浮かべる他の男女たち。名前を呼ばれていないのではなく名前を知らないから呼べないのでは? という認識をしたかもしれない。

 

「睦美ちゃんとそこの・・・名前なんだっけ」

 

「碓氷亮だよ。僕と同じクラス」

 

「そいつに睦美は強姦されていたんっスよ。ま、委員長が最後の一線の寸前で止めたっスけど」

 

うわ、こいつ最低。と殆どの女子が碓氷亮という男から三歩引いた。本人は悪びれる様子もなくへらへらと言い訳の言葉を言ってくる。

 

「・・・・・後で埋める。物理的」

 

「こ、殺すのですか?」

 

「・・・・・蟲の気配、数多、近づいている」

 

それどころではない。織部睦美が言いたいのは恐らくそう言うことだろう。

 

「はい、そうなんです。ただちに周囲の安全確保できる場所を探して緊急野営(ビバーク)することを提案します」

 

「・・・・・ここで、野宿?」

 

「さすがにそれはできません。 私・・・何度も確かめましたが湿度が予想より遥かに高くなってきました」

 

・・・・・この火球のせい? 温度の話、それを出す彼女が言いたいのは・・・・・。

 

「・・・・・前、温度による、活発化、虫?」

 

「その通りです。昆虫採集者(ハンター)達は指を擦り合わせた摩擦の感覚で湿度を体感します」

 

知らない知識。それは初めて聞いた。

 

「現在の湿度は60%~70%くらい。地域差はありますが飛翔甲虫が空を舞い俊脚蟲がエサを求めて走り回るのに適した湿度・・・・・昆虫採集者にとっては最も昆虫を発見できる好機―――」

 

でもそれは、通常の小さな虫のサイズの話。今ここにいる虫は・・・・・。

 

「でも今の私達にとっては最悪な環境です」

 

マジかよ・・・・・。唖然とする呟き声が皆の気持ちだろう。

 

「しゅ・・・俊脚蟲ってなんすか?」

 

如何にも走るのが速そうな蟲だが、詳しくは知らない。ドレッドヘアーの甲斐が問うた。

 

「オサムシやオオゲジ―――脚が早くて貪欲な食性。彼等が巨大化してたら絶対に逃げ切れない。ですから戻りませんか? さっきの民家まで」

 

安全第一、考えるならばそうするべき。・・・・・でも。

 

「・・・・・今から、間に合う?」

 

「Dさんが私達を空に飛ばせば安全です」

 

「・・・・・そう、でも、遅い」

 

「え?」

 

織部睦美が強姦から救われ、湿度と俊脚蟲の話をしている間に―――取り囲まれてしまっているからだ。

 

「・・・・・男7人、円陣、女13人、中心、移動」

 

「皆さん、Dさんの言う通りに!」

 

中城茉莉華が皆の背中を後押しし、指示通りに中心で固まる織部睦美たち女を守る男の壁が出来上がった。

 

「何だ、何がいやがるんだよ!?」

 

「落ち着けってアツシ。俺だって正直、ビビッてるんだぜ。こういう時冷静でなきゃ早死にするだろうがよ」

 

「・・・・・ッ」

 

「ヒ、ヒィイイイイッ」

 

「頼むからデカい虫はだけ来るなよ・・・・・」

 

高まる緊張感。これから蟲に襲われる恐怖で今すぐに逃げ出したい。それが己の死に繋がることを知ろうと知らずとも、安全な場所に行きたい・・・・・そんな気持ちがヒシヒシ、伝わってくる。

 

「Dさん、何がいますか?」

 

「・・・・・」

 

姿は見えている・・・・・説明し辛い。特徴があれば言いやすい・・・・・。そう思っていたら蟲の尻尾の部分らしきところがパッと光ったのを見て、直感的に呟いた。

 

「・・・・・ホタル?」

 

その瞬間。ほぼ同時に強姦男が発光した明かりのところへと駆けだした。

 

「他にも生き残ってたんだっ!ねぇねぇーキミはどっから来たの―――」

 

「・・・・・バカ」

 

