乙女たちにジュラルミンの翼を   作:社畜新兵

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過去の回想会です。
しばらく続きます。


翼をつけた少女

「Noblesse(ノブリス) Oblige(オブリージュ)」

 この言葉の意味は「高貴なるものの義務」である。戦時下において、貴族の息子たちは、領民を守るために前線で血を流し、戦い死ぬことが義務として求められた。

 第一次世界大戦では王族や貴族の戦死者も多かった。その中で最も歴史に残っている英雄は、「Red Baron」の二つ名を持つ、マンフレート・フォン・リヒトホーフェンだろう。

 馬に乗って騎士として戦っていた貴族たちは、やがて戦闘機に乗り込み、空を縦横無尽にかけていった。戦闘機乗りに貴族が多かったのは、飛行機が高価な代物だったからだろう。          

彼らは各々が好きなように愛機を飾り立て、その翼に一族の紋章を刻み大空へと飛び立っていった。リヒトホーフェンもまた愛機を赤く塗り、敵機を次々に血祭りにあげたのだ。

 この世界の一次大戦でも、戦闘機に乗り始めたのは貴族が多かった。しかしある時一人の将校が突拍子もない主張をする。「飛行機にワルキューレをのせるべきだ」と。この主張は冷たく却下された。一番の理由は少女を戦闘機に乗せたくなかったからだ。

指揮官たちは「戦闘機は騎士の愛馬であり子供のおもちゃではない」と笑い飛ばした。無論ワルキューレたちは既に地上戦で活躍していたため、そこから引き抜いてくる余裕などなかった。という理由もあった。

 失意のもと計画案を練り直すことになった青年将校の名は、「シュタイナー・ヴィッツ」この物語の主人公「ヘルムート・ヴィッツ」の父である。

 だがこの主張は、1917年4月に正しかったことが証明される。この時期のドイツ軍はヨーロッパの空を支配していた。リヒトホーフェンをはじめとするドイツ空軍のエースたちは、高性能な戦闘機Albatros D.IIIを駆り次々に連合軍機を墜としていった。

 しかし、すぐに彼らは戦慄することになった。たった一機の戦闘機に。

 4月末、ある一機のブリストルF.2戦闘機がアラス上空を単機で飛行していた。すぐにドイル軍に発見され、6機のアルバトロスがこの機体に襲い掛かったが、編隊長はこの機体に妙な違和感を覚えたという。

本来このブリストルF.2は6機で編隊を組み、旋回機銃で十字砲火を加える戦法をとっていた。だから単機で飛んでいることは珍しいのだ。とはいっても、偵察機として前線を偵察しに来ているのならば、単機でもおかしくはないし、敵ならば墜とさねばならない。

そう考えながら下方にいるブリストルに狙いを定め、アルバトロス隊が降下していくと、ブリストルが青白く光り始めた。すぐに鉛色の雷雲がどこからともなくわき始めた。かと思うと、真っ白な雷撃が走り、次々とアルバトロスを引き裂いた。

ブリストルF.2は二人乗りの戦闘機だ、前席に操縦者が乗り、後部席には旋回機銃を撃つ機銃手が乗っていた。この特別なブリストルの後部席には、英空軍のワルキューレが搭乗していたのだ。このワルキューレはドイツ軍で「ブリッツ」と呼ばれることとなる。

生き残った編隊長の報告に、ドイツ軍司令部は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

「すぐにこの機体を墜とすべきだ!」

「どうやって? 通常のパイロットでは歯が立たないぞ!」

「同じワルキューレを使えばいいだろう!」

「すぐに使えるワルキューレなどいないだろう!」

 論争は白熱したが、誰も具体的な解決策を出せずにいた。

「すでに一人、訓練を終えたワルキューレを用意しています。すぐに出撃可能です!!」

 唐突に一人の男が資料を机に置き、堂々と話し始めた。プラチナブロンドの髪をポマードでしっかりと固め、がっしりとした体に青い瞳をしたその青年こそ、「シュタイナー・ヴィッツ」ドイツ軍で初めてワルキューレの戦闘機隊を編成し、伝説となった青年将校である。

 情報将校であったシュタイナーは英空軍がワルキューレを戦闘機に乗せる計画をあらかじめつかみ、その脅威を司令部に警告した。すぐに対抗としてワルキューレの戦闘機部隊を編成すべきだと彼は訴えたのだが、前述のとおり、その訴えは却下されることとなる。

 しかしそこで彼はあきらめなかった。まず旧式のフォッカーアインデッカー戦闘機を一機調達した。自分が前線で情報を収集するために偵察機が必要だともっともらしい理由つけて。次に前線で問題行動ばかり起こすワルキューレの噂を聞きつけ、会いに行った。

ハンナ・ラーデンバーというその少女だ。少女は背が低く栗色の短髪はボサボサだったが、灰色の大きな瞳には力があった。とにかく気が強く、親に捨てられた孤児だった。彼女の周りのワルキューレは貴族出身者か、戦争の途中で貴族の夫婦に養女として迎えられた、恵まれた子ばかりだった。ハンナはいつも劣等感にさいなまれ、周りと衝突し、孤立した。苦しい毎日を送っていたという。指揮官もそんな彼女を不憫に思い、後方にこっそり送ってやろうかと思案していたところ、シュタイナーが現れた。

 ハンナは二つ返事でシュタイナーの提案を受け入れ、世話になった指揮官に別れを告げた。同期のワルキューレたちは「パイロットになれるわけないのに」だとか「騙されてるわ、可哀そうに」と彼女を最後まで馬鹿にしていたが、ハンナはかけらも気にしなかった。

 ハンナの初陣の目的は、敵砲兵陣地の破壊だった。「ブリッツ」の撃墜が司令部から強く望まれていたが、それは彼女にはまだ無理だと指揮官のシュタイナーは判断した。

 大事なのは戦果を上げ、部隊の有用性を司令部に認めさせることだ。何よりハンナに勝利をつかみ取らせ、自信をつけさせねば彼女はエースに育たない。そう考えたのだ。

 戦いは一方的に終わった。ハンナは冷静に高度を落とすと、機銃掃射とともに「奇跡」によって生成した光の矢を、敵の野砲に向かって次々と放った。矢は野砲を貫き、しばらくして爆発した。その炎が野砲の弾薬に移り、次々と誘爆を起こす。グワン!グワン!グワン!と轟音が鳴り響き、地面はえぐれ、大きな穴があいた。兵士たちは泣き叫び、逃げ回る。

 自分が引き起こした惨劇を、ハンナは空の上からじっと見ていた。「可哀そう」とはかけらも思わなかった。命令を果たし、戦果を挙げた喜びで彼女は高揚した。「これで褒めてもらえる」そう思うと自然とほおが緩む。シュタイナーはハンナが自分の期待に応えるたびに、良く彼女をほめていた。大きな手で自分の小さな頭をなでられるのが、ハンナは大好きだった。彼女は鼻歌を歌いながら帰っていく。自分の罪を知らないまま。

 




やる気があれば続くでしょう。
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