TS転生者リコリスは赤服だけにはなりたくないそうです。   作:ダイコンハム・レンコーン

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思ったより伸びてたのでビビってます。さすがリコリス・リコイル……。


良い感じ、多分ね。

「ねぇ、今日帰りに服買いに行かない?」

 

 ──服、ポロシャツとスラックス3枚づつあれば良いのでは? 

 

「一緒にパンケーキ食べ行こ!」

 

 ──パンケーキ? それなら自分で作った方が余程安上がりでしょう。ふわふわパンケーキの作り方ならインターネットにゴロゴロありますし。

 

「次の非番、一緒に遊ぼうよ!」

 

 ──休みの日は休む為にあるんです。普段から色んな場所を行ったり来たりなんですから、それで外出は十分でしょう。

 

 

 

「──完璧ですね」

 

 ここは独立治安維持組織、Direct Attack、通称DAの本部。普段リコリスはここで寮生活を送っています。内部は幾つもの訓練施設と一般教養を教わる為の教室が用意されており、リコリスの生活を内部で完結させると言うお偉い方の涙ぐましい努力を感じますね。

 

 さて、私は今休み時間中。四方八方から聞こえる姦しい声をちょっと聞かせていただいて頭の中でイメージトレーニングを行なっていました。これならばパーフェクトコミュニケーション間違い無し。明日から使える女子会話としてテキストに残すのもやぶさかではありませんよ。

 

「どうして1人で笑っているんですか」

 

 ん? 昼休みに私に話しかけてくるとは、何を期待して……ぶっきらぼうの女の子じゃないですか。怖いよ、少し怖い。いや1人笑ってる私も怖いな……?

 

「え〜アナタは、確か……」

「井ノ上たきなです」

「ああ井ノ上さん、そう今ここまで出掛かっていましたよ」

「何故後頭部を指しているんですか?」

 

 紺服のリコリス、黒髪ロングの古き良き大和撫子的外見の彼女は、井ノ上さんと言うらしい。なるほど確かに、道理で何か引っかかった気がしました。最近活躍してるらしいリコリスとは彼女の事でしたか。

 

 ……そう言えば、リコリスは皆孤児であり、機密性ゆえ親元も限られるので名前の癖で誰が名付け親か分かる、とは先日のガトリングガン騒ぎで亡くなった──確か、先輩リコリスさんの談でしたね。ですが、私にはさっぱり分かりませんでした。せめて方法は教えて頂きたかったですね。色々と便利だったと思うのですが。井ノ上さんはどこの方なんでしょう。

 

「……おっと。どうして笑っているのかでしたね、1()()で」

 

 やや1人を強調して言ってみたはものの、目の前のぶっきらぼうな女の子は顔色1つ変えもしない。随分と人の機微に疎い方だ……憧れるなあ。

 

「人間、面白い事だけが笑う理由ではありません。緊張したり、怒ったり、悲しんだり、そう言った時に笑う人間も居るんです」

 

 すると目の前の彼女は、少し興味を惹かれた様子でした。私のトークスキルも捨てた物じゃないかもしれませんね。

 

「なら、緊張していたんですか?」

「いいえ」

「では、怒っていた?」

「いいえ」

「でしたら、悲しんでいた」

「いいえ」

 

 そう、私は──

 

「面白いから笑っていました」

「じゃあさっきのは何だったんですか?」

「正確には、面白いプランを考えついたからですね」

「補足要ります?」

 

 良いツッコミです。きっと彼女はリコリスでなければ良き漫才師となれたでしょう。

 

 ……ただ、ここはリコリスの花畑。咲いては散って、散っては咲く。咲き続けられる者などいるのかどうか。私も彼女も。

 

「具体的には──」

「まだ続くんですか……?」

「チーズバーガーを2つ買えばダブルチーズバーガーを安く作れるんじゃないか、と言う話です」

 

 とうとう彼女の我慢が限界に来たのか、彼女は口を開いた──

 

 

 

「私が聞きたいのは!」

 

 

 

 ──しかしその口は、昼休みの終わりを告げるチャイムの音に押し止められました。

 

「……後で、また来ます」

 

 結局言いたい事も言えなかった様子の彼女は、行き交う人の流れに消えてあっという間に見えなくなった。

 

「何だったんでしょう」

 

 後に残るのは困惑と得体の知れない悪寒。嫌な予感がピシピシ来てる。テンションも下がって行く。加えてなんだか身体が空っぽな感じで……ん? 

