巨蟲列島   作:ダーク・シリウス

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脱出

島に漂流して4日目。―――早朝AM5:50。

 

俺達は救助船が居る湾に向かい・・・・・夜明けと共に出発した。気絶して動けない人間はもういなく、身軽に動けるようになり、移動速度に憂いは無い。懸念があるとすれば体力のない者達の存在。・・・・・女達の息が荒い、ほぼ休まず強行軍のように早足で移動しているから仕方がないとはいえ体力の消耗は激しい。念のために連れて来たジグモの背中に乗って先行している織部睦美は周囲を忙しなく見回している。

 

「ハァ~~~少し休んでいかない?」

 

ツインテールが膝に手を当てて身体で自身の疲労を訴えそう提案する。が、鳴瀬千歳は否と答えた。

 

「休んでいる暇はないわっ! 今は夜行性の蟲達が身を潜め昼行性の蟲達は体温が上がらずに動けない唯一の時間帯なのよ」

 

そう言う本人も顔に汗を浮かべて疲労の色を窺わせていた。

 

「この調子で移動できれば救助船まで1時間以内で到着するわ」

 

先行く彼女に続き、ツインテールに向かって意地悪そうに赤髪の女が「置いていくぞ」と言われてしまえば、疲労していても置いて行かれたくない思いで身体を動かすしかない。夜明け前に移動していても少しずつ明るくなってきている。

 

「虫はいますかDさん」

 

青山望が警戒しているか眼差しを向けて来る。肯定と頷き返す。

 

「・・・・・接触、小型、多い」

 

「織部さん! この先に小型の蟲が多くいるとDさんが仰ってます!」

 

「どんな蟲なのか確認します! 避けられない場合は迂回しなくてはなりません!」

 

迂回?・・・・・それはダメ。

 

「・・・・・人間、3人、近づいている」

 

「救助隊ですかっ?」

 

伊能愛の言葉に皆の足が停まる。

 

「・・・・・迂回、この場で待機、選択」

 

「睦美、あなたはどうしたい?」

 

「Dさんの話が本当ならば、迂回せずに済むかもしれません。ですが、無数いる小型の蟲達がいる方から来るなら、私達も救助隊の人達と協力しながら脱出するべきです」

 

迂回も待機もせず危険に臨む形で移動を続ける。でもすぐにジグモの足を停まった。小型の蟲がいる付近に着いてしまったからだ。

 

「いる・・・・・」

 

臭いを嗅ぎ始める織部睦美。彼女が何の臭いを嗅いでいるのか分からない俺達。

 

「この臭いはカメムシの仲間・・・・・」

 

「な・・・なに? カメムシって人を襲うの?」

 

蟲の生態を知らないツインテールの素朴な疑問に答える。

 

「カメムシの仲間には人を含む動物を襲う種類も存在しています」

 

織部睦美(ジグモ)の横にまで近寄り、周囲を見回す。同時に織部睦美が視線と一緒に舗装路の外側に生えてる木の幹に指した。

 

「いました・・・・・多分サシガメの仲間です。人を襲う可能性が0ではありません」

 

「人を襲う? カメムシなんて臭いだけだろ」

 

誰もが周知して既知な情報。当たり前な事を言う織部睦美に呆れる坊主頭だったが。話はまだ続く。

 

「彼等をなめてはいけません。カメムシの仲間は体内で毒ガスを作り出す―――バイオプラントを持っています。これだけの大きさで身体に匹敵するだけの量を持っているなら・・・もはや化学兵器と言っても過言ではない状態かもしれません」

 

小型とはいえど10cm以上もある虫。身体が大きければそれ相応の何かを抱えているのは必然の理。

 

「カメムシの臭気は自分自身にまで有効です」

 

「なに? 自分が出した毒ガスで死んじゃうってコトッスか?」

 

毒ガスに耐性ある生物、知らない。

 

「しかもサシガメの仲間には“シャーガス病”という寄生虫の媒介虫になっている種類も居ます」

 

寄生虫、その言葉に坊主頭とアキラが戦慄した表情になった。

 

