巨蟲列島   作:ダーク・シリウス

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希望

織部睦美等にそう伝えると歓喜の声を上げ、坊主頭とその友人が率先してお堂に出て行った。ここから見える大海原の奥に船が一隻見える。ここに戻る途中で見かけた。

 

「助けが・・・・・来た・・・・・」

 

「うん!!」

 

「うおおお!! やったぜぇぇ!!!」

 

「ヨッシャー!!!」

 

「フーッ、これでこの島からおさらばだ」

 

「やったぁ! 帰れるのね!」

 

歓喜する一同。隣人、抱き合い、抱き着き、喜びを分かち合う。

 

「・・・・・薪、もう二つ、追加」

 

「大量に燃やしてもっとわかりやすくココにいることを分からせるんだな!」

 

周囲の木々を伐採した丸太で新しく組み上げ燃やしてもらい、SOSという煙の文字を浮かばせた。それに感嘆の声を吐く一同。ただの煙を上げるよりわかりやすい自分達の現状だとのこと。

 

そうすること数時間後―――。海原が朱色の太陽の光で朱く染まった時刻になっても、一度歓喜したものの、いくら待っても船が近づいてこないことに疑問を抱く。

 

「なかなか来ませんね」

 

「向かってる途中なのよ」

 

「パッと助けてくれよお」

 

歯がゆい思いをさせられるが、仕方ないとしか思えない。

 

「遅いわ・・・・・待つべき? 私達が行くべき?」

 

「上陸地点からは距離がありますね」

 

「・・・・・漁港、シオマネキ」

 

あっ、と開いた口が塞がらなくなった数人。数多にいた蟹を思い出して、自分達の救助どころではないことを察した様子。

 

「ど、どうするんだよ!? 救助の人達が逆に食われちまうって!」

 

「漁港にしかいないって祈るしかないだろ」

 

「Dさんがまた私達を浮かせて船のところに連れていけない?」

 

「いや、それは逆効果だわ。相手を警戒させるだけで助けてもらえないかもしれない。人が空を飛ぶ事なんてできないもの」

 

「虫を支配して乗って飛ぶこともっショ」

 

冷静に考える者、動揺する者、救援が来ないかもしれない絶望に打ちひしがれそうになる者、十人十色な言動をする面々へ織部睦美が言い出す。

 

「みなさん落ち着いて! 確かにこの島で生きている私たち以外、島の外から来た人達は巨大化した虫のことを知りません。ですが、彼等だって何の装備無しで来ない筈がありません!」

 

それもそうか、でも、と納得とまだ不安を抱く者達の反応が分かれる。

 

「いま海の向こうに救助隊がいます。しかし、土地勘のない彼等が夜まで助けに来てくれる可能性は低いです。ですから昆虫があまり動かなくなる夜明け前の移動が安全です。松明があるので舗装路で迅速に移動します」

 

「Dさんの探知能力で助けに来てくれた人を探しながら行くのね」

 

「その通りです。なので明日に備えて今日もゆっくり休んでっ」

 

織部睦美の言う通りお堂の中で今日も休息する皆。いよいよ明日、この島を脱出する機会・・・・・様々な思いを胸に秘めて彼女の話を聞いていれば耳に入る名も知らぬ少女の声。

 

「はぁ、助けが来てくれると現実味が帯びたらなんだか疲れましたわ。お風呂に入りたい」

 

「そうだねぇ、全身をお湯に浸かってリラックスしたいな」

 

みんなの疲労が蓄積してる。そろそろ本格的に休まないといざという時に動けなくなる時か。

 

「・・・・・造る」

 

「造る? 何をですか?」

 

「・・・・・簡易、湯船、風呂」

 

次の瞬間。鳴瀬千歳や中城茉莉華を含む女の殆んどが俺に振り返った。ほぼ動きが同時だ。

 

「造れるんですか? その、お風呂を」

 

「・・・・・地面、穴、固める。石畳、お湯を満たす」

 

「いやいや、Dさん? それって大量の水が必要っしょ? そんなのどこから・・・・・」

 

甲斐和彦の疑問を解消させる。掌に大量の水を何もない所から集めて大きな水球を作った。

 

「・・・・・空気中の水分、集める」

 

これをすれば問題ない。鳴瀬千歳達から期待の眼差し向けられるようになった。

 

「・・・・・シャワー、枝に吊るす、穴の開いたペットボトル」

 

「簡易的に体を洗える方法ですね。確かにペットボトルは大量にありますから髪も洗えますね」

 

ますます目を輝かす女性達。こうなったら彼女達の期待に応えないと生けなくなった。お堂から出て収納庫からシャベルを取り出し、お堂のすぐ傍で地面を掘り始める。

 

 

数時間後・・・・・。

 

 

織部睦美side

 

 

「・・・・・できた」

 

