超昂大戦SS短編集【調査報告書】エスカチーム × 新たなる超昂戦士たち   作:環 藍河

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※時間軸は原作第2部序盤となります。特にネタバレ等はございません。


Case 4. 出向閃忍・鈴森ライカのありふれた1日 ~または振り回され閃忍の1日

03:58 JST

「…ゔあ〜…、だるっ…。」

まだ朝陽も微か、薄暗いダイビート基地の宿泊棟。

鈴森ライカはこんな時間に目を覚ましてしまう。

 

想破の里では、上弦衆の青年や閃忍候補生が朝稽古をサボろうものなら、誰彼構わず悪評の種となったもの。

盆暮れ正月お構いなく、もうこの時間には起きて支度を始めないといけない、という無言のプレッシャーで迎える朝を、ライカは十年以上過ごしてきた。

 

ダイビートに出向となり、しかも正式に閃忍となった今、その同調圧力は無い。

だが、ライカは支度とウォームアップを始め、朝の街にロードワークに繰り出す。

 

……

はあっ、はあっ、はあっ…。

「精が出るじゃないか、ライカ。」

「あっ…おはよう…ございます…。」

神社の境内で呼吸を整えるライカ。同じく朝稽古で立ち寄ったヒビキ。

「てっきり、想破の里から解放されて、こんな日曜朝は惰眠をむさぼるものかと思っていたがな。」

「ヒビっさん…それ、イヤミですか?」

「馬鹿を言え。率直な私の所感だ。」

 

ヒビキの悪態は、もっともであった。

想破の里ではイヤイヤしぶしぶ朝稽古に取り組んでいたライカ。

獣道を駆けようと、短刀を素振りしようと、ライカの所作は最後のどこかで魂が腑抜けていた。

そんなライカの内心は、ヒビキだけではなく里の者ぜんぶがとっくに看破していた。指南役にも幾度もこっぴどく叱られ、両親にも諭され、詰問され、ときに嘆かれ。

だが、その全てが、上弦衆の何たるかを質すことから始まる説教、建前ときれい事の羅列にしか聞こえず…いつしかライカは、やる気を持てないことを誤魔化すための所作すら、覚えてしまった。

 

「閃忍試験に合格しちゃった直後に、ノロイ党が復活っスよ。

そんなタイミング最悪の状況、国の危機とか想破の危機とか言う以前に、まず自分の首が飛びかねないじゃないですか。

ゆっくり朝寝したって落ち着かないんで、しょうがなく体を動かしてるだけっスよ。」

「ああ…そういうことにしておくか。」

「…なんスか、それ?」

「じゃあ、先に行くぞ。」

ざざっ。

ライカが二の句を継ぐ前に、ヒビキは鳥居を登り、境内伝いに駆け抜けて行ってしまった。

 

「あのライカが…自主稽古とはな。」

目覚め始める街を駆け抜けるヒビキの表情に、微笑が浮かぶ。

 

 

07:47 JST

朝稽古の前に回した洗濯機から衣服を取り込み、乾燥機に突っ込んだら稽古の汗をシャワーで流す。

終わって髪を乾かした辺りで、衣服の乾燥も完了。すぐ取り込み、皺にならないよう畳む。

ライカのこの手際の良さは、本人の問題解決能力と、鈴森家をはじめ、想破の里全体の教育が徹底している証左であろうか。

 

朝食は鯖の塩焼きにほうれん草のおひたし、豆腐とわかめの味噌汁に白米。

ダイビートに来てからしばらくは、ハムエッグだのトーストだのパンケーキだの、里では決して朝食に出るはずも無かった洋食を有り難がり、珍しがって朝食の洋食メニュー全制覇を目指した。

が、どうにもヨソ飯感が拭えず、結局和食に戻して今に至る。

 

(…まあ、米や味噌のクオリティは高いんだよなぁ、ここの食堂。)

想破の里の食材は自給自足の無農薬栽培・有機農法、おそらく豊洲市場に出したら料亭やら三つ星レストランやらが押し寄せる代物。

特級品は頭領はじめ、上弦衆のお偉方の口にしか入らない。だが、鈴森家の格で手に入る二級品でも、そこらの量産品とは比較にならない味。

 

