超昂大戦SS短編集【調査報告書】エスカチーム × 新たなる超昂戦士たち 作:環 藍河
また、一部エスカルビー・アステライズのキャラクターストーリーと重複しますので、未取得でネタバレの懸念がある場合はご遠慮ください。
「よーし、そのまま、そのまま…力、抜いてー!」
「はいっ! …集中、集中…。」
とっ。
「うん、着地の衝撃もちゃんと吸収できてるね。基本の飛ぶ、曲がる、止まる、は大丈夫だと思う。仮免許ってところかな?」
教官・神騎キリエルこと報生キリカは、単独飛行訓練の最終みきわめに合格を出す。自らも普通の人間から後天的に翼を手にした経験を持つだけに、後輩の引っかかりやすいポイントを、的確に捉えて指摘できる。
「あ…ありがとうございます!」
訓練生はエスカルビー・アステライズこと、園崎アカリ。最初はおっかなびっくり、まっすぐ飛ぶことさえ覚束なかった彼女も、キリカの指導と持ち前の真面目さで訓練に励み、わずか数日で何とかキリカのお墨付きを取り付けた。
…
……
アステライズ・フォームはオルタナスタインとの最終決戦で大活躍した新戦力ながら、平常時で運用するには、ルビーの飛行操縦技術が追いつかない。
訓練初日、キリエルいわく、
「とんでもない上空で、タイマン勝負の空中戦だったから誰も気づかなかっただけで、ルビーが飛ぶ向きを変えたり、攻撃をかわしたりするたびに、反作用の衝撃が周りを襲っていたはずだよ。
たぶん、今のまま市街戦をやったら、ビルの一つや二つは吹っ飛ぶし、広場はクレーターだらけ。周辺の被害は甚大だろうね。」
「あ…あはは…、ついに私、ゴリラ女子になっちゃいましたね…。
はあ…ちょっとショックです…。」
「なーにしょげてるの、世界の救世主さん!
手にした力は正しく使ってナンボ、ちゃんと制御できれば、私たち神騎にできないことが、もっと、ずっとたくさんできるんだよ。」
「えっ…、そうなんですか?」
神騎は基本的に両翼で飛ぶため、直線的な動きしかできない。
もし進行方向を転換したいときは、左右の翼が生み出す揚力のバランスを変えて旋回したり、翼自体をわずかに傾斜させるだけ。空中静止もできるものの、水に浮くように空中でたゆたうのが常であり、完全静止は難しい。
一方、アステライズ・フォームの飛行は4枚の主翼に付いたジェットエンジン。
出力方向を別々に組み合わせれば、推進力の合成方向はかなり自由度が高い。
「もし幻魔が空中に迷路のような洞窟を作ってしまったら、私たち神騎の翼では突破に相当苦労するだろうね。でもルビーなら、ドローンのように自由自在に全ての方向に飛べるんだ。」
何度もバックと前進を繰り返し、いわゆる切り返しを行えば、なるほど神騎も進めなくはない。だが、ルビーの飛び方には到底敵わない。
「きっと、高層ビルの中の要救助者を搬出するのも、アステライズ・フォームならいちばん速いだろうね。私らだと、崩れたビルの中じゃ飛べないときもあるから…。」
例えるなら、ツバメとハチドリか。
「まあ、その分制御がすごく難しいから、今は私たちと同じ飛行方法でいいよ。いずれ、ドローン飛行もできるといいね。」
「は…はいっ! 絶対にマスターしてみせます!」
「ただ、ここからが難しいんだ。
…アカリ、ここで待機。私が合図したら、あのタワーのてっぺんに向けて、強めのスピードでまっすぐ飛んで。」
「は…はい。」
…
キリエルは、タワーとルビーとで正三角形を描く空中の位置まで離れて。
「アカリー、オン・ユア・マークス!」
(んっ…!)
元・陸上部同士のアカリとキリカ。
スタートラインに久しく立っていなくとも、心が自然とスタート姿勢を構える。
(全力、フルパワー…)
呼吸を整え、自分のルーティンを心でなぞり。
「セット…(ぱんっ!)」
スターターピストル代わりに、キリカが両手の掌を大きく打ち鳴らす。数百メートル分のタイムラグを経て届く手拍子を受けて、弾丸スタートで離陸するアカリ。
それを見たキリカは、アカリと同じ速度で、同じゴールをまっすぐ目指す。
(…?)