暗闇に灯る明かりが浮遊しているような動きをした後、何かの合図みたいに強く光り出した。

 

「だめっ! 逃げてっっっ!!!」

 

織部睦美が危険を察知して言う、言葉だけ言っても簡単に人は反射的に動けない。彼女の言葉と強姦男の周りに木々から落ちて来る大量の虫。くっついているのもいるが、民家から見つけた縄で強姦男に目掛けて投げ捕縛、こっちへ引き戻した時には無数の虫に肉体が齧られていた。

 

「たっ! たすけてぇぇぇ!!!」

 

・・・・・世話のかかる。虫を引き剥がし、強姦男の一命を取り留める。

 

「・・・・・織部睦美、詳細」

 

「ホタルの幼虫ですっ! 頭上の木がある場所には気を付けてくださいっ!」

 

「どういうこと、ホタルの幼虫は清流に居るんじゃないのっ!?」

 

「日本人の殆んどの人はそう思ってるけど水中に幼虫のホタルの方が珍しいのっ!」

 

・・・・・清流にいるイメージが強かった。陸生のホタル?

 

「・・・・・光ってるのは?」

 

「ホタル達は光でコミュニケーションを取るって昔から知られてます」

 

コミュニケーション・・・・・。

 

「・・・・・ホタル、人間、コミュニケーション、可能?」

 

「っ! やってみますっ! Dさん、ホタルのコミュニケーションの解読が終わるまでみなさんをお願いします!」

 

そう話している間にも周囲の木々に無数の発光体が浮かび上がり、完全にこちらを狙い定めている。

 

「なっ、なぁ!」

 

「どうしたっすかキャプテン」

 

「勘違いならいいんだけど、地面、揺れてないか?」

 

一瞬、ホタルのコミュニケーションを探ってる織部睦美以外の全員が沈黙。地面から伝わる震動を足の裏から確と感じてくるのを覚えた。

 

「地震?」

 

「にしちゃあ、なーんか地震と違うような・・・・・」

 

「ね、ねぇ・・・・・どんどん大きくなってない?」

 

「それと微妙に海の香りがしてるよね」

 

・・・・・ここまで、来る? ホタルの幼虫より大変な相手が織部睦美の所から迫っている。 それ、が現れたのはホタルの幼虫もろとも木々を凪払い、押し潰して織部睦美の真上から振り下ろす死神の大鎌を彷彿させる巨大ハサミ。

 

「む、睦美ぃー!!」

 

 

織部睦美side

 

 

一目見て、シオマネキが山中まで来ていたことに愕然として、もう避ける暇もなくこのまま押し潰される運命を悟った。黒く大きな影と一緒に死が迫っている瞬間がとても遅く見えて親友の悲鳴が耳朶を刺激した。先に死ぬことが心残りで、あとはDさんに任せる申し訳なさに罪悪感を抱いて残り数秒後の死を受け入れる。

 

「・・・・・死なせない」

 

「―――――」

 

その声は巨大なハサミが宙を舞ったのと同時だった。次いでに硬い甲殻ごとバラバラにされたシオマネキ。

隣を見ると立っていたDさんの姿が掻き消えて、千歳ちゃん達に群がるホタルの幼虫だけ切り捨てる光速移動を繰り返した。

 

「・・・・・ホタルが」

 

バラバラになってるシオマネキの死骸に群がる。それでも私達を狙っている幼虫の数は減るどころか増えている。でもDさんが、またどうやってだかわからないけれど地面から剣や槍、薙刀や斧と色んな刀剣類を生やして千歳ちゃん達に持たせた。

 

「うおっ! すんなり突き刺せるぜこれっ!」

 

「いいね~楽勝っしょ!」

 

「上から落ちて来るホタルに気を付けろよ!」

 

「うおおおおおお!」

 

全身を甲冑のような装甲で覆われているはずなのに、硬い身体を貫ける武器。他のみんなも自分で身を守ることが出来たおかげで私も専念することが出来る。幼虫の発光のタイミング、リズムを・・・・・。―――よしっ! 分かったっ! 鞄から懐中電灯を取り出しホタルに向かって発行でコミュニケーションを取る幼虫のリズムに合わせて明かりを点けたり消したりする。“危険”だと!

