乙女たちにジュラルミンの翼を   作:社畜新兵

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長々と語り口が続きます、眠くなるかも。


ワルキューレとは

「悪いね、戦場に英雄は必要ない。君たちが邪魔するようなら、墜ちてもらうよ」

最後の一機を墜とすと、少女はそっとつぶやいた。

「これで最後ね、帰りましょう。ナタリア」

ナタリアの後ろの席で後部機銃を構えた少女が言った。

「そうだね、エイミー!! 今度も私たちの勝ちだ!」

ナタリアが操縦桿を倒し、機体が旋回する。エンジンが勝どきを上げるかのように、うなりを上げていた。

コンクリートで覆われた薄暗い司令部に置かれた簡素な椅子に、指揮官は腰を下ろし、粗末な机の上で偉そうに腕を組んでいる。

「いったいどういうつもりなんだ?この有様は?」

指揮官が、ナタリアとエイミーに向って叱責する。

「どうって、私たちは敵をすべて倒しました。中にはワルキューレもいた! 何が不満なんですか?」

ナタリアが指揮官にかみついた。

「ナタリア、君は自分の間違いがわかっていないようだ。エイミー、君にはわかるだろう?」指揮官が高圧的な態度で言う。

「私たちの任務は敵要撃部隊の撃滅です。それには成功しました。しかし、私たちがもっと早く敵を墜としていれば、友軍の爆撃隊を失わずに済んだ」エイミーが淡々と答えた。

「そうだ! 君たちワルキューレは勝って当然! ただ命令を遂行するのは並みの兵隊だ。ワルキューレならば! 常に作戦目標を把握し、勝利に向かって自分たちで考え、自分たちで行動すべきなのだ!」指揮官は立ち上がり、お得意の演説を始める。

「次はうまくやって見せます。必ず」

エイミーが短く、力強く答える。

「そうだな、ひとまず今は休みたまえ。次はより確実な勝利を! 期待しているよ」

指揮官は満足そうにそういうと、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。

「「失礼します」」二人は短く敬礼をすると、足早に司令部を後にした。

「偉そうに! 自分では何もしないくせに!」

廊下を歩きながら、ナタリアが何度も舌打ちをしたあと言った。

「指令の言うことも一理あると思う。私たち、今は勝っているけど、このまま勝ち続けるにはもっと強くならないといけないでしょう?」

エイミーがやさしく諭す。

「エイミーはあの指揮官の肩を持つの? 皇帝陛下に媚びへつらうだけで指揮官になったあの男の!」ナタリアがわめく。

「そういうわけじゃないわ、私たちにはたくさんの勝利が必要ってこと、今日のところは休みましょう。疲れたもの」エイミーが穏やかに答えた。

「そうだね、さすがに疲れたよ」

 ナタリアは大きなあくびをするとそっとエイミーの手を握った。

ヨーロッパは二度目の戦火に飲み込まれていた。20世紀、世界は中央同盟と連合国の二つに陣営に分かれ、ヨーロッパの覇権をめぐり、「すべての戦争を終わらせる戦争」が繰り広げられたことは、記憶に新しい。戦争の結末は中央同盟の敗北だ。だが、この世界の終戦は史実の終戦とは少し違っていた。戦火を拡大させたドイツは、その戦争責任のすべてを、皇帝ヴィルヘルム2世に被せ、皇帝を国外追放し、完全なる議会制民主政を引いた。講和会議でドイツ陣営は、自分たちは悪逆非道なる皇帝の被害者であると、これからは共に手を取り合いヨーロッパを復興させようと、声高々に主張し、莫大な賠償金請求回避した。

これによりドイツは戦後のハイパーインフレを回避し、ナチズムや共産主義の台頭を防ぐことに成功する。悲惨だったのはオーストリアハンガリー二重帝国だ。多民族国家であったこの国は、大戦の敗北で帝国内の諸民族は次々に分離独立を宣言し、二重帝国はバラバラに離散し、崩壊した。オスマントルコ帝国も大戦後滅亡し、新たにトルコ共和国が建国している。ブルガリア王国はエーゲ海沿岸をギリシャに割譲し、戦後はボリス三世によって新政が行われた。ここまでが、中央同盟国の結末であった。

1930年代世界恐慌がアメリカを皮切りに起こった、これは世界的な混乱を招き、人々はいつしか強い政治、強い国家を求めるようになり、それを実現してくれる、「独裁者」は、「楽をして幸せになりたい」民衆にとって、非常に都合のいい存在であった。

