フォッカーDr.Ⅰは格納庫で改修を受けるため、まばゆいライトの光に照らされていた。
「よし! これでいい。よくやってくれた。お疲れ様!」
作業員が作業を終え、各々がクルツに挨拶をし終えるとハンガーを後にする。
「隊長、なんですか? 翼に付いてるこれは? 写真撮ってもいいですか!?」
カメラを構えた少女が興味津々によってくる。灰色の長い髪に三白眼が魅力的だ。
「駄目だ、撮るな。チャーフィー、いつから居たんだ?」
「隠れんぼは得意なんです。私」
「そうだったな。君は姿を隠せるのか」
「はい! 隠密偵察ならおまかせを!」
チャーフィー・ビキンズはその能力で自らを煙のようにくらますことができた。彼女は自分の周りの「空間の色」変幻自在に変化させ、わずかな時間だけ「透明なマント」を作り出せたのだ。
「で? なんですかこの鉄板。隊長の愛機だけ特別仕様ですか?」
好奇心旺盛にチャーフィーはファインダーを覗く。
「教えてやるから、撮るな」
クルツは慌ててレンズを手で覆う。
「撮らないから教えてください」
チャーフィーは悪びれる様子もない。
「その何でもカメラで撮ろうとする癖は直そうな。これはな、ジュラルミンの板だ」
「ジュラルミン? なんですかそれ」
「アルミ合金だよ。頑丈で鉄よりも軽く、そして電気をよく通す」
「そのジュラ何とかを翼に張り付けて、戦車みたいにするんですか?」
「ああ、装甲板として使うのかって? それもあるが、これは雷対策だよ」
「雷? 隊長はそんなものが怖いんですか? 意外と子供なんですね」
いたずらっぽくチャーフィーはからかう。
「ああ、怖いさ。ただの雷じゃなく。こいつが使う雷はね」
にやりとクルツは笑みを浮かべ、英字新聞をチャーフィーに渡す。
「THUNDERBOLT??」
「そうだ敵のワルキューレは雷を操って、パイロットを焼き殺す」
「へぇ、雷でね」
チャーフィーはすっかり感心をなくし、退屈な顔をした。金属板の正体は避雷針と変わらない。雷サージを表皮効果で金属板の表面に逃がす。それだけのもの。
「明日は君たちの初陣だろ。今日は早く休むんだ」
クルツは丸めた新聞でポンポンとチャーフィーの頭をたたき、戻るように促した。
「はいはい、そうだ隊長さん。写真撮っていいですか?」
「機体はだめだぞ。私の写真ならいいがね」
「わかっていますよ。みんなの写真を撮ってるんです」
「男前にとってくれよ」
クルツはリヒトフォーフェンそっくりのポーズを決める。
「はい! とりますよー!! Ameisenscheisse!!」
シャッターが押され、クルツとチャーフィーは笑い合った。つかの間の幸せな時間がフィルムに焼きつく。
Ameisenscheisseは蟻のうんち、ハイチーズって意味らしいですよ。