超昂大戦SS短編集【調査報告書】エスカチーム × 新たなる超昂戦士たち   作:環 藍河

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※原作「超昂大戦」第1部終章までの内容ネタバレが含まれます。
また、ハツネのキャラクターストーリー内容にも一部言及があります(PUガチャ時のサンプルストーリー部分まで)。
※pixiv様へも投稿します。


Case.5 合縁は時を越えて…蜘蛛の心に降りた糸

古ぼけた校舎の、長い廊下の向こう。

黄昏の、灼けるような紅の中…

人影が一つ、昏く、静かに。

 

なぜ、私は今、ここにいるのだろう。

なぜ、あの子が、私を呼ぶのだろう。

 

もうその姿は、見えるはずもなく。

もうその声は、届くことも無い。

私は…罪深く、赦されざる私は、大切だったはずのその面影も名前も、記憶の海へ流してしまったのだから。

 

日間の怠惰なひととき、夕べの屈託ない言の葉。

意味のない仕草にも、紡ぐ話の泉にも。

寄り添い、微笑み、慕うあの子から…

想いは溢れ出て、私を陽の当たる場所へ導いた。

 

その糸を、一度は断ち切った。

妖と生まれた己の業。

人を喰らい、畏怖を喰らってきた、血まみれの爪と牙。

それは、陽だまりのあの子と暗闇に巣食う私を結ぶその糸を許さない、私の原罪。

眩し過ぎたから。温か過ぎたから。

光を捨て、虚ろのまま永らえるより、他になかった。

 

何もかもを置き去りにした、脱け殻の私。

 

しかし糸は再び垂らされる。

か細く、今にも擦り切れ、裂けてしまいそうなひと筋の先…。

 

(…ま、…様、いるんでしょう…?)

 

何度も何度も呼ばれたはずの、二人称。

私を求めるあの子の、その声は…。

獲物の返り血と、喰い散らかした臓腑の糟にまみれた羅刹の心を、爪ごと牙ごと抱きしめる。

 

…

……

「…いるんでしょう、ハツネさん…?」

「…かしましいこと。」

そして、今。

微睡むような恍惚を押しやり、呼ぶ声に応える。

 

いよいよ、罪と業が総身に廻り尽くした私は…。

それでも糸を手繰り、菩薩の慈悲に縋っている。

 

 

…

……

「消えなさい、虫けら。絡縛八爪。」

「決めますっ! ストライク・エスカレーション!」

 

取り巻くゲニンを初音が一掃し、牛耳る怪忍・霊門麗士をルビーが撃破する。

「正義の勝利です!」「…ふふっ。」

ダイビート参入から日が浅い初音は、トキサダの采配で、ルビーとのチーム出動を基本編成としている。

 

接現力を失い消滅しかけていたところをアカリに発見され、説得されて一転ダイビートの戦士となった初音は、かつて学園を襲撃し、市民とダイビートを震えあがらせた幻魔。

チームリバースの二人やアカネの参戦時も同様であったが、市民にとっては容易に『昨日の敵は今日の友』とは受け入れ難い。

 

そのため、初音にはルビーとの出動でダイビートの戦い方を研修させつつ、ルビーに言わば初音の後見人の役割をさせ、市民の不安を和らげている。

 

(俺達が石にされたのは、忘れられないけど…)

(あのエスカルビーが、背中を預けて戦っているなら…)

(本当に改心したの…かな?)

…と、総じて市民も初音を受け入れつつあった。

 

(はあっ…こんなに凛々しくて、強くて…!)

(と…尊いっ…初音お姉さまっ…!!)

