「あの子たちが新しいワルキューレですか?ひどい格好ですね」
練習機を磨きながら、クルツが到着したばかりの4人の少女たちの目を向ける。みな泥まみれ、傷まみれの恰好で、大急ぎで食事をとっている。彼女たちは、つい先日まで地上部隊で戦っていた。血と泥にまみれて。
「砲兵隊、装甲列車、戦車隊、みな貧しい家庭の生まれで、ひどい待遇で戦っていてな、スカウトしたら喜んできてくれた」
シュタイナーがエンジンを整備しながら答える。何とか2機の練習機を調達出来たのだ。
「私にも部下がつくんですね! ハンナ隊長!! んー! いい響きです!!」
ハンナはピョンピョンと飛び跳ね、興奮した様子で喜んでいる。
「あ~、そうなるのは少し先になるな。訓練でしごき上げないと」
シュタイナーがスパナでエンジンのナットをしめる。
「最低でもひと月かな? 練習機は2機ですから、二人ずつ担当ですか? 少佐殿?」
クルツは油だらけの手を拭きながら、木箱に腰かける。
「そうだな、なんとか追加の予算もついたし、ちゃんとした飛行場に移れて万々歳だ」
「整備士と補給は? いつ来るんです?」
クルツが紙タバコに火をつける。
「一週間後だ、少し待ってくれ」
つられてシュタイナーも煙草を吹かす。
「はいはい!! 私は! 何をすればいいですか? また出撃していいですか?」
張りきった様子でハンナがしゃしゃり出る。
「ハンナは、はい。君には士官教育を受けて下士官になってもらう。軍曹だぞ」
シュタイナーが命令書を引っ張り出してきてハンナに渡す。
「えーっ、昇進なんて興味ないですよ。それより、次の出撃は! いつなんです!? アルバトロスの出番は!!」
「気合入ってるな。大事に使ってくれよ。元は私の機体だ」
クルツはポットからコーヒーを注ぎ、本物のコーヒーをすすりながら、深緑色の迷彩に塗りなおされたアルバトロスD.Ⅲを眺める。クルツの愛機は新型のフォッカーDr.Ⅰに更新され、アルバトロスはハンナが使うことになったのだ。
「出撃はだめだ、今は目立つわけにはいかん。戦力がそろうまでな」
シュタイナーはクルツからコーヒーを受け取り、ゆっくりと味わう。
「それは残念だな。俺もフォッカーの性能を確かめたいのに」
「そんな~ 面白くないですよ」
ハンナはいじけて座り込んだ。
「そうしょげるな、すぐに出番が来る。ほら」
シュタイナーは新聞をテーブルに投げる。一面にRAFのワルキューレ「ブリッツ」の活躍が書かれている。
「ほう、うかうかもしてられないな」
一瞬にしてクルツの目が鋭くなる。獲物を見据えた、狩人の瞳だ。
「そうだな、俺達にはもっと勝利が必要だ」
シュタイナーはコーヒーカップを置く。
「やだやだ、Sieg(勝利)だのGloria(栄光)だの。男の人はそればっかり」
ハンナはあきれた様子で命令書をめくる。
「ハンナ、そろそろ出発の時間だ。表に迎えの車が来ている」
冷たい視線でハンナを見るとシュタイナーは静かに言った。指揮官としての彼は常に冷酷だった。
「もうですか? まぁいいや! 次の出撃! 楽しみにしてますよ!!」
素早く敬礼をしてハンナはかけていく、まるで子犬のように。
「いい子ですね、あの子」
「ワルキューレには手を出すなよ、痛い目にあう」
「釘を刺さなくても承知してますよ。あの子、少佐あなたに気があるみたいですよ」
クルツはそっと耳打ちする。
「クルツ少尉、士官学校で教わらなかったか?「馬鹿なこと」を考えるな、するなと」
シュタイナーはまた冷たい表情を浮かべる。
「シュタイナー少佐、貴方は本当に、あの子を殺人の機械にしたいんですか?」
クルツがまっすぐにシュタイナーを見つめる。
「全ては「世界に冠たるわがドイツ」のためだ」
「貴方は本当に!」
「だがな、クルツ! あの子たちに愛情は必要だ。私はハンナもあの子たちも愛そうと思う」
シュタイナーはすっと立ち上がり、悠々と歩きだす。
「勝手な人だな、本当に」
クルツは困ったような笑みを浮かべ、シュタイナーの後をついていく。
二人は4人の少女の前に立つ、4人は立ちあがり、ぎこちなく敬礼をする。
「ACHTUNG(アハトゥンク)!! 指揮官のシュタイナー・ヴィッツだ」
「隊長のクルツ・フォン・ハウザーです」
「今日から訓練を始める。あまり時間はない、厳しくいくがついてこい」
「Fräulein(お嬢さん)がたにはエースになってもらう、誰にも負けないエースに」
つづきはまたこんど