すると、ホタル達がいる木々が一斉に光輝きだした。でもそれは・・・・・。

 

「ま、また地面が震動してるぞっ!!」

 

「ホタルの光で誘われているんじゃないのっ!?」

 

そうかもしれない。けれど、手段は選べないっ!!

 

「Dさん、シオマネキが来ます! お願いできませんかっ!」

 

「・・・・・ホタル、任せる」

 

「はいっ!」

 

また鞄から今度は薬品を取り出し、戦えない茉莉華先生達の周りに円を描くように零す。

 

「なんですのこのツンとした刺激臭はっ?」

 

「医療施設から持って来た酢酸エチルです。昆虫採集で使用される虫にとって毒の薬品です。これで結界を作りますのでここから出ないでください!!」

 

そうしている間にシオマネキがまた現れ、寄生していたヒルがシオマネキから飛び出した。軽くいなして弾き飛ばす先にホタル達がいて、ヒルとホタルの争いが勃発した。

 

「数が多すぎる!! 何とかならんのか!」

 

「数が多いだけまだマシだろ箕輪! あの化けガニと戦いたいのか!?」

 

「ぎゃああああっ!? だ、誰か取ってええええええ!!」

 

「落ち着け小田!!」

 

数が多い虫達相手に困難は強いられてるけれど、私達の連携が・・・・・ホタル達のコミュニケーションを上回ってきているっ!!

 

 

 

数時間後・・・・・。

 

 

 

太陽が昇る翌日の早朝。周辺は疲労困憊の私達、ホタルとヒル、シオマネキの死骸だらけ。Dさん曰く周囲にまだホタルの気配はあれど、近づかなければ襲ってこないと千歳ちゃん達に貸与えた武器を自壊した。

 

「Dさん、ホタルとシオマネキは・・・・・」

 

「・・・・・警戒、ホタル、いる。シオマネキ、来ない」

 

「みなさん、一か所に集まってください。しばらくここで小休止しましょう」

 

「あの、碓氷君の怪我・・・・・」

 

「痛てぇ・・・痛ぇよ・・・・・」

 

「睦美に強姦しようとした自業自得よ」

 

でも、これ以上の荷物は面倒だと。Dさんが彼に手を翳して淡い緑色の光を放った。

 

「傷が・・・・・塞がっていく」

 

「Dさんがいればどんな怪我だって怖くない?」 

 

「いや、痛いのは嫌っしょ」

 

誰でもそう思う・・・・・。碓氷君は痛みが無くなるとヘラヘラと軽い口調で感謝してくるが、Dさんの癇に障ったらしく碓氷君の股下あたりに足が埋まるほど強く踏みつけた。

 

「・・・・・身勝手な行動、俺達の命の危険、二度目、虫の餌、絶対」

 

「わ、わかったわかったよ~。次はちゃ~んと気を付け―――ぐえッ!?」

 

反省の色が無し。まだホタルが身を潜んでいるところに碓氷君の首を掴んで持ち上げ投げてやろうかと意思が伝わった。慌てて私達は一生懸命それに止めにかかったから何とか止めてくれた。

 

「・・・・・坊主頭、強姦男、見張る」

 

「坊主頭じゃねぇっ!」

 

「怒るな上条。事実を言われてるだけだろう」

 

「ンだと箕輪! 俺とアキラのコンビネーションで倒してやろうか!」

 

「そっちが二人でくるなら俺もDさんと一緒に戦わせてもらおう」

 

戦力差があり過ぎるだろうがっ!? と元気のいい上条君の声が空に消えていった。

 

「・・・・・戦い、アキラ、する?」

 

「いえ、マジ勘弁してください。こっちが死にますわ。だからその拳を下げてくださいよ」

 

ちょっとしたひと悶着はあったけれど、小休止の後は最後の安全地帯へと移動した。

 

 