…一部には想定外の反応もあるが。

 

…

……

「…あまり見つめないでくださる。」

「えっ…? あっ…す、すみませんっ!」

「ふふっ、アカリさんは、いつも謙虚なのね。」

 

基地に帰投する輸送車の中、向かい合わせに座る初音とルビー。

 

「あの…不思議だなあ…って。」

「?」

「ハツネさんと私が…今日、こうして一緒に戦っているなんて…。

こんな日が来るなんて、今でも夢を見ているみたいだなあって…。おかしいですね、私。」

 

「合縁奇縁とは、よく言ったものね。

…でも、その割にはどこか、浮かない心地に見えるのだけど。」

「…そうですね。」

図星の指摘に、一転して表情が曇る。

 

初音がルビーの瞳の奥に見たもの。

それは初音に再び会えたことを喜ぶ気持ちと…かつて初音を倒してしまったことへの悔恨。

 

「…こうして、ハツネさんとまた会えたのは、ラッキーだっただけで…。

私はあのとき…ハツネさんの心に寄り添えなかったから…。倒すことしか、できなかったから…。」

 

…

……

四天王が一角・北奪堕絡として、初音が学園を襲った、あの日。

仮初めの記憶を剥がし、紅き戦士の拳に屈し。

全ての力を喪った初音の体は透き通り、抱きしめたら流砂のように崩れ落ちそうなほど、儚く。

 

初音に駆け寄るルビーは自らの非力を詫び、蜘蛛はルビーの慟哭に戸惑う。

「…胸を張れば…宜しいのに…。

貴女は人を護り…人を牙にかける幻魔を討った…。

戦士として…人として、何ら恥ずべき処は…なくてよ。」

「嫌です…! 私は…幻魔だから倒していいなんて…それが正しいなんて、思えない…!」

「そう…貴女は…アカリさんは、強情で…欲張りなのね…。」

 

人の悲鳴と絶望をむさぼり喰らうはずの幻魔は…

学友を装い、人との絆を結わえた。

ルビーを捕えて嬲ろうと放った磔の糸を、その眼前で止めた。

 

(ハツネさんは…残忍なだけの幻魔じゃなかった…!)

だから、分かり合いたかった。

その爪で護ろうとする、その巣の奥深くに匿う、大切な心の宝珠を、受け止めたかった。

 

そして、その宝珠を護れず、自らの手で砕いてしまったことをアカリは悔やみ、煩悶した。

 

「…ずっと、忘れない…!」

幾度拭っても涸れることのない涙に誓った、確かな決意は、今もアカリを衝き動かす。

 

…

……

「私は…誰かを護れる人に…悲しみや絶望に負けそうな人がいたら、手を伸ばして引き上げられる、そんな自分になりたいと思って、ずっと強さを求め、自分を鍛えてきました。」

「殊勝なこと。」

「でも…ハツネさんと学園で戦ったとき…自分の思い違いに気づいて…打ちのめされたんです。」

「思い違い?」

「戦う力をつければ、いつかみんなを護れるって思っていました…。でも、それだけじゃ護れないものがあるって、あの日、初めて思い知らされたんです。

私は…ハツネさんを犠牲にしてしか、あの戦いを収められなかったから…。」

 

「…言ったでしょうに。貴女は人を護る、正しい選択をしたのよ。」

赦す初音に、首を横に振って応えるルビー。

「私に力があれば、学園のみんなだけじゃなく、ハツネさんも護れました。学園の隅で…消えそうな世界で、ずっとあなたを苦しませることもなかったんです。」

まるで教誨師へ懺悔するかのように、ルビーは自らの未熟を止めどなく語る。

 

「結局、私の力じゃ、まだ何も変えられない。今のままじゃ、またあのときのハツネさんみたいな、悲しむ幻魔が現れたとき、助けられないから…。」

うつむき加減の顔を上げ、初音を見据えて。

「だから、せめて…。

ハツネさん、私のこれからの成長、見ていてください。いつか必ず、あの日の後悔に勝てる自分になりますから。」

 

ああ。

この子は、そんなことを考えていたのか。

 

「アカリさん…貴女、2つ思い違いをしているわよ。」

「えっ…?」

 