また、五感が鋭敏でないと上弦衆は務まらないことから、想破の子どもは舌を自然と鍛えられている。

そんなライカを納得させるダイビートの食堂は、やはりレベルが高いのである。

 

「やばやばやばっ、やばーーーっ!! リアタイのニチアサ、見逃しちゃうじゃないのーっ!!」

食堂に後から騒がしく乱入してくる、うらら。

…その割には結構な量を配膳口から受け取るのだが。

サンドイッチなり弁当なりにして、部屋で視聴しなから食べればよさそうなものだが、それはうららのヒーロー愛が許さない、または親に怒られて自然に忌避しているようだ。

 

「あのっ、他の席がガバ空きなのに、何でわざわざココに座るんスか?」

「いいじゃん、下膳口が近いから、食べてすぐ部屋に戻れんのよっ!」

(…あっ。)

自分も無意識に、その基準で席を選んでいたことに気づくライカ。想破の教育が深く自らに浸透していることに気付かされ、きまり悪く思う。

 

「ライカっ、醤油取って!」

にやりっ。

「はいはーい。どぞー。」

おひたしに醤油を垂らし、そのままうららへパス。

 

「あんがと。

…? …んんっ?! んーーっ!!」

卵かけご飯に醤油差しを傾けるも、出ない。

「ライカっ! あんた、やりやがったわねーっ!!」

醤油をライカの力で固め、注ぎ口を塞ぐ嫌がらせ。

「シリマセンヨー。ゆっくり食べなさいって、神様の思し召しじゃないですか?」

「ぐぬぬ〜、覚えてなさいっ。…ぎゃーっ!?」

瓶のフタごと回し開け、直に注いだところ、醤油が溢れたらしい。

醤油かけ卵ご飯を半べそで掻き込み、うららはギリギリ、本放送リアタイ視聴に滑り込んだ。

(…ぐえ〜っ、喉渇く…!)

 

 

10:24 JST

ダイビートは週休2日制だが、今週は休日勤務シフトのライカ。今日はエリーの住む雪城邸に赴き、物資輸送を仰せつかる。要するにお使い。

(ダイビートにだって、輸送部門やバイク便、あるっしょ? なーんでわざわざ、日曜日にシフト入れてまで私を呼ぶんだろ? …ま、休日手当も出るからいいけど。)

 

雪城邸は、絵に描いたような御屋敷だった。

門扉の閂に付いた鉄のライオンの口を握ってノックすると、インターホンの案内から、門扉が自動でぎいいと開く。

(ま…まさかコレが魔法?!)

〘魔法で開いたのー?、みたいなびっくり顔してるけど、そんなわけないでしょ。電動よっ、科学!〙

(お、お嬢様っ?)

「あ…あはは…サーセン。」

 

「お待ちしておりました。こちらへ。」

「…(ぺこり)。」

エントランスホールでライカを待っていたメイドのイレーナと、護衛のレヴィに案内され、そのまま応接室へ通される。

 

(はあ〜、調度品やら絨毯やら…これがセレブ宅ってヤツですか…?)

「これでも、だいぶ質素になったのですよ。」

「はい?」

「お嬢様は、ダイビート基地だけでなく、こちらの館でも様々な方々とお会いになる機会を増やすおつもりなのです。お客様を緊張させぬように、と収納や売却を指示されたのですが…」

 

「ダイヤの座布団は、痛いだけ…」

 

…?