「そ・・・そのナントカ病になったら・・・どうなるんだよ」

 

「突然死を起こすことがあると聞いています。あのサシガメも寄生虫宿主である可能性がありキケンです」

 

「突然死っっ! ホントなのかよっ!!」

 

親友が寄生虫で殺されかけた経験をしたからか、聞捨てられない様子の坊主頭に詰め寄られ気圧される織部睦美だった。

 

「えっ・・・・・・えっと・・・カメムシは専門じゃないので・・・・・」

 

「しっかりしてくれよ!!」

 

「スグに調べます」

 

「・・・・・必要?」

 

「そうです!! Dさんの話を忘れたのですか。もうすぐ救助隊の人達が来てくれるのよ! そんなことしていないでさっさと蟲を倒すべきです!!」

 

・・・・・こっちから仕掛ける、それも無いと思う。

 

「・・・・・密集陣形」

 

「待ってください。サシガメは近くに通る生き物に反応します。体の大きいこの子が―――」

 

異を唱える彼女を無視してジグモごと全員をサシガメの気配がしないところまで浮かして降ろす。これで問題ないだろうと織部睦美へ視線を送っていたら、これから向かう先の方から現れた3人の男女が信じられない物を見る目で見て来る。手猟銃を二丁携えてるベストを着た中年の男性二人と長い髪を一つに結い制服で身を包む若い女性が、だ。

 

「・・・・・誰?」

 

尋ねると三人は我に返った。女性がまず最初に口を開いた。

 

「私は海上保安庁“巡視船みの”の乗員です。2週間前から音信不通になっているこの島の調査に来ました」

 

「海上保安庁・・・・・」

 

自衛隊ではなかった・・・・・それでも救助してくれるだろう。

 

「アナタ達は・・・・・この島の方ですか?」

 

「違います。島民の人達はこの3人のみです」

 

「私達・・・・・飛行機が墜ちて」

 

絶句する海上保安庁の乗員。飛行機墜落の事故の生き残りがいるとは思いもしなかっただろう。

 

「まさかあの飛行機事故の!? 生存者は?」

 

「私の知る限り生き残っているのはコレで全員です」

 

鳴瀬千歳が事実を打ち明ける。

 

「涼子・・・・・」

 

無精ひげを生やす中年の男性が海上保安庁の乗員にそう呼んだ。

 

「疲れてるんだ。そんな話は船に戻ってからでいいんじゃねぇのか?」

 

「・・・・・年の差、夫婦?」

 

素朴な疑問、ぶつけたら海上保安庁の乗員が間も置かずに否定した。

 

「違います。私の父です」

 

「へぇー、父娘でこの島に来たんですか?」

 

伊能愛が物珍し気に訊いた。無精ひげの男は猟銃を見せつける風に持ち上げる。

 

「今俺たち猟友会12名と海上保安庁官20名でこの島の探索を行ってる・・・・・。今まで何度も仕事(やまがり)してきたが俺以外みんな頼りになるヤツばっかりだ」

 

「・・・・・俺以外って」

 

「お父さんっ! 不安がってるじゃないっ!!」

 

何とも言えない表情になる鳴瀬千歳の反応に父親を嗜める娘の会話に、眼鏡をかけた中年の男性が会心の笑みを浮かべる。

 

「おめぇら!おやっさんと一緒なら安心だぁ!!」

 

「安心だぁ?」

 

「猟友会の害獣駆除で絶対にケガ無く無事に帰って来る。して一緒に行ったヤツらもケガなくな」

 

・・・・・獣相手ならそう、でもこの島には獣より厄介、極まりない危険な虫がいる。この人間達はまだそれを知らない。

 

「やったぁ!! もう安全なのね?」

 

非力な女子達が安堵する。涼子という海上保安庁の乗員はGPSに視線を落としていた。

 

「あちらの沢を下れば巡視船が停泊している場所へ到達できそうです」

 

「分かりました。では、移動―――」

 

・・・・・沢? ・・・・・そっちは、ダメ。

 

「・・・・・沢、気配」

 

「え、Dさんいるんですか?」

 