Dさん手作りの簡易的の浴場が完成した。その報告で私達は見に行くと、どこかで伐採しただろう皮を剥がした丸太の木で壁として地面に突き立てられてて、出入り口は医療施設から持って来たカーテンで吊るされていた。中に入ってすぐ脱衣所も穴がある木の丸太が棚代わりにあり、地面は加工された石畳で押し固められ、湯気が昇る湯船の中も木造で出来ていた。そして私達女性全員が入ってもまだ余裕に広さが残る大きさ。屋根もあるから覗かれない配慮も加えられてる。でも、天井に小さな隙間があるけど室内の空気の換気の役目なんだと思う。そして、簡易的なシャワーは飲み干して無数に穴を開けたペットボトルに繋がっている、紐で持ち上げる仕組みのお湯が入っている大きな簡易の桶。これだけは湯船から流し込まないといけない不便な方法であるものの、救助が来てくれるまでの短い間とならば他の皆から文句がない。

 

『ほ、本格的・・・・・っ!!』

 

手造りにしては立派過ぎる湯船のお湯に手を入れて温度を感じる。うん、私は大丈夫。

 

「丁度いい湯加減ね。これなら入れるわ」

 

「と言うか僕は今すぐ入りたいけど、いいかな?」

 

「・・・・・見張りする」

 

「Dさんなら凄く安心です!」

 

「箕輪くん。疲れているところ申し訳ないのだけれど彼に手伝ってあげなさい」

 

「わかりました」

 

そう言うことで私達はこの島に来て初めての入浴をすることになりました。男子達の覗きと虫の警戒をするDさんに申し訳ないですが、いつか必ずお礼をしたいな。

 

そして・・・・・。

 

『はぁ~・・・・・』

 

身体が溶けそうなるお湯に浸かり日頃の疲労を癒す私達は、この瞬間だけ緊張も解した。

 

「気持ちいい~。Dさんに感謝だねぇ~」

 

「何者なのかは知らないが、今だけはそう思うぜ」

 

「え、知らないの?」

 

Dさんに蘇生された女性、眞鍋佳那さんが不思議そうに言った。青山さんが知った風に語る。

 

「ええ、Dさんと言う名前も偽名ですからね。本人も偽名としてそう名乗りましたから」

 

「え、偽名だったんですかっ? てっきり外国人の人かと思った」

 

「そもそもあの髪の色と目だけじゃ、日本人なんて思えないような」

 

うーん、確かにそうかも。それに巨大化した虫との戦闘、人間の戦い方から完全に逸脱している。体の一部を燃やしたり、冷気や雷を放ったりして・・・・・Dさんは何者なんだろう? 他の皆もそう不思議に感じているよね。

 

「まァ、こんな簡易的な風呂まで作っちまうほど凄いんだ。女の1人や2人はいるんじゃね? 虫相手に戦える強さと眼帯を付けてるがイケメンなのは間違いないからな」

 

神野さんがそんな発言をした途端、何故か茉莉華先生や青山さん、伊能さんが反応した。そして不思議と私も胸がチクリと痛みを覚えた。え、なにこれ?

 

 

 

 

 

織部睦美等がのんびりと入った浴場から出て、次は男の番だとぞろぞろと風呂に入っていく甲斐和彦達。燃える薪の傍で髪を乾かす彼女達を見守るとお堂の中で動く気配。起き上がってまた騒がれるのは面倒、もう一度気絶させるかと動くとポニーテールが気付いた。

 

「どうしたんですか?」

 

「・・・・・起きた」

 

「あ、中の人達が?」

 

お堂の扉を開け放つ。中に放置された二人がぼんやりとした表情のままこっちを見つめる。

 

「誰だ・・・・・」

 

「・・・・・名前、D」

 

「僕は伊能愛です。僕達、飛行機事故に遭ってここに漂流しました」

 

「飛行機、事故・・・・・ねぇ、私達、死んで、なかったの?」

 

「・・・・・死にかけていた。でも、治した」

 

「・・・・・そ、うか・・・・・」

 

口数が少ない、トラウマを抱えている。当たり前か・・・・・。

 

「あの、僕達を救助してくれる人が来ているので明日一緒に行きませんか?」

 

「・・・・・本当か? その保証は?」

 

「飛行機が墜落した海域から、どこかの島に漂着している可能性があると遅くても自衛隊が3日以内に救助に来てくれるはずなんです。今日で3日目ですよ」

 

ポニーテールは鞄から食料と水を取り出し二人に分け与える。

 

「取り敢えずこれでも飲んで食べて落ち着いてください。落ち着けなくても落ち着いてください。ここは今のところ安全な場所なので」

 

「わ、かった・・・・・」

 

・・・・・会話のやり取り程度、可能。生きる気力がなくなりかけてる。・・・・・今後、2人次第。

お堂を後にしポニーテールが織部睦美達へ説明しに向かい、俺は・・・・・。

 

「うめぇー!」

 