雲一つ無い青空に浮かぶ、静止し横目で自分を見守るキリカ。
…アカリにはずっと、そう見えていて。
しかし、それはとても危険な、錯覚だった。
気づいたときには。
「…っ、わっ、わわっ!
きゃああああっっ!!」
さっきまで遠くにいたはずのキリカと、あわや衝突寸前。
アカリは反射的に翼のスラストを逆噴射へ。
しかし、慣性力を止める反力をとっさに作りきれず、きり揉み回転。
「ああっ、あっ…あっ、ダメえっ、はひっ…!」
突如の事態に、頭の回転が追いつかず。
「いやっ、やだっ、あっ…あああ〜〜〜っ!」
遂に失速し、螺旋に落下していく。
「アカリっ!! ジェット、全部切れっ!」
キリカが全速で、アカリの螺旋軌道の軸を貫き。
がしっ。ぎゅおおおおっ…!
「止める…っ!」
自然落下のアカリを受け止め、全力で大地の引力にあらがい、墜落をすんでのところで阻止する。
…どさっ。
「アカリっ、大丈夫かっ?」
(ばくっばくっばくっ、どっどっどっ…)
「(はあっ、はあっ…!)す、すみません…」
心音と荒れた呼吸を抑えて、何とか無事を伝えるアカリ。
「いや、謝るのは私だ。パニックになった後の読みが甘かったよ。」
例えば自動車でも、交差点で横から迫る車と進行速度が等しいとき、同じ向きにずっと相手車が見えるため、停車中と錯覚してしまう。
地上なら背景の変化で動きを認識できるが、雲や星などの目印が無い空では、それが顕著に起こる。
「ここからは単独飛行の練習じゃなく、他の神騎と飛び交う空を想定した練習になる。
一人で飛ぶことに自信をつけたアカリだからこそ、みんなで飛ぶ空ならではの様々な危険を、最初にわかってほしかったんだ。
…荒療治だったのは謝るよ。済まなかった。」
「いえ、キリカさんが私のためにして下さったことですから。良かったです!」
…
……
「よしっ、じゃあ、今日はここまでにしよう。」
「はいっ、ありがとうございました! 明日もよろしくお願いします!」
「…アカリ、シャワー、一緒に行こう。いろいろ聞かせてよ。」
「はい?」
シャアアアアッ……
「アカリ、戦士の任務もあるのに、毎日まじめに私の訓練についてくるね。正直、かなりキツめのメニュー組んでるのに、凄いよ。
明日はARのつもりだったんだけど…どうかな。」
AR(アクティブ・レスト)。軽度の運動を入れ、筋肉疲労を残さないための休養日。
「いえ、大丈夫ですよ。長官が軽めの仕事を割り振ってくれますから、疲労は残っていないと思います。キリカさん、明日もお願いします!」
「…そっか。…でも、よくモチベーションが続くね。もう大きな敵は倒しちゃったのに。」
「あっ…そう言えばそうですね。」
屈託無く返すアカリに、拍子抜けするキリカ。
「アカリの場合、バイク好きや車好きみたいに、飛ぶのが単純に好きで楽しいから、毎日飛ぶって感じでもないし。私なんか、最初の頃は飛ぶのが怖くて億劫だったときもあったんだけどなぁ。」
きゅっ。
ばさっ、ごしごしっ。
シャワーを止め、タオルでボディと、普段はサイドテールで纏めたクリムゾンレッドのロングヘアーを軽く拭き、半身をバスタオルで包む。
隣同士のシャワーブースのパーティションから顔を覗かせ、キリカが問いかける。
「ねえ、アカリの今の目標は、何?」
「えっ…?」
「だって、アカリが超昂戦士になったのって、『みんなを護る力が欲しかったから』って言ってたよね?」
例えば、ダイビートの悪評を世論操作されて苦境に落とされた際、ルビーが生放送中継のカメラで訴えた言葉。
あるいは、ダイビートの職員募集で、応募者にビデオメッセージで語った、アカリ自身の志望動機。
…その真摯な瞳とともに、キリカもアカリのスタートラインを覚えていた。
「でもアカリは、オルタナスタインを倒して、みんなどころか地球を護っちゃった。
フツー、こんなでっかい目標を叶えたアカリは、そうそう次の目標をすぐに見つけたりなんか、できない。むしろ、燃え尽き症候群になったっておかしくないくらいだよ。」
陸上のインカレや世界大会…キリカの知る先輩も、大記録を打ち立てたあと、それを超えられず、過去の自分に押し潰されてしまった人が、何人かいる。
「それが、もう次に向かって進んでる。まるで、オルタナスタインなんか通過点にすぎないんですー、ってくらい。」
「ええっ! そんなこと、絶対無いですよっ。大苦戦して、実際に一回負けて、エスカチームのみんなに助けられたからもう一度挑戦できて…、それでやっと勝てたんですから。」
「うん、知ってる。だから…だからだよ。
…ゴメン、ちょっと話、長くなるね。
私、先に上がって、服、着てる。
アカリはゆっくりシャワー浴びていいよ。髪乾かして、ロビーで待ってる。」
…
……
「はい、アミノ酸ドリンク。奢るよ。」
「あ…ありがとうございます。…くうう~っ!」
疲労回復に効くだけあって、酸味がアカリの五臓六腑・パンパンに張った両手両足の筋肉…ことにハムストリングスに染み渡る。
「…じゃあ本題。
アカリは間もなくアステライズ・フォームを使いこなして、今よりも強くなる。
アカリ…そのときに叶えたいことは、何?