「なんだ? 沢に何がいるのか?」

 

首肯する。

 

「・・・・・大きさ、ジグモ並み、沢、虫、何?」

 

「・・・・・ヘビトンボの存在も確認した以上、ヘビトンボの幼虫がいるのかもしれません」

 

「・・・・・他」

 

「トンボの幼虫、ヤゴであれば私達だけだったら逃げられる可能性は・・・・・ほぼ無いです。他にも水生の蟲でありながら陸でも活動できる蟲はいます。沢に近くのは避けるべきです」

 

海上保安庁と猟友会の人間達を置いてけぼりにして相談し合う。

 

「あー、嬢ちゃんたちよ。俺等にも分かる説明をしてくれるか?」

 

猟友会の人間が困ったように頬をひっかく。理解し兼ねていると。

 

「・・・・・実物」

 

ジグモに動いてもらいアピールする。

 

「この島には人間を襲う巨大化した虫が沢山いるんです。あの蜘蛛もその一種ですが、こちらDさんの不思議な力で支配して従わせています」

 

「巨大化した虫だと? 未知の生物なんだな?」

 

「いえ、既知の生物がそのまま巨大化したんです。その巨大な昆虫達が飛行機の墜落してこの島に漂流した私達が来る前にはすでに島民たちが彼女たちを残して全滅、もしくは島から脱出をしたようです」

 

「・・・・・この島が音信不通になった原因はそれなのか?」

 

「更に言わせてもらえば、この島の医療施設に巨大化した生物をホルマリン漬けにした水槽が沢山あったッスよ」

 

話を戻す。

 

「・・・・・沢、虫、猟銃、倒せない、それでも?」

 

「本気でそんな虫もいると言うんだな坊主」

 

「・・・・・可能性」

 

「・・・・・涼子、お前はどうしたい?」

 

話を振られた彼女は考え込む仕草をした後、結論を口にする。

 

「沢を下ります。もしも不可能ならば巡視船に通信を入れて別の場所に入港してもらいます」

 

「ってことだ。無茶はさせないからついて来てくれるな」

 

「・・・・・織部睦美」

 

「分かりました。では、Dさんを先頭に立たせてください。彼は虫の気配を感じることが出来ます。蟲より先に察知出来れば襲われる前に行動が出来ます」

 

感嘆の息を吐く無精ひげの男。

 

「ほー、それは獣でも感じることが出来るなら是非とも猟友会の人間になってもらいたいな。害獣探しには便利だ」

 

「・・・・・無職、脱出出来たら、考える」

 

「おっ? 無職か。だったら尚更ヘッドハンティングをしなくちゃあな」

 

不意に空気を震わせる鈍い音が聞こえだす。

 

「抜け目がないねぇ。おやっさん、他でも害虫駆除が始まったみてぇだ」

 

織部睦美の提案に異を唱えず、あっさりと猟友会の人間達の間に交じって先陣切って沢へと移動することになった。後続の織部睦美も続いて付いて来てサシガメ以外の蟲の気配を探しながら足を運ぶ。

 

「―――――」

 

沢がある湿地帯が見えた矢先。沢にいる虫の気配、こっちに殺気を向けて来た。

 

「・・・・・停止、気付かれた」

 

「なに? もうか?」

 

「・・・・・攻撃してくる。身を屈む、急ぐ」

 

「そんで後退か?」

 

・・・・・もう遅い。眼鏡を掛けた猟友会の人間を突き飛ばし、目と鼻の先まで迫ってきた何かから紙一重で躱す。その瞬間、織部睦美が愕然の面持ちで呟いた。

 

「ヤ・・・・・ヤゴ!?」

 

織部睦美が沢にいる虫を指摘した通りの虫がいた。

 

「・・・・・織部睦美、ヤゴ、詳細」

 

「ヤゴは魚と同じようにエラ呼吸し、水中で生活が出来ます! そのためエラ呼吸をするために吸い込んだ水をロケット噴射し高速移動の手段を活用する他、口の下に折りたたまれたアゴを伸ばし遠くにいる獲物を捕食します!」

 

