乙女たちにジュラルミンの翼を   作:社畜新兵

9 / 14
なんか書きました。


訓練

滑走路に朝日が差し込み、朝露を浴びた芝生が一斉に輝きだす。滑走路わきに駐機された二機のアルバトロスBⅡを、二人の訓練兵が入念にチェックしている。それをシュタイナーとクルツはそれぞれ見守っていた。

「機体チェック完了! チェックシートコンプリート」

「よし! エンジンを始動させるぞ、何をすればいい?」

「燃料コックを開けて、スロットルをアイドリングに!」

「そうだ、俺がプロペラを回すから、そこで待っていろ」

 クルツがプロペラを回す、繰り返しエンジンかかかるまで回し、メルセデスDⅡ エンジンが始動した。すかさずクルツ二つあるコックピットの一つに乗り込む。

「機体をタキシングさせるぞ、離陸させよう」

「Ja!!」

 クルツの乗る一番機が滑走路に進入し始める。

「機体が左にそれているぞ、焦らなくていい。落ち着いていこう」

 前列の少女に的確な指示を出す。

「ヤッJa! 機体を滑走路のセンターに、離陸、開始します」

 スロットルが上がり、機体が加速、滑走する。

「引け!! 離陸!!!」

 機体が適正な速度に乗り、とっさにクルツが指示する。訓練生はとっさにスティックを引き、機体が滑走路を離れ、離陸する。

「よし、いいぞ、その調子だ」

「Danke!」

 クルツが教官を担当していた二人の訓練兵は要領がよく、ハンナほどではないが優秀だった。一方、シュタイナーが担当する訓練兵たちには問題がある。

「チェッ!!チェックリストコンプリート!!」

 クリーム色の長髪の少女が、震えた声でつぶやく。

「ほんとにチェックしたか? 指差し呼称は? 機体が墜ちて死ぬのはごめんだぞ!!」

 シュタイナーはあえて厳しく指導する。彼が担当する二人の訓練兵は、「おっとり」した子と「おとなしい」子だ。性格は悪くないのだが、パイロットになるには不向きだった。

「ハァ~ ブラックジャックで負けなければ」シュタイナーが下を向き、ぼやく。

「いいか!? もう一度一緒にやるぞ!!」

「あっ! はい!!」

 クルツたちはもうずっと上空を悠々と飛んでいた。それをシュタイナーは恨めしく見る。

「教官?」

「ああ、まずは機体外部に損傷、歪み、変形はないか!確認しろ」

 もう一度機体の各部をチェックしなおす。シュタイナーはふと、ハンナと初めて飛んだ日のことを思いだす。飛行訓練は、始まったばかりだ。

 ハンナはというと、シュタイナー達とは対照的に退屈な日々を送っていた。

「ああ、暇だな~ やることがないもん」

 ハンナは退屈そうに両手を膨らませた頬っぺたにつけ腰掛ける。

彼女は飛行訓練所で下士官教育受けていた。下士官教育とは名ばかりで、内容は簡単な座学と飛行訓練の繰り返しだ。すでにクルツとともに出撃を繰り返し、連合軍の兵士たちを血祭りにあげたハンナにとっては、釈迦に説法な訓練だった。