「ああ、おもてなしはお金をかければよいというものじゃない、と言いたいようです。」

「あ…はあ。」

 

「ようこそ、ライカ。呼び捨てでも、いいかな?」

「は、はいっ」

「実はね、どうしてもライカを紹介してほしい、って魔女がいるのよ。身元は私が保証するけど、どう?」

「はあ…構いませんよ。」

「ありがと。それじゃイレーナ、通して。」

 

ぎいいっ。

「はいなー、ウチ、錬金術師のプカルルと申しますー。頑張っていかなあかん思うとりますー。」

上方漫才のつかみのように登場。

 

「あんなー、早速やけど、ライカちゃんって、モノを硬くする能力、持ってはるって聞いたんよ。よかったらサンプル、採らせてほしいんやけど、ええかな?」

「あ…アレですか。いいですけど、たぶんガッカリしますよ。」

「?」

「あたしの力、そんなに凄くないんです。クナイとかにかけても、『ちょっと頑丈になったなー、くらい』って、こないだも苦笑いされましたし。」

 

にやり。

「それがええんよ。材料工学でも物質化学でも、物質の硬化いうんは奥が深いんや。」

「はい?」

 

ごそごそ。

「ライカちゃん、ほな、まずこのゴム、力で固くしてくれはる?」

「は…はい。」

 

   ぴきいいいん。

 

「おおーっ。確かに固くなっとる。予想通りや。」

…と言っても、ぷにぷにの天然ゴムの塊が、せいぜいタイヤくらいに固くなった程度。

「次なー。これ、プラスチックや。ハンドメイドアクセサリーとか、歯科治療に使うんやけどな。これも固くできる?」

「え…ええ。」

 

   ぴきいいいん。

 

「うわ〜、ええやんコレ、UV照射器いらんなあ!」

「あ…あの? こんな程度じゃ、武器にもなりませんけど、これでいいんですか?」

 

「う〜ん…ライカちゃん、今日は3つ覚えていってなー。1つはウチの名前、プカルル・オアンネス言いますー。上だけでも、プカ姉さんでも有り難いわー。」

「は…はあ。プカ姉さん…?」

「2つ目はな、『物質は弱いモン同士が補い合って強くなる』、ちゅーこと。ぷにぷにのゴムを強くするんはパサッパサの消し炭やサラッサラのイオウやったりするし、さっきのプラスチックなんか、液体を2種類混ぜとるんや。それがライカちゃんの力でくっつき合うと、思いっきり噛まれてもへっちゃらな、硬化レジンになるんよ。」

 

「弱いもの同士で…強くなる…。」

「せや。ライカちゃん、飲み込み早くてええなー。」

プカルル、にっこり。

 

「3つ目なー。言うたら、『今できるコトが全てやない』っちゅーこと。さっきライカちゃん、めっちゃ謙遜しはったけど、たとえばこの力で植物を強化できたら、狭い耕作地でよう育つ小麦や米が作れる。世界の食糧危機が一気に解決やあ。はたまた、ロケットの外壁に使えたら、宇宙開拓の幕開けかもわからん。」

「そ…そんな凄いこと、あるんですか?」

 

「んー、知らんけどなー。」

「だああああっ!?」

 

「言うとくけど、ウチら錬金術師は、研究テーマを選ぶとき、役立つかどうかはあまり考えへん。ムダかもわからん、ハズレかもわからん…そんなテーマでも、オモロそうな研究やったら、どんどん手を付けとりますー。」

「【予算の許す範疇で】でしょ。いっつもクラリス泣かせてぇ。」

エリーが呆れたように口を挟む。

 

「えっ…? 役に立たない研究なのに、やるんですか?」

「『今の価値観では』な。『こんなん、何に使うねん!』って切り捨ててたモンが、後でめっちゃ人類の進歩に欠かせなかったー、いう例は、歴史上なんぼでもあるんよ。」

 

ぽんっ。

「せやさかい、ライカちゃんもその力、自分で『価値がないー』なーんて決めつけたらアカン。空振り三振でもええから、全開フルスイングで振り切ってみいやー。もしかして、ノロイをいてこます、キラーウェポンになるかもわからんで。」

「は…はあ…?」

 

「プカルル、そろそろ本題、いいかなー。」

「あっ、恋人はん、よろしゅう頼みますー。」

「ライカ、これを長官くんに持ってって。」

エリーが取り出したのは、契約書。

NAUとダイビート(ライカの雇用者)の間で、鈴森ライカの能力に関する研究の権利と、その成果物がもたらす利益・損失に関する協定であった。

 

「電磁的記録でもいいんだけど、せっかく本人が来れるんだしねー、紙の契約書で形にして、本人にプレッシャーかけちゃおっかなー、なんて。」

「…無価値になっても、あたしは懐も良心も痛まないんですけどねえ。」

 

……

「…レヴィ、どうかしました?」

「…ライカさんは…」

「?」

「私と同じ…白鳥の雛…。」

…??