きっとアカリは今、私たちよりももっと、もっと大きなものを追いかけている。
私は、それが知りたい。」
「…はい。さっきキリカさんが言った通り、私の最初の夢は、大事な、大好きなみんなを護れる、そんな強い自分になることでした。
実際、敵が毎日のように襲ってきて、それなのにみんなも自分も護れないひよっこ超昂戦士だったときは、負けないだけで精一杯でしたから、毎日ガッツだけでガムシャラに頑張って…。」
僅か1年前の、ガッツだけが取り柄だった、ルーキー時代。
一体このとき、誰がアカリの…エスカ・ルビーの大偉業を想像できただろう。
「実際、戦闘力って意味だけ指すのなら、私は確かに強くなりました。
でも…この一年間の戦いの中で、強いだけじゃ護れない人もいて、私、まだまだだなって。
だから、自分にはまだ、先があるんだって思うんです。少なくとも、アステライズ・フォームに振り回されているだけの、今の私はダメダメですし。」
…そのダメダメな状態のルビーに救われて、今の地球があるのだが、ここではさておくことにしよう。
「それに…それに、私の夢には、続きができたんです。」
「続き?」
「私…伝えたいんです。
『平和な未来って、こんなに素敵なんだよ。平凡な、ありふれた日常って、こんなにキラキラ輝いているんだよ。』って。」
…
「私は、周りの家族も友達も、街のおじさんたちも優しかったから、日常の素敵さって誰もが自然に、当たり前に知っているものだって、思い込んでいました。
でも…オルバちゃんとか、この前までのアズエルさんとか、それも知らない、経験したことが無い人がいるんだって、この1年で初めて知ったんです。
だから…私の夢の続きは、そんな人たちの日常を作ること。
そのための力は、まだまだ私には無いから、厳しい訓練でも頑張りたいんです。」
「ふうん…、じゃあ明日からもっとキツくしごいてもいいね。よ〜し、パニック回避訓練、明日に前倒しで組んじゃおっかな〜? 猛スピードでやる、怖くてキツいヤツ。」
「わっ、わわっ、わーーーっ!! 今の、今のナシですっ! お手やわらかにして下さいーっ!」
「ははっ、アカリはイジリがいがあるねえ。」
(…あれっ?)
キリカによぎる違和感。
(そんなあいまいなターゲットで、ここまで頑張れるものかなあ…?)
日常を、平凡の素敵さを知らない、幻魔や人々。
でも、今のオルバやアズエル様なら、きっとそれは解る。だって、彼女たちにはアカリがとっくに触れ合って、日常の喜びを伝えているのだから。
アカリの言葉をそのまま受け取れば、日常の素敵さを伝えたいターゲットは、まだ見ぬ誰か。
でも、アカリの願いはもっと力強く、具体的に像を結んだ誰かに向けて、願いを放っている。
無意識に隠した、そのターゲットは…?
「おっ、飛行訓練かな。お疲れ様。」
そのときキリカの視界に入った人物。
「あっ、トキサダさん。」
(…っ!?)