「1つ。学園で力を喪っていた間も…私、決して悪い気分じゃ無かったの。」

「なっ…?!」

「私は、命の灯火が儚く消える刹那が好き。綺麗なもの、健気なもの、か弱きもの…そんな命を、この手で折り取る一瞬も、燃え尽きる線香花火のように墜ちる一瞬も、愛おしくて狂おしくなるの。

それは自分の命でも同じこと。魂の蝋燭が揺らぎ、こと切れるその刹那は、きっと至高の甘美を湛えているに相違ない…。

…そう思いながら微睡む日々は、良いものだったわよ。」

「そんな…!」

「貴女に引き戻されたときは…少しばかり残念だったわ。…まあ、本当の、今際の甘露はお預けということね。」

 

そう言うや否や。

 

じゃきっ。

「!!」

 

両手首から先を節足に…本来の姿に戻した初音は、その切っ先でルビーを捉える。

右の爪を、頸の動脈に。

左の爪を、右脇腹から臍まで掻き切れる位置に。

 

「そして私は、今も思い焦がれているのよ。

貴女の首筋にこの爪を突き立てたとき、ここから吹く鮮血が、心の臓の拍動ごとに吹いて描く彩りを。

このお腹から露わになった五臓六腑が…はらわたが、肝が、肺腑が蠢き、奏でる鳴動を。

絶え絶えの呼吸に重なる、貴女の絶望の呻きと、命果てる際の涙の甘露を。

どんなに美しく、私を昂らせてくれることか、想像しただけで蕩けそう。

…これが、貴女のもう一つの思い違い。」

「あ…っ…ああっ…」

両の瞳は、瞬きも許されず。

背筋を伝う冷気に、ルビーはたじろぎ、絶句する。

 

 

しゅっ。

刃を収め、しかし視線は獲物を捉えたまま。

「でも…いいわ。貴女の未来を見届ける…やぶさかでなくてよ。」

「…ハツネさん…!」

 

失笑とも、憐憫とも取れるような微笑を浮かべ。

「だって貴女、余りにも鈍くて、いろんな事が見えていないのに、前のめりで…。成長どころか、今すぐにも迷い道に絡め取られそう。

まあ、見ている分には、きっと退屈しないわね。」

「…それ、もしかして遠回しに、お馬鹿さんって言ってます?」

「あら、そこは気付くのね。」

「…もう…ひどいです。言い返せないけど…。」

 

…

……

(…まるで仔犬ね…。からかい甲斐のある子。)

基地に到着し、メディカルチェック後にルビーと別れ、廊下を進む初音は独りごちる。

 

敢えて言葉にしなかった、アカリの思い違いがもう2つあった。

 

1つは、あの戦いの後も、アカリが初音を思い続けたこと…それこそが、初音の接現力をギリギリで現世に保ち、初音を救ったこと。

(…ずっと、忘れない…!)

幻魔の接現力の源は、人の想いの力。

アカリの初音への想いが、冥府へ通じる崖の淵から初音を引き戻すに至ったことを…アカリは知らない。

 

そしてもう1つは…。

 

「もう…人との友誼は、咎ではないと…?」

【《幻魔の王たる我等を説き伏せた、超昂の者…。彼奴が請い願う幻魔が在り様を、諾としたまでのことよ。》】

 

そもそも、初音が人との絆を断たれた理由…。

それは幻魔の多くが、人の恐れや嘆きを接現力としてきたが故だった。

初音のように、人と幻魔がよしみを繋ぎ、やがて人が幻魔を恐れなくなれば…それは命の糧を潰す、幻魔消滅への道。

ゆえに初音はかつて、同胞を滅びに導く異端として…糸を断たれ、空っぽの器と墜ちた。

 

だが、エスカルビーは幻魔王オルタナテオトルを撃ち破った。

【《人との共存は、まかりならぬ。同胞の存在を根底から揺るがす超昂の力は、滅すべし…!》】

幻魔を統べる王はこの裁定のもと、人類の断罪を執行し、そして…幻魔との共存を強く請い願う戦士が、これを阻んだ。

 