でも私達が向かう途中、獲物を運んでるジガバチと鉢合わせしてしまったけどDさんは殺さず撃退、私達が目指していた―――石で組み上げられた壁、の上にあるところに辿り着いた。ここからなら海も見れるから救助船もわかるはず。

 

「・・・・・一匹いる」

 

「みなさん、また同じ陣形をしてください。足音を立てないように気を付けて」

 

木々や藪に身を潜める私達はDさんの探知能力はもう誰も疑わない。

 

「どんな虫ですか?」

 

「・・・・・蜘蛛、二本の牙」

 

私達の背後に見つめてるDさんの視線は、虫が既にこちらを狙っているのだと物語っている。千歳ちゃん達もそれが伝わり、緊迫した雰囲気が場に漂い息を呑む。

 

「Dさん」

 

「・・・・・行ってくる」

 

音もなく私達の目の前から姿を消して少しして、Dさんが森の奥から蜘蛛の身体に乗って戻ってきた。蜘蛛はジグモだった。地中に巣を作り粘着性の糸を出す蜘蛛の一種が氷の塊の中に閉じ込められている。

 

「・・・・・支配」

 

「その子の背中に乗れるんですね?」

 

頷くDさんに私は少しだけ感動した。ヘビトンボの背中に乗って飛んだ経験の楽しさはとても忘れられなかった。また大きな虫に騎乗できるなら私は乗ってみたい。

 

「・・・・・空腹状態、満腹する」

 

先に避難場所へ行けと言いたいのか、ジグモに乗ったままどこかへ行ってしまった彼を見送る私達は上に登れる階段へ足を運び、私達を出迎えてくれたお堂でやっと腰を落ち着かせることが出来た。

 

「甲斐さん、お堂の床下の雨が当たらない場所に赤松の根を乾燥させた本松明があるはずです。点けた火を消し出来るだけ広範囲に赤松の煙だけをお堂の周辺にばら撒いて散布して下さい」

 

「分かった」

 

私は必ずある香炭を探し見つけるとライターで火を点けて煙を出す。

 

 

一時間後・・・・・。

 

 

ジグモに沢山の餌を見つけ与えて空腹を満たして来たDさんがお堂の中に入って来た。

 

「・・・・・虫、襲撃、問題ない?」

 

「大丈夫です。ここは安全地帯にできる場所ですから」

 

戻ってきたDさんの疑問に私は確固たる理由で断言できる。

 

「・・・・・理由」

 

「お堂には赤松の根を乾燥させた本松明があります。本松明の煙は、昆虫が嫌がる成分が赤松の根には沢山含まれていて、煙が虫にとって嫌がる忌避剤になって追い払ってくれたり近寄らなくなります」

 

「・・・・・外、煙で?」

 

「はい。特にその煙には大量の脂が虫の触覚や呼吸するための気門に付着するのを嫌います。簡単に言うと蚊取り線香と同じ物です。それを絶やさず出して残り数日ここに立て籠もり避難する。それが最後の生き残る方法です」

 

私の話に耳を傾けるDさんは、私を信用してくれた。

 

「・・・・・疑問」

 

「なんでしょうか」

 

「・・・・・この場所、避難できない、その場合は?」

 

「赤松の根を燻した状態でまた医療施設に戻るつもりです。赤松の根だけ確保して医療施設に立て籠もることもできますが、あまり広過ぎると赤松の根を大量に消費して直ぐに使い切ってしまう恐れがあります」

 

そうならないために、ここで待つしかない。幸い食料は救助が来てくれる3日以上が過ぎる想定をして大量に持ってこれた。私とDさんが皆を守れる知識と強さがあるから油断せず避難すればきっと。

 

「元々お寺には葬儀に使うお線香やお香・・・・・防虫効果がある菊や毒を持つ彼岸花が植えられていることが多いです。そして迎え火や送り火として使う赤松の根。これらの煙を身に纏う習慣やまき塩などは―――遺体に蟲や小動物が寄り付かないように使用されたモノです」

 

一つ頷くDさんは外の方へ指差した。

 

「・・・・・救援の船」

 

『っ!?』

 

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