さっき飛んできたのは下アゴ・・・・・。数メートル先まで伸びるか。

 

「・・・・・逃走、不可能、倒す」

 

「待ちな坊主。ここは俺たちに任せろ」

 

「・・・・・不要、さっき、反応、躱せなかった。死んでいた」

 

制止を無視してヤゴの前に飛び出す。ヤゴがまた下アゴを瞬間的に伸ばして宙にいる俺を捕らえようとするが、宙を蹴って回避、着地すると尻尾でエラ呼吸した際に吸い込んだ水でロケット噴射してくる。本当に高速移動してきて感心したけど、両手を突き出してヤゴの突進を食い止める。が、足が宙に浮いて踏ん張れず背後の木に押し付けられる形で止まった。

 

「Dさんッ!?」

 

「初撃で仕留める。合わせろ」

 

「はいよ。助けられた恩は返さねぇと」

 

猟友会の人間達の散弾銃がヤゴの横顔に当たるが、効果なし。膝蹴りでヤゴのアゴを蹴り上げ、飛び出してきた下アゴを反らした。真っ二つになった木を掴みバットのようにフルスイングして殴り飛ばす。・・・・・硬い。顔が潰れてない。

 

「ほう・・・・・アレでもビクともしないとはな。だが今度のはひと味違うぞっ! このイノシシ弾で何頭も熊を仕留めて来たっ!!!」

 

新しい銃弾? 熊程度にしか効かない銃弾がヤゴの装甲を貫く?

 

「坊主っ!! 3秒だけでいい、化け物虫の動きを止めてくれ!!」

 

「・・・・・分かった」

 

起き上がるヤゴの身体を掴み、盾ににする形で持ち上げる。顔が空に向けられては獲物に向けて突き出す下アゴも無意味。エラ呼吸する尻尾も水中から離れてしまえば高速移動も出来ない

 

「あの巨体を持ち上げるとは大したぁ奴だな。しかも理想的な狙い方をさせてくれるぜ」

 

「これでも利かねぇなんてことがあったら、坊主に申し訳がねぇ」

 

「同感だ」

 

ヤゴの頭部に狙い定める猟友会の二人は躊躇いなく引き金を引き、さっきより強い発砲音を鳴らした。

 

「・・・・・?」

 

持ち上げてるヤゴから力が感じなくなった。降ろしてみればヤゴの目に光が無くなってる。・・・・・どういう状態?

 

「・・・・・織部睦美」

 

降りてきた彼女に尋ねて見れば、先の銃撃で気絶しているだけだという。ならばすることは決まってる。氷の塊の中に閉じ込めたヤゴを亜空間の中に収納するだけ。

 

「すまない坊主、俺たちは役に立たないままだったな」

 

「・・・・・気にしない」

 

「街に戻ったら熊肉や鹿肉をたらふく食べさせてやるよ。命の恩人だからな」

 

頷き返すその後、沢を下り巡視船に向かうはずだった・・・・・。

 

「こちらCharley。PL55みの、応答願います」

 

『こちらPL55みの。Charleyどうしたっ!?』

 

「島にて未確認生物と遭遇っ! 救助願います。猟友会のイノシシ弾でも仕留められない強固な未確認生物が多数存在している可能性があります」

 

『自分で戻っては来られないのか?』

 

「島民を含む新たに20名を保護しました。上陸に使ったゴムボートでは全員を乗せることは無理ですっ!! 島の北北西に製薬メーカーが使用していた大型のベイ有り。十分に巡視船の入港可能です」

 

『了解!!』

 

「他の上陸メンバーへの避難指示を願います」

 

彼女は通信機越しで本船と連絡を取り合い、移動先を変える決断をした。

 

「・・・・・変更?」

 

「はい、先の巨大蟲との戦いから考慮して最もここから近い巡視船が入港できる場所へと移動した方がみなさんの安全を守れると判断しました」

 

彼女の判断は正しいと思う。異を唱えず従うだけ。うっそうとした木々や藪の中を横断する。蟲の気配を探って事前に危険を伝える。―――今のところはする必要が無い。

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