「あれにワルキューレが乗っているんですか?本当に?」
頭上を悠々と飛行するアインデッカーを眺めながら、青い瞳をした青年がつぶやく。
「ああ、本当に乗っている。呑み込みが早くてな、一人で操縦しているんだ」
シュタイナーはハンナが操縦するアインデッカーを見上げたまま、青年の質問に答えた。
「歳はいくつです?彼女」
青年がシュタイナーに視線を戻し質問する。
「14歳だよ、名前はハンナ・ラーデンバーという」シュタイナーが答える。
「14! 幼すぎます! もっと大きなワルキューレもいたでしょう!」
ハンナの年齢に青年は驚きを隠せない。14歳はワルキューレとしても幼すぎたからだ。
「クルツ、クルツ・フォン・ハウザー大尉、幼いからいいんだよ。あの子は純粋だ」
シュタイナーはわずかに笑みを浮かべ、再びアインデッカーを見上げる。
「純粋だから、染まりやすい」
クルツは目を細め、空を仰いだ。彼の癖だった。ととのった目鼻立ちに美しい金髪と青い瞳のクルツは、貴族出身者のこともあってワルキューレからも人気のエースだった。
「君の仕事はあの子を人殺しのマシンに育て上げることだ。私と一緒にね」
シュタイナーはくわえタバコに火をつけ、ゆっくりと吹かした。
「いやな仕事だ」
クルツはため息交じりにぽつりとつぶやいた。
「いやなら原隊に帰ればいい」
シュタイナーがクルツの愚痴を聞き逃さず言う。
「原隊? 俺の原隊はもうない! あいつに墜とされた! 誰一人生き残れなかった!」
突然、クルツは怒りをあらわにし、叫ぶ。彼の指揮する戦闘機隊は、イギリス空軍のワルキューレ「ブリッツ」の最初の戦果になった。
「そうか、そうだったな」
少しも悪びれることなく、シュタイナーは煙草をふかしている。
「あいつを! 「ブリッツ」を殺せるなら! 俺はなんだってやりますよ! 悪魔とだって握手してやる!!」クルツは歯を食いしばり、こぶしを握りこんだ。
「いいぞ、憎しみこそ力だ! 一緒に血と泥にまみれた。真っ暗な道を歩こうじゃないか!」
シュタイナーは煙草を左足で踏みつぶすと、右手を差し出しクルツに握手を求める。
「もとより地獄に落ちる覚悟です。その時は、必ずあのあばずれも道ずれにしてやります」
差し出された右手をクルツは力強く握り返す。
「見ろ!あの子が降りてくるぞ。出迎えてやろうじゃないか!」
「そうですね、われらがワルキューレのご尊顔を拝みに行きましょう!」
青々とした草原にゆっくりとアインデッカーが着陸する。エンジンが停止し、コクピットから小さな少女が元気よく降りてきた。ふたりは少女をあたたかくむかえた。胸にどす黒い野望を抱えたまま。
気が向いたらまた書きます。