「ああ、みにくいアヒルの子の話ですね。」

群れに一羽だけ異質が混じって、排除され飛び出した先で自分を見つけるお話。

「私は、お嬢様が群れに混ぜてくれて、イレーナも来てくれて、仲間に、なれた…。

ダイビートが、あの子の箱船になると、いいな…。」

 

 

12:18 JST

「それじゃ、頭領。お届け物、確かにお渡ししました。正直、当事者に先に言って下さいよ、って気分ですけどねえ。」

「まあ、悪く思うな。君に期待する人が大勢いることを、生で感じてもらいたかったんだ。」

「…では失礼します。」

 

「ああ、ライカ。午後の勤務だが、怪人の出現兆候があるので調査したい、とアカリから通報があってな。応援に行ってもらいたい。」

「げっ…あたしですかあ?」

「ああ、アカリの指名だ。」

(うわ〜、ついてねえ。待機でダラダラだと思ってたのになあ…)

「あ、追加の指示だ。『追加装備は不要、現地で準備済』、『昼食は軽めに』」

「…?」

 

13:25 JST

(…このへん、だよ、ねえ…?)

商店街のど真ん中。

指定された場所として、間違いは無い、はず。

だが、どう考えても怪人が何かを悪だくみしてアジトを構えるような場所には見えず。

 

「あーっ、ライカちゃん、ここだよーっ!」

「(びくっ!)…あ、アカリさんっ!?」

客引きのお姉さんにしてはボリューム振り切った呼び声に、ライカが振り向くと。

怪人調査中のはずの、アカリは。

 

三角巾とエプロンを装備し。

肉屋でコロッケを売っていた。

 

「ライカちゃん、突然だったのに、来てくれてありがとうね。」

「いや…任務ですし…って、怪人の出現兆候はどこに…?」

「あっ…え、えっとね、その〜…」

言い淀むアカリ。

 

「こ、ここのおじさんがね、コロッケの種を仕込み終えた直後にギックリ腰をやっちゃったんだ〜。ここのコロッケは街の名物で、平和な食卓を支える、大事なひと品だもん。万が一、怪人がおじさんを狙って、コロッケを街から奪い、不安の種を撒く作戦だったら…」

 

「万に一つも、ないですよね、それ…」

「あはは…」

ライカは察した。アカリが職務中に人助けをしたいと思ったときは、多分いつもこうやって方便を使い、調査の名目で人助けをしているのだと。

そして、それを頭領が知っている…黙認しているということも。

 

「それで…あたしは何をすれば?」

「ありがとう! それじゃあ、販売をやってもらうね。私はフライヤー担当に回るよ。」

「…作り置きじゃないんですか?」

「うん、ここのは揚げたてが魅力だから。おじさんは手際よく、一人で揚げて売り捌くんだけど、私はそこまでうまくできないから、ライカちゃんと分業できれば、お客さんをガッカリさせずにすむな、って。」

 

……

「あれっ? 今日は新人さん?」

「あっ、はい。今日限りのヘルプですけど。」

「あっ武内さん、こんにちはー!」

「ええっ、アカリちゃん!?」

「紹介するね、私の後輩のライカちゃんです。」

「ああ〜、ダイビートの? 日曜なのに頑張るねえ。」

「はあ…よろしくお願いします。」

 

(せ…閃忍ってことさえ隠せば、オッケー、だよね? アカリさんは身バレしてるけど、あたしは倉庫番とか後方スタッフ、ってあたりでごまかせば…)

 