それは即ち、幻魔と人が友誼を結ぶことを、幻魔王に認めさせたことを意味する。

 

(いつか…どこかの幻魔が、かつての私のように人と戯れに糸を繋いだとき…)

今度は、咎める者はもういない。

心を捨て、脱け殻となった初音の悲劇は、もう繰り返されることは無い。

 

(そんな陽だまりの世界を私達にもたらしたことさえ、あの子は自覚せず、非力を嘆いているのね…滑稽なこと。)

 

…

……

ふと、図書室でのアカリを思い出す。

(今の私は、現世と無の間にたゆたい、ただ消える時を待つだけ。消えないことなど、望んでいなくてよ。)

垂らされた一筋の糸を拒む初音を、アカリは力強く手繰り寄せる。

 

「消えちゃ、ダメですっ! 私が、イヤなんですっ!」

(それは貴女の私情。私が聞き入れる道理は無くてよ?)

「…それでも! 私は…誓ったんです。たとえ人間を襲った幻魔…、オルバちゃんやタイガージョーさんやハツネさん…幻魔王さんであっても…。」

(…。)

「この世界にいてほしい。一緒にいたい。そのために私は…できることを全部するんだって。」

 

(…相変わらずアカリさんは、強情で、欲張りなのね。)

 

…ああ。

人の寿命を超えて生きた。

四季も空も、街並みも、住む者の言葉も変わった。

あの日、戯れに縁を繋いだ少女たちも、子を成し、老い、尽きて涅槃へ旅立っていった。

 

それでも。

この爪を、牙を、蠱毒を、獰猛を知り。

それでもなお、この邪な女郎蜘蛛の手を取り、禍々しい過去ごと抱きしめ、絆を求めてくる奇特な娘に、時代を超えてまた巡り会えるとは…。

 

(…アカリさんともいつか、あの娘のように…)

初音は願う。

再び紡ぐこの縁が、かつて断たれた糸の痛みを繰り返さないことを。今度こそ、命の限り繋がり続ける、陽だまりへの糸となることを。

そして、アカリとの友誼が…この命を全うし、輪廻の向こうであの娘に逢えたとき、あの娘が嫉妬で頬を膨らますくらい、睦まじく、強い糸となることを。

 




作者の環藍河です。お読みいただきありがとうございます。
1週間ぶりの投稿、「エスカチーム×新戦士」短編シリーズとしては3ヶ月ぶりとなる新作は、参戦の報に多くのトキサダがどよめいた、八爪妖蠱ハツネ姉様のSSをお届けします。
アトラク=ナクアについては、ファンの皆さまの思いが強い作品だと重々承知しております。環なりにリスペクトと配慮を重ね、「姉様こんなん違うわボケえ」と怒られないことを最優先にプロットを組んだつもりですが…いかがでしょう?
アカリが初音の手を取る理由や、初音がアカリを満更でも無く可愛がる理由…超昂大戦の原作に準拠しながらも、環なりに必死に考え、相当補っています。踏み込みすぎて矛盾がないか…胃が痛いっ。

もちろん、原作のハツネ姉様のキャラクターストーリーが…第1部で消滅した初音が帰ってきて、アカリと素敵な心の交流を広げる物語が読めたことは…ルビー好きの環には何よりの僥倖でありました。(PUガチャ、引けて良かった…!)
そんな素敵な原作に突き動かされて、急遽作成したSSでもあります。
あくまでジェネリックSSに過ぎませんが…どなたかの心を打ったなら、アカリ好きに響いたら嬉しいですし、初音好きの方に認めて貰えたら、もっと嬉しいです。
(ご感想・ご批判、どちらでもいただけたら励みになります。)

年末年始は「五感エナジー化計画」の続きと、ちょっと大作気味の作成を予定しています。今しばらくお待ちを&完成の際には、またお寄り下されば幸いです。
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