「はい、アカリは毎日まじめで、ぐんぐん上達してますよ。」
「ははっ、激戦の直後なのに、アカリは凄いな。ちゃんと休むのも忘れるなよ。じゃあな。」
「は…はいっ、ありがとうございます…!」
やけに動揺するアカリの姿に。
(…あれっ?
…ああ…そうか…!)
キリカの違和感を塞ぐピースが、今あるべき場所にはまった。
「あ…あの、キリカさん…。
長官…ずっと、私の後ろにいたんでしょうか…?」
差し向かいで話していたアカリとキリカだから、キリカから見えたトキサダは、当然アカリには見えない。
沸き起こるキリカの、継彦譲りのイタズラ心。
「え? ああ、うん。アカリの夢の話、ずっと聞いてた。」
「ええっ!? う…うわあ~~~っっ!!」
瞬間湯沸かし器という形容が、こんなにハマる反応もあるもんだ、というくらい、青ざめるやら、耳まで真っ赤に染めるやら。
「あははっ、ゴメンね、ウソうそ。
私、アカリの眼を見て話を聞いてたでしょ?
私だってデリカシーはわきまえてるもん、後輩の夢の真剣な話を、軽々しく立ち聞きするような人がいたら、ちゃんと止めてるよ。」
「ほ…ホントですか? 絶対ですよ!」
キリカの弁解に、念押しするアカリ。
「…あのね、アカリの夢、私も全力で応援するから。
飛ぶのも、強くなるのも、今日から私も一緒だ。
私は絵も頑張る。同じくらい、アカリもその夢、まっすぐ追いかけるんだよ。じゃ、また明日ね。」
「え…? あ、お疲れさまでした…。」
突如として熱くなるキリカ。
部屋に戻るキリカの足取りが、弾む。
(そっか…アカリが頑張る理由は…私の絵と同じか。)
継彦の夢を、キリカが叶えて。
トキサダの夢を、アカリが叶える。
いつかアカリが、破滅の未来から訪れたトキサダが未だ知らない、日常の素敵さを伝えられたなら。オルバやアズエル様と同じ喜びを感じ、笑顔を浮かべる日が来たら。
きっと自分が、継彦のシナリオで究極の18禁ゲームの世界観を描ききったときと同じように、嬉しいだろう。
この世界に喚ばれたとき、どこか自分は助っ人で、この世界のネイティブ戦士とは透明な壁があるかのように、キリカは感じていた。
そんなキリカの心の真芯に、今日、強い思いが通った。
同じ空の下で、違うゴールを目指して頑張る後輩がいる。
スプリント競技と、跳躍競技。種目が違っても、同じ表彰台を目指すように、壁を打ち破って応援したい。そして、アカリと同じくらい、私も私のゴールを目指して、熱く進みたい。
この日、キリカの戦う理由がもう一つ生まれた。
おはようございます。作者の環藍河です。
朝活にもほどがある、って時間の投稿になりました。なんと月曜早朝。
休日出勤明け、いつもの投稿時間(午前0時前後)には夢の中、さきほど意識を取り戻して、急ぎ最終調整して投稿したら、こんな時間に…。
今回は環の「マジメかー!」な方のシリアスSS。
エクシールから大人気のキリエルさんにご登場いただきましたが、推しの読者さまに「コレじゃナイ」と言われないよう、必死に予習復習したつもりです。
※幸い、先日のフェス(2022年8月)でガチャでのキリエル入手に成功し、キャラストを読むことができたので…二人称とか矛盾がないよう書けたはずですが。違和感あったらご指摘くださいませ~!
いくつもの紆余曲折を経て、それでも挫けず、一途に健気に思い人に尽くすキリカ。
継彦の後輩ポジですが、彼女がアカリの先輩になったら…きっと、厳しいけど姉御肌で後輩思いのすばらしい女子になるだろうなあ。
そして、アカリとの共通点の多さ。
お互いに共感しながら、共闘してほしい。
…環なりに、そんなキリカの姿を夢見て、頑張って描写しました。
この後の環さんは、シリアスものを2本準備中です。
今週水曜日にメイン第2部4章が実装されますので、その前後に1本アップ予定です。
ギャグものは…直前作がフルスイングの空振り三振(お目汚し、大変失礼しました~!!)だったので、立て直しの冷却期間を下さい。
お読みいただき、ありがとうございます。
改めて、初心に戻って超昂大戦から受けたドキドキをリスペクトして、SS書き連ねて参る所存です。
次作でもまたお目にかかれますれば幸いです!