「よーし、じゃあ、ポテトコロッケとチーズコロッケ、6個ずつ。」

「はい、ありがとうございます。」

「あっ、ライカちゃん、1個ずつオマケつけてねー!」

……

16:11 JST

「いや〜、助かったよ、アカリちゃん…いててっ!」

「ああ〜、おじさん、大声出しちゃダメだよ。」

「ホントにありがとうねぇ、うちの旦那が不甲斐ないからさあ、救急付き添うのだって恥ずかしいのなんのって。」

「うるせえなぁ。」

 

「ああ、アカリちゃん、そっちの子…ライカちゃんも。ちょっと早いけど、ゴハン食べていきな。残りもんだけど、コロッケ各種食べ放題だよっ!」

「うわ〜、やったあ!」

「(あ…このために、『昼食軽め』か。)ありがとうございます。お言葉に甘えて、いただきます。」

「おお、礼儀正しいねえ。」

「うん、ダイビートでも、細かいことによく気がつく、頼れる後輩なんだよ!」

「…はあ。褒める割りには人使い、すっごく荒いんですけどー。」

「へえ〜、エスカ・ルビーのお弟子さんかあ。大変なんだろうねえ。」

「あはは…そこはライカちゃん、ガッツでついてきてほしいなあ…。」

……

「ライカちゃん、お疲れさま。今日はすごかったね?」

「何がですか?」

「注文を捌いて袋に詰めるのも速かったし、コロッケを追加で揚げるタイミングや個数の指示も良かったし…ライカちゃん、売り子さんの経験あるの?」

「あ〜、里では縁日とか初詣の出店の売り子、毎年させられてたんで。」

「そっか、道理で手際がいいなって思ったんだ。」

「でも…里では客がみんな顔なじみだったんで。こんなふうにアウェーでの売り子は初めてでした。」

「みんな喜んでくれたよ。いつものコロッケを、ライカちゃんと私で護り抜いたんだよ。」

「…大げさな…。」

内心まんざらでもないライカであったが、それを素直には顔に出さない。

 

18:42 JST

「ライカライカライカー、わはー!」

たたたたたっ、ばっ、ぎゅるん。どふっ。

「ぐぼっ…!」

「おかえりー、今日一日、どこ行ってた?」

「おんどれはー! いちいちトペ・コンヒーロぶちかまさないと相方に声掛けできんのかいっ!」

「むふー、決まった。」

着地も決めてご満悦のイノリ。

 

「(くんくん)いい匂い。ライカ、何か食べ物持ってる」

「コロッケ持たされてきたの。あんたの分もあるよ。」

「おおー、ありがとー。」

瞳が爛々と輝くイノリ。

「じゃあ、コロッケのお返し。ライカに練習、見せる。その後でコロッケちょうだい。」

「…それ、コロッケの報酬になってるの…?」

 

ばしっ、しゅっしゅっ、がつっ。

第2トレーニングルームに響く、イノリの拳と蹴りがサンドバッグを撃つ音。

リズムも正しく、音も重い。装身していなくても、破壊力を十分備えた攻撃である。

だが。

 

「あー、イノリ、ちょっと待った。」

「んー?」

「これ、スバルさんに指示された型でしょ。あんた、力がムダに入りすぎ。」

「むー、敵を倒すのに、力入れるの当たり前。」

「強敵1体なら、ね。雑魚でも大群で来たら、こんなんじゃすぐスタミナ切れで、量で押し切られちゃうわよ。」

(…そして、盾が無くなったあたしも捕まる、と…。冗談じゃねえっ、コイツの持久力にあたしの命運もかかってるのよお〜!)

 

ライカが指南を続ける。

「あんた、もともと十分な攻撃力あるからさあ、正確に打ち込めば今の半分の力で雑魚ならひょいひょい吹き飛ばせるのよ。それを変にクセが染み付いて、補うために無駄な力を使ってるから、効率悪いのよ。」

「ぐぬー。」

「スバルさんは、あんたのクセを矯正するためのメニューを組んだの。ほら、試しなっ。手抜きだなーってくらいの力で、その代わり正しい場所と正しい向き。撃ってみて。」

 

ぼすっ。しゅっしゅっ、どすっ。 

「ライカー、これ、どう?」

「…あ〜、いいんじゃない?