「ハンナ曹長、たまには模擬空戦でもやってみないか?」

 訓練教官のゲルティ中尉がハンナのやる気を促す。

「いいですよ、今度は勝てるといいですね」生意気なことを言っているが、彼女は模擬空戦ですでに教官に4回勝っている。

「今度は私が上の高度から始めさせてくれないか? こんな感じで」

 両手を戦闘機に見立て、胸の前で動かしゲルティ中尉は言った。

「ハンデをくれってことですか? 嫌ですよ。敵は私たちにハンデをくれないでしょう?」

 ハンナは立ち上がりほこりを払う。

「手厳しいな、ならいつも通りで行こう。離陸して5分経ったら、空戦開始だ」

 ゲルティは愛機に向かって歩きだす。

「ええ、そうしましょう」

 ハンナも自分の愛機アルバトロスDⅢのもとに向かった。

 ゲルティのフォッカーDr.Ⅰが先に離陸し、そのあとにハンナのアルバトロスDⅢが離陸する。お互いにすぐに高度を上げ旋回を始めた。

「空戦の極意は、ファーストルック! ファーストシュート! ファーストキル!」

 そうつぶやくとハンナは機体をさらに上昇させ、その姿を太陽の中に隠す。

「太陽を背にして攻撃する気か!」

 ゲルティは機体をダイブさせる。アルバトロスの主翼には強度に問題があり、急降下により空中分解してしまうことも少なくなかった。ゲルティはそのことをよく知っていた。

「ダイブして逃げる」

 ハンナもアルバトロスを降下させゲルティを追尾する。「ガラスの翼」を持つアルバトロスをハンナは巧みに操る。彼女はアルバトロスの限界を熟知して、そのギリギリまで期待を操ることができた。

「食らいついてくるか!!」

 ゲルティが必死に振り切ろうとする、シートに体が押し付けられ、手がしびれ、感覚がなくなる。ハンナを引き離せない。限界のようだ。

「後ろが取れるね」

 ハンナはゲルティのフォッカーをセンターに捉えようと、冷静に機体を操る。

 周囲を警戒しつつ、ゲルティを追尾しているさなか、上空から二人接近してくる一機の戦闘機がいた。

「あれは?」ハンナはその存在に気付く。

「回避!! 回避しないと!」

 操縦桿を倒し、スティックを引き反転降下し、回避軌道に入る。

「大人って、ほんとずるい!!」

 ゲルティが戦闘訓練でよく使う手だった、はじめは一対一で戦っていたはずが、二機目の敵役がやってきて、もう少しで後ろが取れるところで後ろをとられる。

 しかし、新しく来た戦闘機は少し様子が違った。その機は逃げたハンナではなく、ゲルティの方を狙いに行ったのだ。

「なんだ? 聞いてないぞ!! 誰なんだ、これは?」

 ゲルティは戸惑いつつも、回避機動を続ける。

「英軍機!!! こいつは味方じゃない! 敵だ!!」

 ハンナはその機体に描かれた国籍マークを見た。蛇の目のマーク、英軍の戦闘機だ。

「くそ!! 敵なのか! 助けてくれ!」ゲルティは完全に後ろをとられた。

 ゲルティを助けようと、ハンナは英軍機の後ろに何とかつく。だが、機銃は撃てなかった。戦闘訓練に実弾は持っていけない、機体には武装がないのだ。

「敵機だけを撃ち抜く!! ARROW!! 小さく! 速く! 確実に! 当てる!!」

 ゲルティのすぐ後ろについた、敵機だけを撃ちぬかねばならない、外れれば彼は死ぬ。

「ファイエル!!!」

 一本の鋭い光の矢が放たれる。矢は寸分の狂いもなく、英軍機のパイロットを貫いた。パイロットは口から血を吐き、背中から腹部を貫通する光の矢を見て、絶望する。

しかし、彼は必死に生きようとした。諦めなかった。スロットルを絞り、機体を必死に制御する。滑走路に着陸しようとしたのだ。

「なんて奴だ」

 ゲルティが驚く。

「敵なら殺す、でも勝負はついたから、見逃してあげる」そっと能力を解除する。彼の傷口から、一気に血が流れ出した。

 英軍機が倒れ込むように滑走路に強行着陸した。ライフルを構えたドイツ兵が慎重に機体に近づく。パイロットは生きていた。最後の一息、彼はこうつぶやいたという。

「よくやったキャメル、お前は本当によくやってくれた」

 操縦桿を握ったまま、パイロットは息絶える。愛機こそが、彼らのゆり籠であり棺桶なのだ。

 




鳴かず飛ばずですねこの小説。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。