オーストリアのある酒場で、「ある男」が声高らかに叫んだ。

「自分はハプスブルク家の正統な後継者である」と。人々ははじめ彼を嘲笑したが、彼の類まれなる人心掌握術と、悪魔的演説に魅了され、彼を支持する人間は一人また一人と増えていった。

男の名は「アドルフ・ヒトラー」

 無論、彼とハプスブルク家の関わりなど何処にもない。しかし熱狂した民衆に、真実か嘘かはどうでもいいことだ。ヒトラーは声高らかに言った。

「今こそ我々の誇りを取り戻す時だ! ハプスブルグ家の威光のもと! 再び多民族国家を復活させる!」

このスローガンのもと、オーストリアは野望の道を突き進む。ヒトラー率いるナチ党が実権を握ったオーストリアは、ハンガリーを併合、次に隣国のチェコスロバキアも併合すると、再びオーストリア=ハンガリー帝国が返り咲くことになる。皇帝ヒトラーはこの帝国を「オストマルク帝国」と名付け、こう叫んだ「全世界はわが帝国に属する」と。そしてポーランドに侵攻したのだ。このオストマルク帝国の暴挙を、列強諸国、とりわけドイツとロシアが静観していたのは、二国間である盟約が秘密裏に結ばれていたからである。オストマルクがポーランドを征服し、東欧の大国としてのし上がるようなら、ドイツとロシアの両国が東西から侵攻し、その領土を仲良く半分に分けようと。

 ポーランドを征服し、列強の仲間入りをしようとするオストマルク帝国に、ドイツは宣戦布告、両国は戦争状態となった。それに合わせ、イギリスとフランスも宣戦を布告したが、ロシアはオストマルクと不可侵条約を結び、戦争に参加しようとはしなかった。ドイツ首脳部はこれに激怒したが、そんなことはどうでも良くなるような衝撃が、ベルリンに走る。

 ベルリンが空爆されたのだ。オストマルクはこの戦争でヨーロッパを手に入れられるように、着実に準備を進めていたのだ。その要が空軍であった。1917年4月ドイツ空軍は連合国空軍に対し損害比4:1というおびただしい戦果をたたき出した。後に「血の4月」と呼ばれるこの期間はドイツ空軍の伝説として、後世に語り継がれている。

ヒトラーはこの伝説に魅入られ、ヨーロッパ最高の空軍をオストマルクに組織することを熱望する。ドイツ、イギリス、フランス、アメリカに諜報員を送り、ロシアに秘密裏に航空機の設計局を設立。国内には民間の企業に偽装してパイロットを養成し、着々と準備を進めていたのだ。

中で最も力を入れていたのが、「ワルキューレ部隊」の創設である。

「ワルキューレ」とは何か、詳しく語る必要があるだろう。この世界には様々な「奇跡」をおこす女性がいた。彼女たちは10代の初潮を迎えた時から、様々な「奇跡」を使い始め、その力は20代に最盛期を迎える。「奇跡」は人間の生殖能力と密接な関わり合いがあること、そして「奇跡」を使用するには、「エネルギー」が必要であることが分かっていた。

この「奇跡」使用するための「エネルギー」としてはるか昔から使われていたものが、「熱エネルギー」つまり「炎」である。古代の「ワルキューレ」は松明を持って戦い、中世ではランタンを持って戦った。やがて産業革命によって蒸気機関が発明されると、「ワルキューレ」たちは蒸気船や蒸気機関車に何十人と乗り、その多くが命を散らしていったという。やがて自動車ができると、それに「ワルキューレ」が搭乗し、彼女たちを守るために装甲板が張り付けられた。戦車の誕生である。

ライト兄弟が飛行機を発明し、広く普及すると、「ワルキューレ」達も搭乗した。これが悲劇の始まりだった。飛行機と「ワルキューレ」の相性は抜群であった。

「ワルキューレ」を乗せた戦闘機が戦場に現れると、すぐに制空権を獲得した。空を支配した彼女らは、空から数々の「奇跡」を無尽蔵に発現し、地上の敵を一人残らず撃滅することができた。少女たちは次々に飛行機に乗り込み、そのほとんどが再び大地を踏むことはなかった。ひとたび空に上がれば、雷鳴をとどろかせ、業火を巻き起こし、殺戮を繰り返す。    

そんな彼女たちを連合国の兵士は「ウィッチ」とよび、ドイツ軍では「ワルキューレ」と呼んだ。この世界で「ワルキューレ」たちは大人たちによって殺戮の機械として育て上げられ、人々に疎まれ、畏れられ、いつしか使いつぶされる。どの国でもその運命は、変わらないものであった。

 




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