(…うわ〜、速攻で直しやがった…)」

 

「ライカは、教え方が上手いな!」

「…ええっ? いろいろ考えればわかることじゃん。あんたが考えなさすぎるだけ。」

「それでもいい。ライカに聞いてわかれば同じこと。自分じゃできないくせに、ライカはすごいな!」

「ほっとけ!」

……

 

「むふー、冷めても美味しい。」

「そりゃどーも。午後はこれを売り続けて終わったけどね。」

「…ライカ…食堂のおばちゃんに、テンショク?」

「するかーーっ! 私だって、閃忍の任務でコロッケ売りましたー、なんて日が来るとは思わなかったわよっ! 里で話したって、ぜってー誰も信じないわよっ、こんな話!」

「おおっ。」

 

「いい? 閃忍ってのは想破の里では神聖不可侵なの。うちの里で『閃忍』なんて呼び捨てしたのがバレようもんなら、即刻百叩きモンの不敬罪なの。あたしらは必ず『閃忍さま』呼び!」

「ほー。」

 

「なのに、それなのに! 

そんな偉大な閃忍さまが商店街でコロッケ売るなんて、アラブの石油王がガソリンスタンドで窓拭いてるか、これからワールドシリーズに出るメジャーリーガーが、スタジアムでホットドッグ売ってるレベルでありえないんですけどー!」

「むふー。」

 

「アカリさんだってそう! 世界の救世主が、なんでアド街天国レベルでコロッケ揚げてんのよーっ、って話!

…ないわ〜、マジ頭おかしくなる…。」

 

イノリ、目を輝かせて。

「やっぱりライカは面白いなー。」

「…え?」

「里で会った日から、ずっとライカは面白い。一緒にいて、ぽかぽかする。」

「…何それ。」

 

「このコロッケも、ライカがくれたから、美味しい。」

「…おだてたって、もうコロッケは無いからね。」

「むー、残念。」

 

「…あんた、初めて会ったときから、腹黒くなってない?」

「そうだとすれば、ライカが伝染った。」

「ざけんな!」

 

21:29 JST

「…はあ〜っ、日曜が終わる…」

自室でシャワーを浴び、ひと息…もとい、ため息。

(結局、里でもダイビートでも、あたしの一日は変わらないなあ…パシりに出されて、自分じゃ何も決定権の無いスケジュールで動かされて。)

問わず語りでふてくされ、

 

(しかし…わからん。マジわからん。

あたし今、間違いなく『閃忍さま』なのよね…? 何を認められて合格したんだか…)

閃忍試験を振り返っても、筆記も、体術も、何一つ良かった覚えが無く。

 

(ま…まさか…房中術? 房中術なのっ!?)

あらぬ妄想を振り切ってしまった。

 

(そ…そんな試験、無いけど…と、頭領好みのボディだったとか…? い、いやいやいやいや、そんな理由で閃忍さまが選ばれるはずが…!)

 

ぷるるるっ、ぷるるるっ、ぶるるるっ。

「うひゃはーーーーっ!?」

部屋の内線電話。

 

ぷるるるっ、ぷるるる…

(こ…こんな時間に…!? 

…ま、まさか頭領のDチャージ?!

いや…あれは輪番制で…今日はまだ私じゃ…)

 

…はっ。

(シフトが空いて、急遽とか…!? …あの頭領、デリカシーとかぜんっぜん無さそうだし、ホントにヤるかも…っ!!)