「こんなに身が詰まってる蟹の身を食べるの初めてだよっ」

 

「焼き蟹も美味いっショ。Dさんの湯加減と焼き加減が絶妙に上手いって話だねこれ」

 

「まるでステーキみたいに食べ応えがあるな」

 

「ホント、美味しいわね」

 

「あの巨大な蟹の足とはいえ、こんなに美味しいのね」

 

シオマネキから採取した脚を焼いて茹でたりして豪華な夜食にした。明日こそは救助が来てくれるかもしれない前祝いに英気を養う意味を兼ねて蟹を食べることにした。寄生虫に関してはじっくりと茹でて焼いたから問題ないだろう。

 

「いよいよ明日っすね」

 

「そうですわね。もう虫はこりごりですわよ」

 

「それ、ここにいるみんなもそうだよ」

 

「帰ったらバイクを走らせてぇなー」

 

「いいぜ、付き合ってやるぜアキラ」

 

「とにかくここまで来たんだから何が何でも生き延びてみせる! みんな、脱出しよう!」

 

キャプテンの宣言に気合の入った返事が沸く。物静かにしている俺は隣に座っている中城茉莉華から話しかけられた。

 

「Dさんは街に戻ったらどうしますか」

 

「・・・・・考えたことが無い、戻っても、問題、お互い」

 

「そうですね・・・・・ここにいる生徒達も今後どうなるかわかりません。今回の飛行機墜落事故の一件で学園も新たな生徒が進学してこなければ、後々廃校になるでしょうからね」

 

「・・・・・他、巨大化した虫、取り調べられる。元の生活、長い先送り」

 

そして・・・・・。

 

「・・・・・戻っても、巨大化した虫、可能性がある」

 

「仮にそれが本当だとして、自衛隊の害虫駆除に手が回ると思いますか」

 

「・・・・・無理、日本、国民全員、可能」

 

「無力な人間までも協力しなければ虫は増え続けるのですね」

 

首肯する。ただ食欲を満たすだけの餌にされる人間、必ず減る。虫は増えるばかり。空、地上、地下、どこでもいてどこでも増える。この危険性をこの世界の人類はまだ気づいていない。

 

「・・・・・政府、賢明、言動、祈る」

 

「その政府が巨大化した虫の原因と関わっているならば?」

 

「・・・・・マッチポンプ」

 

「なるほど、確かにそうなりますね」

 

それでも人々は反撃の狼煙を、恐怖に屈しない強い炎を胸に灯さなければならない。人類が滅亡してもいいというならば、どうでもいい。俺には関係のないことだから・・・・・。

 

「・・・・・入って来る、長風呂」

 

「異常があればすぐに伝えます」

 

頷き返して風呂に向かう足を運ぶ。今この瞬間、1人になれた。

 

「であるな。ようやく話せる。中々に刺激的な世界に来てしまったのぉ」

 

足元の影から小さな狐が出てくる。9本もある普通ではない狐が人語を操る。

 

「・・・・・異世界」

 

「何の因果なのかは知らぬが、妾等とは無関係な場所に送り込まれたのは間違いない。この世界の問題を解決するまで、あるいはこのまま生きなければなるまいか分からぬな」

 

「・・・・・どうでもいい、未練、ない」

 

「であるか」

 

服を脱いで湯船に入り湯に浸かる。九尾の狐は入ろうとせず俺の後ろに居座る。

 

「虫ごときに後れを取られるお主ではないが、無能共に足を引っ張られるではないぞ?」

 

「・・・・・放っておく」

 

「ならよい」

 

それから言葉通り、長く風呂に浸かった。久しく九尾の狐と話していると時間も忘れる。全員がお堂の中に戻る気配を感じて俺も風呂から出ることにした。火の番は織部睦美と甲斐和彦がしていた。

 

「Dさん、今夜ぐらいは寝るっしょ? こうして赤松の根の煙を出しておけば虫も寄ってこないから大丈夫大丈夫」

 

「お休みなさい。Dさん」

 

・・・・・言葉に甘えて・・・・・眠った風に装って寝ずの番をすることにした。よほどのコトが無い限り安全ではない。壁に背中を預けて座っていると中城茉莉華が寄り添ってきた。

 

「明日、私達は無事に脱出できますか」

 

「・・・・・断言、否、何が起きるか、不明」

 

「それでも、どうか私達を守ってください。もしも守ってくれたならば、何でもあなたの望みを叶えます」

 

望み・・・・・脳裏に浮かぶ好物の菓子パンを思い出し、彼女にそれを沢山食べたいと告げると不思議そうな顔をする。

 

「好きな食物なのですか?」

 

「・・・・・至高」

 

「・・・・・分かりました。必ず用意します」

 

・・・・・自分で言ったのに、何で不機嫌な顔をする。理解できない。それに腕を絡めて抱き着いてくるのはどうして。そのまま眠りについた・・・・・動けない。何でこうなる・・・・・?

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