 

 「何か忘れてる気が……。あ、昼ご飯!」

 

 

 

 

 

 ──昼休みが終われば、少女達は銃を取る。

 

 ある者は訓練に明け暮れ、ある者は任務に出向く。

 

 私はどちらかと言えば前者、この前任務に出向いたので今日は非番の日になります。任務に行かなくとも、訓練で良い成果を残せばそれだけ良いポジションにも着ける為、リコリス達は日々修練に当たっていますね。結構結構。

 

 私? 私はもちろんリコリスの端くれとして──

 

「……ふぃぃ」

 

 模擬戦観覧室、そこへ続く非常階段であったかいお茶を啜りながらこっそりとサボっていました。

 

 私、口調ほど真面目じゃないんです。それに下手に良い結果を出せばそれだけ離れにくいポジョンに就いちゃうリスクを考えると、どうにも動きが鈍るんですよ。

 

 それに、私の能力は訓練向きではなく実戦向き。外部からアドレナリンを注入する方法もありますが、そんな風に血糖値の上げ下げを強制的に行えば血管に悪影響ですし心筋梗塞などの生活習慣病のリスクも上がります。一度大人の生活を経験した身として、日常生活では生活習慣病程怖いモノはありません。出来ればやりたくないですね。

 

 まあ……今でこそ、他に怖い()()はありますけど。

 

「──貴女はこんな所で何をしているんですか」

 

 そんな風にゆったりしていると、前から声が響いて来ました。黒髪ロングの古き良き大和撫子的外見の彼女……見た事があります、確か名前は……

 

「ああ、井ノ頭さん」

「井ノ上です」

「……すいません、井ノ上さん」

 

 藍色の制服を着込む井ノ上さんに、私はまた何故と言う疑問が湧き立ちました。

 

「……てっきり私の事は興味が無くなったものかと」

「また来ると言いました。本当に聞きたい事はまだ」

「いやぁ私、実はお友達の訓練に呼ばれてて……」

 

 と、去ろうとした瞬間。私の進行方向の前には井ノ上さんが仁王立ちしていました。恐ろしい速さと身のこなし、藍の制服は伊達じゃないわけですね。……ですが私は、日陰のダンゴムシに憧れる中学三年生。こんな事に屈しては日陰ライフが遠のいてしまう──

 

「過去の作戦のデータベースを戦術研究の為調査した所、様々な任務の中に貴女の名前がありました。──里中丹凛(さとなかにりん)さん」

「あ〜、それは狡っからいリコリスが評価稼ぎの為に手当たり次第で任務に参加してるだけじゃあないですかね? 多分そうですよ!」

 

 あ、駄目そう。

 

 ……で、何故私は追い詰められているのだろうか。井ノ上さんは据わった目でこちらの底を覗いてくる。勘弁して欲しい、こんな所で上の人に目をつけられたくはない。

 

「いえ、寧ろ不思議な程貴女の活躍については載っていませんでした。()()()にマンツーマンになった高難度の作戦に於いても。どう言う訳か悉く映像資料はありませんでしたが、この結果には見えていない事実があると思っています」

 

 ここまで来たら開き直るべきか。いや、寧ろここで程よく並みの実力だとアピールすれば、彼女も興味を失ってくれるだろう。

 

 なら……やりますか。

 

「──でしたら、あの中で語り合いましょう」

 

 私は、壁の向こうの模擬戦室を指差します。それが意味する事はただ一つ。

 

「確かに、それが一番早いですね」

 

 

 

 ──そうして、井ノ又(※井ノ上)さんが淡々と模擬戦の準備を始めた時。私の耳元で運命の女神が(鼻で)笑った気がしたのは……きっと気のせいでしょう。

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