 

  どくっどくっどくっどくっ…

 

ぴっ。

「はひっ、鈴森ですうーー!?」

声が裏返り、自分で驚くライカは、

 

〘あー、夜間指定のクール便、お届けに参りましたー〙

「ふえ? …あ、…はい。」

自意識過剰だった。

 

(うえ〜っ、実家の仕送りだよ…先週の分だってまだ空けきってないのに…。)

荷ほどきすると、一番上にまず封筒。

開けて読んでいく。

 

《頼夏へ

お変わりありませんか。ちゃんと頭領様の御役に立ててますか。閃忍さまは常に頭領様のお側にいるのです。自覚して勤めあげること。》

(…あ〜、はいはい。先週も同じこと書いてるじゃない…。)

 

《体は全ての資本です。お前の好きなかぼちゃの煮付けを送ります。同梱した我が家伝統の強壮剤も、毎日飲むと良いでしょう。》

(…んが〜っ、誰がかぼちゃ好きよっ! 子どもの頃にジジイがバカみたいに茹でまくって、『ライちゃん、どうだ? 美味いか?』ってしつっこく聞くから、相づちで『オイシイデスー』って愛想よくあしらっただけで『かぼちゃ好き』にされて…!

ダイビートは食堂で献立選び放題だって何度も言ってるのに、毎回かぼちゃカボチャかぼちゃ…!

はあ…うぜえ。)

 

…強壮剤?

 

茹でかぼちゃのタッパーの下に詰められた強壮剤は、ガラス瓶の口を熱で封した、アンプル入り。飲むときは、上部のくびれを指で弾いて折り、ストローを挿して飲む。

(いまどき猫屋敷でも、こんな薬の作り方しないっての…結局、自分が親に飲まされてた習慣を、そのままあたしに押し付けてんのよね…。)

 

《今度里に帰るときは、予め日時を知らせなさい。猫屋敷に相談して頭領様のお気に召す房中術の指南を受けられるよう整えます。 母より》

(て…てめえの娘に何をさせようとしてんだ、ババアーっ!!)

 

冷蔵庫にかぼちゃのタッパーだけ放り込み、荷ほどきを打ち切って床に就く。

(い…いつか絶対、鈴森の家も、想破の里も、ダイビートも、全部ぜんぶ出てってやるっ!

しがらみ、うぜえーーーっっ!!)

 

後にライカは、おせっかい焼きばかりが揃ったこのダイビートで、そのしがらみにとことん巻き込まれ、少し助けられ、もしかしたら小さな伝説を作る…かもしれない…?

それはまた、別の話。

 




初めましての方も、「しょーがねえなあ、また読んでやっか」の方も、こんばんは。作者の環藍河より御礼申し上げます。

こちらの連載シリーズ(エスカチーム×他キャラ化学反応)第4弾は原作第2部主役ツートップの一人・ライカにご登場いただきました。
今はまだ本気出さない子、そしていつか大化けするかもしれない子。
はて…どっかで見たようなポジと言動…?

 …このすばのカズマさん?
 「しょーがねえなあああああっ!!」

実は環、ライカはなけなしの昂るつぼみ1000個でお迎えしております。バトルでの戦闘力はまだまだですが、ストーリー的にはめちゃくちゃ気になるキャラでして…!
ただ、困ったことには本人のポテンシャル同様、ライカで二次創作SSを作っても、先が読みにくい…。【追い詰められて本気出す】なストーリーをジェネリックに(もとい、原作に沿って)作り上げても、まだ敵の正体もろくに見えない状態では、あまりすっきりしないようで。

このSSもわりと当たり障りない展開です(認めます)が、作者(環)なりに、ライカにこんな風に未来を選んでほしいなぁ、ダイビートでイノリとイキイキ成り上がっていくなら、こんな感じかなぁ、ってな要素は散らばらせてます。

ちょうど原作もストーリーが進み、イノリとライカが通学開始となりました。このSSもネタかぶり上等で、昨晩あたり投稿してもよかったのかも、ですが、安全策と熟成を兼ねて、このタイミングで投稿いたしました。

さて、次回作ですが、あっため中のシリアスSS1本が、もう3本くらいボツになってます。いよいよ難産です。
たぶん次の投稿は、本気でペース落ちます。これまで週2ペースの投稿ですが、1週間~10日くらい猶予をいただくかも…。

それでもお楽しみいただければ幸甚です。
まだまだ原作も今後が楽しみですが、シナリオ読み切って次回配信待ち、なんてときにジェネリックにお楽しみいただけるSS集を目指して、執筆もできるだけ頑張ります! ではまた~。
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